ラジオの時間 | 2023.10.15 Sunday |
子供の頃に買ってもらったラジカセがある。
オルガンを習い始めていて、音楽を聴くことが一番の上達方法です、
と講師の方から進言があったからだ。
ラジオは父のトランジスタラジオを借りてよく聞いていたが、
野球中継の時間はそれ専用になるので、
いつかは自分のラジオが欲しいと小さいながらに願っていたから、
そのラジカセが届いた日は、どれだけ嬉しかったって、表現のしようがない。
そのラジカセはわたしの手元でずっと現役であり続けたが、
最初にダメになったのがカセットテープの再生機能で、
メーカーに修理を相談した際にも、
如何せん時間が経ちすぎていて難しいとの回答。
そうこうしているうちに、ラジオの再生音にもノイズが乗るようになり、
音量調整も効かなくなってしまった。
ただの飾りであっても、ずっとそばにあったものなので、今更処分なんてできない。
外観の清掃がラジカセに触れる唯一の楽しみになってしまって何年経っただろう。
ある時、ネットフリマに同じ機種が出ているのを見つけた。
なんでも出品者が自ら修理を施し、カセット再生も問題ないとの触れ込みだった。
おりしもラジカセブーム、似たような機種が随分とあちこちに出品されるようになり、
もっともその大半は現状渡しという条件であったが、
うちのラジカセと同じ機種が出ているのを見つけては、買うか買わまいか、
と悩んでいるうちに売れてしまった。
そんなことを繰り返すうちに、修理の過程を記事にされている方を見つけ、
ダメもとで連絡をとってみたところ、わたしのラジカセの修理を引き受けてくださるという。
その方も出品されたりしていたが、思い入れのあるものなら直した方がいいのでは、
破損や故障が酷いとできることも限られるが、との提案だった。
またとない機会、一度もお会いしたことのない方に手元のラジカセをお送りしたところ、
無事にというか、見事に修理され、美しい状態になって戻ってきた。
ただ直ってきたというよりは、
もしかしたら持ち主以上の愛情をもって手当されてきた感じだ。
このラジカセで聴けるようになってからというもの、
毎日の多くがラジオの時間となった。
レコード再生と違って、ラジオはほんの隙間時間でも構わないし、
手間いらずなので、出がけの慌ただしい時でも大丈夫。
なんなら定時に天気予報も流れるので、ネットをいちいち確認不要となった。
音質は、お世辞にもhifiとは言えないが、押し付けがましさのない心地よい音だ。
今後、デジタル化の波に飲み込まれ、こうしてアンテナで受信して聴ける番組は
ひょっとしたらどんどん減っていってしまうのかもしれない。
或いはradikoのように便利で安定して聴けるものもある。
それでも、自分が生きているうちは、普通にこうして聴ける番組があったら、と思うのだ。
ラジオで聴くことの楽しみをなんと言えばいいのか、もどかしいほど言葉にならない。
わたし自身、古いラジカセをようやく直してもらったところだから、
偉そうなことは言えないが、
取り戻して改めて痛感するその良さということなんだろうか。
なんにせよ、日々に新しい楽しみが追加され、何よりだ。
偶々ダイヤルを合わせていた局の放送で、思わぬ音楽との出会いにも期待したい。