音の快楽的日常

音、音楽と徒然の日々
生き物は死ぬ、それでも―The Last Great Concert My Favourite Songs Vol.1&2--Chet Baker
 知り合いが飼っていた柴犬が死んだ。11歳と少しという時間が、長いのか短いのかは分からない。しかし、家族を失ったロストの痛みは、想像に難くない。私の実家も犬が好きで、今の白柴は、私が生まれてから数えると5代目になる。16年も生きた犬もいれば、数年で死んでしまったのもいた。どちらにしても、死んだときは、同じように辛く、悲しかった。

 特に4代目は私によく懐いており、大学受験の宅浪中に自室でいっしょに暮らしていたのだから、思い入れも深かった。16歳といえば、人間で言えば結構な歳になるらしい。自然の老衰死だったので、先日紹介した「コーシュカ」の猫のようではなかったが、それでも、悲しみはそう簡単に消え去るものではない。

 両親は、先代がなくなってから、新しい子犬を迎えるのを随分とがまんした。といっても、1年だったが、それでも「喪中」と称して、否、私に気を遣って子犬を貰い受けることはなかった。今のトキ(白柴)はこの5月で2歳になる。彼が家に来ているのを、私も弟も半年以上知らせてもらえなかった。年末に実家に帰ることになり、帰るコールをしたときの「実は・・・」と、いかにも言いにくそうな母親の声を忘れることはできない。

 どうやら「前の犬が死んでしまってすぐに新しい子犬をもらうなんて、おもちゃをとっかえひっかえするみたいで酷い」という思いがあるようだ。確かに、そういう見方もできなくはないだろうが、生き物はどうしたって死ぬ。家族が欠けたら寂しいのは当然だし、それを埋めて余り有る新しい家族を迎えるのに、反対する理由はないだろう。否、そんな人間の手前勝手を、先代の犬はどこかで腹立たしく思っているだろうか。

 アルコールを止められてからというものの、一層チェットベイカーを聴く時間が長くなった。私にとって、彼の声は何よりの癒しなのだ。今日の2枚組ライブ盤は、長らく探していたラストコンサートの記録である。エンヤからリリースされているが、この1枚目だけが、「My Favourite Songs」というタイトルで独立して発売されており、国内ではそれが手に入るかどうかという感じだった。私はどうしても、コンプリートな形で入手したかったので、アマゾン.COMから手繰って、アメリカの業者の在庫からゲットすることができた。なぜか、日本のアマゾンからは取り寄せできない。どうも、アマゾンは国別に独立して運営されているので、在庫の共有はないようである。

 マイファニーヴァレンタインは、チェットの得意中の得意ナンバーで、私も大好きである。この他、サマータイムやテンダリーといったスタンダードな選曲になっているが、息が続かず苦しさを所どころ覗かせながらも、やはり彼の演奏は素晴らしい。謎めいた事故死が人の興味を引くチェットだが、このアルバムを聴くにあたってそういう先入観は、なんら意味を持たないだろう。

 エンヤの社長はチェットの大ファンで、未発売の音源を探し当てては「レガシー」シリーズで発売している。同レーベルから出ているアルバム、StrollinとPeaceも同様にお勧めできる充実した内容だ。スティープルチェイスからの作品群と比べると、その落とし所の違いにも興味深いものがある。いずれにせよ、死を惜しみつつ聴く演奏は、やはりどこか寂しく、一度はライブで聴きたかったと悔やまれる。そんな私にとって、心底特別なアルバムである。
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壁コンセントをいじる―愛について--Чиж & Со
 前から気になっていた壁コンセントを、電気工事士資格を持つ友人のおかげで、ついに交換することができた。オーディオに興味のない方なら、それこそ何のことだかと思われるだろう。音質改善はまず根本から、ということで、俗に「電源まわり」の強化は、機器の入れ替えのようにお金もかからず比較的簡単なことから、定番となっている。私が昔、無線をやっていたころにはそんなの話題すらもなかったが、いわれてみれば、なるほどなあと納得できる。

 もっともうちのマンションは、30年ほど電源まわりの交換をしていない。普通の電源コードだって、すぐに抜けるし、酷いときには勝手に抜け落ちていることがあるぐらい、ぐらぐらだったりする。なので、交換で効果がないはずはないのだが、今回は、私なりに「思いきって」通常の一般家庭用が1個230円に対し、今回は2880円(サウンドアティックス製)を使った。

 効果その1 無音時の静かさがずっと深まった。
 効果その2 音が全体に伸びやかになり、レンジも広くなった。
 効果その3 バランスが崩れることなく、再生の自然さは保てている。

 それだけ?と言われそうだが、これを機器の入れ替えでやったら大変である。友人にはお手間かけさせて申し訳なかったが、工事後の再生音は、時間が経つごとにますます良くなっていき、大満足の結果に終わった。

 アクセサリいじりはつきることがなく、例えば、機器間をつなぐピンケーブルひとつ交換しても、音はころころと変わる。それがいいのかどうかは別として、それ自体の面白さにはまると、やはりこの沼も非常に深いとみたので、寄り道はあまりしないでおこうと思う(笑)。

 今日は、大好きなチーシュの「愛について」を聴く。1曲め「夏への扉」は、公園かどこかで遊ぶ子供達の声から始まる。うららかな午後にぴったりの、穏やかな曲調。表題曲「愛について」は8曲目。どの曲も丁寧に歌いあげられ、チーシュの思いが、他のアルバムとは別な形で表れているように感じられる。軽快なリズムとフォークギターの音色が、初夏の緑を思わせる好盤、ゴールデンウィークにぴったりの1枚である。
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勝利の美酒―Full of Life--Enrico Lava
 日記の更新が滞っているのには、理由が有る。名人戦、である。羽生さんが名人戦に出てきたのは、しばらくぶりのことで、春といえば、ここ最近はチェスの大会で好成績をあげる特集番組が組まれたりと、その人柄と才能溢れる棋士としての魅力を再確認するも、やはり、一抹の寂しさを拭えなかった。

 勝っても、負けても素晴らしい将棋を観戦できるのだからと、「入れ込み」具合のほどよいファンならいざ知らず、私のような性格の人間は、それこそ、対局会場の天気や棋士が食すおやつのメニューまで気になってしまう。

 昨夜もほぼ不眠状態で今日の勤務はきつかったが、なんとか乗り切って定時に帰宅。さて、と、中継画面を食い入るように見つめる至福の時。しかし、それは戦況が安定して、しかも応援する側に勝ちが傾いている場合であり、逆の場合は、緊張がほどける間もない「業」となる。

 それにしても、解説する棋士もあっと驚きの声をあげたという新手の連続で、しかも、先手番での角換わり腰掛け銀。あまりにも堂々とした戦いぶりとチャレンジャー精神に、握る拳も思わず震えるというものだ。

 第二局は、113手で先手羽生竜王の勝ちとなった。局面の見どころは、TVその他での解説を待って、勝利の美酒を二度、三度と味わうことになる。とはいえ、私は膵炎で禁酒なので、美味しい紅茶でも入れて、なんともいえない嬉しさに浸りたい。

 上がりきったテンションををほぐすのにぴったりなのが、エンリコ・ラウ゛ァの新譜、フルオブライフだ。2曲目の「飾りの付いた四輪馬車」と8曲目「ネイチャー・ボーイ」がお勧め。透明感溢れるラウ゛ァのトランペットが、部屋にゆったりとたゆたう。響きが大変美しく、適度な湿り気のせいか、体に染入るような音色だ。前作は雑誌でも取り上げられ、評価が高かったが、私は、より陰影に富んだ演奏という点でフルオブ・・・を押したい。太陽の明るさや爽やかさではなく、静かな月の美しさ。後者を好む方なら、まちがいなく、フルオブライフは、お勧めの一枚である。
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新譜漁りは楽しい―The Shadow of The Cats--Gato Barbieri
 月末の水曜は、なぜか新譜のリリースが集中するので、毎月楽しみにしている。で、今日は火曜ですよ、と言われそうだが、銀座の山野楽器では、1日前の夕刻には、翌日発売のタイトルもずらっとならんでいる。卸小売の強みである。もっとも、新譜の全てをとても把握しきれないとみて、店員さんに場所を聞いても、「***はまだ店頭には出ていません。。。あ、ありました(笑)」なんて調子で。でも、見当たらないとバックヤードまで探してくれる。さすがは山野楽器さん、充実の買い物タイムである。

 今日は、JAZZを中心に6枚ほど選んだ。大好きなエディ・ヒギンズとスコット・ハミルトンの1枚ほか、エンリコ・ラバ、チェット&マリガンのリマスター盤カーネギーコンサートなどなど。表題のガトーは、去年の9月に出ていたのだが、国内盤を待てども待てども出る様子がないので、結局、輸入盤で買い求めた。

 スムース・ジャズというのか、カムバックしてからのガトーは、おしゃれなアーバンサウンドにまい進しているかのようだ。最初は、ご本人も乗り気ではなかったらしいが、やってみると、また違う世界が見えたのだろう。最愛の妻を亡くしてから、新しい伴侶が見つかり、数年前には待望の赤ちゃんにも恵まれた、歳を超越したバイタリティは、演奏でも健在である。

 ガトーは、何かと言うと、ラスト・タンゴ・イン・パリを持ち出されたり、あるいは、いぶし銀とか哀愁のテナーとか、まるで演歌の宣伝みたいな言われ方をされる。うーん、哀愁というと、文字どおりそうか。今回のアルバムにも、たっぷり、しっとりとための効いた音色のテナーが響き渡る。ボリビアの頃と比べると、好き嫌いが別れるのかも知れないが、私は、これはこれで、好きである。疲れ過ぎて寝付けない夜に、とろとろと静かに流すのに最高のBGM。何かと疲れの溜まる春先にお勧めの1枚である。
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風に煽られる―Dio puta mog--Jasmin Stavros
 春一番には遅すぎる突風に煽られながらの帰宅道。天候がいま一つ不安定なので、もうすぐゴールデンウィークだというのに、気持ちはちっとも華やがない。おまけに、選挙カーの喧しい(失礼)宣伝が暗くなるまで続いている。

 今日は秋葉原のラジ館に立ち寄り、壁コンセントを購入した。ついに、ここまで来たかと言うなかれ。先日、テレビのアンテナ線口が壊れたのを機に、30年近く取り替えられていなかった壁コンセントを交換してもらったのだが、スピーカーから出てくる音が随分と見通し良くさっぱりとしたものになり、驚いた。で、機嫌を良くして、今度はもう少しちゃんとしたオーディオ仕様のものに変えようというわけだ。

 工事は友人が引き受けてくれることになり、今度はどんなふうに音が変わるのかが楽しみでならない。いや、そんなに激変するとかでは、多分ないのだろう。音にとって、良くない要素がより少なくなる、それは悪いことではないという程度に考えている。もちろん、いろんな種類のコンセントが売られているので、専門誌を読んで少しは勉強した。最初は何のことだかさっぱりわからなかったが、だんだん分かってくるから面白いものである。

 そんなものを買うOLはあまりいないだろうから、お店の人も驚くかなと思ったのだが、そんなことはない、淡々と袋に詰めて、はい、***円です、と手慣れた様子。昔は、真空管を買いに行ったりすると随分驚かれたものだが、それほど今は趣味も多様化し、それを楽しむ人もまた然りということなのかも知れない。いや、単に家族か誰かに頼まれて買っているだけだと思われたのかも知れないが。

 こういう買い物は得てして楽しい。そんな気分にぴったりの、クロアチアンポップスの雄、ヤスミン・スタウ゛ロスをチョイス。クロアチア語なので、どんな歌詞かは想像するに留まるが、彼は国内では、マダムキラーでならす、どちらかといえば、ムード歌謡に近いジャンルだ。しかしながら、クロアチアンポップスは、リズムが軽快で、カンツォーネとスラウ゛ィック民謡が混ざったような音楽なので、聴いていると踊りたくなるようなものが多い。そして、何よりも曲調が明るいのだ。海辺で優しい風が凪いでいる快晴の午後、みたいな。現地では、この手の音楽を、ポップスではなく、ザバウ゛ネと呼んでいる。気分ウキウキなのに、どこか色気があってドッキリする、さすがにマダムキラーといわれるだけあると納得。どちらかというと、やっぱり女性のリスナーにお勧めしたい充実の1枚である。
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体が資本―Я знал любовь--Александр Буйнов
 快癒してもう10年にもなる慢性膵炎を、再発させてしまった。気をつけていたのだが、年明けから立て込んだスケジュールに宴会の嵐、つい脂っこいものを食べがちだった最近の食生活(事務所の近くに旨くて安い中華店を見つけた)などなど、総合的に影響したのだろう。とにかく、壊れた、ことには間違いないので、治療生活に入ることになった。

 薬はいろいろあるが、肝機能障害を副作用に持つ劇薬だったりで、私の場合は、主だった薬はほとんど体が受け付けず、前回同様、食事療法プラスαの治療を根気良く続けることになる。薬の副作用は凄まじく、服用3日目ともなると、顔や手に黄疸が出る。無理を続けると、顔色が土気色になってしまい、とても生きた心地がしないので、時間が何倍かかろうとも、自分の体が持つ力を頼りに、食事制限をすることで、膵臓の回復を待っている。

 この手の病気には、完治というのはありえないので、長くつきあうことになるが、同様の病気とおつきあいの長い方がいらっしゃったら、ぜひその「こつ」についてご伝授いただければありがたい。

 とりあえず、ここのところの音楽環境の向上で、気分的にはそれほど鬱にならずに、日々の生活をとりあえず楽しんでいる。やっぱり、音楽のない生活なんて、考えられない。そんな訳で、買い逃したタイトルを探すのにも余念がないのだが、今日のブイノフのライブ盤も、モスクワで探しても見つからなかった1枚。最近は、ショップ間の競争も激しくて、こういう旧譜をひょっこり見つけてきてくれるからうれしくなってしまう。ちなみに、このアルバムは、95年3月のライブを納めた全14曲。ブックレットを見ると、ブイノフがギターを弾きながら、美女ダンサーとからみつつステージを盛り上げる、といった感じ。音質もなかなか、良いです。

 ブイノフの最近曲というと、まるでイワーヌシュキか、シュラかと思わせるようなエフェクトがんがんのダンスポップだったが、この分だと新譜では随分とこれまでのスタイルと比べて様変わりが期待できそうだ。好き嫌いは別として、素晴らしいエンターティナーのブイノフ、まだまだ歌って踊って楽しませてもらいたいものである。
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サービス向上は果たして―Шоу разведенной женщины--Лолита
 郵便局が郵政公社になってから半月ほどが過ぎたが、これといってその違いを感じることはなかった。郵便は依然としてきちんと届いていたし、郵便のマークも相変わらず〒である。それが、今日のCDが届いて、サービスがずっと良くなっていることに気が付き、驚いてしまった。

 これまでは、当日中の再配達を希望する場合は、夕方5時30分までに連絡をしなければだめだった。従って、EMSをはじめ、海外から保険付きで送られてくるような場合には、早くても受け取れるのは翌日以降となり、これまで随分残念な思いをしてきた。1日でも早く聴きたい新譜が届いているのに、明日まで待つというのが、これがなかなかイラつくものなのだ。

 それが、なんと午後7時まで当日配達の受付が延長されたため、当日中に郵便を受け取れる確率がかなり高まった。ただ、サービス向上の裏には、延長された勤務時間とそれに従事する人の「犠牲」がある。有り難い反面、なんにつけても、サービス向上とコスト削減、では、「人」そのものにしわ寄せがいくばかりで、物事の本質的な解決になっているのかどうかは疑問だ。不便を受け入れ、共有することで、救われる何かがあるような気がしてならない。自己矛盾、なのだが。

 郵便局のサービス強化で、いつもなら明日以降になるところが、今日聴けて嬉しい新譜が、ロリータの久々のオリジナルアルバムだ。アカデミヤでの活動は休止しているようだが、ソロでは相変わらずの色香たっぷりのボーカルで、ファンとしてもほっとするところ。

 内容は、前作とはうってかわって、ラブソングを中心とした、古き良き時代のアメリカ歌謡を思わせるようなエンターテイメント作品に仕上がっている。「見せると魅せる」を意識してきた彼女らしいといえば、なるほどそう言える、納得の1枚だ。それにしても、10曲目、ロリータの歌で「ニューヨーク・ニューヨーク」が聴けるとは思わなかった。歌唱はもちろん、ジャケットもなかなか魅惑的。ファンにとっては意外性も楽しめる好盤である。
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一生の贈り物―青い影--プロコルハルム
 私は小さい頃、親の勧めで音楽を習っていた。映画音楽に端を発した音楽好きの両親は、大きくなってからも何か楽しみがあるようにと、スポーツや学習塾ではなく、音楽を選んだ。当時のレッスン料としては、決して安い金額ではなかったし、近くにそれらしい教室もなかったため、電車を乗り継いで2時間近くかかる場所まで月に何度も通うことになった。小学3年生の頃のことである。

 音楽を習うというと、普通はピアノだろう。しかし、私の手は同年代の子供と比べても小さく、ピアノには不向きであった。それで、鍵盤の幅がピアノに比べて狭く、鍵盤が柔らかいオルガンということになったようだ。ドレミを覚えてからというものの、音符を読むことはほとんどせず、CMの後ろに流れている曲などを覚え弾きして遊んだ。宿題ができずにいつも怒られてばかりだったが、鍵盤を押さえれば鳴るというしくみが、子供なりに面白かったのだ。そのうち、耳に聞こえる音楽はなんでも鍵盤に置き換えたので、当時の曲はたくさん覚えているし、ほとんど練習しなくなった今でも弾けるものが多い。

 練習に使っていたのが電子オルガンだったため、途中からカシオペアやYMOのコピーに夢中になり、きちんとした勉強は途中でやめてしまったが、私にとってオルガンとは、なんといっても、ハモンドB3である。あの音色、初めて聴いたときの驚きは、30年近く経ったいまでも忘れることはできない。

 思い出の曲として、しんみりとプロコルハルムが聴きたくなった。CDは手元になくて、エアチェックした音の悪いテープが残るのみだが、探せば何か出ているだろう。この代表曲「青い影」で、私は、オルガン演奏にも、呼吸があり、それが曲を生かしも殺しもするということを学んだ。丸みのある穏やかな音色のオルガンは、トレモロの深さやタイミング一つで、やぼったくもなり、あるいは、逆立ちしたくなるくらいかっこよくもなる。単純で奥の深い楽器、それがハモンド B3だ。

 思い出すとじっとしていられない。電子オルガンで、音を思い出しながら青い影を弾いてみる。波形をいじることで、ぱっと聴きはそれそっくりに音づくりができるので、独り遊びには十分、その気になって楽しめる。才能がなくて、キーボーディストにはなりそこねたが、自分が創る音楽もまた楽しい。この歳になって、つくづく両親に感謝している。歳を増す毎にありがたみも増す、人生最大のプレゼント。自分もいつか、そんな贈り物ができるよう、慎ましくも努力したいと思う。
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理解の限度を超えると―freeway--Smash!!
 理屈で理解できると、少々大変なことであっても、多少のことを人間はこなせてしまう。それが、一旦、物事がある線を超えてしまうと、途端に苦しくなる、そんな当たり前のことをここ数日間で経験し、どっと疲れてしまった。

 仕事なんだからやらなきゃいけないのだが、仕事に取り組むインフラ整備が遅れに遅れているのに加え、いっしょにやる人間関係も複雑を極めたため、私の頭はオーバーフローしている。なぜ私がこれをやらなければならないのか、そもそも、自分に動機付けができないでいるからである。それを無視して、無理やり仕事をやり続けるとどうなるか。それを私は今実体験中である。

 春先に電車がよく止まるという事情が今の私にはよく理解できる。環境の変化といってしまえばそれまでだが、新しくなったものに自分を合わせるというのは、大変なエネルギーがいる。ストレスフリーよりもストレスがあった方が、結果的には充実した内容の仕事ができることが多いが、それも限度がある。

 悲鳴を上げる心身に言い訳もできず、私はただ音楽に浸り込み、逃げ込みを図っている。Smash!!はウ゛ラート・タパロフとセルゲイ・ラザリョフの 男性デュオで、なぜかほとんど英語で歌っている。ユニバーサル・ロシアのプロデュースで、メジャーを意識しているのかも。タトゥの勢いがすごいので、少々のヒットでも霞んでしまうのだが、聴いてみると、ノリが軽くて、ごく普通の洋盤的仕上がり。ロシアンにこだわらなければ、なかなか楽しめる内容だ。ポップスで似たようなグループが山のように出ている中で、むしろ、これからどう変わって行くのかが楽しみ。ロシアンの泥臭さがない分、私にはちょい物足りないが、深く考えないで済むから、疲れない。ドライブのBGMなんかに流すにはもってこいの軽い1枚である。
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戦争のあとさき―Суперсиметрiя--Океан Ельзи
 イラクでの戦争は、日々垂れ流される報道を見る限り、一つの大きな山場を超えたようだ。人がどんどんと死んでいるというのに、大国の代表者は、他所の国の行く末についてあれやこれやと議論しているという。「民主化と自由」を掲げつつ。

 戦争の結果、果たして、自由はあるか。解放はあるか。

 オキアン・エリズィの2年ぶりのアルバム、スーパーシメトリヤ。全11曲が、まるで一つの物語のように編まれた、コンセプトアルバムに仕上がっている。3曲目のウ゛ィリニー、そして4曲目のSusy、心の奥底から絞り出される叫びが、聴く者の胸を締め付ける。9曲目のホーラドナを聴く頃には、きっと頬をつたう涙を拭うのを忘れて、ただただ、前を見つめるだろう。

 前作モデーリからは、とうてい想像しがたい「進化」。2年という時間は、オキアンにとって、特別な時間だったのかも知れない。ウクライナのアーティストには、こうしたメッセージ性を強く感じさせる作品が多いが、このアルバムは、聴かずに死ねるか!の必聴盤として、一押しの1枚である。
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