音の快楽的日常

音、音楽と徒然の日々
TIAS 東京インターナショナルオーディオショウ2023

 

先週末に出かけた有楽町国際フォーラムでのTIAS2023。

昨年は事前予約方式だったりをよく理解せずにいたのでろくに聞けずじまいだったが、

今年は準備万端。

とはいえ。

世の中様々なものが値上がりして時に絶句するも、オーディオ製品とて例外ではなく。

その分気楽に、欲しいなあと悩むこともなく展示を眺められる(笑)。

頑張ればなんとか手が届くかも、

という絶妙な感じの価格帯のものは本当に少なくて、

たまには音楽聴きたいな、というライトユースな方にもお勧めなお手頃製品か、

極端にゼロの数が多いみたいな二極化が一層進んだ感じがした。

 

各ブースとも、ここぞと製品の良さをアピールするための選曲なので、

音量は大きめだし、音圧も高いしで、ずっとは聞いていられないのが残念だが、

これぞという催事や講演を除き、

パッと聴きの印象がものすごくよかったものを長めに楽しんだ。

備忘録としてメモしておくと、気に入ったスピーカーは次の3つ。

 

1つめは、EstelonというブランドのAura。

真っ白で優美な姿、出てくる音も見た目の印象通り美しい響き。

なんでもエストニアの会社だというから、

かつて訪れた風景が思い浮かんでバイアスがかかっているかも。

エストニアってモノづくりのイメージがなくて、それだけで気になってしまった。

 

次にFYNE Audioというブランドのフラッグシップ。

朗朗と雄大な響きで情報量もたっぷりなのにやかましくない。

でもアンプ入れたらおいくらの世界!?

 

最後に一番良かったのはPIEGAのCoax411というブックシェルフ。

これとて家電的な感覚からすれば高いんだけれど、他と比べてというか、

これを聴く(みる)までに金銭感覚は破壊されていたので、

わ、安っってなってしまう(笑)。

もちろん、いずれのスピーカーも

つながっている装置やケーブルは代理店が吟味しているものなので、

スピーカーさえ買えれば同じ音が、、、、

というわけでもないのは承知しているけれど。

 

各ブースで気になった音源を帰宅早々探してはポチっとを繰り返したが、

比較的古いアルバムが多かったせいか、未だお取り寄せ中。

届くのを楽しみにしつつ、今日はHarry Allenのテナーをボサノバで。

 

 

 

 

今日はようやくというか冬らしい冷え込みで、

完全に季節外れな1枚になってしまったのはまたしても承知の上で。

なぜこれ!?と言われたら、先程のEstelonのエストニアを旅した時に、

首都タリンから確か電車で日帰りできる程度の郊外にある海辺の保養地が、

ふとこのジャケットに結びついたから。

夏なのに、人気も少なくてひっそりとした遠浅の砂浜で、

あまりに静かなので、寄せては返す波の間に囁くような砂の音が聞こえてきた。

 

話がそれたが、

このアルバム、ボサノバの名曲を集めた2006年の作品で、

Harryが気張らず演奏する様子がなんとも心地よい。特に「風のささやき」。

本当はこのアルバムで夏の終わりを楽しみたかったが、

今年はいったいいつが夏の終わりだったかさえ定かではない。

さて切り替えて、冬にこそ聴きたい音源を棚から発掘することにしよう。

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山口孝 in TIAS 2019

ともするとaudioというか装置のありがたみを省みることの少ない日々。

あまりに日々の生活に密着していて、一つひとつの装置が特別でなくなっている。

先日、古い書類を整理していたら無効になった保証書がいくつか出てきた。

思えば毎日触れているレコードプレーヤーですら、うちにやってきてもう10年以上。

時の過ぎるのは早い、とは違う、新鮮な驚きがあった。

 

年1回のTIAS、今年は11月開催(思えばずっと以前はそうだった気がする)。

偶然用事が重なり、最終日の今日、ようやく有楽町の会場に出かけた。

正直、新しい製品等にはあまり興味も持てず、

メーカーや作り手のエピソードを交えて音楽を紹介してくださる傳信幸さんの講演目当てだ。

仕事に行き詰まる辛さも忘れるデモンストレーションの数々、

会場に入りきれない人が出てしまうのも仕方がないとは毎回痛感されること。

 

さて、忘れないうちに、もう一つの「心の洗濯」の場、

山口孝さんの講演ならぬ公演についてメモしておこう。

 

 静寂は宇宙のもの、沈黙はこころのもの

 

いつかの公演でも語られていたキーワードが、今日もまたより深まって取り上げられた。

ひょっとしたら主催のLINN JAPANのサイトで内容が後日紹介されるかもしれないが、

音楽としっかり向き合っていくこと、一貫してこのぶれないテーマが掘り下げられる度に、

今時でいうヘタレリスナーのわたしはおどおどとしてしまうのだ。

かくして、2時間弱の公演にてヘタレはがっつりと絞られ、

最後のひとしずくも出ないほどしっかりと洗濯された(苦笑)。

 

「静寂」というキーワードを拠点として繰り広げられた音楽論とLINNのシステムの解題。

他のLINNのユーザーの方はどのように受け止められただろう。

今回の公演は特に、山口さんご自身の振り返りが数多く詰まっていて、

それだけでも聴いていて胸がいっぱいになる。

例えば、いそノてルヲさんの名前を久しぶりに耳にしたのだけれど、

わたし自身がJAZZを好きになったきっかけがいそノさんのNHK-FMでの番組で、

毎週、子供ながらに手元の限られたカセットにどの曲を録音して残そうか思案して悩んでしまうほど、

珠玉の選曲と解説をされていたのが洪水のように思い出され、

そうやって大先輩のエピソードとラップしたというだけで胸熱だというのに。

 

さて、個人的なことはさておき、紹介されたアルバムを書き留めておこう。

 

人生を変えたアルバムその1として紹介されたBaden Powell "Live in Tokyo"。

山口さんはまさにこのジャケットの角度で当日、演奏を聞かれたそうだ。

10代で聞かれたコンサートでは最高のものとも。

会場ではこのアルバムから、イパネマの娘と哀しみのサンバが演奏された。

演奏の力強さがかえって美しいメロディを哀しくさせるようで切ない。

 

 

 

 

その2、Miles Davisの"Miles in Tokyo"。

 

 

Milesの演奏は、山口さんの公演ではもれなくとまではいかなくても相当の頻度で紹介されている。

数多くのマエストロの中でも、とびきりリスペクトされているミュージシャンなのだろう。

そのMilesのライブ音源で珍しくオール日本体制で制作されたというこのアルバム。

再生された"All Of You"、演奏の最後にいそノさんのMCが入っている。

わたしが覚えているラジオの声よりずっと若い。

このレコードはいずれわたしの手元にもやってくる気がする。

 

 

その3 マニタス・デ・プラタの有名な2枚組、

「マニタス・デ・プラタの芸術、フラメンコの素晴らしい世界」。

 

 

 

このレコード、演奏の値打ちや数の少なさとは裏腹に、

いかにも昭和なデザインの帯がついていて、

運がよければとんでもない廉価で中古店の投げ売り箱にあったりする。

(わたしもそういうのを偶然見つけて手にした。思わず笑みが漏れたのはいうまでもない)

 

このアルバムを紹介する人も少なくなった、とは山口さんの一言。

彼のギターを評して、本能のままに演奏する様に野生を見ると。

荒々しい、というのとは違う。

フラメンコの根っこにあるエキスのようなものが迸るような演奏。

しかも長尺の曲も多いから心して聞くべし。

当日はこの中から「ファンダンゴス」が流れた。

 

 

さて最後のその4は驚きの女性ヴォーカル、Sonia Rosa。

囁き系ボサノバではやっぱりジルベルトが有名だと思うけれど、

今回状態のよいレコードで聞かせていただいて思わずほっこりするほど素敵な歌声。

コケティッシュでもないし、一体何だろう。

 

そのRosaのアルバムが、会場では2枚紹介された。

どちらも国内盤で、「センシティヴ・サウンド・オブ・ソニア・ローザ」と、

もう1枚は当初プロモのみだった「スパイスド・ウイズ・ブラジル」。

特に後者は大好きな大野雄二さんが絡んでおられるとのことで、これはぜひ手に入れたい。

会場で流れたのは後者に収録された"Chove La Fora"という曲だ。

ちなみにLPは再発で出ており、CDも既発。プロモにこだわるか、どうか(笑)。

 

 

 

 

 

それにしても内容が濃過ぎる日曜だった。

音楽に向き合うには少々体力気力が不足しているようだ。

来年のTIASまでにはその両方を充実充填できるようがんばろう(反省)。

 

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還暦リサイタル

待ちに待ったIvo Pogorelich リサイタル、12月8日のサントリーホールへ。

今年のイルミネーションはかなり控えめで、去年のゴージャスな飾り付けは一体どこへ。

暖冬といいつつこの週末はぐっと冷え込み、いつものこのコンサートらしい季節に。

 

 

 

 

演奏曲は休憩を挟んで3曲。

モーツァルトのアダージョ ロ短調 K.540、リストのピアノソナタ ロ短調、

そしてシューマンの交響的練習曲 op.13(遺作変奏付き)。

 

しかし、驚いたのは演奏に入る前のリハビリのような開演前の演奏シーン。

いつもはモノクロのグラデーションのようなカデンツァの連なりで、

気持ちの高ぶりを抑えているのか、或いは見えない誰かと会話しているのか、

そんな不思議な響きに迎えられて着席するのだけれど、

今日は明るい音で、軽く息を整えるかのような指運びで拍子抜けするほど。

もうやるべき準備は全て済ませているのだからと万全の空気が伝わってくる。

 

照明が抑え気味になり、ステージに現れた彼は見た目にはいつもの彼だけれど、

その第一声?、第一音の響きがなんとも言えない芯の強さと輝きで、

今夜は特別な時間になると否が応でも確信した瞬間。

 

一音、一音のたしかさ。

演奏家がホールの空気全てを掌握しているかのよう。

自信というのとはまた違う、文字通り確信に満ち満ちた、

これしかないという淀みない流れにただうなづくしかなかった。

 

リストのロ短調は来日公演でも何度か聴く機会があったけれども、

今夜ほど、「到達点」を感じた演奏もなかったと。

感情の爆発でもなく、壮大な実験でもなく、過不足なくこれで良いと納得に満ちた演奏。

これが録音されていたらなあとは贅沢な話で、

いや、たった一度しか聴けないのだから、ものすごく贅沢な話であって。

 

しかし、今日ほど驚いたこともないなと思ったのは、恒例のファンサービス、

終演後のサイン会でのこと。

そこにいた彼は、街中ですれ違っても偉大なピアニストとは思わないだろう、

ふつうの、年代なりの、語弊を恐れずに言えばただのおじさんだった。

にこやかに、大量の列を裁くのに神経質なスタッフを余所目にファンの歓談に応じ、

低い声でゆっくりと話す様子は、

先ほどまでのあの興奮に包まれた空気を作り出した人とはとても思えない(笑)。

常人では行き着きようもない頂を極める人というのは、

きっとon offがきっちり効くのだろうけれど、これまた拍子抜けするほどであった。

 

今夜の演目。

モーツァルトははっきりいって苦手なのだけれども、K.540はとても好きな曲になった。

いい加減なものだと思うが、素晴らしい演奏が新しい扉を開いてくれる。

 

  「真に人々を啓発する音楽は、永遠に異なった解釈を歓迎し、

 無尽蔵の宝の山に人々を誘う。」 ー  Ivo Pogorelich.

 

次の来日は2020年2月とのこと。

1年以上先だけれども、また公演に行けるのを楽しみに日々働くとしよう。

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Babel

GWの初日、どこにいっても人混みで凄い事になっているだろう、

そうわかっていても、重い腰があがることなど滅多にないから。

朝起きていい天気だったので、いそいそと荷造りし、上野へ。

上野で丸1日過ごした土曜。

 

 

 

 

まずは東京都美術館で開催中のブリューゲル「バベルの塔」展へ。

ただいま混雑中、という案内を横目に見ながら、早速企画展エリアに。

この日のために買ったパピリオという50cmまで焦点の合う双眼鏡を携え、

いざ、いざ。

 

時系列に展示された当時の作品に、あの奇天烈というか、一度見たら忘れられない、

Hieronymus Bosch(Amazonオリジナルの刑事ドラマではなく)の作品がなんとも。

あまりの観覧者の多さにじっと立ち尽くすわけにもいかず、

蟻より遅い歩みにも苛立つことなく、じりじりとこれという作品に迫り、

離れるのを惜しみつつ、どうしてもの場合は一旦列から離れて双眼鏡を覗く。

否、最接近でもつい覗いてしまう。裸眼はとうに老眼がひどくなって、

あの館内の暗がりでは辛いので。

 

パピリオパワーでもって、ああ一度こうして覗き込むようにしてみたかったよ、

というのをやっと実現できた。

好きな絵は頭に入っているので、もちろん全体を焼き付けるようにして眺めてもみたが、

細部のディティールを、画集ではなく本物で凝視してみたかったのだ。

 

それにしても、バベルの塔よ。ああ、塔よ、塔よ!

絵に見入っていると、否、魅入られていると、

わたしの体がすうっと小さくなって、一つの窓に吸い込まれていく。

レンガが下から上に揚げられる様など、一体その時代にどうやって思い描いたのか。

人間の想像力ほど無限のものはないと、打ちのめされるほどの圧倒力で迫ってくる。

そして、ブリューゲルの絵に共通の、独特の彩りの美しさ。

解説コーナーでは、素晴らしい映像も用意され、なんとも贅沢に尽きる展示だった。

 

来年初頭に予定されている本格的なブリューゲル展、嫌が応にも期待せずにいられない。

長生きはしてみるものだ、これまではヨーロッパを転々として観て歩くしかないと思っていたのだが。

 

特設ミュージアムショップで図録やその他お土産を買い求め、かなりの荷物の量になりつつ、

次は国立科学博物館の大英博物館展へ。

荷物を一旦コインロッカーへ預ければ良いものを、やはり人混みに圧倒され、否、

どうしても早く見たい展示があって、気が逸るものだから、

重たい図録や何やを抱えつつ、またしても蟻の歩み状態の観覧へ。

これという展示の前は、なぜかあまり人気がなく、一瞬ではあったが独占状態に。

目の前に確かに展示された銀色の昆虫、生きているのを当時見て捕獲した人はどう思ったのだろう。

 

数時間に及ぶ「筋トレ」状態を脱するべく、博物館の企画展を観た後は素直に帰宅した。

それでも丸1日上野公園のあたりで過ごしたのは一体いつ以来のことだろう。

緑が多く、そういえば東照宮のぼたん苑を見る余裕がなかったのは少し残念だ。

 

今こうしてBabelの図録を見ていると、もう一度見にいこうかとも思う。

ブリューゲルの作品には、眺めて考えて、そして絵を覗き込むあまり、その絵の中に吸い込まれてと、

一度で三度美味しい愉しみが充満している。

その世界の一つのきっかけとなったのであろうBoschの作品を見ていて、

きちんと聖書を読んでみようかと思った。

思えば去年の今あたりはそういう心の余裕など全くなかったが。

上野での展示は7月2日までやっている。やはり、もう一度行こう。

 

 

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悲しきワルツ

 

 

半年以上前から楽しみにしていたコンサート。

このために風邪をひかないように、体調崩さぬよう、万難を排してやってきた。

この日を心の隅に置いていたから何とかやってこれたようなもの。

 

 

 

 

彼の演奏を聴くようになってからというもの、

新しい音楽の扉が次々と開かれていった。

聞いて知っている曲なのに、全く違った曲にも聞こえるほど、

無意識の思い込みをあっという間に粉砕してもくれる。

何かに囚われているところからあっという間に解放してくれる。

 

以前はピンともこなかった曲が、彼の演奏で聴いたその晩から、

忘れ得ぬ1曲となることも一度や二度ではなくて。

 

 

 

 

公演前の静かな練習の風景もすっかりお馴染みではあるが、

あの陰影に満ちた響きを本番の公演でもぜひと思っていたが、

何とアンコールで選ばれたのがシベリウスの悲しきワルツだった。

 

どうしたらあんなに切なくも美しい響きでホールを満たせるのだろう。

叙情に溺れるのでもなく、瞳の奥に秘めた静けさにもにて、

一音、一音、まるで遺言のようにして彼の指を離れていくのだ。

 

贅沢な時間はあっという間に過ぎる。

もう少しだけ聴いていたかったなというのはもっと贅沢かもしれない。

心の整理を促されるようなひと時、思わず寒空に立ち尽くす。

嗚呼またしても夢に見る晩が一つ増えたことに海より深く感謝。

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一期一会のPiano Sonata
先週末、Boris Berezovskyのリサイタルに出かけた。
何と言っても、演目の後半に組まれたメトネルとバラキレフが魅力的で、
中でも、わたしにとって彼ほどメトネルを魅惑的に聴かせてくれるピアニストはいない。

しかし、驚いたのは前半にたった1曲だけ組まれたラフマニノフのピアノソナタ1番。
彼が録音した音源にはこの曲も入っているから、初めて耳にする訳ではなかった。
それでも。





一音、一音が何と煌びやかなことか。
そして胸に向かって真っ直ぐ飛んでくる。
時に聴く者の心をかき乱すかのような狂おしさを伴いながら、
音楽はホール全体を深呼吸を繰り返すようにして大きく深く満たしていった。

予想がこうも鮮やかに、良い方に裏切られてしまうとかえって戸惑うようで。
後半にとってあったはずの心の余裕はどこへやら。

惜しむらくは、いつもの公演に比べ会場の入りが今ひとつであったこと。
この会場にやって来て、あの演奏を体験できた方が少ないというのは何ともはや。
生演奏はどうしたって当夜限り、一期一会の体験だからこそ、
今もこうしてあの夜を懐かしむように大きな溜息をつく。

アンコールはチャイコフスキーの四季から8月、9月、10月の3曲を。
10月はたしか去年のリサイタルでもアンコールで弾かれたような。
メランコリックなメロディが、濃密な時間を締めくくるに相応しい小品。

ああできることならもう一度あのソナタを聴きたい。
言っても仕方の無いことと知りつつ、ついひとり言が口をつく秋の夜だ。
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郊外のホールでBachの平均律を
埼玉は与野本町にある彩の国さいたま芸術劇場でBachの平均律第一巻を通しで聴いた。
弾き手はピエール=ロラン・エマール。


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ホール設立20周年というメモリアルイヤーの記念公演という訳でもないだろうけれど、
それほど大きくない会場はほぼ満席になり、
響きがライブな会場だけにちょっとした物音や動作の音が気になってしまう。

会場が落ち着いてほどなく演奏者が舞台に登場、
思ったよりも背が高く大きな方であることに驚いた。
普段CDでばかり聴いていると、
音楽のことだけでなく、随分と勝手な想像をしていたりするもので、
生演奏に出かけると、そんな或る種の思い込みに愕然とすることが少なくない(笑)。

さて、平均律曲集の第一巻を、20分の休憩を挿みながら前後編に分けての全曲演奏。
当初は休憩なし!とアナウンスされていたので少々緊張して出かけたのだが、
会場入り口に「休憩あり」との掲示があってほっとした。

この春に出た公演と同じ演目のCDをまだ聴かないでいる。
今回は予習をせずに、先入観なしに聴いてみようと思ったのだが、
やはり全曲演奏ともなると後半は前半に比べて余裕がなかったかもしれない。
もちろん演奏は素晴らしかったけれど、
聞き手のわたしの側で、付近に座っている方の物音などで妙に気が散ってしまった。
入り込めた前半と比べて、ということなのだけれども。





こうして様々な弾き手の演奏を体験してみると、
少しずつではあるけれど、自分がどんな演奏を聴きたいと思っているのかが、
逆にあぶり出しのようにはっきりとしてくるから面白い。

ある音楽に出会い、船が碇を下ろすようにしてしっくりと落ち着くこともあれば、
それが起点となってあちこち彷徨い出してしまうこともある。

Bachの音楽は、音楽を聴いていく上で、或いは自分が好む演奏を探す上で、
とても重要な羅針盤の一つとなっているようだ。

CDを買って改めてエマールの演奏を聴くかどうかは、
もう少し時間が経ってからでも遅くない、そんな気がした週末の午後。
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Jazz喫茶でキューバ音楽を聴く @四谷いーぐる
キューバ音楽事始め、と題して開催されたJazz喫茶の老舗いーぐるでの音楽イベント。
語り手はアオラ・コーポレーション代表の高橋政資さん
Jazz喫茶というと、学生時代に通った吉祥寺Meg以来、というと大袈裟だけれども、
ちょっと緊張して足を運んだ土曜の午後。


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細い階段を降りてのお店というと、個人的にはJazzに通ずる・・・
渋谷UnionのJazz館にJARO、それからetc...。
趣のある扉をぎいと開ければ、既に会場は満杯近く、熱気充満一歩手前の状態。
なんとか入り口付近に陣取るも、オーダーをなかなか取りに来てもらえない。
チーズケーキがおいしいよ、と聞いていたので、
紅茶とのセットを取りあえずは頼んでしまいたいのだが。

今回のイベント、歴史をひも解きつつ、時代を追ってキューバ音楽体験をする趣向。
何しろキューバは地図でこの辺り、と指差せる程度にしか知らないし、
キューバと言えば葉巻、みたいな紋切り型の先入観たっぷりなわたしが、
FBで開催を知り、勢いで紛れ込んだ会場だけど、
いざ音が出てみれば、独特の埃っぽさと密度の濃さに、
室温もぐっと5度は上がったかといった具合。

ソンやルンバといったことばが出て来てようやく耳にしたことのある音世界に。
素っ気ないほどの伴奏に艶やかな歌声を乗せて、
軽快、というのとはちょっと違う、まったりとしたノリの良さがうれしい。
貴重な映像や音源にも丁寧な解説が付されて、
気がついてみればあっという間に2時間半を過ぎた。
あと少しというところで時間切れになり、会場を後にしたが、
久々に濃密な時間をすごしたせいか、暗く陽が落ちた外を歩き出すと少し目眩が(笑)。


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喫茶いーぐるでは、このような音楽イベントを定期的に開催しているそうで、
World Musicファンならおなじみの、音楽評論家、北中正和さんの講演も10月に控えている。
Jazz喫茶としてはゆったりしている店内も、こうしたイベントだと早めの会場入りが吉かも。
プロジェクター映像が座った方向に見える側に席を取って、
ゆったりとお茶しながら、
或いはビールの喉越しに体を目覚めさせつつディープな音楽に浸ろう。
今後もお店のイベントスケジュールを要チェック♪
それにしても、押し出しの強い音に圧倒されつつ途中退席も充実の午後だ。


■ Jazz喫茶いーぐる http://www.jazz-eagle.com
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TIAS 2014
例年11月に開催される東京インターナショナルオーディオショウが、
会場の都合で今年は9月に。
土日を挟まない日程のせいか、初日の23日は予想通りの激混みで、
ブース間の移動もままならないほど。
結局、いつもお邪魔するLINNブースの他は、限られた講演に参加するだけに留まった。


傅信幸さんの講演はいつもながらの楽しさで、
ここのところの仕事の慌ただしさをつい忘れてしまう。
例年配布される試聴曲リストは今年も健在で、
いくつかの「新曲」も追加され、女性ヴォーカル好きには要チェックのディスクも。
それでもわたしは、今日改めて思ったのだった。
ゲルギエフのくるみ割り人形は、やっぱり素晴らしい!と。


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ジャケットの下にKIROVとあるくらいだから少し前の録音になる。
しかし、この色彩感はいったいどこから来るんだろうと思うくらい、
大編成演奏の醍醐味が目一杯に詰まっている。

今日取り上げられた試聴曲は、
このアルバムの中から犬のお父さんが出てくるCMでもおなじみの件。
さすがにブースで聴かせていただいた音量のようには、
自分の部屋では再生できないけれども、
響きの広がり方や各々の楽器の音の質感など、
まとまった一つの演奏として聴くこと以外にも、聴く楽しみがたくさんある。

傅さんは、このディスクをとうとう新調されたそうで、
その価格も以前よりもずっと安く手に入ったことなどに触れておられたが、
CDが売れないと言われて久しいこの時代に、
すべての音源がダウンロード音源化されるとは限らないからこそ、
買えるうちにぜひ!とお勧めしたい。

***

今日、傅さんの講演で聴けた試聴曲のうち、最近のアルバムで気になったのは、
やはり陽水のライブアルバム。
DVDやBlu-rayのおまけがついているバージョンが先行発売され、CDのみはこれからの様子。
会場で流れたのは「少年時代」だったけれど、
氷の世界ツアーと題されたライブアルバムの収録曲には、「心もよう」ももちろんあって、
今の彼の歌声で聴いてどんな風に感じるんだろうと、ちょっと及び腰な自分がいたりする。
それにしても、あの艶やかな声が現役でもって聴けるなんてと驚くやら何やらで、
どのバージョンで手に入れるか、ちょっと思案してしまうほど。

TIASは有楽町の国際フォーラムで明後日25日まで開催されている。
お時間の許す方はぜひ。

◇ 東京インターナショナルオーディオショウ http://iasj.info/tokyo-international-audio-show/2014/
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Amazing! Nikolay Khozyainov Live in Hamarikyu-hall
そんなに生演奏慣れしている訳ではない。
だから、比較するものの数も知れているのだけれど、
今夜のピアノ・リサイタルは驚きのひと言に尽きた。
昨年に続き来日の若きロシア・ピアニズムの担い手による一夜、
築地は浜離宮朝日ホールでのNikolay Khozyainovのリサイタル。





使用する楽器がYAMAHAのピアノということで、
耳あたりも少しばかり違ったのかも知れないが、
調律のびしっと決まった楽器の響きであったとしても、
正確な打鍵から放たれる響きの何と伸びやかで美しいことか。

さて、演目はシューマンのアラベスクに始まり、2曲目にいきなりダヴィッド同盟舞曲集が。
あっけにとられている端から、リストのメフィスト・ワルツ第1番へ。
これが前半のプログラムというのも溜息ものであったが、
想像を遥かに超えて迫り来る音楽の波に溺れてしまう。

確かに、難曲をいとも軽々と弾きこなすピアニストは彼一人ではないだろうが、
弱冠22歳にして提示してみせる世界はこれまでに体験したことのない音空間。
前半と知りながら思わず立ち上がりそうになったのはどうやらわたしだけではなかったよう。

ショパン・コンクールで優勝を逃したことが話題になったほどだから、
日本でもファンの多いショパンの楽曲を後半に備えているのはわかるとしても、
子守唄変ニ長調からピアノソナタ3番になだれ込んでいく様は、
前半あれだけ弾いてまだ、と呆れるほど。

小柄で細身で、手もそれほど大きくなさそうな。
でもピンと伸びた背筋と肩から指先までがとてもしなやかにつながっている様に、
あれだけの音量で奏でながら何ら無理も感じさせず、
楽器とあんな風にコンタクトしているというのがもう何とも羨ましくて。

難曲を交えてのプログラムが終わると気持ちが晴れたのか、
メドレーを入れて5曲ものアンコールが演奏され、
しかもウイットに富んだアレンジが目白押し。
要するに彼は、ピアノが大好きで、ピアノの演奏が大好きで、音楽が大好きなんだと。
しかもお客さんを楽しませようという気持ちがたっぷり伝わる濃密な時間。





あくまでタラレバだけれども、
プログラムが前後入れ替わっていれば、
今夜のスタンディングオベーションはもっと人数が増えたはず。
もうじっとしていられないほど、お尻がむずむずするほどだったのだから。

リリカルで瑞々しくて、そして何と外連味のなさよ。
時に悪魔にでも魅入られたかのような激しさと、そして破綻すれすれを行く大胆さと。
理屈抜きに、ありがとう!を全身で表現したくなった夜もそうは無い。
また追いかけたくなった演奏家と出会えた夜に感謝しつつ、
確かにその場に居合わせたことの幸運を噛みしめつつ、
次回、彼の演奏を聴く機会を心待ちにすることにしよう。


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