音の快楽的日常

音、音楽と徒然の日々
1987

雪が降る降ると言いながらわたしの住まいの近くはほとんど降らなかった。

その代わり、空気が氷のように冷たく、鉢植えに水を遣っても凍ってしまいそうだった。

張り詰めたような冷たさは一体いつ以来のことだろう。

 

iMacのおまけアプリに「写真」というのがあって、連休中に少し遊んでみた。

普段はもう一つ古い世代のiPhotoというソフトで写真を整理しているが、

「写真」には新しい機能がたくさんあって、それがなかなか面白かった。

例えば、メモリー。過去の写真を日単位でアトランダムに見せてくれる。

今日は寒い日だからというのではないけれど、5年前の大雪の日の写真が次々と目の前に現れた。

以前の広いマンションに住んでいた頃で、ベランダの欄干にもしっかりと雪が積もり、

氷の粒というか雪の結晶というか、あの雪印の形がマクロレンズを通してうっすら見えるほどで、

いやもう雪が苦手な人種には部屋に引きこもるしかない天気だったけれど、

当時のマンションは寒くて暑いというあまりよろしくない建てつけで、今の部屋よりずっと寒かった。

 

最上階の部屋は雪でも降ろうものならまるで冷蔵庫状態で、これなら本物の冷蔵庫も不要と思えるほどだった。

その教訓が生かされた今の部屋では、外気が氷点下でなければ、暖房もそう必要と感じない。

それでもこの連休の週末は久々に部屋の中の空気が冷たく、

どうやっても咳き込みが止まらないので、おとなしく部屋に籠ることとなった。

 

映画小僧にはもってこいの季節、積ん読ならぬ未視聴盤を端から見ていても、

映画館でも見た「1987、ある闘いの真実」が改めてすごい1本だと思わざるを得なかった。

 

 

 

 

演技力に定評ある俳優が何人も出ている豪華版ということで映画館でも初日に乗り込んだが、

最近とみに涙腺の緩いわたしにはもう一度、映画館に見にいくのがしんどかったので、

このブルーレイが出るのを待つこと数ヶ月、週末に届いたので早速というわけで。

 

本作の背景となっているのは、以前紹介した「タクシー運転手」の光州事変の数年後、

ある学生の死をきっかけに民主化運動のうねりが頂点に達した時代。

光州事変の記録フィルムを学生サークルのオルグで流す様子などは、

実際にあの「タクシー運転手」に登場する外国人ジャーナリストが撮った映像を使っているとはいえ、

若い人々の葛藤が生々しく見て取れる。

闘って勝ち取るという歴史体験の有無は、隣国でありながら様相を異にするこの国に

ひょっとしたら足りないものの一つかも知れないと思いながら、

多くの登場人物の人となりが丁寧に織り込まれ、表現されていて、

単なる告発ものや歴史ものでもない、さりとてサスペンスでもない独特の重厚さとなって、

観るものの胸に迫り問う。

 

主だった登場人物の誰の視点で見るかによって、物語に感じる展開や流れも変わるだろう。

2時間強の作品が、釘付けにされたままあっという間に終わり、

間を置かずしてもう一度見たいと思わせる根源は一体なんだろう。

観る者にいろいろな問いかけがなされているが、答えは必ずしも一つではない。

また正しいか正しくないかではなく、答えは自らが見出すべきものだと、出してこそだと。

 

もう1本、発売されたばかりのディスクで見た作品があるが、

こちらも同じ韓国作品とはいえ、観る者に余りに重く、暗い影を落とす。

なので、ここでは紹介しないが、両国の関係が様々な場面で冷え切っているとはいえ、

ここ数年の韓国映画は、詳しい人からすれば勢いが落ちたということらしいのだけれども、

映画好きなら見て損はないと、そっとつぶやいておきたい。

 

ちなみに本作のサントラ盤はどうやら出ていない様子。

「タクシー運転手」と違い、音楽的な要素はかなり少ないので仕方ないのかも。

劇中、登場人物が手にするポータブルカセットプレーヤーが何とも懐かしく、

そういえば、87年といえばわたしもまだ通学時にウォークマンを手放せなかった。

当時のわたしにはペレストロイカとベルリンの壁が最大の関心事で、

海を隔てた隣国でまるで内戦のような事件が起こっていたことにほとんど関心を持っていなかった。

恥ずかしいというにはあまりに簡単すぎてことばが見つからないが、

今こうして映像を前にして、今だからこそ考えるべきことが山ほどある、

その感触をずっと忘れずにいられるよう、ここに備忘のためメモしておくことにしよう。

 

 

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