音の快楽的日常

音、音楽と徒然の日々
晩秋を感じつつ / Донна Осень / ВОСТОК
通りを行く人々の服装を見ると、ああ、もうすぐ冬だなあと思う。
女性にはアーミー風のジャケットが流行っているのか、
カーキ色をまとって颯爽と歩く姿をよく見かける。
私はまだ薄いジャケットで通しているが、そろそろコートも用意した方がいい。
やはり今週末は衣替え。

毎晩、旅先での写真を眺めて過ごしている。
整理しきれていないが、プリトビッツェ国立公園の紅葉は本当にすばらしい。
今回持って行ったレンズは、
これまでの古い設計のものと比べて黄色が実に鮮やかに写し取られている。

私は京セラCONTAXファンだが、
重くて高いレンズから、安くて軽いシステムに乗り換えての初のまとめ撮りだったために、
正直プリントを見るまで大した期待はしていなかった。
事前の試写では随分と冷調に上がっていたのだが、
良い方に裏切られると感動はより大きくなるから、
人間というものは実に都合良く出来ている。

今日のBGMはヴァストークのドンナ・オーセニ。
モスクワではもうとっくに黄金の秋は過ぎ去ってしまっているが、
去り行く秋に思いを込めてこの曲を選んだ。
ちなみに、このアルバムからオリジナルのメンバーから
なぜかアジア人メンバーにそっくり入れ替えられている。
どういう事情か知らないが、レーベルがそういう売り方をしたのだとしたら、随分だなと思う。

私はオリジナルメンバーのヴァストークファンなので、
このアルバムでは、表題の1曲以外はほとんど聴かない。
ただ、この曲はモスクワでもヒットし、よく ラジオでも流れた。
新ヴァストークはこの後ぱっとしない。
旧メンバーもザ―パド(西)とネーミングまで対抗してアルバムを出したが、いま一つ。
新人のプロ デュースなどに軸足を移しているようなので、非常に残念だ。
pop & rock (russian and other slavic) | - | - | author : miss key
時代屋の女房 / Love / Till Bronner
疲れて部屋に戻ってくると、特に何という訳もなく古い映画を観たくなる。
消音モードで薄暗い部屋に流れる映像。
部屋の脇に積んである録画ビデオを適当に抜いたら、今日は「時代屋の女房」だった。

この映画はある古道具屋が舞台になっているが、
出演している夏目雅子、脇で光る沖田浩之は既に故人であり、
モデルとなった実在の店も今はもうない。

さすがに無音では部屋が寂しく、ティル・ブレナーのメジャーデビュー盤loveをかける。
ミュートの加減がなんとも心地よく、フリューゲルホーンの音色に眠りを 誘われそうだ。
ティルは、歌も歌うのでチェット・ベイカーの後継のように言われたりもするが、
キャラクターは全く異なる。
確かにティルの音楽は優しく美しいが、
チェットのように陰影に富んだ音楽とは本質的に根が違うと私は思う。

「時代屋の女房」は随分ヒットして、確か’2’は古屋一行主演で製作されたが、
ちょうどそのニ作はチェットとティルの関係に似ているような気がする。
どちらがより素晴らしいというのではない、
底に流れるものが違っているのだ。

時代屋の女房で見せる夏目雅子さんの演技は眩しさの中に儚さが見え隠れして胸を締め付ける。
彼女のその後の不幸を知っているからそう見えてしまうのか。

この作品の路線を引き継いでいるように見えるのが、同じ作家の原作による「泪橋」。
やはり主演は渡瀬恒彦だが、映画としては こちらの方が私の好みにあっている。
続けて見ようと思うが、テープが出てこない。
積み上がったビデオの山はそろそろ崩壊の危機を迎えている。
次の連休には何とかしなければ。
大量のソフト管理を上手にやられている方がいたらぜひご提言いただけないかと請う今日この頃である。
others (music) | - | - | author : miss key
秋は秋刀魚 / 'Ko je kriv / Boris Novkovic
仕事帰りにいつものスーパーに立ち寄ると、
「さかな、さかな、さかなー、さかなーをーたべーるとー」といつもの音楽が 鳴っている。
魚売場でいつもこの曲がかかっているために、私はすっかりパブロフの犬状態だ。
海外でも魚料理は出されたが、やはり日本の魚は旨い。
秋は秋刀魚、ということで、今夜は秋刀魚に決めた。

海外に出るといつも思うことだが、
四季のはっきりしている日本は、それだけ食べ物のバリエーションも豊富だ。
一夏かけて作ったじゃがいもを冬のあいだずっと食べ続けるというような一本調子な食卓は、
やはり日本人にはキツイだろうなあと思いながら、毎回付け合わせのポテトをせっせと口に運んだ。
それに、油物の苦手な私には、オリーブ油の料理は少々重い。
食傷気味で帰ってきたせいか、音楽まで軽くサラッとしたものばかりかけている。

ボリス・ ノヴコビッチは、クロアチアの人気シンガー。
'Ko je krivは彼の最新盤だ。
ちょっと古いベスト盤も合わせてゲットしてきたが、
フォークから軽いロックまでレパートリーは広く、ファン層も広そうな感じだ。
これといって特に癖のない歌い方で、押し付けがましさが全くない。

ここで紹介するアーティストはどちらかと言えば好き嫌いの分かれるキャラクターが多 いが、
彼はむしろ万人受けするタイプだろう。
このアルバムにもクロアチアン・フォークロア風からいかにも歌謡曲といったものまで
バラエティに富んだ選曲。
クロアチアの男性ポップスをまず1枚といった感じで安心してお勧めできるアルバムである。
pop & rock (russian and other slavic) | - | - | author : miss key
運の有る無し / Let's go insane / LINDA LEEN
ロシアンフリークの友人が先日モスクワから帰国した。
チェチェン武装集団の襲撃を受けた劇場も彼の観劇の選択肢に入っていたとかで、
危機一髪を免れての帰国だった。

当人は複雑な心境だと洩しているが、周囲にしたら、不幸中の幸い、
本当に運が良くて良かったと胸をなでおろす。
運の良し悪し。運の有る無し。
運というのは、実はどういうものなのか分からないけれど、
人は見えない糸に操られているかのように感じながらも、
不幸を免れることを「自分は運が良かった」と思ったりする。

パリから成田へ向かう飛行機で隣り合わせた年輩の男性は
「私は強運の持ち主だから、私と同乗していれば絶対安全だ」と語りはじめた。
なんでも第二次世界大戦で出兵した折も、寸でのところで銃弾を免れたり、
海外旅行先でも何度も災禍を避けて通ってきたのだという。

単なる偶然も、数多く重なればその人に「強運がある」と思わせるのか、
あるいは何か第六感でもって感じるものがあるのだろうか。
そして、世の中にもしも、運の良い人と悪い 人がいるとしたら・・・
このことを指して果たして運命と呼ぶのかもしれない。

何の足しにもならないへ理屈をこねる私も、
帰国早々、大丈夫だったか、良かった、と何度も声をかけられた。
ロシアにばかり出かける私であるので、
今回の旅行もモスクワを経由しているのだと思い込んでのことだ。
心配していただいて本当に有り難いと同時に、
人生なんてそういうもんじゃないか、と心の中で呟いてみたりもする。
秋は何でもないことまで懐疑的にさせるから いたずらな季節だと思う。

頭の中を切り替えて、写真の整理をしよう。
リンダ・リーンはラトビアの歌姫。
ヨーロッパでのメジャーリリースのため、全曲英語で歌われている。
クラブ系を意識した軽いアレンジだが、艶のある声がよく伸びて気持ち良い。
もちろんルックスもキュートな彼女。
聴きながら思わずステップを踏んでしまいそうなノリの良さ。
おかげでカオスになった私の頭もすっきり、眠気覚ましにもバッチリの1枚である。
pop & rock (russian and other slavic) | - | - | author : miss key
惰眠の日曜 / Zastave / Parni Valjak
目が覚めたのが11時半を過ぎた昼時。
旅行の後片付けをしようと思っていたが、陽はすっかり高くなっていて、
今から洗濯しても乾きそうにない。

まあいいか、と思いつつ、旅先で撮ったネガをプリントに出しに行く。
ここのところ、量販店やコンビニの簡単DPEで間に合わせていたが、
ちょっとしたトラブルもあり、値段が安いだけに仕方ないかと思いつつ、
今回は、かなり前に出したことのある有楽町のラボに持って行くことにした。
この店はCD-Rも混んでさえいなければ即日でOKなので、
早く上がりを見たいときには便利であり、
コントラスト強めのプリントで上がってくるので私の好みにも合っている。

夕べから、ここで紹介しようと思っていたクロアチアのミュージシャンの音源などをネットで探していた。
クロアチアのサイトは.jpにあたる部分に.hrと 記されている。
これは、地元ではクロアチアという名称よりも、
フルバツカと呼ばれるのが一般的であるからで、その頭文字からHRとなっている。
理由は分からないが、ハンガリーが国内ではマジャールと言われているのと同様かと勝手に解釈している。
フルバツカ、とてもいい響きだ。

早速、旧ユーゴ時代からの人気ロックバンド、パルニ・ヴァリャークを取り上げる。
結成されて既に25年以上、アルバムもスタジオ録音に加え多くのライブ盤をリリースしている。
私が旅先で購入したのは最近の3枚で、ザスタヴェ(旗)はスタジオ録音では最新盤になる。

パルニ・ヴァリャークはボーカルのAKI Rahimovskiほか7人編成。
曲の多くをギターのHUSEIN Hasanefendiが書いている。
私の手元にはまだ簡単な辞書しかないために、歌詞の聴きどころまでは紹介できないが、
難しい内容を歌うというよりは、
むしろ誰にでも分かりやすい言葉でメッセージを伝えようとするような感じだ。
このアルバムでは、1曲目のDOSTA(十分に、の意)と5曲目の ROMANSA、
そして続く6曲目のMALA LAZ(少しの嘘)がお勧めだ。
エネルギッシュでセクシーなボーカルはもちろん、ノスタルジックなキーボードが気持ちいい。

サウンドは全体に、決して「新しく」はない。
しかし、しっかりと刻まれるリズムにゆったりと乗せられる演奏とボーカルはロックはちょっと、
という方にもぜひ聴いてもらいたい。
どちらかというと、スタジオ録音よりはライブでよりこのバンドの良さが発揮されるような感じで、
ザグレブのミュージックショップの店員さんはライブがお勧めだ、と言っていた。

ネットでは、パルニのオフィシャルサイトでザスタヴェの全曲と最新曲をダイジェストで聴くことができる。
もちろん、バンドのディスコグラフィやその他情報も盛り沢山なので、
ぜひサイトを覗いてもらいたい。

Parni Valjak Official Site http://www.parni-valjak.com/
pop & rock (russian and other slavic) | - | - | author : miss key
「社会復帰」の憂鬱 / Эмигрант / Green Grey
季節はもう冬かと思わせる冷たい雨の土曜。
昨日、久々の海外旅行から無事帰国したが、
モスクワのチェチェン武装勢力による劇場占拠や国内の議員刺殺事件と、
成田に到着早々、目を覆いたくなるような見出しが飛び込んできた。
たった2週間弱の留守の間にどんどんと起こる出来事に、頭がまだ付いて行けていな い。
 
時差ボケもそこそこ、昨日は溜まった仕事もとりあえず片付けて、
落ち着いたのが今日の午後。

憂鬱、と書いたのは他でもない。
旅の余韻に浸りきって、おそろしくゆったりとした「地中海時間」から抜け出られないならまだしも、
今回の旅では、パリからの乗り継ぎ便の中で既に私はオフィスで何と何をし、
誰に電話をするかを頭の中で整理し始めていたのだった。
それも無意識に。

いつもなら、旅モードが抜けるのに2週間はかかるのに、
旅慣れてきたせいなのか防衛本能なのか(苦笑)。
ツアーコンダクターの方の「既に現実に戻っていますね」の一言が痛烈だった。

自分も知らない間にどっぷりとサラリーマンしている自分が本当に嫌になるが、
今回のスロベニア・クロアチア紀行では、時間の使い方を心底考えさせられた。
お世話になった現地ガイドの男性は、セルビア との内戦で40か所を手術する大怪我をしながら、
「私にはお金はないが、人生を満喫しています」とあっさりと言い放っていた。
人生を楽しむ―言うは容易い が、実践するには難しさがある。
現実の柵の中で抗う自分に、そっと声をかけてやりたくなった。

今日のようにダルくて外にも出る気がしない日にはピッタリはまるグリーン・グレイのエミグラント。
重めのギターとエフェクトの効いたサウンドと、
癖のあるボーカルが絶妙に綯い交ぜになって頭に響く。
2曲目のエミグラントと8曲目のCOH(ソン)がお勧めだ。
pop & rock (russian and other slavic) | - | - | author : miss key
日本語が聞き取りにくい症候群 / I can see forever / Harry Allen
成田に降り立った瞬間、醤油の香りがした。
否、実際にはどこにも醤油なんかこぼれてもいなかったと思うが、
オリーブ油の国をまわっていたので、なれ親しんでいるはずの醤油の香りに敏感になっているのか。
土地にはその匂いがあるというが本当かもしれない。

荷物を無事受け取って税関に進む。
私は荷物を開けられることが多い。
なぜならロシア東欧方面に出かけた跡がパスポートにたくさん残っているからだ。
開けられても中は着替えとチョコレートとCDくらいのもので、
相手は「何もないなあ」と少々脱力するようである。
今回は買い付けた(笑)CDもわずか20枚であるから、大したことはない。

住んでいるマンションは私鉄一本で成田から帰れるため、大きな荷物も大丈夫で大助かりだ。
しかし、日本語がスムーズに聞き取れない。
ざわざわと雑音のようで、相対していると大丈夫だが、
通常なら耳に入ってくるような脇の会話でも聞き耳を立てなければならない。
向こうの言語を聞き取ろうとする耳にどうやらチューニングされているようで、
これは意識してできるものでもなく、ある時間を過ごすと体が自然に順応するのだと思う。

母語と異なるからといって、分からないからと言って異なる言語を拒否してはだめだ。
聞き取ろうとすると体が自然にそういう耳を作る。
そのことが、いろいろ旅してみて分かった。

私には英語が難しくて、ロシア語は親しみやすいというのは、
おそらくは暇があればロシアンポップスを聴いているので
耳がそういう耳になっているのだと思う。
では、英語ももっと耳から流せば今より親しめるようになるだろうか。

チョコレートを携えてオフィス に出勤する。
長く席を空けたため、事務をやっつけておかなくてはと思う。
クロアチアに出かけるということをあまり周囲に話していなかったため、
戦争している最中に行ったのかと勘違いする人まで居て、
やはりクロアチアはまだまだ「遠い」国なのだと痛感する。

ようやく家に戻り、長風呂する。
後ろに流したのはハリー・アレンのボサノバ集。
彼はスタン・ゲッツの後継者とも言われる、音色を大切にした演奏で評判のテナーマンだ。
このアルバムには、 大好きな黒いオルフェが入っていて、
ふーっと溜め息をしたくなるような夜によくかける。

確かに遠い国クロアチアは、私にとってはロシア についで最も身近な国になった。
またこの旅は素晴らしい案内人やツアーコンダクターに恵まれ、
忘れられない思い出の多いものとなった。
人生には限りがある。
人とコミュニケーションすることの楽しさを心から堪能した旅。
時を有意義に過ごすという宿題をくれたガイド氏に心から感謝したいと思う。
others (music) | - | - | author : miss key
スロベニア・クロアチア紀行―その10―ダルメシアンをゲットする
朝4時に起きて空港へ向かう。
昨日で最後ということで一旦お別れをしたズラティコさんというドライバーがバスを回してくれた。
笑顔の似合う大柄の男性で、口数は少ないが楽しい男性だ。

乗り継ぎは時間ギリギリの余裕のない状態で、どこかで遅れればザグレブで延泊となる。
ガスっていて飛ばないこともあると聞いていたので、
これまた日程に余裕のない私は内心焦っていたが、フライトは順調であった。
しかし、空港でどうしても買いたいものがあった。
それはダルメシアンのぬいぐるみだ。

ダルメシアンは「101匹ワンちゃん」でもよく知られている犬だが、
この名はダルマチアに由来する。
しかし、街中でダルメシアンを見かけたことはついぞ一度もなく、
聞けば非常に高額で、地元でも数は少ないのだそうだ。
しかし、地元の土産物として、ザグレブ空港の免税店にかわいいぬいぐるみがあると聞いていて、
どうしてもそれが欲しかった。
乗り継ぎに10分ほど余裕がでて、その間に探して、なんとか見つけた。
ク―ナでは足らず、ドルで買えなければ諦めなければならなかった
(カード払いはなぜか時間がかかるのでムリ)。
ドルで払えるようお店の方に頼んだら、おつりがないということで、わずか50セントの釣り銭だが、
どこの通貨か分からないような小銭をひとにぎり渡された。

こうなるとお約束のユニセフ募金だが、いつもは目に付く小さなドームを見つける余裕がないほど、
乗り継ぎのド・ゴール空港でも時間がなかった。
何しろ、多くを手荷物にしたため、早い目に飛行機に乗り込まなければならなかった。

無事ゲットしたダルメシアンを抱いて成田へ向かう便の中で眠りに眠った。
たいして疲れることのなかった旅だったが、それでもやはり体は疲れているようだ。

帰ってからの写真の整理などを考えると先が思いやられるが、
思った以上に何倍も素晴らしかったクロアチア。
旅先をどこにしようか考えている方にはぜひ選択肢にいれるよう、強く強くお勧めして、
この拙い旅行記を締めくくることにする。
よもやま | - | - | author : miss key
スロベニア・クロアチア紀行―その9―猫の出迎える街ドブロブニク
旧市街は大きな壁に囲まれており、賽の目に細い通りが何本もある。
海辺の平らな土地は少ないから、途中から急な石段の坂道になり、
幾重にも建物が重なるように映る。
壁からにょきっと突き出た店の看板や灯がお洒落で楽しい。
でも、この街には日本人客が多いらしく、日本語でレストランの案内をする人も多い。
旅先で日本語で話し掛けられるほど拍子抜けするものはないのだが。

今回スルーでお世話になったガイドの方に、貴方は一体何ヶ国語使えるのかと聞いたら、
「大したことはない、言葉は自国語がきちんと使えればそれでいいのであって
(英語ができなくても)卑下することはない」という答えが返ってきた。
しかし、いろんな言葉が使えることは素晴らしいことだと思うし、
やはり国際的に共通語として通用する英語は堪能であるに越したことはない。

もちろん流暢な英語でなくとも気持ちが通じたりするのはいろんな場面で経験していることだが、
私自身 はあまりにも英語を嫌って勉強してこなかったこともあって、
やはり使えるようになるべきだと海より深く反省した。
もちろんこのことは、ヘタクソなロシア語であっても、
ロシア語を使うということが、
相手にとって自分を理解しようとしている人だという姿勢を理解してもらえる大きなきっかけとなるという自分の経験にも則している。
固くなった頭に語学は辛いものがあるが、根気強く取り組んでみようと思う。

面白いのは、この街には至る所に猫がたむろしていて、街の飾りのように見えることだ。
猫達は見知らぬ私たちにもウエルカムであり、時には馴れ馴れしい。
東京の書店でよく見かける本に、
エーゲ海に面した白い街に猫というような写真集があったりするが、それによく似ている。
特別な猫ではなくて、東京にもたくさんいるような感じの猫だ。

小さな街を半日も歩くとだいたい歩き尽くしてしまうので、
午後はロクロム島という小さな島へのクルージングに参加した。
クルージングといっても15人ほどしか乗れないような小船だ。
城壁を海から眺め、島に渡る。

海はかなり波高く、小さな船では厳しかったが、その分楽しめた。
ロクロムにも猫達がいて、それが どうやら2家族ほどいるらしい。
人間が二家族住んでいるという話だったが、猫のことだったか。

なぜ2家族かというと、柄が似ているグループが2ついたのだ。
茶系と、あと白地に黒のパンダ柄のグループ。
互いに縄張りがあるようだが、
港に着いてからまた帰るまで猫は私たちの後をずっと付いてまわった。
そろそろオフシーズンに近付いている。
島に渡る人の数も減り、寂しかったのか、あるいは餌にありつけなくなっているのか。
毛づやもよく健康そうな猫達だったが、
置いて行くのがちょっとかわいそうに思えるくらい、客あしらいの良い猫達だった。

帰りの船中、船長が何やら話している。
どうやら岬に見える大きな豪華帆船から誰か乗り移ってくるらしい。
どう考えてもアリと象ほど大きさが違うのにどうやって寄せるのか。
その操船のテクニックの素晴らしさ は、ちょっと表現するのに言葉が足りないけれども、
ある程度の距離に詰めた後、帆船の方がテールを振るような形で少しずつ船体を寄せるのだ。
そして目いっぱい寄ったと思われたそのときに、
ドアが開かれて縄梯子で一人の男性がこちらの船に乗り移った。
波高いと書いたが、相当揺れている状態である。
思わず両船の客から拍手が漏れる。
一体何者かと思いきや、地元の水先案内人で、
件の帆船はシチリアからこの岬を通ってギリシャに抜けるのだそうである。
いやこれまたハプニングに沸き立ち、小船は揺れに揺れた。

最後の夜は、早い目に風呂を済ませて(何と、オーシャンビューの風呂である)
暗くなってから街に繰り出した。
夕食は簡単に済ませ、カフェでゆっくりとビールを飲んだ。
ちょうど街の広場でクラシックのコンサートがあり、大勢の人で賑わってい た。
地元のオーケストラのようで、服装も平服であり、気軽に楽しめた。
こんな遅い時間まで気にせず楽しめる治安の良さは特筆すべきだろう。

これはクロアチア全体に言えることのようだが、
これほど一人歩きが気楽にできる外国の街を私は他に知らない。

明日は早朝からホテルを発って空港に向かう。
またぜひ来ようという気持ちを込めて、いつもは使い切ってしまう現地通貨を手元に残した。
いつ来れるだろう。それは自分次第、ロシアと同様、近いうちに禁断症状に苛まれるに違いない。
辛いように思えるかもしれないが、それはとてもうれしいことだ。
なぜなら、それだけ訪ねた街や人々が素晴らしかったという証拠に違いないのだから。
よもやま | - | - | author : miss key
スロベニア・クロアチア紀行―その8―不思議な泉のある街-スプリット
ローマ時代から港町として栄えたというスプリットは、歩いて観光できるくらいの小さな街だ。
早朝から魚市場には小魚を中心に様々な種類の魚介が並び、活気に溢れている。
しかし、さばくのは包丁ではなく、大きな料理バサミ。
大きな魚も空いた手で持ち上げながら、このハサミで バチンバチンと勢い良くさばく。
氷で冷やして鮮度を維持するというやり方はされておらず、なんでも塩漬けが基本のようだ。
生で食すということが少ないせいか、日本ほど鮮度にはうるさくない。

港のすぐ傍にローマ皇帝が建てた宮殿があり、旧市街はその城壁に囲まれている。
もっとも、宮殿の多くは発掘され、修復されて今の形にまで姿を現わしているようで、
中は一部博物館のようにところどころ解説され、見学できるようになっている。

しかし驚くのが、この地方の人々の寛容さというか大雑把というか。
大切に保存されている遺跡のはずなのに、平気でその上に腰掛けたり触ったりしている。
石で作られたそれらは、普通は破損や磨耗を避けるために大抵は触れないはずだが、
大切にはしても特別扱いしないというか、
やはりここでも古いものと新しい今 のものが同居しているのだ。

海に面した通りは多くのカフェが並んでおり、
美味しいカプチーノを飲みながらのんびりすごすことができる。
私はあるカフェで日本通の地元男性から声をかけられ、
お勧めのまま巻菓子とカプチーノをとった。
チップも入れて200円弱と、地元の人にとっては贅沢な価格だが、これで2時間はゆっくり過ごせる。
だいたい、注文して届くまでにかなり時間がかかる。でも急かさない。
ゆっくりした過ごし方がここの流儀で、やはりその土地のルールによった方が何でも楽しめる。

ガイドの男性は「日本人は働くために生きており、私たちは生きるために働いている」
と言った。言い得て 妙、痛烈な一言だ。

カフェで転寝をした後、バスで最後の訪問地、ドブロブニクへ向かう。
途中、飛び地になっているために、ボスニア領を通るのだが、
このわずか7kmほどの道沿いにたくさんのスーパーマーケットがある。
クロアチア国内はなんと22%もの消費税がかかるため、
(どうやら食品類は税がかからないか低いものらしい)
物価は収入に比して非常に高くなるが、
ボスニア領では無税で買物できるため、同じものなら半額以下で買えるものも少なくない。

ここではチョコレートとコーヒー豆がお勧めで、
私もお土産にたくさんのチョコレートを買ったが日本円で2000円にも満たなかった。
安い!
その証拠というわけでもないが、ガイドさんやバスの運転手の方もチーズなどを買い込んでいた。
やっぱり物は安く買えるに越したことはない。
従って、この辺りはクロアチア方面からの買い出し客が多く、越境もごく簡単なものだ。
何しろ道1本しかないのだが、期せずして私もボスニアの地を踏むことになった。
街の名前はネウムという。

ライトアップで浮き上がる城塞の街、ドブロブニク。
バスは斜面を滑り降りるように街へと吸い込まれて行く。
旅もいよいよここで最後。
ラジオを聴くと、やはりダルマチアンミュージックのオンパレード。
街ごと世界遺産に指定され、長逗留するバックパッカーも多いという。

最後の街歩きに備え、早めに眠る。
今回宿泊したのはエクセルシオールという高級ホテルで、
少し前に紀宮嬢が宿泊し話題になったばかりのホテルだ。
貧乏旅行専門の私には似つかわしくないが、
今後一生こんなところに泊まることはないだろうと思うと、なかなか寝付けなかった。
こういううれしいハプニングがあったりするからツアーもなかなか捨てがたい。
とは言っても、次回はやっぱり一人の貧乏旅行になるのだけれど。
よもやま | - | - | author : miss key