音の快楽的日常

音、音楽と徒然の日々
Vibroplex―Sounds for staying home--TorCH
 部屋の整理をするのが、最近楽しくなっている。ここ10年来、溢れるほどのモノに囲まれて生活してきたが、正直それが居心地が良かったし、モノを捨てることはなかなかできなかった。本当にお金が無い時に無理して買った本などは、もう用がにないとしても、気分的に処分が難しい。

 狭いなりに、音楽をゆったりと聴く空間を創ろうとして、ここ2週間の間、びっしりとモノの整理をした。どうしても処分できないものは実家に預かってもらうことにした。ほぼ100%本である。手元には、辞書類や詩集、写真集など、頻繁に手に取って眺める機会の多いものだけに止めた。これだけでも本棚がすっきりとして、部屋の圧迫感もなくなった。

 逆に、実家に置いておけなくて運び出していたモノの中に、高校時代、バイトして買ったバイブロプレックスの電鍵がある。念のため説明すると、電鍵とは、モールス信号を打つための道具である。私は、当時アマチュア無線に夢中になっていたが、それはモールス信号の奥深さにすっかり魅せられたからである。信号のやり取りの楽しさだけでなく、小さなW数でも遠くに飛ばせたため、海外との通信が電話形式よりもずっと楽だった。

 無線機自体は、クラブの先輩から譲っていただいた八重洲の古い球のもので、アンテナは松下のACケーブルを使った自作品。でも、なぜか電鍵だけは、このバイブロの高級品がどうしても欲しくて、かなり無理をして買ってしまった。当時の価格で2万円程度だっただろうか。

 銀のボディに朱色のパドルが付いている。もちろん美しい外観だけでなく、パドルのタッチをかなり微妙に調整できるため、コンテストなどで要求される、速く正確に、しかも疲れないで、を容易にする素晴らしい電鍵である。現在は、波を出していないので、本来の役割を果たしてはいないが、よく出来た道具というのはただ眺めていても本当に美しい。涼し気な表情が夏の暑さをやわらげてくれる。箱に大切にしまってあったのだが、しばらくは飾って眺めることにした。

 TorCH (トーチ)は、カナダ出身の女性シンガー、シーラを中心としたグループ。シンプルな演奏に、しなやかでコクのあるボーカルがゆったりとからむ。HMVで買い物をしていたときに、BGMでたまたまかかっていたのだが、棚のCDを選ぶどころではなく、無意識にカウンターへ。同じような人が結構いると、お店の人は嬉しそうに話していた。

 曲は、ガーシュインやジョビン、マイルスのFourまで、色とりどり。曲調もリラックスムードたっぷりのアレンジなので、眠れない夜のBGMにもぴったり。最近、女性ボーカルで注目のリリースが続いているが、実際に購入したものの中ではこれが一押し。このCDはインディーズ系のレーベルから出ているので、置いてある店はHMVやタワーなど限られたところのようだが、試聴盤も今なら出ていると思うので、ぜひ試されたい。
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いままで生きてたなかでいちばん幸せ―Peace--G.Robert & K.Barron
 いままで生きてたなかでいちばん幸せ

 このフレーズに思わずニコリとした方は、私と同年代かそれ以上のお歳の方とお察しする。

 先日まで開催されていた世界水泳ではメダルラッシュに沸いたが、私は随分前のオリンピックで若くして金メダリストとなった、その言葉の主を思い出していた。12か13の歳で、いままで生きてた中でとは何ごとかと揶揄する向きもあったが、私は素直に、彼女の喜びが受け取れて、自分のことのようにうれしかった。

 「今まで生きてた中で」

 私自身に、そうやって言い切れることは、何か一つでもあるだろうか。

 すぐ思い出せることで、ものすごく嬉しかったこと、というと、初めてロシア・ウクライナ方面に旅したとき、1年もかけて勉強した言葉が通じたことだった。最初の一言が、震えるように喉から絞り出されたとき。思いがそのまま伝わったような気がして、そのほんの一言の会話が、嬉しかった。

 でも、今まで生きてた中で、なんていうフレーズは出てこない。私なりの言い方に換えると、ああ、生きてて良かった!ということになるのだろうか。あの感極まる舞台でのインタビューで、あのフレーズがいきなり出てしまう彼女、お会いする機会があったら、ぜひ今ならではの心境をお聞きしたいとも思う。

 私がSoul Eyesの演奏で最も好きなのは、コンコードからのアルバムに収められているスタン・ゲッツのもので、それはもう随分の間、変わっていない。2番目というのもこれまではなかった。だが、今日の新譜、ジョルジュ・ロベールとケニー・バロンのデュオアルバムPeaceには、その2番手となる魅力的なSoul Eyesが入っている。

 私は、このアルバムを購入するまでは、スタジオ録音だと思っていたのだが、実はジェノバでのライブ盤。録音も素晴らしいので、拍手が切れたあとはスタジオものだと勘違いしてしまいそうなくらい。一発勝負の緊張感をスパイスに、ぴったりと息のあった演奏が何とも心地よい。まさにPeaceというタイトルに相応しい、話題の新譜、ぜひお勧めしたい。
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渋谷を歩く―Modern nostalgie--Barney Wilen
 職場の先輩に、街歩きが大好きで、歩いた街の様子を克明にメモに記すのが日課という方がいた。その方曰く、「若い人は谷の街に集まる」のだという。坂を下るようにしてぞろぞろと若者が集まる様子が想像できるようで、何となく理解できるような気もする。

 仕事がはねてから、久しぶりに渋谷に出てみた。人が多いのは当たり前だが、最近悪い事件が続いて、どことなく印象が悪くなっていたので、斜に構えてしまっているのか、人混みはすごいのに、あまり活気を感じなかった。非常にダウナーな雰囲気。駅前の交差点では、屯する若者に向かってか、「悪質なキャッチセールスに気をつけましょう」のアナウンスがとって付けたような女性の声で連呼される。空しさが頬を通り過ぎる。

 渋谷に行こうと思ったのは、最近また再発著しいチェットの輸入盤を漁るためだ。新宿辺りの方がたくさんありそうな気がするが、これはと思うのが結構見つかるのが渋谷である。ディスクユニオン、HMV、タワーレコードと1時間もあれば回れる距離にお店があるので便利だし、それぞれに特徴があるので、探しやすい。

 チェットのスペイン盤は、音質はいま一つも、内容的に聴いてみたいというアルバムが多い。これまで、音悪いよ、という知り合いのレコメに従って手を出さなかったが、今日は数枚ゲットした。HMVにはその他、デジパック仕様の再発モノが大量にあり、選び放題で、しかも、この間買ったばかりの「枯葉」のアメリカリマスター仕様、しかもプラス1曲の計8曲が収められたディスクがあった。さすがに買い控えたが、5秒間くらいは悶絶した(笑)。恐るべしHMV。一方、枚数は大したことないが、これはというものが見つかるのがディスクユニオン。今日も、これまでチェットのディスコグラフィーにも載っていないようなタイトルがあって、これも捕獲した。きっとブートだろうと思いつつ、お金もないのにホイホイ堕ちてしまう。
 
 じゃあ、タワーレコードは行かなくてもいいじゃない、と言われそうだが、ここは、他店とくらべて、価格が安いディスクが結構見つかる。HMVだと同社の通販を利用した方が安く手に入ることが多いが、見たら聴きたくなるのが人情。また、ネット上のリストでは再編集モノかどうかわからなくても、店頭ではジャケットをチェックできるので、ダブリも防げるため、その保険の意味もあって、やはりリアル店鋪での買い物も手を抜けない。

 陽もとっぷりと暮れて、本当なら街にいるはずのなさそうな子供が結構うろうろしている。最近の報道は、あながち大げさでも無さそうだ。彼女らは、どうしてこんな街に引き付けられるのだろう。何の因果か知らないが、どうやら私は歳を食い過ぎていて、この街の色香に迷うことはなさそうである。

 色香、というと、私はバルネ・ウィランの音色を思い出す。癌で亡くなる前の最後のアルバムは、なぜか妙に明るくてかえって涙を誘うが、今日のモダン・ノスタルジーは、潰れたアルファジャズの音源が再発された、うれしいリリースの一つ。なぜか、バルネの隣に女性が侍っているジャケットのアルバムは気に入ることが多く、ヴィーナスから出ている作品もその一つ。また選曲も、リカード・ボサノバやウエイウ゛、テンダリーなどなど、ファンの多いスタンダードナンバーばかり。都会の喧騒を思い出しつつ、甘い音色に浸る幸せ。どちらかというと、女性の方にお勧めしたい夜の1枚である。
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名馬の墓場と呼ばれた国―Conciert--Jim Hall
 アメリカのブラッド・ホース誌に、アメリカのチャンピオンホースの哀しい結末が掲載され、かなりの反響を呼んでいるという。その馬は、大きな期待とともに種牡馬として日本に輸入された。しかし、その期待に反して産駒の成績は振るわず、大きな種馬場から小さな牧場へと引き取られた。年に数頭の種付けで、しかもやってくる花嫁もそれなりというと、成績が上がろうはずもなく、昨年、処分されたとのことだ。

 経済的に果実を生まない馬が処分されるのは、競馬とそれを下支えする馬産の本質は経済活動であることを物語っている。北海道の牧場辺りに何年か通ってみれば、馬の処分は特に珍しいことでもなく、またいちいち感情を引きずっていては、牧場経営を危うくする。馬産は、運転資金を大量に必要とするのにも拘らず、収入が上がるのはある一時期に集中するという季節変動の大きさを抱え、しかも相手は生き物であるという、リスクの三重苦を抱えている。そこには、一競馬ファンの干渉=感傷の余地など、微塵もない。

 以前は、馬の扱いのスキルが欧米に比べて低く、馬の性格にあった接し方ができなかったために、もともと気性の荒い種牡馬が手を付けられないほどの荒馬になり、結局種牡馬として活躍させることなく死なせてしまったということが随分とあったようだ。そんな環境でしかないのに、金の力にモノを言わせ、チャンピオンホースを海の向こうへと連れ出し、不幸にさせたと、アメリカやヨーロッパのファンからさげずまれる、日本とはそういう国だったということだ。

 最近では、日本の馬の力も強くなり、海外のビックレースで優勝することも少なくない。それに、ここのところ、有名な種牡馬の死亡が相次いでいたので、大牧場で手当てのかいなく病死というのならまだしも、成功させることができずに死なせたというのが、ある意味、格好の話題を提供したのかもしれない。

 欧米では、競馬ビジネスは日本ほど成功していない。閉鎖の危機にさらされている有名競馬場の名前もちらほらと聞こえてくる。しかし、ファンは素晴らしいと思う。日本では、ある時期、それこそ何かが狂ったようにファンが騒ぎ、社会事件になったりもするが、熱が冷めるのも早い。私は、芦毛の名馬Caroとリファールの子供達を追い掛けているが、Caroの孫であるラローシュが優勝したドイチェ・ダービーでは、やはりCaroの熱心なファンの方と交流することができ、大変驚いた。Caroのラインは日本にたくさん入っているため、その男性も、ぜひ日本の競馬をじっくり見たいと話していた。ちなみにラローシュの一つ上はジャパンカップを勝ったランドである。

 今日の1枚は、ここのところ買い直したアルバムからピックアップ。ジム・ホールのアランフェスは特に説明の要らない名盤だが、現在入手できるのはリマスターの廉価盤だけで、しかも、2000年にリリースされたこのディスクもメーカー在庫切れの店頭在庫のみ。私は、こういう有名なのは後からでも購入できると後回しにしていたのだが、何店か当たって押さえることができた。オリジナルCDも手元にあるが、気をつけて扱っているつもりでも微細な傷が増えて音質も落ちていたため、慌てて買い直したというのが本当のところだ。

 このアルバムは、たった4曲しか収められていないが、どの曲の演奏も素晴らしい。ドン・セベスキーのアレンジなので、どこか曇ったような渋い雰囲気なのだが、ジムの音色の気怠さがベストマッチ。さらに、その旋律にチェットのトランペットが映える。4曲目のアランフェスは約20分の長い演奏のため、おやすみソングにぴったりである。これから暑い夏がやってくる。快眠を誘ういい音楽がたくさん必要な季節。今日のアルバムはそんなライブラリにぜひ加えていただきたい1枚である。
よもやま | - | - | author : miss key
意気に感ず或は阪神の粘り腰―А был ли мальчик?--Алла Пугачёва-Любаша
 今夜は前から楽しみにしていたセミナーに参加した。「人生、意気に感ず」をモットーにしている人気講師の語り口はなんとも軽妙で、最初は長いかと思われた3時間があっという間に過ぎた。テーマは「商人の挑戦する特権」。チャレンジ、トライすることなしに、諦めてはいないか。トライして失敗することの方が最初から諦めるよりもずっと価値がある。さらに成功すれば、それはさらに素晴らしいことだ。

 私は、日頃、商店の経営者を相手に仕事をしているので、逆の立場で、今日のセミナーは大変意義多い時となった。モノを売ることを生業としている人々には、これ以上ないとまで言われる消費の冷え込み。それをどうやって乗り切って行くのか、単なる精神論ではない、まず何から取り組むか、取り組めるのか、取り組もうとするのか、ということを様々な切り口で講師は明らかにしてみせる。人気講師などという言い方は軽きに失するが、なるほど人気があるわけだと大いに納得した。

 興奮気味に帰宅すると、阪神がまた11回ウラのサヨナラゲームを決めていた。0-1。最近、大量得点の、「一体何のゲームですか?」と思うような試合が多いプロ野球だが、こういう手に汗握る接戦を戦い抜き、勝ってしまう粘り腰には脱帽である。阪神は、どちらかというと低迷している時期が長かったが、そんなチームを負けない阪神にしたのは、やはり星野監督の力によるところが大きいと思う。あきらめない、トライし続ける精神力。そして、変革と継続。小さな変化も積もれば大きい結果につながる。まさに、今日のセミナーの骨子を具現化した例だろう。

 ア―ラ・プガチョーワ&リュバーシャのこのアルバムは、曲はもちろん、この企画そのものが凝りに凝っている。ア―ラ自身のプロデュースによるものだが、ここではネタばれするとつまらないので、黙っておこう。それに、ギターの音の厚みと音圧。ロシアンポップスのCDは、中域が厚い割には音そのものは薄い傾向にあるが、このアルバムは、これまでのア―ラのアルバムとは違った世界を見せている。どっしりとした音作りは、ア―ラのファンでなくとも、かなり刺激的で受けること間違いなし。全20曲、捨て曲なし。去年の話題盤の一枚だが、今日のような興奮をクールダウンするには、このぐらい強烈な音楽じゃないと巧くない。さあ、もうすぐ本当の夏。お気に入りの音楽を連れて街に出よう。そんな気にさせるお勧めの一枚である。
pop & rock (russian and other slavic) | - | - | author : miss key
涙のK-19―Bare--Annie Lennox
 しばらく音楽を聴き通しだったので、今日は買いだめておいたDVDを一気に観た。買うのだけは、リリース時期をチェックして買い逃さないようにしているのだが、観る、となるとそれだけの時間がなかなか取れないでいた。

 さて、今日数本観た中で、マット・デイモンのボーン・アイデンティティ、そしてK-19がお勧め。ボーンの方は、スリリングでスピード感溢れるスパイもの。マットが記憶喪失のエージェントに扮してのストーリー。落ちは見えるも、安心して楽しめる良質のアクション映画。で、後者は超おすすめ。実話に基づいて作られたドキュメントタッチの作品ゆえ、評価は分かれるだろうが、淡々と展開する映像は、次第に胸に迫るものあり。控えめの演出と音楽も、かえって沁みる。ハリソン・フォードの「らしさ」十分で、ファンならずとも楽しめる作品。ただし、潜水艦ものにありがちな、例えばマシュー・マコノヒーのU-571やショーン・コネリーのレッド・オクトーバーのような戦闘シーンはなし。

 「壁」が堕ちてから、口外できなかった事実が少しずつ明らかになりつつあるロシアだが、この物語もそのようなエピソードの一つ。関係者の試写において、「潜水艦の中ではさすがにコサックダンスを踊ったりはしない」と失笑をかったということだが、概ね好意的に受け入れられたとの話もある。K-19のエピソードは、クールスクの悲劇がそれほど前の事件でないだけに、余計迫るものがあるが、そうでなくとも泣けるものがある。いや、こういう作品で泣くとは思わなかったけれど、観た後の爽やかさは一体何だろう。まだ観ていない方にはお勧めです。

 で、今日のBGMは、ユーリズミックスのボーカリストがソロで久々に出したアルバム。透明感があって、ストレートなボーカルのアニーの声は、それだけで説得力がある。ジャケットと中身がちょっと合っていないのじゃないかと思うが、むしろ店頭ではこのジャケットを無視して試聴してみて欲しい。1曲目のA thousand beautiful thingsが一押し。声がまるで楽器のように歌う彼女の声に一撃で魅了される人も少なくないのでは。

 もし、注文をつけるとすれば。ロシア映画ファンなら、K-19のクルーがみな英語で話しているのに違和感を覚えるだろう。私もその一人で、できればロシア語でやってもらいたかった。よく旧ソ連邦をだしにした米国娯楽映画が腐るほどあったけれど、そういうものとは一線を画した内容のいいものだけに、そこだけが惜しい。艦内に飛び交う言葉がロシア語ならば、一層この作品の重みをましただろうということを添えて、今日の1枚とともにお勧めしたい。
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行きつけの店がなくなる―Новые люди--Сплин
 このところの梅雨寒で体調を崩していたので、午後は休みをとって街に出た。有楽町界隈は、10年以上も通勤した場所なので、いつ行っても気持ちが落ち着く。何がある、というわけでもないのに。
 
 社会人になりたての頃、奮発して通った中華店があった。スープ付のチャーハンが600円。それは14年前から全く変わっていない。そして、今日もそのはずだったが、ドアには「臨時休業」の看板。先週立ち寄ったときも、その前の週も、やっぱり臨時休業だった。一体どうしたのだろう。

 窓から覗く限り、店内はそのままである。ならびに新しい中華店が出来て、競合が大変だなあと思っていた矢先のことであり、ちょっと嫌な予感がする。思えば、行きつけのJAZZ喫茶がどんどんと閉店したり、別な業態に変わったりして居場所がなくなっているので、こういうほっとできる―味の変わらない―店がなくなると、本当に寂しい限りだ。

 有楽町のその店も、ひょっとしたら復活はないかもしれないが、そうだとしたら、あと一回だけ食べたかった。何しろ、給料をもらって初めて外でした昼食だった。そこそこ収入が増え、時には1000円くらいのランチを楽しめる身分になった今も、件の店のチャーハンは好物であり、なかなか忘れられない。

 ノーウ゛イエ・リュージは、スプリーンの最新作。なんといっても表題曲のノーウ゛イエ・リュージが一押し。彼等の公式サイトに全曲の歌詞が載っているので、興味のある方はぜひ訪問されたし。スプリーンは、これまで私自身、あまり聴き込んでこなかったが、「ささやかな幸せ、ささやかな人生」をふと考えたとき、聴きたくなるのがなぜかこのスプリ−ンだ。ジャンルで言えばポップス寄りのロックになるだろうか。

 変化の激しいロシアにあって、彼等のようなメッセージを大切にした歌を歌うグループが増えているように思う。かつてノーチラスのように、やや斜に構えたようなバンドが多かったのが、今は、基本的に前向きで音楽に暗さがない。ゆえ、歌詞がわからないと、もっと軽くて適当な曲に受け取れたりするのだが、実は痛烈なメッセージソングだったりする。そんな変わり行くロシアを、私も現在進行形で見守って行くしかない。そして、そんな彼等のような音楽を拙い文章であっても紹介し、私なりにシグナルを放ち続けて行きたいと思う。
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リマスタリングって―Пятый океан--Премьер-министр
 昔買ったCDの音を久しぶりに聴くと、なんだか音がこもったような、どこか遠くの音のように聴こえることはないだろうか。詳しい人に聞くと、CDの録音技術や制作の進歩は著しく、レコードから切り替わったころのCDとは比べ物にならないほど良くなっているとのことだ。JAZZのアルバムは、特に、録音の面から再度編集し直して、リマスターという形で再発されることが多く、私もこのリマスター盤がとても気にいっている。

 何も難しいことはない、聴き比べるだけで答えは出る。同じ再発でも、ただの紙ジャケとか、あるいは未発表音源が2曲付いて他は同じ、というようなのではない。リマスターの場合は、その種類や元のCDにもよるが、音のメリハリが向上しているので、聴いていてもノリノリ具合が段違いである。前はあまり好きではなかったタイトルも、リマスター盤に乗り換えてから、愛聴盤に変身したのも少なくない。

 リマスターにはいろんな種類があるらしく、また時期が新しいのと古いのとが混じっていて、リリース時期などをチェックしないと、同じタイトルでもリマスター盤が複数出ているときがあるのでややこしい。 20ビットとか、24ビットとか、あるいはデジタルK2のようにブランドが付いていたりする。はたまた、有名な専門家の名前を出して****によるリマスターというようなのもあったりする。私はJAZZ雑誌などを読みふけっていた頃の影響もあってか、ルディ・ウ゛ァン・ゲルダーというだけで、十分満足だったりするミーハーであるが、人によっては、K2などのリマスターはかえって音質が悪く、SACDじゃなければ普通のCDの方がいいという方もいて、一概に品質向上とは言えないようだ。

 最近、リリースが活発なプリミエール・ミニーストルの新譜「第5の海」。何曲かはすでにシングルカットでヒットしていて、新譜なのにそれほど新鮮さはないのだが、懐メロのリメイク「青い霜」が3曲目に入っていて、これが流れたときは、さすがに驚いた。あまりに巧くはまっているからである。彼等の目指すハーモニーというのは、一体どのあたりにあるのだろうと思いながら聴いている。Boyz ll Menの影響が大きいのかなと思っていたのだが、まだその方向は定まっていないようだ。いつものアルバムのように、この1曲、みたいなのはないかわりに、全体を通して聴いて、とてもまとまりのよい内容になっている。通勤のBGMにもってこいの1枚、プリミエールの入門盤としてもお勧めしたい。
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My Chet Baker―The Legacy--Chet Baker
 初めてチェット・ベイカーの歌を聴いたのはいつだっただろうか。NHK-FMのジャズ番組は、ラジカセを買ってもらった年から欠かさず聴いているので、小学校に上がったときには既に耳にしている可能性はあるが、チェットの名前を覚えたのはもう少し後のことだ。

 小学生の頃のマイ・アイドルは、スコット・ハミルトンである。オーレックスというオーディオメーカーのCMにコンコードJAZZオールスターズの来日が絡んだものがあって、そこで顔と名前を覚えたのだった。何しろ、彼の演奏する枯葉が好きでたまらなかった。スインギン&スイートの極致と甘いルックス。恋するに十分すぎる。

 私の両親はビッグバンドファンで、私もジャズはカウント・ベイシーやトミー・ドーシーから入ったのだが、上述のFM番組で気に入ったアーティストが見つかると、丁寧にエアチェックしてカセットに納めたものだ。その番組で、チェットのボーカルは「中性的な声」と紹介されていた。FMとはいえモノラルのラジオで聴いているから、声は歪んで聞こえていたかもしれないが、最初は子供なりに「甘ったるい声で歌う人だなあ」と感じた。しかし、何曲か聴いていくと、それはとびきり上等な、とれたての蜂蜜のように甘美でアンニュイな声だ。大人の香り―チェットを聴くことは、私にとって背伸びをすること、だったに違いない。

 私が好むプレイヤーは、薬漬けで身を持ち崩し、その後復活するというパターンの人が多い。両親は、そういう子供の好みをあまりいいこととは思っていなかったようだ。そうこうしているうちに、中学を卒業し、高校へ。そこでハマったのはJAZZ喫茶である。夏休み中は、夏期講座に通うと称して京都の親戚宅に身を置き、しゃんくれーるなどの有名店に通った。今思えば、貴重な経験で、何にも代えがたい想い出だ。時々、リクエストした曲やアルバムを思い出して、CDを聴いているが、あの時期は私の人生で一番幸せな時期だったのかもしれないとさえ思えることもある。今のように、残された録音を辿るのではなく、ライブで新譜を聴くことのできた時期だから。ただ、ヨーロッパを彷徨っていたチェットのことは、専門誌でもあまりよく書かれていなかったように記憶している。

 薬で身を持ち崩す、というところが、母性本能をくすぐるといったら言い過ぎなのだが、私には魅惑の要素であった。真似をしようなどとは思わなかったが、そういう生き方の背景に興味が湧いた。そして、自然と彼の音楽にも深く深く入って行く。浴びる、とか漬かるといった具合に。私が生まれた頃にはすでに、チェットは絶頂を極めた後で、その後の波乱の人生の幕開けを迎えている。時系列で録音を追っていき、それに自分の歳を重ねると、複雑な気持ちになる。それは、今この歳になっても、当時となんら変わっていない。

 今日の1枚は、レガシーシリーズの1枚目。1曲目のHere's that rainy dayが全てと言えるくらい素晴らしい演奏で、チェットの魂が空高く吸い込まれて行くかのような錯覚を覚える。87年11月、ビッグバンドとの共演によるドイツでの録音だ。説明はいらない。ぜひ、多くの方に聴いてもらいたい珠玉のアルバムである。
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真空管ブーム―Красная кнопка--Ундервуд
 私が生まれた頃は、ちょうど真空管と石が入れ代わる頃で、物心付いた頃には、小さなソニーのトランジスタラジオで何か聞かせてもらえるのがとても楽しかったことをよく覚えている。真空管ラジオは当時も高価だったから、家には当然なかった。実際にその音を聴いたのは、かなり大きくなってからである。

 私自身、真空管にこだわりがあるのは、私がアマチュア無線をやっていたからということもあるが、それ以上に、私の中学・高校時代のあだ名が「真空管」であったことに由来する。反応が遅く、ぼんやり遠くを見ていることが多かった私を揶揄してのことだが、当時は、真空管という言葉がまだポピュラーだったことを示してもいて、興味深い。今時の若い人は、真空管など余程の趣味でもない限り、あまり目にすることはないだろう。

 そう考えると、最近の真空管アンプのブームは、一体どこから来たのだろうと思う位だ。製品の数も、ひょっとすると以前より多く、いろいろなメーカーの製品が専門店に並ぶ。私のオーディオに対するイメージも、子供の頃最初に聴かせてもらったTRIOだったり、あるいはよく通ったJAZZ喫茶のマッキントッシュ・ブルーだったりするが、自分の家に欲しいと思ったのは、QUADのアンプである。

 QUAD2というモノラルのアンプは、そのデザインもすばらしいが、回路がシンプルで美しい。オリジナルはKT66管だが、それを今でも手に入りやすいKT88管に変えて自作しやすいように簡略化した回路図は、頭の片隅に残っているし、実際に作られて店頭で活躍しているのを聴いたこともある。ただ、このアンプ、思いっきり熱を吐くし、そのことによる故障も少なくない。要するに、手がかかるし、それなりの知識と根気を要求される。うちのLINNのアンプたちとは正反対と言ってもいいだろう。

 現在は輸入されていないが、このモデルをリファインした新製品がプリアンプの22とセットで売られている。やはりKT88なのだが、なんといってもデザインが素晴らしい。真空管アンプというのは、単に懐古趣味にとどまらない、独特の良さがあるが、だからといって今のブームは一体なんだろうと不思議に思う。当時のオーディオブーム時には収入がなくて買えなかった層が、今それなりの年代で収入もあり、買い求めているということなのだろうか。

 今日取り上げるのは、ウンデルウ゛ートの2枚目のアルバム。ロシア語読みだとウンデル・・・だが、語義はアメリカのタイプライター、アンダーウッドのこと。男性2人のユニットで、ポップスなのだけれど、プロフィールにはDoorsの影響を受けているとある。ロシアの若者の間で人気急上昇中のグループだが、どこか懐かしさが入り交じったメロディと、何げに深い歌詞の醸し出すサウンドは、まるでラビリンスのよう。思いっきり「入れる」音楽だ。レディオヘッドのように神経症的でもなく、最初はかなり耳辺りがいいのだが、知らないうちにハマっている。おととい届いたばかりの新譜の1枚なのだが、今日までに何回リピートしただろうか。

 公式サイトには、音源もあるが、なぜか巧くダウンロードできない。まだ情報が少ないが、雰囲気は伝わると思う。今のロシアンポップスは、雨後のタケノコの如くいいバンドが出ている。今年後半も、新譜漁りが楽しみでならない。去年はリリースも少なくて不満だったので、それを取りかえして余りあるビッグイヤーになりそうな予感、この日記でもどんどんと紹介していきたい。
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