音の快楽的日常

音、音楽と徒然の日々
人に力を与えること / Best / Григорий Лепс
 世の中には、まるで太陽の如く周囲に元気を与えることのできる人がいる。元気の無い時、「気」をもらいたくて、思わずそんな人に会いたくなる。

 最近、仕事がらみで思いっきりヘコむことがあったが、偶然、私の「太陽」人から期せずして連絡があり、久しぶりに会って話すことができた。何を話すでもない。ましてや、彼を相手に愚痴るわけでも無いが、このリフレッシュ感はなんだろう。

 今日のBGM、グリゴーリィ・レプスのベスト盤は、そんな気分にぴったりの1枚だ。ベスト盤とはいいながら、記念ライブからのピックアップになっている。十二分にリラックスした彼のボーカルが嫌と言うほど楽しめるご機嫌なアルバムだ。

 レプスの歌は、何故これほどまでに、聴く者にエネルギーを与えることができるのだろうか。彼のプロフィールは定かではないが、歌手としてのデビューは95 年頃と随分遅咲きだ。それまではレストランで働く一労働者に過ぎなかった。人一倍苦労人だったその彼が、何かをキッカケにモスクワで歌うことになった。きっとそれまでも歌の巧さは折り紙付きだったに違いない。

 オリジナルアルバムはこれまでに4枚、そして自主制作に近いようなアルバムやコンピレを入れるとおよそ7、8枚はリリースされている。彼は数年で一気にスターダムに伸し上がったが、それを驕ったりはしない。それどころか、これまで応援してくれた周囲の人々や運を与えてくれた神への感謝の気持ちを綴った曲が少なくない。その思いはストレートに、言葉に、声に表れる。そんな飾りっ気の無さと豊かな声量が相俟ってレプスの魅力を何倍にもしているのだ。

 冷えきった躯を暖めてくれる、とっておきのBGMとして、元気の足りない貴方にもぜひお勧めしたい1枚である。
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権利は誰のもの / Белым... / Николай Трубач
 音楽ファイルの交換が著作権侵害に当たると法的判断が下った旨の記事がヤフーのニュースに載っていた。私的に楽しむ目的で複製すること、例えばCDから MDにコピーしたりするのは法に触れないが、ではどの辺りまでのコピーが許されて、どこからが「アウト」なのか、ずばり答えるのは難しい。

 このサイトを作る以前から、私も著作権問題には関心があった。というのも、どんなに素晴らしいといってロシアンポップスを宣伝したところで、実際にその音楽を聴かないことには始まらない。時折頂く感想のメールでも、「音源をアップしてもらえませんか?」というのが結構ある。しかし、著作権に触れてしまうので、やりたくてもやれないのだ。アーティストの公式サイトで音源がダウンロードできるからということを理由に、個人のサイトで曲が聴けるようにしている方もいるが、音楽の場合は字面と違ってその品質も問題になるだろう。一概に公開されているから大丈夫とは行かない点もある。

 少し前に、ロシアンポップスのCDをどのように購入しているかを紹介したことがあった。ネット通販が簡単に利用できるとはいえ、やはり相手は遠い国の見えない相手であり、言語の問題もあってなかなか簡単にお買い物とはいかない部分もある。私自身も、注文してなかなか届かないCDに業を煮やし、直電して「早く送ってくれ!」とある店に催促した始末。おかげで昨夜から遅ればせの新譜を心行くまで堪能している。

 話がそれたが、要するに手に入れにくい事情のある音源を、ではどうやって気軽に紹介できるだろうか、というのが目下の課題である。知るきっかけがあれば、「裾野」は少しずつでも広がるだろう。ロシアンポップスへの関心が広がれば、きっと国内でも他の洋楽のように手に入る可能性も無くはない。とりあえずは、ほとんどのアイテムの視聴ができる RBCmp3辺りで、アーティスト名を頼りに手繰ってもらえたらと思う。なるべくロシア語のつづりで紹介しているのも、そういうことに使ってもらえたらという理由からだ。

 今日の1枚、ベールイムは、ウクライナのアーティスト、ニコライ・トゥルバチの久々のオリジナルアルバム。シングルヒットのヤー・スタボイをはじめ、捨て曲はない充実ぶり。ポップスでもちょい濃い系のエストラードナヤ、アレンジも肩のこらない自然さがいい。寡作なので紹介される機会も少ないトゥルバチだが、歌謡曲が好きな方には安心しておすすめできる。寒い夜、一人部屋にいてほっとできるBGMに一押しのアルバムである。
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またしてもオマケ商法に釣られる / SERVICE / YMO
 YMOの復刻盤が再度リリースされた。前回は、YMOのアナログ盤をすべて持っていることもあって見送った。しかし、今回は特典に特別編集本が付くということで、誘惑に負けてしまった。ファンの心理を逆手に取ったエグい商法だと腹が立つ一方で、例えば、「もうこういうのは止めにしたい、YMOはもういいよ」という細野さんの言葉が頭に思い浮かびつつも、ついオマケ商法に釣られる自分が哀しい。

 22日にリリースされたばかりの10枚は、すでに特典初回盤が完売しているものもあった。恐るべしYMO人気。シリーズのうち5枚買えば特典本はゲットできるので、とりあえずレコード盤でよく聴いていたアルバムを6枚買った。

 YMO のアルバムで最も気に入っているのが「マルチプライズ−増殖−」で、これはスネークマン・ショウとのコラボになっているのが魅力倍増の要因。否、私の最愛のミュージシャンの一人である細野晴臣さんの素晴らしいベースランを堪能できるのが、なんといってもこのアルバムをベストに押す所以である。

 今日のBGMは、敢えて増殖ではなく、別な1枚、散開記念アルバム「SERVIVE」を選んだ。スネークがスーパー・エキセントリック・シアターに替わって、独特の空気を放っているこのアルバムは、ザ・マッドマンやチャイニーズ・ウイスパーなど、ある時期の息苦しさから解放されたpopで、なおかつ原点回帰的なナンバーが収められている魅力の1枚だ。NHKでキャンペーンソングに選ばれたYou've Got To Help Yourselfは、伝えようとした思いが主催者にあまり理解されず残念だったと細野氏が何かで回顧されていたのを思い出す。私は単純に、YMOが日本放送協会の電波に乗ったこと自体に興奮を覚えたのだが。

 私にとってのYMOは間違いなく、記憶であり、現在進行形ではないのだろうが、改めてリマスタリングされた音源で聴いてみると、これがまた新鮮で、当時とは違う楽しさが明らかに見い出せる。アナログプレーヤーがなくて肝心のレコードも聴けず、かといってご都合商法に乗るのがしゃくでCD復刻盤を買わずにやせ我慢していた自分がちょっと恥ずかしい。素直に利用できる物は利用していこうと大いに反省した日曜であった。
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アメリカTV映画 / Лучшее1970-2000 / В.Рекшан и С.Петербург
 懐かしいTV番組の復活が最近相次いで発表された。「サンダーバード」や「ひょっこりひょうたん島」は、ライブで見たのと再放送で見た部分がごっちゃになっている、私はそういう世代なのだが、特にひょっこりの方は今から新シリーズが楽しみでならない。細かい話の筋は忘れてしまっているが、あのテーマ曲だけはまだ覚えている。

 TV 番組というと、私は国内の番組よりも、アメリカのTV映画のシリーズが大好きだ。もっともTVで決まった時間に見るのは大変なので、レンタルビデオや DVDで見ているのだが、例えば「ER」や「アリーmy Love」。登場人物もストーリーも、本当によく作り込まれていて、ついつい引き込まれてしまう。去年末に突然打ち切りになった「ダーク・エンジェル」も、とても面白かったと思う。しかし、視聴率はそんなに高くなかったようで、話の筋がおかしなところでちょん切れる形での打ち切りとなり、苦情も多く出たということだ。

 まだ小さい頃、私は「リン・ティン・ティン」や「ドクター・ケーシー」を、四つ足モノクロテレビにかじり付いて見ていた。小さな子供にも、見ていて分かるというのは、ストーリーがしっかりしているからだと思う。中高生の頃はまったのは、「スタートレック」(今で言うクラシックシリーズ)や「刑事スタスキー&ハッチ」、「600万ドルの男」。特に後者の2作品はDVDで復刻してもらえないだろうかと思ったりする。うーん、懐かしい。他にももっとあり、書ききれない。

 今から30年くらい前、というと音楽ではどうだったかな・・・思い起こせば当時の私にはまだ、ロシアンを聴くソースがモスクワ放送ぐらいしかなかったのだが、時折現代音楽の一部でロックも取り上げられるようになっていたと思う。そこで知ったバンドの一つがサンクトペテルブルク。2000年に彼等の結成30周年を記念してアルバムがリリースされた。それが今日のBGMだ。

 ベスト盤と銘打っているが、どうやら、記念ライブの収録のようだ。サンクトペテルブルクは10年くらい前に来日したこともあったと思うが、記憶が不確かで定かではない。私は彼等の録音を、天王洲のフリマで見つけたことがある。タイトルがグラスノスチとか何とかで、いくつかのバンドのオムニバスだった。正直、こんなところに、と驚いた。

 30年前というと、壁が落ちるずっと前の話であり、当時は大っぴらに流通させられない音楽はテープの形で人から人へ伝わり、広まった。バンドはたくさんあったと思うが、知るチャンスは、遠く離れた日本では難しかった時代だ。まさにメッセージ・ソング。サウンド的には私は歌謡曲系が好きなのだが、歌詞を聴いていると、未知の国ロシアの文化を理解するヒントが、そういうロックにはよりたくさんちりばめられていると思う。

 このアルバムでは、さすがに声量の落ちたウラジーミル・レクシャンであるが、独特の力強さと透明感が同居するボーカルに触れることができる。ロシアのこの30年間を単なる思い出と片付けることはできないが、生きて時代を歌い続けてきたバンドに心から敬意を払いたいと思う。まさにミレニアムの1枚である。
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いきなり銀世界 / Метелица / Валерия
 事務所に朝向かったときには何ともなかった天気が、出張の準備をしながら、ふと外に目をやると・・・何と、雪、雪、雪。窓から神田川を見ると、舞い散る雪が川面へと解けてゆく。確かに美しい、が、その日はある用件で、桜街道に向かわなくてはならなかった。立川からモノレールで少しの所だ。しかも、折よく(笑)、立川方面で大雪とのニュースが入ってきた。寒いのは得意でないのに加え、足下が滑る雪。いきなり気分は鬱になった。

 鉄道の遅れなどを避けるため、同行者に車を出してもらい、昼前に荻窪駅付近で拾ってもらうことになったのだが、それがまたいけなかった。時間に余裕がなく、待ち合わせ場所に慌てて向かったのだが、資料袋で両手が塞がっていた私は、凍った路面に足を取られ、思いっきり派手なコケ方をした。周りから人が集まる。「大丈夫ですか?」口々に声をかけて下さった。が、こけて痛いという以前にあまりの恥ずかしさで、「いえ、大丈夫ですから」と言うのが精いっぱい。

 あれだけ酷いコケ方をしたにもかかわらず、路面が凍っていたおかげで擦りむいたりはしなかった。が、打ち付けた膝は内出血で見る見るうちに真っ黒になり、しばらくはスカートなどとても履けそうにない様子である。しかし、見栄っ張りの私は、これから会う顧客に転けたことがバレないかどうかの方がよほど気になった。

 気持ちの余裕がだんだん出てきて、そろそろ到着という頃、車窓から見る景色はどんどんと白くなっていく。空模様は雪から雨に替わり、風が痛いほど冷たい。ああ、メテリーツァ、と思わず思い出したのがウ゛ァレーリヤの復帰後最初のシングルカットだ。

 このマキシシングル盤には、ビデオクリップや壁紙データがオマケで付いている。クリップの画像はちょっと粗くて、彼女の美しさを楽しむにはちょっと不満が残るが、それでもファンには貴重なクリップだと思う。この後の彼女の活躍は言うまでもないが、私にも、吹雪を味方につけて歌い飛ばすぐらいの元気が欲しいとつくづく思う。ズッコケてさらに鬱を増した私をすっかりリフレッシュさせてくれる、エネルギーの素の1枚。元気不足の貴方にもぜひおすすめしたい。
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去り行く季節 / Эрогенная зона / Чиж&Со
 とうとうヤスケンこと安原顕氏が逝ってしまった。正確には昨日のことであったようだ。私はこの訃報を昼のニュースで知り、ああ、とうとう・・・と事務所で仕事中にも拘らず、思わず呟いてしまった。乱読症の私にとって、数少ない羅針盤の一人であった氏の書評は、切れ味鋭く、巧い下手を通り越して芸の域に達していたと思う。

 氏の住まいのある上野桜木町は、私にとってもお気に入りの散歩道だ。日が延びたとはいえ、仕事帰りの鈍と重苦しい夕暮れをしょって、上野駅で途中下車して歩いてみた。ここのところ、気にかけている人々の去就の話題が続く。昨夜は昨夜で、貴乃花引退の特別番組に見入ってしんみりしてしまった。冷たい風を避けて、つい早足になる。見上げる度に、何故か哀しい景色。いつもは必ず立ち寄る洋菓子屋に目を留めることも忘れて、一気に界隈を歩き抜けた。

 目を閉じると、そこに流れるのはチーシュのスノーウ゛ァ・ポーエスト。今日選んだアルバムは、チーシュ&Coの音楽の深さが堪能できる一押し盤。スノーウ゛ァ・・・は3曲目に収録されている。そしてまさに今日の私の胸に突き刺さる1曲は、9曲目のリリチェスカヤ。曲の途中から絡んでくるキーボードが、抑えた気持ちを解放させる。
 アルバムのタイトルが際どくて驚くが、ジャケットは秀逸。鱗雲が低く大地に迫り、そのずっと遠くに向かって長く続く列車の走る様。モノクロームの世界に、曲の重みを想像する。

 ヘッドフォンを外すと、風に揺れる木々の葉音が顔を撫でる。心から、心から安原氏のご冥福をお祈りしたい。合掌。
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寒い日の朝 / Птица бысокого полёта / Белый Орёл
 寒中見舞いが本当にそれらしく感じる冷たい朝が続いている。朝の早いのは決して苦手ではないので、いつもの時間に起床し、ぼんやり外を眺めたりしながらお茶をすすっているが、それにしても寒い。冷え込みが厳しくなるのは1月終わりからというが、本当だ。

 数日間、部屋の中を片付けて、どうにかこうにか物の整理がついた。新しく家具を入れるためにスペースを作ったのだが、家具が入るとまた狭くなった。でも、不思議だ。部屋が広々としていた時よりも、ずっと安心感がある。もともと狭い部屋で育ったせいだろうか。

 コンビニの雑誌コーナーにも、必ず1冊はあるインテリア雑誌。物のしまい方に興味があるので、買わなくとも手にとってパラパラと中身を見てしまうのだが、随分と私の部屋に似た、モノのごちゃついた部屋に暮らしている人が多いんだなあと思う。ちょっと前に流行った「TOKYO STYLE」という写真集には、等身大の生活感溢れる部屋の写真が満載されているが、高級な家具に埋め尽くされた作り物っぽいきれいな部屋よりも、前者の方により魅力を感じるのは何故だろう。

 ベールイ・アリョールは、もともと同名のウオッカ会社の宣伝用に作られたバンド。詳細は不明だが、98年頃から人気が上昇、アルバムも4,5枚はリリースされている。今日のプチーツァ・・・は97年にサユーズから出されたアルバムで、聴きやすいポップ・ナンバーが11曲収められている。決して美声ではないボーカルだが、かえって泥臭さがあってロシアンらしい。

 最近のロシアンポップスは、メジャーを意識してか西側寄りの音づくりになりがちで、つまらない。2000年以降は特にそういう傾向が強くなっているが、ベールイ・アリョールのようなバンドが静かな人気を博しているというのは、一面ホッとする話題だ。掘り起こせば、同様のバンドやアーティストはまだまだいると思う。そんな探索意欲が高まる1枚である。
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恋はルンルン或はくちびるNetwork / GEM / 坂本龍一
 表題を観て「懐かしい!」と感じられた方がいたら、それはきっと同世代。私は、日本のアイドルはほとんど分からないし、聴くことも少ないのだが、この2曲はちょっと違う。「恋はルンルン」は伊藤つかさの歌で、高校時代の先輩が、雪見大福という中にアイスが詰めてあるお菓子のCMに出ていた彼女の大ファンだったのだ。なにを隠そう、第三ボタンを譲ってもらった方なので、思い出深い(笑)。

 「くちびるNetwork」については、もっと衝撃的だ。この曲、というよりは、これを歌ったアイドルにまつわるエピソードなのだが。私が大学に入学し、3日目にして入るサークルも決め、それこそ足取り軽くキャンパスを闊歩していたまさにその時に、新勧のBGMで流していたラジオから、人気アイドルが飛び込み自殺したというアナウンスが流れたのだった。彼女の名は岡田有希子。彼女については、愛くるしい女の子だったという程度でしかなかったが、飛び込み自殺の名所とうたわれる背の高い学部棟が連なるキャンパスで聞くと、そのニュースはより生々しさを増した。

 田舎から一人出てきていろいろ不安もあったが、鳥かごのような中学高校に辟易していた私には、大学という空間がどこまでも自由なものに映り、そこにいる自分を思うと嬉しさは隠せなかった。でも、今立っている場所から少し先では、まだこれからという、年もいくつも変わらない女性が自死を選ぶ。それが東京なんだ・・・物一つない四畳半の部屋で独り言をしたのを未だに忘れられない。そしてその日ばかりは、独りの夜が長かった。

 このCDは、WEAレーベルから去年暮れに出たベスト盤3枚を買って応募すると貰える特典アルバムだ。紙ジャケの簡易包装で、他のアーティストに提供した曲から、映画作品の告知音楽まで、時系列になんと20曲も納められていて、上述の2曲は5曲目(82年)と6曲目(86年)。私はこの特典CD欲しさに、曲がダブってくるのを承知でベスト盤を買ってしまった。同じような方は他にもおられるだろうが、私は特典とか限定に弱い。でも、これは坂本ファンにとって値打ちのある1枚だと思う。
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一歩足りない / Раба любви / Наталья Ветлицкая
 「歩のない将棋は負け将棋」などと小さい頃に父からよく教わったものだった。しかし、この正月に帰ってみて、まさに「一歩」足りなくて家族で大笑いした出来事があった。

 祖母の葬式を私の実家で出したのだが、その際にお決まりの大掃除をし、終わってからも何やかんやと片づけものをしたときのこと。何のはずみか知らないが、父が昔、知り合いから譲ってもらったという将棋の駒一式がどこかにしまってあることを思い出し、探そうということになった。家族といっても、父と母、そして私の三人なのだが。で、ほこりをかぶりつつ家捜しをしたところ、将棋の駒は全部で5組見つかった。プラスチックの、私がおもちゃにしていたのは別としても、木のきちんとしたのが4組。さてどれが件の駒かという話で大いに盛り上がった。

 父は最初、これらのいずれでもないという。「もっとすばらしい駒だった」とのこと。そんなことを言うが、もらったのはかれこれざっと40年前のこと。私が生まれる前のことだ。昨日のことだって怪しいのに、そんな大昔のこと覚えているはずがない、と私は言う。それで、どうやらこれが一番高価なものらしいという一組をよく見てみると、なんと歩が1枚足りないのだ。「なんだ、お父さん、これ歩が足りないやん。”一歩”足りずに、なんてシャレにならんで」というと、父は遠い目をして、「そうそう、この駒だ。もらったときに失くしたのか、なぜか1枚足りんかった」とようよう納得し、しみじみと駒を手に取ったのだった。

 思えば、本来揃っているものが欠けているということほど、気持ちの悪いものもない。なんとも残念そうな父の顔を思い出すと、これはなんとかせねばと思い、東京に戻ってから、盤駒の老舗で名高い某店に問い合わせてみた。すると、駒の作者が生存しているなら作ってももらえるだろうし、それがかなわないか、或はそこまでの技ものでなければ、店の手持ちのバラ駒からなるべく近いものから選んでもらえるという。願ったりかなったりで、近いうちに例の駒一式を持ってお店に相談に伺うことにした。1つだけ駒を譲ってもらうなんて無理だと諦めていたが、聞いてみるものだ。外を見れば、澄み切った青空。私の胸中そのものだ。

 今日の BGM、ナターリャ・ベトリーツカヤは、最近歌っているかどうかも定かでないのだが、今日は96年リリースのヒット盤をチョイスした。先日書いた、部屋の掃除で見つかった貴重な1枚(笑)だが、聴いてみるとなかなか、どうしてノリが軽くてリラックスできる。正直、歌唱力の点ではいつも紹介するアーティストと比べて見劣りするのだが、バレエのプリマドンナのような容姿と押し付けがましさのない素直なボーカルは好感度大。ちょうどこの頃はカラオケブームで、このアルバムにもおまけのカラオケバージョンが3曲入っている。

 私のライブラリはここ15年間ほどのものがほとんどだが、ジャケットをざっと見るだけでも時代の移り変わりが鮮やかなほどに分かる。去年は新譜が少なかったので、今年は大いに期待したいと思う今日この頃である。
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目覚めのハノン / Навсегда / Анна Резникова
 それほど疲れているという訳でもないのに、やたら眠いときがある。暇なときは惰眠をむさぼるが良し。だが、やらなきゃいけないことが溜まっているようなときには、困ってしまう。

 最近の眠気覚ましは、もっぱらハノンだ。電子オルガンを持っているのだが、それで昔指慣らしに弾いたハノンを端から弾いていく。ただ指を動かすだけ。ひたすら動かす。曲想とかそういうのは一切関係ないので、頭は楽ちんでリラックス。そして弾けば弾くほど脳内麻薬が出るのか、私のだらけきった頭はいい具合に覚醒してゆく。

 人によっては、ハノンはかえって眠くなるというが、曲の単調さがそうさせるのかも知れないし、ピアノの鍵盤はオルガンのそれよりもずっと重いので、心の中で「弾きたくない」という気持ちももやもやとしていることだろう。オルガンの軽い鍵盤でがんがん指を動かすというのがミソなのだ。

 今日は連休の最終日。時間がたっぷりあったので、CDの積み直しをした。そうしたら、買ったことすら覚えていないタイトルがいくつも出てくるではないか。それらを聴いていたらあっという間に夕方になってしまった。今日のアンナ・レーズニコワはその1枚。詳しいことは分からないが、イリーナ・アレグローワあたりと同年代の熟女系女性ボーカルだ。このアルバム、ナフセグダーは、バッハの名曲をもじったタイトル曲で始まる。なかなかしっとり聴かせるバラード中心の選曲で、体の力を抜いてゆったり聴きたい。休みなんてあっという間におしまい。明日の出勤を思うとかったるい休日の夜にお勧めの1枚である。
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