音の快楽的日常

音、音楽と徒然の日々
The Stolen Cello

10年ほどかけて、旧ソ連・東欧の国々を訪ね歩いていたことがある。

時期というか時機が悪く、入国が難しくて訪問を諦めた国がいくつかあるが、

アルバニアもそんな国の1つだった。

地図の上でどこと指させなくても、

ベルリンの壁崩壊後、民主化に向かうも不安定な情勢が続いた国、

というイメージをお持ちの方なら少なからずおられるかもしれない。

 

先日来、弦の響きに魅せられてあれこれ探していたら、

よくあるクラシックの楽曲の演奏とは違った趣の1枚が。

Redi Hasaのチェロ多重録音によるアルバム「ストールン・チェロ」。

 

 

 

 

Hasaはアルバニアの首都ティラナ出身のチェロ奏者。

今では評価を確かにする演奏家の1人ながら、その来し方所縁はまさに波乱万丈。

イタリアに住む年の離れた兄の勧めで、

音楽院から貸し出されたチェロを携え祖国を離れてイタリアへ。

その時、彼はなんと13歳。

家族と離れて暮らすこと自体が難しい年頃に、言葉も話せない国に渡り、

ただ将来を期して鍛錬を積み重ねる・・・それは苦労の一言では表し尽くせない。

このアルバムは、そんな彼の物語を楽曲にして編み上げたものだ。

 

楽曲はHasaが作曲、彼自身の演奏の多重録音からなる。

その響きたるや、なんと表情豊かで聴く者に語りかけてくることか。

最初はこのアルバムの背景を知らずに聴いたのだけれど、

当初は映画のサントラか何かだとばかり思っていた。

 

 

 

 

1本のチェロがこれほど多彩な響きを奏でる楽器とは。

彼の国の民謡のリズムや、望郷の寂しさを思わせる曲調がそうさせるのか、

力強くも物悲しいウードのような、なんともいえない東方の響きに満ちていて、

西洋とは違う何か根のようなものに心から癒される。

誰も彼もが疲れがちな今時だからこそ、ぜひ聴いていただきたい1枚だ。

 

 

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