音の快楽的日常

音、音楽と徒然の日々
還暦リサイタル

待ちに待ったIvo Pogorelich リサイタル、12月8日のサントリーホールへ。

今年のイルミネーションはかなり控えめで、去年のゴージャスな飾り付けは一体どこへ。

暖冬といいつつこの週末はぐっと冷え込み、いつものこのコンサートらしい季節に。

 

 

 

 

演奏曲は休憩を挟んで3曲。

モーツァルトのアダージョ ロ短調 K.540、リストのピアノソナタ ロ短調、

そしてシューマンの交響的練習曲 op.13(遺作変奏付き)。

 

しかし、驚いたのは演奏に入る前のリハビリのような開演前の演奏シーン。

いつもはモノクロのグラデーションのようなカデンツァの連なりで、

気持ちの高ぶりを抑えているのか、或いは見えない誰かと会話しているのか、

そんな不思議な響きに迎えられて着席するのだけれど、

今日は明るい音で、軽く息を整えるかのような指運びで拍子抜けするほど。

もうやるべき準備は全て済ませているのだからと万全の空気が伝わってくる。

 

照明が抑え気味になり、ステージに現れた彼は見た目にはいつもの彼だけれど、

その第一声?、第一音の響きがなんとも言えない芯の強さと輝きで、

今夜は特別な時間になると否が応でも確信した瞬間。

 

一音、一音のたしかさ。

演奏家がホールの空気全てを掌握しているかのよう。

自信というのとはまた違う、文字通り確信に満ち満ちた、

これしかないという淀みない流れにただうなづくしかなかった。

 

リストのロ短調は来日公演でも何度か聴く機会があったけれども、

今夜ほど、「到達点」を感じた演奏もなかったと。

感情の爆発でもなく、壮大な実験でもなく、過不足なくこれで良いと納得に満ちた演奏。

これが録音されていたらなあとは贅沢な話で、

いや、たった一度しか聴けないのだから、ものすごく贅沢な話であって。

 

しかし、今日ほど驚いたこともないなと思ったのは、恒例のファンサービス、

終演後のサイン会でのこと。

そこにいた彼は、街中ですれ違っても偉大なピアニストとは思わないだろう、

ふつうの、年代なりの、語弊を恐れずに言えばただのおじさんだった。

にこやかに、大量の列を裁くのに神経質なスタッフを余所目にファンの歓談に応じ、

低い声でゆっくりと話す様子は、

先ほどまでのあの興奮に包まれた空気を作り出した人とはとても思えない(笑)。

常人では行き着きようもない頂を極める人というのは、

きっとon offがきっちり効くのだろうけれど、これまた拍子抜けするほどであった。

 

今夜の演目。

モーツァルトははっきりいって苦手なのだけれども、K.540はとても好きな曲になった。

いい加減なものだと思うが、素晴らしい演奏が新しい扉を開いてくれる。

 

  「真に人々を啓発する音楽は、永遠に異なった解釈を歓迎し、

 無尽蔵の宝の山に人々を誘う。」 ー  Ivo Pogorelich.

 

次の来日は2020年2月とのこと。

1年以上先だけれども、また公演に行けるのを楽しみに日々働くとしよう。

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