音の快楽的日常

音、音楽と徒然の日々
True Blue

秋があっという間に終わってしまった。

否、今週はまた少し暖かさが戻るのだと言っているが、

ベランダの植物たちを見ていると、すっかり冬支度の様子だ。

バラの幹は紅葉のように紅く色づき、本格的な冬への備えを始めている。

 

それに比べて人間(わたし)はどうだろう。

部屋に戻って仕事の疲れもそこそこに、audioのスイッチを入れていつもの位置に座り込む。

年齢のせいなのか、せいにしてはいけないのか、

次の作業になかなか移れないもどかしさ。

どこまで自分を甘やかしていいのか、悪いのか。

 

そうこうするうちに室温が低すぎるのを慌ててエアコンで調整。

人間(わたし)のためではなく、少し前に引き取った胡蝶蘭のためだ。

元は南の国の暖かく湿度の保たれた森林の中で生きている植物たち。

観葉植物とはなんと人にとって都合の良い呼び名だろうかとつくづく思う。

病院ではないけれど、体力を取り戻しつつある様子がなんとも嬉しい。

 

さて、今夜の1枚。大好きなArchie Sheppのアルバム、True Blueを。

 

 

 

 

Archieの何が好きかって、Vocalが好きだ。

このアルバムでも"Que Reste-t-il De Nos Amours"をすごくリラックスして歌ってる。

辺りを温かく包み込む深い歌声。

サキソフォンの太さ、強さとはうって変わって物凄くジェントル。

この1曲だけでこのアルバムを聴く値打ちがある。

 

なので、仕事でやられてぐったりしているときの褒美なのだ。

頭の中に麻薬が出ているんじゃないかと思うくらい癒される。

音楽の力は偉大だ。

嘘だと思うならぜひこの1曲をどこかで聞いてみてください。

特に女性のリスナーにオススメしたい1枚。

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晩夏

鱗雲が棚引く青空。

すっと透けて遠くまで見通せるいい季節になった。

この連休、たまった音源を整理した。

限られた空間に少しずつ溜まっていくCDなりレコードなりが、

順位がつくわけではないけれど、手元に残しておくものとそうでないものとの振り分けが自然とできる。

今の住まいに引っ越した際につくったルールのようなもので、

次の聞き手のところにもらわれていくのならなおいいと思うようになった。

 

整理がついたところで。

休日の朝一番ではないが、ロシアの若手ヴァイオリニスト、Mikhail Pochekinの演奏を。

1990年生まれとまだ30にもならない演奏家の瑞々しい録音だ。

 

 

ヴァイオリン演奏の細かな技巧についてはわたしにはわからないが、

この楽器の素朴な音色が匂い立つような響きを奏でる彼の演奏は、

魅惑的と言わずしてどうしようか。

 

この楽曲、数多ある録音の中で手元にも複数のCDやレコードがあるが、

弾き手の年齢を考えれば、きっと遠い将来、再録もありうるだろう。

わたしは未来のその演奏なりを聴く機会に恵まれるかは別として、

マエストロと呼ばれる演奏家がそうであるように、

今この演奏にして、その将来の演奏を想像するに思わず溜息が漏れる。

この、今目の前に溢れる躍動感がいったいどのような昇華を見せるのか。

 

窓の外に広がる薄水色の空。吸い込まれそうな透明感にまた溜息が出る。

音楽を楽しむのにほんとうにいい季節になった。

この連休は楽器の音色を十二分に味わえる録音を聴くことにしよう。

にしても、本作はバッハ無伴奏をたくさんお持ちの方にもぜひ聞いていただきたい1枚だ。

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朗報

Ivo PogorelichがSony Classicalと長期専属契約締結という記事を目にした時の驚きと嬉しさといったら。

グラモフォンからの一連の録音がボックスセットになった時には、

なんとなく寂しさを禁じ得なかったものの、

結果的に廉価で往年の音源を手にした新しいリスナーの発掘につながったと思えば、

今回の契約もうなづけるというもの。

 

公演での演奏を一音一音記憶に留め、頭の中で再現することは流石に難しい。

だから、わたしは好きな演奏家の音源、気に入った演奏の音源はできるだけ手元にと思う。

それにしても音源の発売が「再開」されることがこんなにも嬉しいとは!

早速、先日発売されたSonyからの1枚目のアルバムを聴いてみた。

 

 

 

 

今回選ばれた楽曲はBeethovenとRachmaninov。

収録された楽曲への思いは、最近のインタビュー記事に詳しいが、

作曲家やその曲へのリスペクトが溢れんばかりの様子は

公演の際の選曲となんら変わらず、これもまた嬉しい。

 

Pogorelichの新規録音を耳にする機会が全くなかったかといえばそうではない。

数年前、ストリーミングサイトにて、やはりBeethovenのピアノソナタだったと思うが、

2曲ほど掲載されて聴取が可能であったが、

ダウンロードできないサイトだったことと、やはり音質的なものもあって、

数度は聞いたが諦めの気持ちにも似てそのサイトからは離れてしまった。

クラシックの演奏家に収益をできる限り還元することを謳った事業者だったと思うが、

今現在も継続しているかは不明。

 

さて、新しいアルバムの感想。

演奏の素晴らしさは言うまでもないので置いておくとして、

(Rachmaninovのピアノソナタ2番があまりにも華麗で・・・!)

録音の状態も良いのか、レンジの広さや高音の煌めくような響きなど申し分なく、

ここというところでの楽器の鳴りは思わずホールでの体験を呼び覚ましてくれる。

ついつい音量を上げたくなるが、クライマックスのタイミングではご近所への影響を要考慮(笑)。

 

今後どのくらいの頻度で新録がリリースされるのかはわからないが、

言葉にできない楽しみができたことには違いない。

次回の来日公演も心待ちにしつつ、本新譜とじっくり向き合ってみようと思う。

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迷信

雪が降る降るといってなかなか降らず、今日もピーカンの晴天。

この時期にいつも迷うバラの世話、この冬は特に落葉が遅く、株によっては青々としている。

次のシーズンに病気などを持ち越さないよう、葉を毟るのが良いと聞いてこれまでそうしていたが、

自然に落ちないものをどうしてそこまでするかと迷う。

 

ネット上にもいろんな体験談が載っていて、大半は毟る派ながら、

ごくわずかに毟らずに育てている方もおられるが、

1点違うのは、広い庭やベランダをお持ちで、バラをのびのび育てられる環境であること。

うちは狭いベランダで、それこそ日光を分け合うように枝を伸ばしているから、

基本は健康ながら、各々の植物を思えば全体にコンパクトに育てることが必要だ。

 

随分迷ったが葉を毟り、更新を促すことにした。

まだ届いてはいないが、用土も入れ替えて、昨シーズン苦しんだ病気を繰り替えさないよう、

今年は肥料の量もよく考えて、株の負担を増やさないようにしたい。

 

腰に限界がきたところで作業を終え、気分転換に流したスティーヴィー・ワンダーのベスト盤。

初出は1999年ということもあってのタイトルなのか、"At the close of a Century"。

 

 

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このアルバムは何度か出ていて、米国版、欧州版とヴァージョンも複数あるようだ。

これ欲しい!と思ったのはブック形式になっていて、盤が4枚綺麗に収まる台紙の他、

貴重な写真や読み物で構成された豪華版。

安くならないかなと時々探してみるが、今だに結構な価格だ。

 

通常のボックスセットでは、リマスター盤も出ている。

両方を持っていないので比較できないが、音が良くなっているのなら買いだ。

スティーヴィーのベスト盤はいくつか出ているが、1枚のCDで収まる曲数だと、

気に入ったあれこれの曲がかなりの数漏れてしまう。

そうはいっても、ものすごく好きな曲はと言われたら、これとあれとあれとって

すぐに口をついて出てきはするけれども。

 

例えば、"Superstition"。

クインシー・ジョーンズの演奏も好きだけど、Superstitionはやっぱりスティーヴィーが1番。

ノリといいブラスの入りといい、もうこれ以上はない、

子供の頃、オルガンを習っていた教室で、「ノリ」とはこれだ!と聞かされたのが最初。

オンタイムではないけれど、それほど後でもないタイミングで、

それ以来、録音してもらったテープが伸び伸びになるまで聞いていた(笑)。

わたしの好きな70年代の音がものすごくする。

ああこれだという空気がモアッと部屋に広がる、すごい音の塊。

 

曲名が「迷信」というのもなんだけれども、わたしは音楽の力を信じている。

なにはともあれ。

冬の次は春、誰がそう決めたのでもなく、確実に春はやってくる。

だから今、辛いことがあってもきっと好転すると信じて。

 

 

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laid back

年末年始にいきなり寒くなったと感じるのはわたしだけだろうか。

日々記録にと撮っている朝のベランダ写真も、

指先が思うように動いていないのかカメラを落としそうになる。

ものはいずれ壊れるとはわかっていても、

去年、買ったばかりの道具が壊れたとなれば気分も最悪。

なので、撮影はやめてその分ベランダをきれいにする。

箒なら何度落としても大丈夫だから。

 

 

年末年始のいいところでもあって拙い部分でもあるのが、

時間があるという点。

普段目がいかないところまでいってしまったり、

見ないで済むものをたくさん見たり見つけたりしてしまう。

新年早々3日目にして盤買い過ぎ警報発令。

長く探していたものが次々と現れる様は壮観なれど、

どれを取って、どれを放すか、迷う。

否、迷っている時間はない、同じような状況にある人が同時にいるわけだから。

 

いかずに後悔するよりいって後悔しよう、

なんてことをかなり前、古いカメラをあれこれ集めているときによく耳にした。

レコードに関しては、わたしの周囲におられるのは超のつく方を含む大御所か、

そこそこテリトリーを決めて節度あるコレクションをされているかのいずれかで、

背中を思いっきり押してくれるような人は幸か不幸かいない。

なので、押して欲しいときは自分でいく。

いって後悔するなら本望だと信じて。

 

新年早々の郵便事情もあるので、実際に盤が届くのは少し先になる。

それらが届くまでの間、しばらくの間はおとなしくしようと心に決めた。

 

***

 

年末に入手していた新譜のアルバム、マーカス・ミラーの"Laid Back"。

これを今日選んだことに特に意味はない。

マーカスのアルバムの新しい部類はhigh-resolutionの音源も入手可能だが、

一昨年だったか、ジャケットが綺麗で見たときに買っておけば良かったのを、

新譜だからまたいつでも買えるとタカをくくって放置していたら、

気が付いたときには随分な高額盤に化けていた。

新譜といっても、おそらくは、レコードを好んで買う人はやっぱり少数だから、

きっとそれほど枚数を作らないのだろう。

その反省というか後悔が効いていて、高音質音源を押しのけて我が家にやってきたレコード。

 

 

 

 

うねるベースの音が心地よい。

わたしは元々フュージョンというかクロスオーバー小僧なので、

基本、彼の音楽は何を聞いても耳馴染みがよく、気持ち良い。

かっこいいキーボードなどと絡んでくれればこの上なし。

彼の音楽的ルーツのようなものが見え隠れし、

引き出しの多さがわかりやすくなったここいくつかの作品は特に。

かっこいいだけではだめだ、グルーヴがなくては。

 

少し逸れるが、昨日見にいったある映画館の上映が、ほんの少し乱れた瞬間があった。

今日、その映画館が「半券提示でもう一度ご覧いただけます」とのアナウンスをされていて、

正直驚いた。

視聴が損なわれたとか、没入感が削がれた、みたいな場面ではなく、

ほんの一瞬、映像が不自然に感じる程度のものだった。(ちなみにフィルムではなくデジタル)

クレームがあってのこととは思うが、

何事にも完璧を期すような方なら、レコードはおすすめしない。

わたしの手元のlaid backも残念ながらほんのちょっぴりプレスミスがあり、音に出る。

でもレコードは工業製品だし、歩留まりというものもあるだろうからと、

当初はともかくとして、長いことレコードで聞いているとそういうもんだと気にすることもなくなった。

レコードの再生には細心の注意を払ったとしても、わたしは盤に対しては寛容でいたい。

 

新しいレコードのジャケットを眺め、その美しさに感心する一方で、

それ相応の時間を経て手元にやってきた盤の何とも言えない風情にしみじみする。

だからということではないが、この歳になって、

子供の頃には振り返りもしなかった枯れかけた花の美しさにようやく気がつくようになった。

蕾から開花、そして種を残して朽ちていく様にここに在ることの実感を強く感じるからだろうか。

冬は寒くて嫌な季節だけれど、こうした風景が見られるなら冬も我慢できるかなと思い始めている。

明日は月曜、もう一度マーカスを聴いて気分を上げるとしよう。

 

 

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日曜だからゴキゲンな一枚を

映画のサントラばかり掘っていたので、少し趣向を変えてみて。

近所に去年できた美味しいベーカリーに出かけ並んでまで買ってきた何某を頬張りながら、

清々しい休日の午後にこれは!という1枚を聞いてみた。

Jeff Goldblum&The Mildred Snitzer Orchestraのデビューアルバム、The Capitol Studios Sessions。

 

 

 

 

このジャケットをみてあれ?と思った方はどのくらいいるだろう。

思い浮かべたのはジェラシック・パーク? それともインディペンデンス・デイ?

俳優として活躍している彼がピアノでジャズをやっていて、

それも自分のオーケストラまで持っているとはこのアルバムを知るまで知らなかった。

 

さて肝心の演奏。

軽いタッチで弾かれるピアノも洒落ていて驚くのだけれど、

観客を入れて、なおかつ適度な響きを生かしての録音が効いているのか、

目を閉じれば自分がまるでステージかぶりつきに居るような楽しさが。

 

Till Bronnerが参加のほか、女性ヴォーカルも何曲かあって、

その昔、ビッグバンドが大流行の時代の豪華アルバムのような編成がうれしい。

気になって調べてみたら、彼は子供の頃からジャズを聴いて育ち、

クラシックピアノから転向してジャズに。

俳優として成功する傍ら、自らのバンドを率いてのlive演奏では知るひとぞ知る存在ながら、

アルバムリリースとしては初、デビュー盤とのことだ。

 

俳優でピアノというと、「ドクター・ハウス」のHugh Laurieのブルース弾き語りだったり、

演技のキャラクターとやはり繋がるものを感じるけれど、

Jeffの小気味好いピアノの音色にアルコールも入っていないのにすっかりゴキゲンな午後。

 

そうそう、このアルバムは最初からアナログレコードでも発売されていて、

しかも45回転の2枚組ときた!

さらにしかもしかも、ジャケットが違う。

 

 

 

 

このジャケットだとあの「地球を救ったデイヴィッド」とは思うまい。

わたしは迷わずレコードを買ったが、CDのジャケットも捨てがたい(笑)。

最近、盤探しにダレ気味だったわたしに喝!を入れてくれた。

こういうアルバムが出てくるならやっぱり新譜も丁寧にチェックしないとと反省しきり。

apple musicやtidalでも聞けるんだけど、やっぱり盤が欲しくなる1枚だ。

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cinema

ようやく冷たい風が吹く季節になった。

夜、レコードを聴いていて落ち着くのは、夏ではなくてやっぱり秋冬。

窓を閉めてしんと落ち着いた部屋で聴くのがいい。

 

アナログレコードではないが、

この季節にしんみりと聞くのに○な1枚がまたリリースされた。

村治佳織さんのソロアルバム、「シネマ」。

 

 

 

 

このジャケットは、DVDがついたデラックス版。

通常版のジャケットよりこちらの方が気に入ったので。

意外な選曲とアレンジ、部屋は澄み切った空気に満たされる。

オリジナルよりも寧ろ、ギター演奏に馴染む、

知らなければギター曲かと思うほどに自然で。

まるで水の流れのような、とうとうと語られる18の物語の断片。

 

最近、写真を撮るのが楽しくてならない。

光を光として意識することが、今生きていることをこれほどまでに実感させ、

小さな植物たちと共に暮らすことの幸せを噛み締めることになるとは、

これまで分かっていなかったのだろうと思う。

 

フイルムを大事に(というか高いから)しながら1枚1枚というのとは異なるが、

それでもシャッターを切る毎に感じる何かを心に留めながら。

植物は日々成長する。

光と水と風と。ひとが忘れがちなものを、彼らはごく当たり前に受け止めて。

 

 

 

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何かの錯覚かもしれないが

ネットフリマで中古レンズを買った。

カメラ本体とセットで売られることの多いズームレンズで、

これを単体でとなると少し割高で、なかなか手が伸びないでいた。

 

おそらくは、セットで買ったけど結局使わず終いでもったいないからと、

思い切って処分といったところの出品で、

届いてみてわかったことだが、どうもほとんど使われていなかったよう。

お盆休みということでフリマ自体のバーゲンもあり、かなり手頃な価格で買えて、

それだけで思わず口元緩む話だが、思った通りカッチリと仕上がるレンズのようで、

こういう描写のものは手元になかったから、さらに緩むこととなった。

 

 

 

 

ここ数日、ひょっとしたらもうすぐ秋か!というくらい涼しい風が心地よい。

隣接では古い木賃アパートが取り壊され、あと少しで更地というところまで来た。

解体の様子をこうして眺めていると、少々物悲しさあれど、

区切りというのは、なんであれ、どこか清清しいものだと思う。

 

こんな気分にあう1枚は・・・・・と選んだのは久々に聞くEnrico Ravaのアルバム、

"Rava plays Rava"、Stefano Bollaniとのデュオだ。

 

 

 

 

イタリアのレーベルPhilologyから1999年にリリースされたアルバム。

さらりと淀みのないトランペットの響き。

彼には沈思黙考的なあまりに重たいと感じるアルバムもあるけれど、

これはそれとは対極的なもの。

日暮れ時、こうして聞いていても、メランコリックに過ぎないのがうれしい。

日曜の夕方、どっぷりと何かに浸って、月曜の朝普通に起きて仕事に行けるほど、

気力十分ではないのだから(笑)。

 

昼間の蝉の絶叫に変わって、キリギリスの鳴き声が聞こえる。

ここは本当に都心なんだろうか。

もう少し涼しくなったら新しいレンズをつけて歩き回ってやろう。

なんてことはないのに、何でも撮れる自由を手にいれたような錯覚がある。

どうせなら錯覚が錯覚とバレないうちに、できるだけたくさんの時間が過ごせますよう。

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夏の色を探しているうちに

ものすごい照り付けと暑さ。

確かに頭の中の8月の、真夏のイメージはじりじりと照りつける太陽と、

それに負けない濃い緑、そして蝉の鳴き声。

 

少しだけ近所を歩いてみた。

せっかく手元にカメラもあるし、と。

 

 

 

 

シャッターを押して取り出しただけの写真だけど、ああなんていい緑色なんだろう。

体の中の水分がすべて抜けて蒸発するような暑さの中で、

力強く生きてなお、この色艶よ。

 

最近、道端の隙間から力強く生え出している草花に強く惹かれる。

休憩時間に眺めるのは、そうした植物の、

わたしにとって強さの見本のような生き物たちの図鑑や解説書だ。

 

歩道の脇をじっと眺めているうちに本当に力が抜けそうになってきたので帰宅。

窓を全開、風を入れよう。

 

こんなとき聴きたいのはやっぱりリヒテルのバッハだ。

中でも最近はこればかりという4枚組のバッハ集。

 

 

 

 

4枚あると、その日その時の気分にあった1枚が選べる、というわけでもないが、

なぜかこれという1枚がある、便利な薬のような録音だ。

鄙びた田舎を行く音楽家の背中を眺めながら、

いつか自分も弾けたらいいなと思うようなソナタが次々と流れる。

 

曲順。

このアルバムの曲順は演奏家が決めたんだろうか。

それともアルバムを制作した側で決めたものだろうか。

ああ、なんて絶妙な。

 

 

そうこうしているうちにまた台風がやって来る。

今は月曜の夜。台風は水曜の夜から影響が大きくなるらしいのに、

ベランダの風当たりはすでに台風近し。

なので、これ以上傷ませたくないバラ2鉢を室内へ。

わたしより背の高いバラだ。

部屋の中だと蒸れてしまうだろうが、枝が折れ葉が飛んでしまう

ダメージは小さくない。

隙間から伸びゆく力強い植物たちと違って、

どうしたって自生するはずのない環境でわたしの我儘でいてもらっている。

だから手助けが必要だ。

 

バラはバッハを聞かないかもしれないが。

台風が去ってしまうだろう3日先まで時間はまだまだたくさんある。

ごうごうと風の音の合間にもピアノの響きを楽しんでいよう。

それにしても今年の夏は台風が多い。

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大団円

クリスマスイブの日に有馬記念が重なったのはいつ以来だろう。

今年は体調も今ひとつでろくに競馬場に出かけることができなかったが、

今日という日は行かねばなるまい、

そんな思いもあってか随分早く目が覚めて真っ暗な時間に部屋を出た。

 

時間を追う毎にどんとんと増える人の波。

どこから一体こんなに集まってくるのかと思えるほどに。

本当にこれが最後の競走なのかと思うとそれだけでもこみ上げてくるものがある。

特別な競走馬が持つ、人の心を熱くする何か。

 

思い返してみれば、

大きなレースを年に6つも、それを王道をまっしぐらに、というのは、

なかなかに難しい、長いこと競馬を見ていても思い出せる馬は数えるほど。

勝ち戻る際のあの愛らしい瞳の表情を見るのも、本当に最後の日になる。

膝を高く上げてひょいと足を延ばす独特の歩様も。

 

 

馬群がコーナーを曲がる度、地響きのような低い音が場内いっぱいに広がる。

馬券を買った人もそうでない人も、大勢の人が固唾を飲んで見守る空気。

外の冷たさも忘れるほどにじわじわとやってくる見えない波に、

もうこれ以上前に行けない場所にじっと立っているわたしをさらに前へと押しやる。

残り600mの時点で、抑えきれない興奮が渦を巻く。

そして彼は、自らの影を踏ませることなく、

何ら乱れることのないフォームで、先頭を鮮やかに駆け抜けた。

 

どうして誰も競りかけていかないのか、というのは結果論で、

誰もいけない、そういうレースをするのが彼なのだ。

大勢の悲喜こもごもあれど、逃げも隠れもしない、一番強い馬が強い競馬をした。

ほんとうに忘れ得ぬ瞬間になった。

 

 

どこもかしこも満員の中、部屋に帰ってきたら身体中が痛んだ。

あれだけの長い間、押し競饅頭だったのだからまあ当然か。

シャワーを使う前にちょっとだけ、気持ちを緩めようと聴いたのが、

レコードで再発されたミリー・ヴァーノンの「イントロデューシング」。

 

 

 

 

気分だけは、おしゃれなバーの片隅で素晴らしいレースの数々を思い浮かべるような。

濃厚で、ほっこりとあったかな歌声がクールダウンにちょうどいい。

馬のオーナーが歌った祭りも素晴らしかったが、

この年には興奮が続き過ぎて胸が苦しいから。

それにしても、しみじみとしたクリスマスイヴ。

ケーキもチキンも用意していないけれど。

期待に応えるという、できそうでなかなかできないことをあの大舞台でやってのけた、

馬と騎手に心から感謝を。数え切れないほどの感動を、ほんとうにありがとう。

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