音の快楽的日常

音、音楽と徒然の日々
Ivo Pogorelich リサイタル

ここ数年恒例のように来日公演のあるIvo Pogorelich。

感染症の影響で開催自体がどうかと思っていたが、

予定通りとのことで、2月16日サントリーホールでの公演に出かけた。

 

 

 

 

昨年は久々の音源も出て嬉しくも驚いたところ、

今夜の演奏は何と言っても深い叙情と狂気の世界。

狂気とはいうけれど、わたしが聴いた彼の演奏で最もリリカルで、

消える最後の響きまでコントロールされた素晴らしい演奏だった。

 

ところで演目は、

1 J.S.バッハ: イギリス組曲第3番 ト短調 BWV808

2 ベートーヴェン: ピアノ・ソナタ第11番 変ロ長調 op.22

3 ショパン: 舟歌 op.60、前奏曲 嬰ハ短調 op.45

4 ラヴェル: 夜のガスパール

 

何と言っても白眉はショパンの舟歌だった。

例によって、これは舟歌じゃない!と感じられた方がいるかもしれない(笑)。

何度も彼のリサイタルに通っていると、そういう感覚自体麻痺しているかもしれないが、

例えば今回のツアーでの海外評を拾うと「葬送行進曲のよう」とまで出ているものもあるが、

わたしには、

雲雀が高く舞う初夏の午後、どこまでも広がる草原のど真ん中にいて、

風が運んでくれる爽やかな香りと柔らかな日差しに思わず目を閉じるような、

そんな情景が浮かんだ。

そして、ピアノが鳴り止み、ハッとするような途轍もない没入感。

これを幸せと思わずにどうすればよいのか。

 

気持ちの整理がつかないまま、最後の曲、夜のガスパールが始まる。

若い頃の音源にも録音されているが、

口をついて出てしまう「狂気」というひとことがいいかどうかわからない。

でもそれが一番近そうな気がする。

同じ人の指から紡がれているとは思えないほど急峻な展開。

繊細なトリルとアルペジオから、

一体どんな沼の底からと感じるほど不穏な低音と激しいパッセージ。

決して空中分解することなく、聞き手は束の間の夢を見せられているよう。

 

終曲後は椅子を無造作にしまいこみ、「さあ演奏は終わった。みなさんどうぞお気をつけて!」。

こういう夜はきっとご本人も出し切った感があるのではと想像するが、

いつもの「作法」が見られるとほっとしてしまう(笑)。

 

惜しむらくは、今夜のチケットはソールドアウトながら、

会場には空席もちらついたこと。

やはり今世間を騒がせている感染症対策で遠慮した方が少なからずいたのではと思うと、

それがとても残念でならない。

録音された音源とは違い、やはりライブでの演奏は一期一会なのだ。

 

会場の外は冷たい雨。

2月半ばと思えない暖かさの中、今はいったいいつなのかと思う。

今夜のような公演を体験した後ならなおさらだ。

来年の公演時には、オリンピックの喧騒も感染症の騒ぎも止み、

すべて元通りに戻っていて欲しいと思う。

何の心配もなく音楽を楽しめる時間が早く取り戻されて欲しいと切に願った夜だ。

 

◆ Ivo Pogorelich 2021 東京公演

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