音の快楽的日常

音、音楽と徒然の日々
秋風が運ぶもの―Облака--Андрей Губин
 この季節、空気がどんどん透明感を増していく。眩しさの残る光の中、街を歩くのもまた楽しい。モスクワではもう黄金の秋は過ぎたかもしれないが、私がロシア語を習ったベラルーシ出身の先生は、モスクワも良いが、表参道の金色はそれに勝るとも劣らないと、東京の秋をまるで詩を詠うように表現してくださったのを思い出す。秋はやはりセンチメンタルだ。

 当時、私はある詩人の作品を、ウクライナ語訳からロシア語に訳すというようなことをしており、その作品には植物の名前が頻出、随分学術的な呼び名のものもあって、彼女の手を煩わすことが少なくなかった。その後、何となく忙殺されて、レッスンも止めてしまったが、今思えば貴重な時だった。

 ロシアの詩や歌には、空を流れ行くものを取り上げた作品が多い。ある種の物悲しさからか、或はどこからともなくやって来て、留まることも無く去って行く姿に夢見るようなこともあるかも知れない。マリーニンの「鶴」などは、まさに胸を締め付けるロシアの歌心そのもの。そして、やはりよく出てくるのが「雲」だ。

 グービンのオーブラカ(雲)は、アップテンポでノリの良い彼らしい歌。このアルバムは2000年にリリースされているが、曲そのものはもう少し前のようだ。エストラードナヤらしさを残しながら、クラブブームも無視できない、そんな過渡期的なラブソングが今聴けばどこか懐かしい。

 この時期、グービンの出すシングルはほとんどヒットチャートに載っていたが、この後、失恋してその痛手が癒えるまでぷっつりとステージから離れてしまったのは有名な話。そんな弱々しさがこの作品では、逆に若さと相俟って魅力であるが、最新作では音楽のクオリティも増してぐっと成長したアルバムを引っさげてのカムバック。そんな彼も、遠く流れる雲を眺め、ぼんやりしたりするのだろうか。私は彼の脱アイドルが少し(否、かなり)残念だったりする。こんなにノレるナンバーを聴いていても、心はどこか寂しい。やっぱり秋なのだ。
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謎解き―( )--Sigur Ros
 数日前の日記で、「思い出せない」アルバムについて書いた。あれから、やはり気になってあれこれとGoogleで検索し続けた。よく思い出してみると、2つのアーティストの情報がごちゃ混ぜになっているようであり、確かなキーワードを少しずつ引っぱり出して、ようやく答に行き着いた。

    ( )・・・・・Sigur Ros

 シガー・ロスというグループだったのだ。しかもアルバムタイトルが、何と読むのか不明の( )。そんなもんだから、記憶するのが厄介だったのだろう。しかも私が見たジャケットは、白いプラで( )の部分をくり抜いたカバーが上からかかっている正式なものではなく、ブックレットが透けている状態のものであった。それはモノクロで、確かに岩肌のようにも見えるし、そうじゃないと言えばそうだというような抽象的なデザインなのだ。

 どうやって見つけたのか。グループ名がシで始まるということ、アイルランドもしくはアイスランドのグループであること(後者が正しい)、レディオヘッドと何らかの関係があることの3つがヒントとなった。シガー・ロスは、たまたまレディヘの新譜を検索しているときに、彼等のライウ゛で前座を務めたシガーの話題が関連して出てきたのであった。ここを思い出せば一発だったのだが(笑)。

 あるお店では、このバンドはオルタナティウ゛ロックに分類されていたが、このアルバムを聴く限り、一頃流行った環境音楽に似ている。そして、このバンドを知るきっかけになったレディヘよりもずっと私好みである。ただ困ったことに、ブックレットには、曲のタイトルはおろか、Sigur-Ros.comという文字以外の情報は何も書かれていない。聴く分にはノープロブレムだが、人に紹介するときは、ちょっと厄介である(笑)。

 よく分からないことだらけのアーティストだが、公式サイトでは曲も聴けるようになっている。なんでもDVD付きのシングルも出ているそうなので、早々に入手して見てみたい。ピンクフロイド同様、絵は相当凝っているのではないかと期待できそうな雰囲気のアルバム、秋の夜長に眠れない時などは、格好のBGMとしてぜひお勧めしたい1枚である。
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簡単じゃない―Something cool--June Christy
 もつれる将棋ほど、見ていて胃の痛いものはない。今日は王座戦第3局。互いに星を分け合っての、おそらくは今日が全体の流れを決める大一番。それだけに、見えないギャラリーの溜息がネットの画面から漏れだしてきそうな雰囲気である。

 まだ結果は出ていない。結果が思わぬ方に出たら、とても日記どころではないので、書く意欲があるうちに書く。勢いだけで書いているようなものなので、電池切れを起こすと、途端に何もできなくなる。

 熱い頭を冷ますのに、何か無いかと思って手に取ったのが、ジューン・クリスティのサムシング・クール。このアルバムはいかにもCD企画で、オリジナルのモノラルバージョンと、ステレオバージョンの2枚がカップリングされている。でも、何度聴いてもモノラル版の方がいい。自然というより、不自然じゃないというのがより近いだろうか。人の声を温かく、人の声らしく再生するということは、実はとても難しいことなのだろうか。そんな理屈抜きに、クリスティの歌声は落ち着いた抑揚で魅惑的。私も彼女のように歌えたらと、聴く度に思うのだ。

 最近、10代の頃に聴いたJAZZ喫茶の音を思い出しながら歌を聴いている。部屋に響く音は全くキャラクターが違うものだが、場所さえ許せば、当時聴いたような音の出る装置を揃えたいなどと思ったりもする。食べ物は小さい頃食べた味を一生忘れないものだというが、音もそうかもしれないと感じる、今日この頃である。
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思い出せないのは苦しいこと―Ray Brown, Monty Alexander & Russell Malone
 後もう少しのところで思い出せない、そんなことの1つや2つ、誰にでもあることだが、この「もう少しのところで」思い出せないのが、なんとも胸のつかえる思いがして、苦しいものだ。

 私にとってのそれは、あるロックグループの名前が思い出せないことだ。特徴は判っているのだ。アイルランド出身で、プログレで、叙事詩のような長い曲が多い。ジャケットもどこかの風景をそのまま切り取ったような味気ない感じのもので、そんなに枚数は出ていない。

 このグループを紹介していたのは、入院して長く治療を続けている10代の男性である。彼はネット上の日記の中で、彼等の楽曲の1つ、1つがいかに自分を癒してきたかに触れ、その独特の重々しさのあるサウンドを一聴されたい旨、整理された言葉で淡々と語っていた。自分の好きなものを紹介するときは、つい声にも筆にも力が入りそうなものだが、その静謐ともいえる文章があまりにも印象的であった。そして、機会があったらそのグループのCDを買おうと思っていたのだ。

 ふとしたことで、そのことを思い出したはいいが、肝心のグループ名が思い出せない。それどころか、アイルランドと記憶しているが、アイスランドの間違いだったかも、と心もとない。いやはや。もしも、何かこういった特徴のあるグループについて思い当たる方がいらっしゃったら、ぜひご一報いただければ幸甚の極みである。

 今日は秋分の日。ここ数日ですっかり涼しくなったので、衣替えに追われた1日だった。結構疲れる作業なので、一息つきながら聴くのは、静かで、どこか懐かしくなるような優しい音楽がいい。今日のアルバムは、演奏者の名前がそのままタイトルになった、レイ・ブラウンの最後の録音である。

 サポートするモンティのピアノも、ラッセルのギターも、決してベースの前に出ることがない。かといって控えめなのかというと、そうでもない。主役をしっかりサポートしながら、溶け合うような演奏が素晴らしい。このアルバムの初回盤にはボーナスCDが付いているが、これがまた素晴らしい。レイ・ブラウンのテラーク時代のベストテイク集である。騙されたと思ってぜひ買っていただきたい1枚である。
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気持ちは体で―48--Чайф
 先日、オーディオを通じて知り合った方のところに、音を聴かせていただきに行った。オーディオ愛好家の方とのオフ会は初めてだったが、皆さん、気持ち良く私のような初心者を受け入れて下さって、大いに楽しんだ。

 その会で面白いと思ったのは、素晴らしいオーディオの奏でる熱い音楽に、皆じっとして聴いていることだった。私などは行儀が悪いので、ついつい手や足をばたばたさせたくなるが、隣近所に習って(笑)おとなしくしていた。きっと、耳に全神経を集中させているのだろう。1曲ごとに洩れる感想も、的を得ていて、何を聴いても喜んでいる私などは、そういったやりとりにもすっかり感心した。

 しかしながら、家に帰ってくると、いつもの通りである―音楽を聴いていると、自然に体を動かしたくなる。じっとしていられないのだ。もっとも、クラシックなどを聴いていると、さすがの私もじっとうなだれて聴き入るのだが、ポップスなどはいっしょに歌ったり、踊ったりするのが楽しかったりする。その意味では、うちのオーディオは偉大なるラジカセと化している(笑)。

 チャーイフは男性4人のロックバンド。84年結成当時は、ギターデュオだったが、途中から現在の構成になっている。ルックスを見ると、少々重そうな音が出そうな雰囲気だが、ノリはうんと軽い。ロックでも一番ポップス寄りのサウンドで、そのせいか、ファンも幅広い。タイトルの48というのは、彼等の年齢なのか?どうかはわからないが、ロックもこのくらい余分な力が抜けて自然体だと、うたた寝BGMにも合いそうだ。熱いというよりは、ほっと温かくなるチャーイフの最新盤、ポップスファンにお勧めの1枚である。
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モデルルームを冷やかす―幸福の場所--谷村有美
 久しぶりに涼しい朝だと喜んでいたら、あっという間に天気が崩れてしまった。また台風が来るらしい。慌てて洗濯を済ませ、雑誌を買いに外に出た。

 毎月20日前後は、いろいろな雑誌が出るので慌ただしい。といっても、必ず購読しているのは「優駿」ぐらいで、あとはよほど内容が気に入ったものだけ買うようにしている。節約という意味もあるが、置き場所に困ってしまうからだ。雑誌はあっという間に溜まる。かといって、そう簡単に捨てられない。捨てられるくらいなら、最初から買わない。

 今日は、カメラ雑誌(日本カメラ/アサヒカメラ)とスイングジャーナル、CDジャーナルをチェック。雨だから部屋の中で暇つぶしするのに、まあどれか1冊買おうと思って目次をざっと確認した。そういえば、ここのところ、新譜は店頭で漁る程度で、丁寧に調べていないので、結構話題のアルバムを買い損ねていたりする。といっている先から、CDジャーナルを何ページかぱらぱら見たら、既にリリースされているのを知らなかった盤が。日頃の情報収集も大切なので、今日はCDジャーナルを買うことにした。

 書店を後にしてぶらっと駅の周りを歩いたら、今建設中のマンションのモデルルームが目に付いた。そういえばチラシが入っていたなあと思い、慌てて帰る用もないので、冷やかすことにした。否、少しは住居が欲しいという気持ちはあるが、大きなローンを組む勇気がないだけの話である。あるいは、オーディオに凝ったりして、住む環境も無視できないなあと関心が高まっていたので、自然と足が向いてしまったのかも知れない。

 で、このマンション、思いのほか内容は良かった。資金に余裕があれば買ってもいいかも知れないと思うぐらいに。でも、さすがにオーディオを買うのとは桁が違う買い物になるので、あまり実感が湧かなかった。というよりも、まだこの都会に根を下ろす勇気が少し足りないのかもしれない。きっと、そうなのだ。雨音は、そんな私をせせら笑うかのようにどんどんと強くなる。

 そんな私を励ましてくれる音楽が、新しい友人から届いた。そのうちの1枚が、今日のBGM、谷村有美の「幸福の場所-しあわせのありか-」。彼女の声は、何ともチャーミング。そして、詩のひとこと、ひとことが大切に歌われているせいか、住処を決め損ねた(笑)私にも、とても心地よい。歌の多くは、若い女性の内心を露にしたもので、私が10代だったら、また違う感想を持っただろう。このアルバムは数多く出ている彼女のアルバムの中では、初期の頃の作品になる。

 全10曲のうち、お勧めは5曲目の「雪の扉」と7曲目の「瞬きの数ほどの偶然」。94年リリースとほぼ10年近く前の作品ながら、古さを感じさせない内容。シングル曲に適当なのを合わせてアルバムにしているようなものとは一線を画している。ジャケットも豪華版で、ロシアンもこのくらい凝ってくれるといいのになあと思わず溜息が出る。久しぶりに日本語の歌をじっくり聴いた休日、心温まる1枚である。
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魅惑のトランペット―Say it--Dominick Farinacci Quartet
 移動の途中、少し時間ができたので、書店をふらっと覗いた。平積みの作り方などにその店の特徴があって、小さくても主張のある品揃えに、ああ、町中でもこんな本屋さんがあるんだと、何げにほっとした。

 単行本を手に取るほどの時間はないので、文庫の新刊をざっと眺めたら、新潮社の記者の手になる数々の殺人事件のルポ集が目に留った。この忙しくて疲れている時期に何もこんな本を読まなくても、という声がどこからともなく聞こえてきそうだが、そう思いつつも、その本を購入した。

 帰宅すると、むっとする熱気が出迎えてくれる、暑い季節の嫌な儀式。しかしながら、三方窓のあるマンションで、熱気がうまく逃がせるので、少し救われている。冷たいものを飲んで一段落して、早速、先ほどの文庫を読み出した。

 私は学生時代、刑法のゼミにいたこともあって、事件やその公判記事などには、無意識に目を通している。だから、この本に取り上げられていた13の事件は、それほど旧い事件ではないためにいずれも記憶に残っているものばかりであった。しかし、プロの記者により、背景の隙間が埋められ、または言葉を持たない者の代わりに、「思い」を代弁されたかのような読み物は、私にページを繰る手を休ませることがない。

 内容からして、どうしたって良い読後感が得られる物ではないが、人の情念の深さには、改めて恐れ入る。表面的には、金銭のトラブルや、色恋の縺れだったりするが、いずれの事件にも共通しているのは、想像を超える自己愛と業の深さだ。そして、学生時代にも感じたことであるが、起きてしまった事件の被害者にとって、法は余りにも無力である。それは卒業して10年以上経った今でも、大して変わっていない。

 しかし、当時と異なるのは、あまりに暗い穴に堕ちた人にとって救いはないのかと、ふと立ち止まる自分がいることだ。思わず目を伏せて顔を手で覆う。哀しさとも辛さとも違う涙。ただ、静かに。

 待ちに待った新譜が、今日のドミニク・ファリナッチだ。少なくとも、チェットが逝って以降、最も好きな楽器であるトランペットでこれと思う音楽が見つからず、迷い道にでも入ってしまったかのような時間があっという間に15年。ファリナッチのデビュー盤は確か今年の1月にリリースされたが、その「マンハッタン・ドリーム」を聴いて、何とも言えない胸騒ぎがしたのが記憶に新しい。まるで、初恋のようなざわめき。

 余りに甘美な音色で思わず目を閉じる3曲目 I'm a fool to want you、そして次の黒いオルフェで、私は完全にノックアウト状態(笑)。ライナーを読むと、ドミニクの目標は、クリフォード・ブラウンだとか。至極、納得。こうなったら是が非でも彼の演奏による「クリフォードの想い出」を聴きたいのは私だけではないはず。セカンドを買った初日というのに、次のアルバムがさらに待遠しい、魅惑のトランペット。部屋の灯を落として静かに聴きたい、贅沢な1枚である。
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出会いはいつも突然に―Обратная сторана земли--Смысловые галлюцинации
 久しぶりに、中古カメラ市に行った。新宿の京王百貨店の催事場である。さすがに4日目ともなれば人は少ないだろうが、ブームの去った中古カメラのイベントとはいえ、通路の広さが目立つのには驚いた。おかげで、「やあ、久しぶりだねえ」とそこここの店員さんから声を掛けられる始末。さすがに、オーディオマイブームのせいで、カメラに回す予算がなく、カメラ店巡回もよほどのことがなければしないでいる。

 クラシックカメラを好きな友人曰く、人が少なくて寂しいと。仲間と会えるビックイベントの一つだったのだが、みな、各々に忙しいのだろう。良く考えれば、当時からすれば、それなりに公私ともに立場を得て、時間もままならないでいるのは、当然だ。それだけ、時間が経ったということだろう。

 今日は何か予感がして、思いきって出かけた。会場で見るカメラ店はほぼ決まっていて、私の好みのカメラを取り揃えている店はごく限られている。富士越カメラさんでは、プラカメラのかわいいのに目が留った。でも、これは件の友人がゲットした。彼はこの手のカメラが守備範囲であり、行くべき人のところに行ったという感じだ。私も背中を押してしまったが・・・。

 次に向かうは早田カメラさん。浅草の知る人ぞ知るカメラ店だ。今日は社長も奥さんも店に出て、バリバリ接客している。お客はみんな、社長さんたちとの会話も楽しみにやって来る。ショーウインドウには、バルダが鎮座しており、昨日までは専用のモーターもあったが、売れてしまったのだとか。うちのバルダマチック2は、モータ非対応なので、そんなものを買った日には(笑)、数少ない対応ボディを捜しまわることになる。でも見たかったなあ。

 目を左に右にと眺めていると、四角の可愛らしいカメラがあるではないか。PRAKTI 2。上部にプラスチックのカバーがかかっており、距離計の絵表示がでかく描かれている。そのイラストがなんとも可愛い。で、そのマークを見ると、人が1人、3人、山、とだんだん遠い距離を表しているのだが、その隣には馬に乗った人の絵があった。「これは何?」スポーツモードがあるカメラなんて、この時代にはないだろうに、と訝しく思い、気になるので、見せてもらったら、ビックリ。速写モードだったのである。

 しかも、おもちゃカメラだと思ったら、とんでもなかった。AEのモーター内臓で、ずっしりと重い。レンズはメイヤーのドミトン40mm。早田さんも、このカメラの完動品は初めてだという。なめらかなモーターの動きと独特の質感。マッキュオンで調べてみると、1のタイプしか載っていないのだが、60年の製造となっているから、2はおそらく60年代初期であろう。

 壊れているのがほとんどなのは、モーターの電池が原因だとのこと。当時、安定した電池が東ドイツでは手に入りにくかったのか、不安定な電池がモーターを焼き付かせてしまい、だめになるケースが多かったそうだ。しかし、カメラの設計はちゃんとしており、動作の感じもすごくスムーズで音も良い。私は、早田さんから手渡されたこのカメラを手放すことができなくなった。お買い上げである。

 帰宅してじっくりカメラを見てみると、いろんなところにギミックがあって、何とも言えず楽しい。見た目だけでも十分買う価値があったのだが、オリジナルのケースデザインがまた振るっていて、前にはあのペンタコンマークが付いている。出会いは突然やってくる。クラシックカメラの場合はいつもそうだ。ここのところ金欠なので、もう少し高かったら諦めたところだ。思わぬ安値の理由は、社長さん曰く、壊れやすいオートマチックタイプには、高い値段は付けられないとのこと。良心的といったら、これ以上のものはないだろう。いい買い物ができて、気持ちがぐっと明るくなった。

 スムイスローウ゛イエ・ガリュツィナーツィーは4人組のロックバンド。不条理系といえば、そう言えなくもないが、テクノっぽいサウンドに、彼等はメッセ―ジを重々しく乗せて歌う。だからといって、聴いていて不思議と肩が凝ったりはしないが、狙いはややパンキッシュなところか。余計なところに力が入っていて、前に紹介したウンデルウ゛ートとは対局をなすが、荒削りながらなかなか聴かせるサウンドだ。ロシアンロックでやや新しめを聴きたいという方にはお勧めのアルバムである。
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ものさしは種々あれど―Durufle Requiem--Mattei・Hoffman St.Jacob's chamber choir
 昨日からの蒸し暑さに耐えきれず、伸ばそうと思っていた髪を切りに、いつものカットハウスに出かけた。ここのマスターは職業柄もあってか、情報通で、カットしてもらう1時間の会話がいつも楽しみでならない。で、今日のテーマは、「1.5テラ」。

 なんのことかと思われるだろうが、話題はマスターの友人、動画マニアの方のハードディスクの容量のことである。最初は、「Macも安くなりましたね〜」、とか、大半の人がウインドウズユーザーであり、ここしばらくはワームの襲来への対応に追われたという人々を横目に見ながら、「ああMacでよかったと思いつつ、話題の輪に入れないという一抹の寂しさがありますねえ」、などとやっていた。で、ハードディスクも安くなりました、などと振ると、「すごい話があるんですよ」。なんと、件の動画マニア氏は、1.5テラのディスクを用意し、夜な夜な映画のダウンロードに余念がないという。いくら安くなったって言っても、1.5テラとは。ところで、1テラは1,000ギガ。ひえー。うちなんか20ギガで余裕なのに。

 もっとも、動画はファイルサイズも大きいので、このブロードバンドの時代、そう驚く話ではないのかもしれないが、その氏曰く「私なんて大したこと無い、友人のAは5テラだから。」と、シラッとしていたそうである。

 上には上がいる。それを何かの言い訳にして、自分を納得させることは少なくない。最近感じるのは、そういう、物差しというのはひと各々で、しかも、その物差しは定規とは違って、人の都合で伸びたり縮んだりと「時と場合によって可変」ときているから厄介だ(笑)。

 私も最近、オーディオを買ったりと高い買い物をしたので、もっと凝っている人を引き合いにだして「自分などは大したことはない」などと、言い訳したりする。そういう自分にハッとするのだ。「私は一体、誰に言い訳をしているのだろう。否、したいのだろう」と。

 カットハウスの帰りに、HMVを覗いた。クラシックのデモでかかっていたのが今日の1枚。BISというレーベルの30周年記念ミッドプライスシリーズという中の1枚で、なんと私には珍しいコーラス集だ。DURUFLE(Eの上に点がつく文字)という音楽家はどういう方なのかはわからないが、とにかく、澱んだ気持ちがすっかり洗われるような爽やかな合唱に、一聴して魅了された。

 何でも、以前ラジオで放送されたとき、アルバムタイトルなどの問い合わせが殺到したそうで、今回は再発ということになるようだ。価格も1300円ほどと財布にも優しいのがうれしい。この蒸し暑さに辟易しているみなさん、クラシックが好きで無くてもかなり良い睡眠導入剤になるはず。1回呑みに行くのを我慢するまでも無く買える、うれしいアルバム。ぜひお勧めしたい。
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夏の終わりのマンゴー―Sacred Love--Sting
 今日は最後の夏休みを取った。ここのところの体調不良を回復させるための貴重な1日。薬では風邪が治りきらないので、ビタミンCを集中的に摂る。これも、タブレットとかではなく、新鮮なフルーツ類が一番いい。栄養価としても優れているマンゴーは、そういう意味でなくとも大好物であるが、このところ、美味しそうなものを見つけては食べている。

 今日のは、フィリピンマンゴー。小さめで果肉も少ないが、安価なのでありがたい。食べ過ぎは良くないと何かで読んだが、何ごともそうだろう。マンゴーと言えば、石垣島で飲んだマンゴージュースがそれ以上ない美味で忘れることができない。オキナワマンゴーの甘味は、嫌みが全く無く、かといって物足りなくもない。果物の王様の一つだと思う。

 まとまった仕事が少し片付いたので、昨日帰りに買ったStingの新譜をゆったりと聴いた。月末に出る輸入盤の方がずっと安いので、そちらを予約してあったのだが、国内盤のクレジットを見ると、ボーナストラックに「コーネリアス・リミックス」とある。600円以上の差額をこの前まで気にしていたのに、まっすぐレジへ(笑)。聴いてみて思ったが、このボーナス3曲は大きいと思う。特に、Shape of my heartのライブ版。

 今回のアルバムは、前回から確か4年ほど開いて、待ちに待ったファンも少なくないと思うが、私自身の期待からすれば、少し内容が違っていた。もっと、シンプルな曲を想像していたのだけれど、逆にしっかり作り込んだ感じで、だから、いかにも日本のファン向けという「3曲」が口直しのような感じで大事なポイントになっている。

 とはいえ、これはSACDのマルチ録音が入ったハイブリッドCD。私はCDレイヤーでしか聴けないので、この楽曲の本質は、多分このマルチで聴かないと分からないのかも知れない。単純に、狭い空間に音が詰まりすぎて聴くのがしんどい、というような印象は、そういうことがあるのかも知れないと思っている。

 だんだんと、SACDプレーヤー購入へと押しやられているような予感(笑)。といっても、CDプレーヤーも当時は出だしから4年以上経って購入した私だし、新しいものになかなか飛びつけない自分がもどかしくもある。冬休みまでには、適当なプレーヤーを買って聴いてみようかとも思うのだが、さてどうなることやら。せっかくの新譜なのに、いろいろと考えさせられてしまった。そんなこんなで最後の夏休みもあっという間に終了。私の夏も、ようやく、終わった。
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