音の快楽的日常

音、音楽と徒然の日々
明治生命CMでここに辿りついた方々に―Waves--Eden Atwood
 ここ数日、この日記へのアクセスが異常に増えているので、リンク先を確かめたら、明治生命の例のCMが話題になっており、その検索でなぜかうちの日記が上位にひっかかることによるものらしい。ほとんどは、それらの方々の興味外の内容なので、申し訳ないと思い、思い付いたことがあるので、しるしておこう。

 あのCMの写真を見て、思ったことがある。同じような、胸がぎゅっと締め付けられるような思い、人の溢れんばかりの優しさと愛を絵にした写真家の作品展が、今、近代美術館にて開催されている。都内近郊の方には、朗報である。

 ☆牛腸茂雄(ごちょう しげお)展
  東京国立近代美術館 7月21日(月)まで

 この作家は、自身が3歳の時に患った胸椎カリエスにより、終生肉体的なハンディを負いながらも、日常における自己と他者の存在を見つめ、精神世界の深みを写しとっていった。作家の死後20年が経ち、わずかに残された作品集から、彼の生きた36年余りの軌跡と重みを読み取るのみだが、展示されたプリントの美しさは見るものに強く迫り、心を打つ。あのCMの写真に心動かされた方にはぜひお勧めしたい。

 静かに流れるBGMを選ぶ。ジャケットの美しさで選んだイーデン・アトウッドの代表作ウエイウ゛。暑いからボサというのではなく、彼女のボーカルが沁みるような静かな夜だから。ワンス・アポンナ・サマータイムやイパネマの娘、ブラジルなど、スタンダードで丁寧にまとめられ、聴きやすさも十分。心の乾きを潤す1枚としてお勧めのアルバムである。
よもやま | - | - | author : miss key
自堕落解消の模様替えの結果―Coda--Рондо
 模様替えをして1週間が過ぎた。ベッドを置く部屋を変えたので、生活動線も随分と変わった。前は、広い方の明るい部屋にベッドもオーディオもあったので、本を読んでいて眠くなると、そのまま音楽をかけっぱなしで眠りこけてしまったり、ということが頻繁にあった。というか、ベッドに横たわった耳の位置にスピーカーの高さがいい具合に合っていて、なんとも気持ちが良かったのだ。

 ベッドは狭くて窓のない部屋へと移動したので、夜は本当に真っ暗で、ぐっすりと眠れる。睡眠を誘導する音楽が欲しいでもないが、今はとりあえず眠れている。以前持っていたCDラジカセは、タイマーで朝、ラジオがかかるように出来たりしたので、便利だったが、もう修理もきかないというので処分してしまっている。タイマーでの動作というのは、本来は機器にあまりよくないことなのかもしれないが、また余裕があれば、そういう風にしたいと思う。

 部屋で音楽を聴いているとき、畳に直に座ると高さが足りないので、今は椅子をおいて座って聴いている。背骨が曲がっていて、姿勢の悪い私であるので、きちんと座っている姿勢は、正直長くは続かない。ゆったり座れる椅子が欲しいなあと思うこの頃だ。それでも、前よりは本をたくさん読み、モノをじっくり考える余裕が出来た。私は横になるとすぐ眠くなるので、ベッドを主な動線から外すというのは、大正解だったようだ。

 Codaは、ロンドが久しぶりにメジャーレーベルからリリースしたオリジナル。インディーズのようなところから何枚か出ているが、そういうポリシーなんだろう。今回は、気持ちが改まったのか、ジャケットのイメージも随分と変わった。前は、ヘビメタとかパンク系にありがちな、よくわからない派手なごちゃごちゃしたイラストだったが、今回はモノクロの写真が据えられたモダンな感じ。海を臨む崖にグランドピアノが置いてある写真だ。

 ボーカルのアレクサンドル・イワノフは、ソロ活動と自分のバンドであるロンドでの活動をきっちりと使い分けている。ソロでは、硬派なロンドでは演れないような、メロディアスでナイーブな彼の個性を十分に発揮していて、あくまでも静のサーシャだ。ロンドは、アルバムのリリースよりは、ライブ活動を大事にしていて、ソロデビューした頃は、その辺の活動との調整が結構大変だったようだ。そういう二つのステージを得て、ファンもサーシャの音楽性を十二分に堪能することができる。ソロの新譜も来春リリース目指して現在制作中。

 Codaの中では、シングルカットのスマッシェードシャヤ・ジェーウ゛ァチカの他、4曲目のボーリシェ・フストリェーチュがお勧め。ジェーウ゛ァチカはリミックス及びビデオクリップの特典も付いている。また、このアルバムは、豪華ブックレット付きのリミテッドバージョンも出ていて、これは直接ロシア国内でないと入手は難しそうだ。いずれにせよ、梅雨のじめじめを吹き飛ばすような音楽で、休日は楽しく過ごしたいものである。
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ブラックジャックの26巻―Heat Wave--Fried Pride
 珍事件というには、ちょっと抵抗のある出来事が起きた。手塚治虫の「ブラックジャック」第26巻を無断で作成し、販売して逮捕されたというものだ。いい加減な「26巻」ではなかったようで、これまで出版された作品集に掲載されなかった「幻の数話」が掲載されていたために、オークションではかなりの高額で落札されたということだ。

 ブラックジャックは、関連の作品がテレビ化されて話題になるなど、今持って熱烈なファンの多い作品だ。決して、過去形で語れない何かを放ち続けている。私も週刊チャンピオンで連載中から、ずっと読んでいた。コミックが発売されると、ときどき抜け落ちるエピソードがあるのを気が付いてもいた。いつだったか、作品の差別性(作品を読めば、そういう意図ではないことは理解されるだろうが、表現として存在することは許せないという主張だったかと思う)について裁判で争われるようなこともあったし、そういうような事情で「落とさざるを得ない」ものもあったのだろう。

 ただ、これだけ情報化が進み、インターネットで手軽に欲しい情報にアクセスできるようになると、偶然にお宝情報に行き当たり、頭の中からはすっかり抜け落ちていた事柄がやたらと気になったりするものだ。今回のブラックジャックに関しても、熱烈なファンの方が、すべてのエピソードについて、掲載の有無や発刊時期などを詳細にデータベースとしてまとめておられ、それを惜しみ無く無料で発表しているサイトがある。タイトルをみて、話の内容が思い出される部分もあれば、「これ、どんな話だったっけ?」と気になる作品もある。それを逆手に取ったわけではないだろうが、マニアの方には、幻の26巻は大変な朗報であったに違いない。

 そういう「気持ち」の部分を金もうけのデバイスにしないでもらいたい、と思いつつ、前に書いたYMOではないが、その手の商売は枚挙に暇がない。そう思いつつも、私も読んでみたかったという気持ちを抑えきれない。複雑である。

 Heat Waveはフライド・プライドの3枚目のオリジナル。過去2枚の作品もリリースの度に注目されていたけれど、買ったのはこれが初めて。ギターとボーカル、そして最小限のパーカッションとシンプルな構成ながら、ヒリヒリするような熱さが飛んでくるような音楽に一聴してファンになった。スタンダードのアルフィーはともかく、9曲目のファンタジー(EW&F)は、必聴のナンバー。アレンジの巧みさか、彼女のボーカルの深さなのか。独特の声ゆえに好き嫌いは分かれるところだが、前作やデビュー盤も近いうちにぜひチェックしたいと思う。急な暑さでお疲れモードのあなたに、ぴったりのカンフル剤的1枚、ぜひお勧めしたい。
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インソムニア―Shade--Holly Cole
 梅雨の時期になると、なぜか眠れなくなる。現実か何かわからないような、脈絡のないおかしな夢を毎晩のように見る。眠りが浅いといってしまえば、それまでだが、昼間、気が遠くなるような眠気に襲われることもある。

 詩を朗読したりして、ゆっくりと横たわる。胃のあたりが温かくなるような、気持ちの集中が、やがて眠りを連れてくる。

 
 見よ、なんとおだやかに彼女は青年の柩の上に眠っていることか、
 頭を傾け、月と星とを髪のなかにもち
 ほとんど閉ざされた眼のなかにはひとつの涙の光!
 そのほとりでは罌栗が実り、魔法の鳥が見張りをつとめ、
 そして夢の神も狂気の仮面をつけて警告している、
 こよなく静かであれ、
 夢が音楽に変えうることをのぞいては
 この眠りのなかへなにも語りかけるなと。

 〜H.カロッサ「西洋の悲歌」より抜粋


 ホリー・コールは、ガール・トークやコーリング・ユーで、しかもトラディショナルなJAZZトリオで注目を浴びた歌手だ。途中、容姿が派手というか、ハッキリ言えば思いっきりケバくなり、音楽もロックだかポップスだかよくわからないようなジャンルに変わってしまい、私は自然と彼女の歌から遠ざかっていた。
 
 今日のアルバムは、久々に、ジャズっぽい、昔の彼女のファンなら、きっと思わず笑みが洩れる内容に仕上がっている。余計なものはなにもない、ストレートで陰影に富んだボーカル。雨の気持ちが沈む夜に、静かに聴きたい1枚である。
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セクシィ・セクシィ ベールイ・アリョール―Добрый вечер--Белый орёл
 ここのところ、オーディオに凝っていて試聴を繰り返しているが、それはもっといい音が欲しいというのではなくて、まるで宝石のようにきれいなデザインをした製品を見たり触ったりするのが楽しいからである。見た目のきれいなオーディオからは、きれいな音が出たりするので、なるほどと納得する。

 いくつかいただいたメールの中には、電源ケーブルを変えて面白がっている私に「忠告」を下さったり、意見する方もみえる。私もアマチュア無線技士の資格を持っているので、電気のことは多少わかるが、ケーブルを変えて音が変わるはずがない、と理屈でいわれたら、なかなか反論しにくい。多くの専門家が言うように、理由はわからない。が、音はあきらかに変わる。良し悪しは別として。

 機材を整えてから、前とは全然ちがって聴こえるアーティストが少なくないが、今日のベールイ・アリョールもその一つだ。ちょっと濁声の、ロシアンのシャンソンによくあるタイプ、というのが私の理解だったが、実はとんでもなく、セクシィ・ウ゛ォイスだった。ミレニアム・イヤーにリリースされた「ドーブルイ・ウ゛ェーチェル」は、最新アルバムになるが、確かにマイフェイバリットなので、よくは聴いていた。でも、LINNのスピーカーのキャンペーンデモでかけてもらったら、とんでもなかった。

 広い試聴室に、厳選されたオーディオが並び、人間は私と店員さんの二人だけである。そこで「あんな声」が出たら、さすがの私でも恥ずかしくなる、というくらい、際どい声音のボーカルに、思わず顔を塞いだぐらいだ。女性ボーカルではあまりこういう体験はないが、男声の方は、機器の能力に左右されるところが大きいのだろうか。そうとわかっていれば、試聴盤に選ばなかった。

 さすがは、専門店の店員さんで、表情を変えること無く、お客の好む音楽に否定的でもない。いや、その無表情がかえって、そういう場合プレッシャーだったりするのだが(笑)。

 ベールイの仕掛人の一人が作品集を出して話題になっているが、やっぱり本家の方がずっといい。ポップスというよりは、ムード歌謡に近いキャラクターだが、聴いて損はない、いや、歌詞もなかなかに美しく、ぜひ、一人でこっそり聞き惚れて欲しい、女性のリスナーに贈りたい1枚である。
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総額1億円の試聴ツアー―Chaconne--村治奏一
 昨日、無事に模様替えが完了した勢いで、秋葉原に出かけた。テレビのアンテナケーブルを購入するためだが、クラシックカメラ好きの友人が、体調の好転を祝ってくれるという。せっかくだからと、前から気になっていた高級オーディオショップの試聴ツアーと相成った。

 秋葉原にあるのだから、気軽に行けないことはないのだが、何しろ入りにくさ満点の専門店だ。だから、いっしょに行く人がいると、非常に気が楽になる。ガード下のダイナミックオーディオは、つとに有名で説明は要らないだろう。雑誌に顔出しでお勧めをしているようなプロの店員さん達とライブでお会いすると、なんとなく面白かったりする。各フロアーはそれほど広さがないので、各店員さん達が自分の個室のように作り上げ、提案している。しかし、残念なことに、余裕がない空間にぎっしりといろいろなスピーカーが並んでいて、見るのには壮観だが、音を出す環境としてはベストとはいえないのだろう。担当する方の苦労が想像に難くない。

 同店にはもっと高級なオーディオを扱う店鋪があって、その7階(最上階)の試聴室に入ったときは、驚いた。整然とデザインの素晴らしい機器が並んでいて、ほこり一つない、きれいな部屋だった。その上、選び抜かれたスピーカーがどっしりと客を迎えており、あまりの堂々さにこちらがたじろいだ。

 ノーチラスという名前の、まるでタツノオトシゴのお化けのような角の一杯生えた黒いスピーカーがメインで、なんと500万円もするという。この試聴室には、訪問者用の感想ノートが備え付けられており、それをパラパラとめくってみると、随分と遠くからわざわざ足を運んで、試聴に訪れているお客が大勢いるのが分かる。「何年かかってもいいから、500万円貯めて買いにきます」というようなメッセージも1つや2つではなく、音よりもむしろその書き残されたメッセージに共感を覚えた。

 オーディオという趣味は、およそお金と時間がかかる。お金があるだけでは組めないが、機器を揃え、音を出す環境の整備も含めると、それだけの費用を負担できる人とできない人に分かれてしまう。機器は先端を行くハイテクを駆使した製品だったりするので、高価なのは仕方ないとしても、ケーブル類だけでも800万円を超えるシステムの音は、私には高級すぎるのか、あまり気に入らなかった。負け惜しみではなく、高いから気に入るというわけではないということだ。

 下のフロアーに行くにつれて、雑誌などでよく目にする機器が増えて行く。昔、購入を迷ったことのある、ハーベスというスピーカーが並んでいて、目を留めた。試聴させてもらえるというので、ガズマノフを1曲かけてもらったが、やや固さが残るも、無理のないキャラクターで、友人ともども好印象だった。当時、私はロジャースのLS2というスピーカーにしたのだが、音の傾向は同じで、穏やかで聴きやすいものだ。LS2は生活苦で知人に譲ってしまったが、今でも耳に残る音は懐かしい。ここに来るまでに、1億円を超える機器の音を聴いてきたが、最後のハーベスが一番気に入った。リーズナブルに出来ている自分に、ほっとしたのは言うまでもない。

 村治奏一はお姉さん、そして彼の父の3人がすべてプロのギタリストだ。お姉さんの演奏は、私はちょっと苦手で、そのテクニックがすごすぎるせいだろうか、何を言いたいのかがわかりにくい。しかし、弟の演奏は、むしろ朴訥な中にもその楽曲に込めた思いがストレートに飛んできて、クラシックに詳しくない私でも、音楽に入り込める。その彼の記念すべきファーストアルバムが、今日のシャコンヌだ。

 最初の3曲はウ゛ィラ・ロボスのエチュードとプレリュードから選ばれている。バッハの前座程度に考えていると、きっと驚くことになるだろう。バッハのパルティータNo.2は、アルバムが出る前からの話題曲。彼がファーストアルバムを編むのに、主題に据えたのがこの曲だった。もう、余計な言葉は要らないと思う。この曲が好きな方にはぜひ聴いてもらいたい。経験や年令を超えたところの表現の奥深さ、才能だけがなせる技に、この録音はいとも簡単に触れさせてくれる。感歎の1枚である。
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梅雨の中休みに―Полтергейст--Унесённые ветром
 思いきって、模様替えをした。思い立ったが吉日、という言葉がある。朝起きて、あんまり天気がいいものだから、洗濯をして、一息入れながら、これは模様替えかな、と思った。チラシの裏白を使って、プランニング。笑われそうだが、動かし方を間違えると、物が動かせなくなる。昔流行ったゲーム「倉庫番」というのがあるが、あれと同じ状況で、笑えない。今回は、音楽を聴く空間をねん出するために、小さい方の部屋の出入り口を一つ潰してしまうため、物の移動は1か所の出入り口のみ。これがなかなか大変だった。

 コンセプトは、「音の出るものはすべて大きい方の部屋へ」と簡単明瞭だったので、テレビのケーブル引き回しを変えるくらいで、あとはひたすら単純労働だった。とりあえず、接続確認の意味で音を出したが、前よりも伸び伸びと音楽が鳴るのには驚いた。前日に、サウンドクリエイトさんで、狭い空間でのセッティングの見本を示していただいたので、それをできる限り再現しただけなのだが・・・。スピーカーとリスニングポイントの二等辺三角形の1辺を長くし、三角形の高さを低くした形だが、意外に自然で、むしろ奥行きが増した。

 早速、最近になってようやく入手した、ウニェショーンヌィエ・ウ゛ェートラムの古いアルバム、ポルターガイストを聴く。TOM2と曲がダブっているが、今日のアルバムの方がリリースが早く、アレンジもオリジナル感が強い。ドミートリィ・チジョフのキャラクターが、手持ち3枚の中では強烈に出されていて、ターニャのボーカルはちょっと遠慮気味。

 ナタリーとマリーナ・フレーブニコワがゲストで1曲ずつ歌っているが、この2曲ともがヒットし、彼等がメジャーになるきっかけを作った。大ヒット盤TOM2の前に、 TOM1が出ているはずなのだが、これがジャケットすら不明。ネットでポルターガイストを見つけたときはこれがファーストアルバムかと思ったが、どうやら違うようである。露出度が少ないグループなので、現在の活動状況も分からないが、皮肉の効き具合と肩の凝らないアレンジは秀逸。ファーストもなんとかそのうちにゲットしたいと思っている。
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神田で道に迷う―Мой ясные дни--Олег Газманов
 翌日の大イベントを控え、雑用を片付けて、事務所を出た。まだ空は明るい。中古レコードでも見に行こうかと、お茶の水のディスクユニオンに向かった。秋葉原から歩いても大した距離ではないので、万世橋を越えてどんどん歩く。そこで、お茶の水駅に向かうちょっとした坂下のこと。足が疲れきっていたので、坂を避けて楽をしようと迂回したのがまずかった。淡路町から小川町へ。途中、新御茶ノ水駅があったにかかわらず、方向を完全に見失った。

 気が付いたら、電機大の前。あの日立の背高ビルを見ながらでも迷うとは、我ながら呆れ果てた。足はすでに上がるか上がらないかになっていたが、えーい、こういう日だからこそ、掘り出しモノがみつかるかも、と頑張ってみる。歩くことトータル30分、やっと目的地に着いた。ディスクユニオンは、若いお客で溢れていた。JAZZ館のCDコーナーには女性の客がいる。なんとまあいい時代になったもんだ。でもLPコーナーには、新着の通称エサ箱に顔を向けたまま上げないお客がぞろぞろといた。この風景は、昔も今も変わらない。

 目的のチェットベイカーを探す。なぜかラス・フリーマンとのセッション盤が何枚も。再発したんだろうか。他、数枚あったが、いいなあと思ったのは7千円とか8千円もしたりする。レコードは、稀少価値もあってか、随分と高いメディアになった。CDの方が、パチパチも気にならずにいいか、と探す苦労を考えると気持ちが萎えた。アナログシステムで試聴させてもらえる機会が近々あるかもと思い、探す気になったものの、ものぐさな私には、レコードは不向きらしい。というか、大半のタイトルをCDで揃えてしまっていて、残るチェットといえば、ブートレグすれすれの海外モノか、これは!というようなスタジオ録音でCD化されていなかったものなどを、落ち穂拾いの如く、探していくのみ。そういう意味では、ケニー・バロンとのニューヨークでのスタジオ録音が1枚あったので、歩いたかいはあった。未発売、とジャケットにあったが、さて、どうだか。

 ニューヨーク経由で届いたモスクワ発の春の新譜。とりあえず、20枚ばかりあるなかから、ガズマノフのモイ・ヤースヌィエ・ドゥニィをピックアップ。表題曲は1曲目、全部で18曲と、待ちに待たせたファン泣かせの捨て曲なし。これまでのアルバムと比べると、一番、エストラードナヤとしてこなれた、聴きやすい曲調になっている。

 メモリアルイヤーにはその街にちなんだ曲をリリースしてきたガズマノフだが、今回は、しっかり「ズドラーストブイ・ピーチェル」とサンクトペテルブルクをチェック。無理やり、数曲を選ぶとすれば、8曲目のプラシャーイ、それからチェチェンがらみのチャリティでシングルリリースされた、ラドニキーが14曲目に入っている。古いファンなら、この曲を待たずに涙でうるうるしてしまうだろうが、まだ早い。最後は、表題曲のリミックス、これは踊れます。泣かせたままでは終わらない、さすが、ガズマノフ。50歳のお誕生日コンサートなど、企画ものの連続で、どうなっているんだろうとやきもきしていたが、杞憂であった。今年の新譜では、オキアン・エリジィと双璧の一押し、ぜひお勧めしたい。
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嵌ればこそ(その2)―Sasha--Sasha
 昨日の日記で、カーマのことを書いた。カーマに行き着くまで、何十ものオーディオ関連サイトを訪ね、恐ろしくオーディオに嵌った人がたくさんいることを知った。Stereo Sound(豪華な製品の写真と宣伝がずっしりと載せられた、重くて価格も高い専門誌)の記事のようなお家が、今まで自分が知らなかっただけのことであって、世の中にはたくさんある。趣味を極める、とはかくも凄まじいことかと、溜息がでる。お金のかけ方はもとより、その情熱というか、なんというか。

 そういうこともあって、たまにいただく質問メールに「私はオーディオが趣味ではないので」とお断りした上で返事をしている。今はもう売っていないピエガの古いスピーカーを使っているので、現行のシリーズとの違いとかを尋ねられたりするのだが、その違いをどのようにお伝えすべきか、表現は見つからないし、多分的確な情報を提供することは私には難しい。幸運にも、私が日頃面倒をみていただいているサウンドクリエイトさんは、ピエガをたくさん扱っているお店なので、買えない私を承知で気持ち良く試聴させていただいている。

 私のP2は今のCシリーズの一つ前の世代で、ブックシェルフ型。C2は P2のお兄さん的存在で、性格はそのままにグレードアップされた感じ。C8は美人でよくできたお姉さん、弟一番の自慢だったりする。でも、 C2limitedは、ちょっと違う。神経質でごきげんを取るのが難しそうな手合いだ。P2は素直だが、2度ほど聴いた感想では、新しいCファミリーの中では異端児なのではないだろうか。C3とC10はまだきちんと聴いたことがないが、C40は隣りの試聴室から漂ってきた音を聴いて唖然とした。きちんと聴かないほうがいいと瞬間的に悟った。聴いてしまえば、おそらく、外車を買えるほどのローンを組むだけでなく、彼のために大掛かりな引っ越しを余儀なくされるだろう。私は、ある程度の金銭感覚を保てている自信はあるが、最後の関門は乗り越えられないのではないかと思っている。もっとも、メーカーがその技術のすべてをつぎこんで作り出したフラッグシップなので、当然といえば当然なのかも知れない。

 今日の1枚、サーシャは、そのジャケットのお色気に圧倒されそうなのだが、サウンドはいたって、穏やかというか、むしろカントリーぽかったりする。ジャケ買いして肩透かし、と感じた方もいたのでは。同じ、ムンムン系でも、ウ゛ィア・グラとはちょっと違って、もっとワイルドな感じ。ルックスとサウンドのギャップが激しいアーティストだ。1曲目のプロースタ・ドーシチがスマッシュヒットし、有名になった彼女。最近リリースされた、サーシャ・プロジェクトとの関連は不明だが、サーシャのボーカルはなかなかのもの。お色気で売らなくてもいいのに。2枚目がどんな感じで出てくるのかが楽しみであり、これっきりにならないで欲しい女性ボーカルである。
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嵌ればこそ―Timeagain--David Sanborn
 ときどき忘れた頃に面白いメールを下さる日記の読者がいる。私は、そのメールを「天の声」と呼んでいる。なぜなら、わずか数行のメッセージながら、一体どこから私のことを見ているのだろうと思うくらい、内容が図星だったりするからだ。最初のうちは、本当にどこかで見られているような気がして気味悪かったが、今では、次のお告げがくるのが楽しみだったりする。

 前回は、私が悩んでいた電源ケーブルについての一言だった。電源タップはFISCHというドイツの製品を使っているが、シリーズで出されている電源ケーブルを併用すると、効きすぎてあまりにも整い過ぎてしまい、かえってつまらなくなるというジレンマがあった。巧く表現できないのだが、ちょっと熱が足りない感じだった。大した不満ではないにせよ、その先があって、手前に少し戻るというようなことが何故できないかと、自分なりに考え込んでしまったのだ。

 同じような音を好む人が周りにいないため、Webサイトを斜め読みしたりして情報収集したが、やっぱり答えはでなかった。当たり前のこと、サイトからは音が出てこないからだ。そんなある日のこと、「KHARMAがい〜いよおぉ〜」とのお告げ。私は、Kharmaをカーマと読めなかったくらいオーディオ音痴であるが、早速検索して同社のサイトを覗いてみると、そこには立派なスピーカーがずらっと紹介されていた。その、後ろにやや傾いた不思議な形のスピーカーを見て思い出したのだ、もともとピエガの代理店さんが扱っていたメーカーであることを。灯台下暗し、とはこのこと。サウンドクリエイトさんでも扱っているこのケーブルを、さっそくお貸し出し願ったのはいうまでも無く、それは、まぎれもなく、見つかりそうで見つからなかった最後の1ピースだった。

 接続して1曲聴いた瞬間から、私はカーマが大好きになった。電源ケーブルが好きになるなんて、おかしいのだが、でも、すごく気に入った。スピーカーはもう日本では売っていないようなので、聴く機会はないけれど、きっと素晴らしかったに違いない。クオリティは同価格帯のフィッシュとやはり同じくらいだろうか。その違いは、レンズでいえば、コンタックスのプラナーとゾナーの違いだ。プラナーはその透明感と繊細な描写で使う者を魅了するが、独特の色乗りと絵作りの妙はゾナーに軍配があがる。後者が私の思うところのカーマのケーブルだ。しかし、カーマには私の買った入門版と、豪華版があって、後者はおそらく、想像できないぐらいすごいのだろう。ピンきりとは良くいったものだが、それがまたハマる愉しさを煽るのだから恐ろしい。

 そして、ノリノリの音楽が私の部屋にもやってきた。デウ゛ィッド・サンボーンの久しぶりの新譜は、賛否両論あるようだが、サンボーン初心者の私にはちょうどいい具合。1曲目のcomin' home babyから、お腹の下あたりがモゾっとするようなワクワク。夜昼なく聴いて文句なく楽しい。聴いていると自然に踊りたくなるので、ちょっと広めのところでゆるりと聴くのがいい。5曲目のisn't she lovelyは神様スティービーワンダーの名曲。4曲目まででちょっと息が切れたあなたは、この曲でクールダウン、和みの1曲。ボリュームを落とせばお休みBGMにもいい。ラッセル・マローンのギターが隠し味になって、夢心地。お勧めの1枚です。
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