音の快楽的日常

音、音楽と徒然の日々
阪神復活―Bossas and Ballads:The lost sessions--Stan Getz
 死のロードと呼ばれる夏の甲子園を避けての連戦で、たった4つしか勝てなかった阪神タイガースが、ホームに戻って連日の大勝を重ねている。私は阪神のファンではないのだが、あまりにも豪快な勝ち方に、見ていて胸の空く思いだ。

 強打者がホームランや長打で得点するのもいいが、素晴らしいのは、新しいスターが生まれていることだ。早川選手は、他チームで自由契約になってから阪神に入団し、這い上がってきた選手だ。そして一軍昇格、チャンスをもらった3度目の正直ならぬ3試合目に、大輪の華が咲き乱れた。そして、今日もまた、バックスクリーンへホームランが飛び出した。

 優勝するチームには、決まって代打できっちり仕事をする選手や、控えからチャンスを得て活躍する選手がいる。ラッキーボーイと呼ばれる選手がいたりもする。前年の最下位からミラクル優勝をした2001年の近鉄バファローズのときもそうだったし、確か、前の阪神の優勝のときもそうだったと思う。勢いも運も、全て味方をしてくれる。優勝するときは、そういうものかも知れない。

 ナイター中継を見ていると、ついつい興奮して疲れてしまうので、そんな夜には深く沁みるテナーの音色がぴったりだ。今日のアルバムは、スタン・ゲッツの未発表録音、しかも、スタジオ録音である。スタンも日本で人気のプレイヤーのため、日本企画のアルバムがたくさん出ているが、今年も、ウイズ・ストリングスのシリーズが紙ジャケ・リマスターで出たばかりだ。初CD化の作品もあるので、ファンには堪らないビッグリリースである。

 このアルバムは、晩年、最も息の合ったピアニスト、ケニー・バロンとベースのジョージ・ムラーツ、そしてドラムはビクター・ルイスとこれ以上ないメンバーによる演奏だ。89年の録音と、最晩年、すでに癌に冒された躯でのプレイ。そのテナーの音色は、静かで深みがあり、そして伸びやかだ。「ピープルタイム」での渾身の演奏ともまた違った、とてもリラックスしたスタンのテナー。得意のソウル・アイズは別テイクがボーナストラックとして収録されていて、いずれの演奏も素晴らしい。ピープル〜では魂の叫びのような、ある意味では聴くのが辛いほど迫るものがあったのに対し、このアルバムの演奏は、空高く吸い込まれて行くような清々しい気持ちにさせてくれる。秋空の深い青に包まれるような心休まる1枚、ぜひお勧めしたい。
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火星近づく―Цензура--Самозванка
 6万年ぶりに火星が地球に近づくというので、そこここで、天文台に人が集まり、「謎の閃光」が見られるかもと盛り上がった。天体に詳しい友人に「何か願い事をすればかなうか」と聞いたら、彼は「いなくなって欲しい嫌なやつを連れて行ってくれるよう祈りましょう」(笑)などとメールしてくるので、久々に大受けしてしまった。

 近づくといっても、地球との間にはかなりの距離があるので、何かの映画のように、迫ってくるという感覚は、通常の生活のなかでは全くないわけだが、「何か」を期待してしまうのはなぜだろうか。流れ星ひとつにしても、人はいろいろと思うのだけれど、星はきれいなものだと信じていたので、理科かなにかの本で、アナボコだらけの星の表面を見たときには、随分がっかりしたものだ。

 星観というと、小学校の夏のイベントとして、夜、学校に集まり、観測をしたのを覚えている。キャンプファイヤーでフォークダンスをしたり、先生方がお化け屋敷をやってくれたりと、田舎ながら楽しい催し物だった。夜集まるというのはこのときだけだったのだが、生徒はみな興奮気味で、先生達は大変だっただろう。ただ太陽が出ていない時間帯というだけで、気分がこうも変わるぐらいだから、星に託す思いも、そういうことと関係があるのかも知れない。

 何やら、物々しいタイトルとグループ名のアルバムが今日のBGM。タイトルのツェンズーラは検閲を意味する言葉で、サマズバーンカは、名前を偽って名乗る人のことを指す。ボーカルの女性は、キュートで瞳の表情が何ともエキゾチック。公式サイトにビデオクリップが2曲分アップされているので、見ていただくのが早い。ただし、物凄く重たいので、空いていそうな時間帯を見計らって。

 グループとしてはこれがファーストアルバムで、1曲目がシングルでヒットしたグリャーズヌィ・ポーウ゛ァダム。曲名も歌詞も重たいが、ノリがいいからまあまあ聴ける。ボーカリストの容姿とのギャップの激しさが、人によっては好き嫌いの分かれるところか。キャッチーにデビューしたはいいが、次が続かないグループが腐るほどある中で、彼女たちはどうだろう。ゼムフィラのサウンドがちょっと軽すぎて・・・という方に一聴をお勧めしたいアーティストである。
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オーディオ=人に言いにくい趣味?―Это игра--Таня Бланова
 人と話していて、ふと思うことがある。同じように音楽好きなのに、その音楽を聴くための装置にこだわる人間とそうでない人がいる。オーディオに凝るようになってから、いろんなサイトを見せていただき、少しずつオーディオ関連の知り合いも増えているのだが、そこで感じるのは、趣味はなんですかと聞かれて言いにくいのがオーディオということだ。

 別に、ラジカセでは音楽の良さがわからない、とは思わない。ただ、音楽のメディアに収められた情報量は膨大で、それを取り出して聴こえるようにするには、それなりの装置がいるし、そうやって聴くことで、演奏者や作り手の思いがより伝わるということが往々にしてあるから、やっぱりいい装置で聴くに越したことはない、と最近思うようになった。

 それは、単に装置にやたらとお金をかけたり、外国のブランドオーディオで固めることではないし、「力」まかせに思う音の出るシステムが組めるようなものでもない。いい音の出る装置は山のようにあるが、自分の好きな、気に入る音を出すのが、案外難しい。だから、それを趣味にする楽しみが生まれるのだ。

 でも、私が女性だから余計そうなのだろうが、「最近、オーディオに凝っています」というと、ぎょっとされてしまう。まあ、そういうぎょっとするような方には、その後どんな言葉を継いでも思いが伝わりにくいものだが、一旦始めてしまうとなかなかに愉しいので、近しい友人達にも布教している(笑)。似たような歳の友人達は、大抵、面倒な仕事を抱え、オーバーストレスでアフターファイブの過ごし方を大切にしている。寝る前に、ほんの少しの時間でも「いい音楽」を聴くことの効用は、彼らも認めるところである。

 ターニャ・ブラノワは、多作のアーティストで、1年に2枚出る年も少なくない。その場合は、1枚はロック・クラブ系、もう1枚はアイドル・歌謡曲路線と、彼女のファン層に合わせた性格の異なるリリースをしたりする。もともとロックでデビューした彼女だが、売れたのはアイドル路線に切り替えてからなので、彼女自身としても、複雑なのではないだろうか。時折、どちらが一体、彼女のやりたい音楽なのか、と思うことがある。

 今日のエータ・イグラーは打ち込み中心のクラブブームを意識したアルバムだ。1曲目がシングルカットでヒットしたパズバニーで、他は、残念ながら、あまり作り込まれていない曲が目立つ。粗製濫造までは行かないが、もう少しリリース内容を考えればいいのに・・・。彼女のように、良き時代のエストラードナヤの香りを残すアーティストが少ないだけに、プロモに振り回されないで欲しい。ささやかながら、応援していきたいマイアイドルの一人である。
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紅茶専門店を訪ねる―Ждёт тебя грудин--Сосо Павлиашвили
 取材で、吉祥寺の紅茶専門店にうかがった。東急百貨店の裏手にある静かな通りに面したビルの2Fにある小さな店鋪。ドアを開けると、穏やかな紅茶の香り。新鮮で、ハーブのように押し付けがましさのない、優しい香りだ。

 茶葉が何十種類と並べられ、一つ一つに丁寧に説明のPOPがつけられている。もちろん、店員の方はかなりの専門家で、用途や味、水色(すいしょく、と読むそうだ、ようするに、煮だした時の色)など客の好みに応じて、いいものを選んでくれる。よほど詳しい人でなければ、目移りしてかえってどれを買っていいか決まらないので、最初からアドバイスしてもらうのがいいかも知れない。

 紅茶の他、茶器や中国茶もあり、紅茶教室も年間30回ほど行われるそうだ。私は、風邪気味なので、マサラティに合う葉と美味しい入れ方を教わった。専門店ながら、手ごろな価格と量で売られており、どこかのデパ地下にあるような敷き居の高い店ではない。お店の名前は、リーフルという。小売専門ではなく、もともと、ホテルや高級レストラン向けに厳選された茶葉を輸入販売している卸企業であり、日東紅茶などのお店とは違った観点で品揃えされているので、お茶好きの方にはぜひお勧めしたい。

 静かな通りだが、だからといって人通りが少ないわけでもなく、吉祥寺という街はいろんなものがあって、歩くのが楽しいところだ。今日も、老舗の和菓子屋とか、これまで気付かなかった店を発見し、収穫があった。仕事なので、ゆっくりうろうろできず、午前中にて引き上げたが、秋になったら、ゆっくりと出かけたい。

 ソソの新譜は、なんと言うか、これまでの作品の中ではもっともポップで現代的な仕上がりになっている、古いファンにとっては、全然ソソらしくないアルバムだ。ある種の泥臭さと濃さが彼の唄を歌謡曲足らしめていたが、アップテンポでノリとタメをうんとアピールしたアレンジには、旧作の延長を想像していたリスナーを思わず仰け反らせるだろう。あか抜けた、といったらそれまでだが、彼のもつサービス精神たっぷりの唄が、場末のスナックのステージから、しゃれたクラブのライブへと飛び出して、さあ、これから一体どこにいくのだろうとワクワクさせる。バックの演奏も、作り込みの度合が前作、前々作とは段違い。

 あまり情報のないアーティストなので、この間どういう活動をしていたか分からないが、とにかく、ソソに対する先入観は捨てて、知っている人も知らない人も、今回はぜひ聴いてもらいたい。注目は、3曲目、ディアナ・グールツカヤとのデュエット曲、アルゴ。これは、何かのコンピレ盤にも入っていたりするので、耳にした方もいるかもしれない。ソソは、グリゴーリィ・レプス同様、メジャーデビューが遅かったので、アルバムは少ないが、各々の中身はすごく濃いので、どこから聴いても損はない。唄って踊れるこの1枚!一押しである。
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ジャケットは可愛い方がいい―Fugue around the clock--Amsterdam Loeki Stardust Quartet
 ジャケットとは言っても、もちろん、CDのジャケットのことだ。この間日記に書いたオーディオ雑誌に、お勧めディスク―たぶんこれらは、音楽として楽しいというよりは、オーディオ的に、音がいいとか録音がいいとか、そういう観点で選ばれることの方が多いのだろうが―の項目を読んでいて、はたと目に留まったCDが1枚。それが今日のBGMだ。

 アムステルダム・ルッキ・スターダスト・カルテットという長い名前の、リコーダーの4重奏グループは、その名の通りオランダを中心に活躍する、有名な音楽集団だそうだ。私は普段、クラシックなどはあまり聴かないし、特にリコーダー(要するにフエ、だ)の演奏ものなんて、初めて買った。では、何故買ったのか。ジャケットがしゃれていて、すごく可愛かったからだ。著作権がらみでここにはジャケットの絵を貼れないので、アマゾンかどこかでぜひ見ていただきたい。

 SACDのハイブリッド盤と普通のCDの二通り出ていて、価格は私の買った店では700円ほどしか違わないので、迷わずハイブリッドを買った。SACDのケースは、普通のCDのよりもしっかりしていて、価格の高さを納得させる。しかも中ジャケも裏ジャケも、抜け目が無くて、クラシックによくある堅苦しさが無く、私のようなクラ音痴には有難い。

 リコーダーにはいろんな大きさのモノがあって、音が重なるとオルガンのように聞こえるから不思議だ。何とも言えない懐かしい音。確かにそうなのだ。エレクトーンでも、音色を作るとき、フルート系を重ねると、オルガンになる。パイプオルガンの原理からしても、まさにその通りなわけで、フエというと何だか軽々しいが、リコーダーはこんなに素晴らしい音色の楽器だとは、恥ずかしいが、今まで知らなかった。

 買った直後に、どんな音楽かと思い、早速ポータブルCDで聴いたら、これまた驚き。なんと、リモコンに曲名が出てくるようになっているのだ。最近のクラシックのディスクって、こんな風なのかと驚いた。いや、SACDがそういう仕様になっているのか。今日は取材が重なって、移動時間が妙に長かったのだが、その間、いいリラックスタイムになった。リコーダーの音は、ありふれた言い方だが、癒し系なのだ。

 このディスクにはマルチチャンネル仕様の音も入っていて、こちらもまた何か仕掛けがありそうだ。しかし、残念ながら、うちのシステムでは普通のCDのステレオでしか聴けない。チャンスがあれば、ぜひマルチでも聴いてみたいと思う。

 リコーダーで思い出したことが一つ。昔、小さい頃、夜にフエを吹くと、蛇が来るといって親達がいやがった。学校の音楽の宿題で、どうしても練習しなくてはいけなかったのに。でもその一方で、蛇の抜け殻を財布にいれておくと、金運が増すといって喜ぶ。大人は随分と勝手なもんだと子供心に呆れてしまった。

 そろそろ、夏休みも終わり。宿題ができていなくて焦っている子が大勢いるだろう。最近は、宿題の仕上げを「外注」できる企業があるというから、驚きだ。もっとも、つまらない宿題に時間を費やすよりは、せっかくの夜、家族でいい音楽でも聴いた方がよっぽど良い。田舎暮しをしみじみ思い出させるリコーダーの音色。たまにはこういうのもいかがですか、というお勧めの1枚である。
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チョコレートを凍らせる―7000 над землей--Сюткин и Ко
 私にとって、最高のお菓子は、なんといってもチョコレートである。小さい頃は、歯が弱くて余り食べさせてもらえなかった分、自分で自由に買える歳になってからというものの、家の中にチョコレートを欠かしたことがない。

 チョコレートの最高の食べ方は、やっぱり凍らして食べることだろうと決めつけている。板チョコはもちろん、「パイの実」のようなチョコを使ったアイテムまで、なんでも冷凍庫に入れる。もっとも、味が良くなるとかいうことではなく、食感の問題である。固い状態で口に入れるのが何とも旨味を誘うのである。実際、溶けかけたチョコレートなんて、食べる気がしない。

 最近は、スーパーの目玉商品によくチョコレートが並ぶので、まとめ買いしているが、同じような食べ方をしている人は一体どのくらいいるだろう。私は、意外と多いのではないかと思っている。

 今日も、出たばかりのオーディオ誌を見ながら、チョコレートを食べている。モノを考えるときというのは、エネルギーが要るので、まだ用語など慣れない雑誌を読むのにはそれだけ馬力を要するということか。書店にはまだ並んでいないが、オーディオの店には先に並ぶので、それを見つけてからは、秋葉原のオーディオ店で購入している。今日などは、店員さんから怪訝な顔をされてしまった。スピーカーのクラフト専門店なので、女性客などは滅多にこないからであろう。でも、あんなに嫌な顔をしなくてもいいのになあ、と思うのは私だけだろうか。

 久しぶりに、スュートキン&カンパーニアのライブ盤を聴く。お得意のグルーで、のっけからノリノリのアルバムだ。95年リリースだが、当時は、ジェフとかサユースとか、老舗のレーベルがまだまだ元気な頃。スュートキンのバンドとしての魅力は、スタジオ録音よりは、むしろライブ盤の方がより堪能できる。さすがに今から探すにはしんどいアイテムだが、見つけたら絶対に買い!☆☆☆☆☆の超お勧め盤である。
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シービスケット―ゴールデン・ベスト--寺尾聡
 話題の本を1冊。「シービスケット」は、1930年代後半に活躍した1頭の競走馬シービスケット号を巡る人間模様とビスケットの活躍を小説風にまとめたドキュメンタリーだ。結構厚い単行本ながら、2時間ほどで一気に読んでしまったのだが、読後感の爽やかさといったら。いや、ちょっと、涙あり、なのだが、ネタばれになるので、ここでは触れない。

 シービスケットは父方の祖父がマンノウォーという稀代の名馬。その成績はさることながら、人を寄せつけない気性の激しさも折り紙付きで、彼の子供たちは、競争成績に比例して、そのキツさも受け継いでしまう。シービスケットは孫の代ながら、やはり気難しさは天下一品だが、激しさとは逆のキャラクターで、調教師やジョッキーを悩ませる。

 磨けば光ると分かる人には分かるビスケットの秘めた能力に、まるで引き寄せられるかのように、名もない調教師、ジョッキー、そして競走馬のオーナーの人生が一つの荒縄に編み込まれていくような不思議な物語。時は大恐慌を背景とする一大転機を迎えたアメリカ。シービスケットはその運命の人々と巡り逢い、頂点を極めんとするのだが・・・。

 脚の歪んだ馬、というと私はじっとしていられない。このことは以前の日記にも書いた通りだ。シービスケットは祖父の血を受け継ぎながら、見た目はそれとは程遠い、小さくて見栄えのしない馬だったようだ。しかし、その血はもとより、馬は気持ちで走るということを改めて気付かせてくれる。日本でいうなら、オグリキャップをもっと泥臭くしたような感じなのだろうか。古い時代の話しながら、丁寧な取材に基づいたノンフィクションで、馬が好きでなくても、十分堪能できる。完成度の作品ゆえ、ぜひ手に取ってご覧いただきたい。

 昨日、雨の中をクオリア体験に行ったついでに買ったディスクが今日の1枚。寺尾聡の作品は、サベージ時代のものはさておき、アルバムは2枚、シングルは数枚出ているが、CD化されていないシングル曲がいくつかあった。それを含めてのリマスターベストが、このゴールデン・ベストだ。

 アルバム2枚がCD化されたときのものと比べても、リマスター効果抜群と言う感じではないのだが、聴きやすくはなっている。「ルビーの指輪」があまりにも有名なので、詳しい説明は要らないが、一通りのヒット曲は全部収まっているので、これから買い直しという方にはお勧めだ。

 ベスト盤でリマスターものがあと1枚出ているが、これとの違いは、初CD化の5曲が入っているかどうか。特に、カムバックしてからの2枚は、いい意味でサベージ時代のほんわかした雰囲気が残っている曲なので、古い頃からのファンなら迷わずこちらだろう。久しぶりに歌謡曲を楽しんだ休日。当時の想い出など思い浮かべながら聴きたい1枚である。
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待てる時間と待てない時間―In memory of--Archie Shepp with Chet Baker Quintet
 もう長らく待っている本が何冊かある。ひとつは、ロシアのアカデミー編集によるフレーブニコフの全集。6巻だての予定で出版済みは2冊。予約を入れたのは、もう10年近く前の話だから、3年に1冊程度は出ている勘定だが、3冊目は本当に出るのかどうか。編集の中心人物が急死して第2巻の出版も危ぶまれただけに、難しいのかもしれない。

 フレーブニコフの作品は、出版状況が極めて悪く、初期の頃の出版物はミスプリも多いということで、信頼に足る資料や原典を丁寧に選び、分析する作業が前提になっている。どれがオリジナルなのか、という点については、多くの研究者の地道な作業の中で検討されているとのこと。もう10年待ったから、あと10年くらいは待てそうである。

 もう一冊。松本零士さんの「ニーベルングの指輪」シリーズ最終巻である。大判のサイズで出ているものが3巻のジークフリートまで出版済みだが、この後、やはり3年くらい滞っている。Web上での執筆も止まっているようなので、これまたまだまだ先の話になりそうだ。「宇宙戦艦ヤマト」に係る著作権裁判が双方に権利ありということで、一応の決着を見せたこともあって、多少氏に時間が生まれ、執筆再開となることを願ってやまない。

 待った、といえば、AMAZON.DEから届いた一連のCD。日本では手に入りにくくなっているチェットのタイトルが10枚ほど届いた。丁寧な梱包で壊れているものなど1枚もなく、ワールドワイドで安心して購入できるサイトとして、一押しのアマゾンである。

 今日はその中から、晩年にアーチー・シェップとただ2日間だけ相見えたライブ、フランクフルトとパリでの録音を収めた「In memory of」を聴いた。アーチーの熱に煽られてか、晩年のチェットには珍しい、骨っぽい演奏が何とも魅力的。チェットの、ある意味で、相手次第と言われる所以か。

 収録は88年3月13日と14日の2日で連続している。最晩年の音だけに、ファンとしては特別な思いで耳を傾けてしまう。ハロルド・ダンコなどと比べて硬質なホレス・パランのピアノのせいか、全体を乾いた空気が支配する。お勧めは最初の3曲、フランクフルトでの演奏だ。

 梅雨に逆戻りしたかのような雨続き。しっとりと音楽に包まれて過ごす夜のひとときは何にも換え難い。アーチーとのセッションはチェットの作品の中ではあまり取り上げられることのないアルバムだが、ファンならずともぜひお勧めしたい、静かで熱い1枚である。
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夏負けしないために―Playing by heart--Chet Baker/John Barry/Chris Botti
 競馬の世界では、夏の暑さで体力を消耗し、体調を崩してしまうことを「夏負け」と呼んでいる。私もここ3年ばかり、それまでは経験したことのなかった夏負けに喘いでいる。バテる、という表現のほうがより当たっているかもしれない。

 私は冷房が苦手なため、暑い夜でも扇風機もかけなければ、エアコンも切った状態で眠る。ゆえに、寝苦しさから眠りが浅くなり、体力の回復をさまたげているのかもしれないが、それがわかっていても、体を冷やすのは悪いという固定観念と、事実、冷えは辛いということから、どうしてもエアコン嫌いが治らない。おかげで、うちの電気代は夏でも4000円を超えるかどうかという程度である。

 さて、夏負け対策を考えてみた。まずは、しっかりとした食事と水分の適度な補給。取り過ぎもいけないが、水分は重要。それに、外食は控え、しっかりとおかずを作って食べること。ずぼらな私であるが、意外に食事はきちんとしている。にら、にんにくやもやしなどの野菜をうまく使いながら、美味しく食べられる工夫をしている。炒め物が簡単だが、この時期にこそ、じっくり煮込んだスープがかえって効くようなので、週末はいつもスープでリカバリーを促進中。にんにくのクラッシュは忘れずに。

 それから、最近気になっているのが、マイナスイオン。科学的に証明されていることかどうなのかは分からないが、マイナスイオンは体にも良く、また精神的な面でも効果があるようだ。巷で話題の岩塩の固まりを使ったランプを、私も試してみようかと思っている。間接照明らしきものが全くない部屋なので、インテリアにも丁度いい。オーディオマニア向けに、マイナスイオンを発生させる装置というのが販売されているが、ああいうのは、ちょっと避けたいと思う。なんとなく、だが。

 音的に、私にとって涼をとれるのが、トランペットとギターの軽やかな音色だ。今日は、ジョン・バリーのサントラで、クリス・ボッティとチェットの演奏が聴けるプレイング・バイ・ハートをチョイス。クリスの音色は特に夏向き。透明感があって、耳に優しい。ティル・ブレナーだと少し温かめにふれていて、どちらかというと寒い季節向きだと勝手に考えている。

 マイ・ラブ・チェットの演奏はたったの3曲しか収められていないが、特に4曲目のテンダリーはしっとりとした音色で、静のチェットが楽しめる好演。肝心の映画は、ショーン・コネリーとジーナ・ローランズ演じるラブ・ストーリー。絵といっしょに楽しむも良し、サントラ単独でしみじみ聴くも良し。日頃JAZZを聴かない方にもぜひお勧めしたい1枚である。
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カブラヤオー逝く―Rachmaninov Symphony No.2+Vocalise--V.Ashkenazy and Concertgebouw orch.,Amsterdam
 華麗なる逃亡者、カブラヤオーが亡くなった。31歳。那須に設けられた馬の養老院で静かに暮らしていた晩年は、それほど注目されたわけではなかったが、逃げて勝ち続けた平場9連勝の記録は、未だ破られない金字塔であり、個性溢れる活躍馬を覚えている方もすくなくないだろう。同時期に牝馬2冠の、同じく逃げて観客を魅了したテスコガビーがいたので、より印象に残りやすかったかも知れない。

 専門誌の記事によると、カブラヤオーは、スピードに任せて走っていたというよりは、かなり気が弱い性格で、他の馬が怖くて逃げていたのだという。馬込みに入って強いレースをするのは、彼にはおよそ無理な話だと、当時のジョッキーは語っていた。否、そう否定的になるのではなく、類い稀なスピードを生かすという意味でも、逃げるというスタイルは彼に唯一無二であったに違いない。

 テスコガビーは若くして突然の心臓麻痺により急死し、その子が走るのを見たいというファンの夢はかなうことがなかったのに対し、カブラヤオーは、競走馬としては幸せであったかもしれない。私が最後に彼に会ったのは、約10年前。シンザンやハイセイコーが、どことなく人を寄せつけない気高さを感じさせる馬であったのに比べ、彼は人あしらいのよい、大きな瞳を潤ませて愛想をふりまいてくれる穏やかな馬だった。彼がいた静内種馬場は、人よりも馬にとっていい環境を、というポリシーが貫かれた素晴らしいスタッドである。そんな環境と馬に理解あるスタッフに囲まれて過ごした種牡馬時代。行き先が分からなくなる競走馬が大多数の中で、やはりカブラヤオ―は強運に恵まれていたと言えるだろう。

 彼の素晴らしい競争生活を振り返りながら聴くラフマニノフの2番。特に第3楽章のアダージョが伸びやかで聴きごたえ十分。アシュケナージの望郷の念だろうか、殊にロシアの作曲家の作品では、胸の奥底に沁みる何かがある。アシュケナージがピアノを弾き、リン・ハレルのチェロで聴くウ゛ォーカリーズは、飾り気のない演奏ではあるが、聴く者の心を穏やかにしてくれる。もう走らなくていい。星になった競走馬に贈る曲としては、これ以上ない。81年及び84年録音と多少古いが、ラフマニノフを気軽に楽しむ1枚としてもお勧めしたい。
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