音の快楽的日常

音、音楽と徒然の日々
レコード屋をはしごする―Soft Journey--Chet Baker &Enrico Pieranunzi
 Chet Bakerが好きで、時間をかけてライブラリを充実させてきた数年間だったのだが、探しに探した結果、入手が可能なものはほとんど集まってしまった。本当なら、大変にハッピーなはずなのだが、何だか気が抜けて、寂しささえ感じてしまう。

 もともと、コンプリ―トが非常に困難なアーティストなため、全てを手にすることはハナから考えていないが、通常ファンの間で把握されている基本的なディスコグラフィーに載っているものは、いくら多いといっても数に限りがあり、またCD化されているものというと全体の何割かということになるので、集め始めた時期は遅かったのだが、だいたい大切な録音を手元において聴くことができるようになったのは、幸運としかいいようがない。

 それでも、 LPのみの発表で気になる作品はどうしてもあり、いろいろ気になっていたこともあって、ついに廃盤専門というようなレコード店をまわってみることにした。そういう店は大抵夕方から夜遅くまでの営業だが、いい時間に行くと、狭い店内がマニアで溢れかえっており、探すのが大変なことは想像がついたので、金曜の午後、休みをとって出かけた。

 ジャズ喫茶のマスターが何かの雑誌で推薦していた店やレコードマップという中古レコードを扱う店の情報誌をもとに3店ほど選んだが、そのうち2店は内容が非常に濃かった。今日の1枚をみつけることができた専門店は渋谷の老舗であり、ご主人が一人でやっている知る人ぞ知るというジャズ専門店である。狭い店舗にぎっしりと並んでいるLPレコード。目玉が壁に掛けられている他は、特に人気のアーティスト以外は大ざっぱにくくられ、宝探しのような状態である。私の目当てであるチェットは、ご主人も気に入っているアーティストのようで、1か所に集められていた。

 私の背中から、何を探しているのかとご主人が興味深く見ていたようだが、私が手に取った「Chet」はともかく、価格も決して安くはない「Soft Journey」が手放せないでいるのに、驚かれたようだった。Chetの作品を集めていると、探しにくさで言えばなんといってもイタリア盤であることには間違いがなく、このお店の他の客も同様のことを言っていたらしいので、みなさん、苦労して探しているんだなあと共感したのだが、特に、このエンリコとの共演は、ファン注目の1枚であった。何でも現地の知り合いからまとめて数枚を仕入れられたということで、ほとんど新品の状態でもあり、考えていた予算よりもずっと高いレコードにもかかわらず、私は購入することにした。ご主人からいろいろ質問されたが、やはり私のような年の客は少ないのか、面白かったようである。また「しっかり食事は摂りなさいね」と、すっかり”お見通し”の様子。初めてのお店でここまで見抜かれると参ってしまう。

 もう1店は、新宿にある新興店で、チェットの作品の数やレア盤の品揃えで言えばかなりのものだったが、音楽を楽しむファンよりは、珍しい廃盤を多少お金をかけても集めたいといったマニア向きのお店だったように思う。こちらでもやはり、LPのみのアルバムを数枚購入したが、次々と目の前に出されるアルバムのジャケットを見せていただいただけでも、大変有難いことだった。もっとも鮨店に通うように、付き合いと駆引きの巧さがないといいアルバムを安く買うことは難しいようで、私のような初心者では、高い買い物になりがちかも知れない。まあ、これも授業料のようなものかも知れないが。

 レコードプレーヤーもないのに、レコードなどかってしまって、と笑われそうだが、やはりレコードのジャケットは見ているだけでも至福である。また細々とではあるが、チェットの作品はレコードでの再発もあって、オリジナル盤にこだわりさえしなければ、或はマニア垂涎のEP盤などに迷い込まなければ(笑)、いい音を気楽に楽しめるんだろうなあと思う。もっとも、LPでしかリリースされていない作品は結構あるので、一部のブートレグや自主制作盤を除き、余裕のあるときに少しずつ集めてみようかと思う。

 今日のアルバムは79年から80年頭にかけて録音されている。1曲目に収められているソフト・ジャーニーはエンリコのオリジナルで、6曲中4曲が彼の手になる曲から選ばれている。とっておきの1曲は、マイ・ファニー・バレンタイン。この演奏のみ、エンリコとチェットのデュオになっている。いつか近いうちに、音を聴いてみたいと思う反面、針を落とすのが勿体ない感じもして複雑な気持ちである。レコードを手にして思ったのだが、レコードは、CDにはないモノとしての魅力が絶大で、最近になって多くのファンがレコードに注目している事実に納得がいく。単なる懐古趣味とは笑えない奥深さに、改めて魅了された1日だった。
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何故スネークマン・ショー?―ピテカントロプスの逆襲--スネークマン・ショー
 以前再発を逃していたスネークマン・ショーの初期ユニットの4作品がリマスターで今日また再発された。今回は、倒産してすでにないアルファではなく、 SONYからのリリースだ。一連のYMOの再発に関連してのことらしいが、さすがに予約など要らないと思い、発売日に店頭に買い求めにいった。ところが、レジ前にはスネークマン・ショーを手にしたお客が何人も並んでいたのでびっくりした。

 並んでいる方の年齢をざっとみてみると、私と同じか、ずっと若い世代の男性で、私のようにライブでラジオドラマでのスネークマン・ショーを知っている世代よりもひと回り以上若い人となると、一体何がきっかけでSSなのかというのが少し引っ掛かった。これもやはり、根強いテクノブームの影響なのだろうか。わからない。

 私は単に伊武雅刀さんの声が聴けるだけで幸せであるので(笑)、今回出た「急いで口で吸え」「戦争反対」「海賊盤」の3つも同時に押さえたが、いやはや、こうもハイファイな音で聴くと、また別の感慨があって面白い。もっとも、あのラジオ独特のフェージングの中で聴いた方が、ニュアンスがあって良かったりもするが、これはこれで、と思う。オリジナルと違う部分は、海賊盤で最初のカセットバージョンに1つ作品が加えられていること。レコードでの再発時に収録されたもののリマスターだ。あと、当然ながら、あの買いにくさでファンを悩ませたカセットバージョンのジャケは、当然ながら、レコードリリース時のものが採用されている(笑)。

 良くも悪くも時代の空気を缶詰めにしたかのような作品集。顔をしかめる向きもあるだろうが、こういうものを笑って楽しめた余裕のようなものが、今の時代には欠けているように思え、ギャグの辛辣さや面白みよりは、和みを感じてしまうのは、私だけだろうか。こういうものの再発は、やはり大歓迎である。ファンとしては、理屈を抜きにしてありがたい。スネークマン・ショーをまだ聴いたことがない方には、間違っても今日の1枚ではなく、急いで・・・の方をお勧めする。その理由は、ネタばれになるからここには書かない。何はともあれ、独りでこっそり聴いて愉しみたいアルバムである。
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84歳の出産―Chet in Paris vol.4 Alternate takes--Chet Baker
 宮崎は都井岬で、人間で言えば84歳と高齢の岬馬が出産し、無事子育てをしているというニュースに、思わず心和ませた。馬齢21歳の、個体番号「49」という名前のないその牝馬は、誕生日を目の前にした7月に無事子馬を産み落とし、産後の肥立ちも良く、見守る専門家を驚かせているとのこと。彼女はここ数年、出産記録はあったが、子供は残念ながらすぐに死に、まあ年齢が年齢だからと、その事自体は残念ではあっても驚くことではなかった。

 背たれと痩せの目立つその牝馬は、仔と共に草を食み、散歩を楽しんでいるようだ。暑い夏を無事に越したら次は冬。野生馬は、北海道などで繋養されている馬達などと比べると、どうしても寿命が短く、多分その49番にとっても最後の出産と育児になるだろうとのこと。私は、ある知人の方が「わが子が成人するのを自分は見ることがないかも知れない」と呟きながらも、遅くに出来た玉のようなわが子を思い、思わず笑みが溢れた、その表情を思い出した。

 とてもいい話を耳にして、今日は特別な蔵出しの1枚を選んだ。チェットのChet in Parisシリーズは、再発を繰り返してはいるが、全部で4枚のアルバムからなっている。現在出ている1枚ものはそれらのベストテイク集である。オリジナルのジャケに使われたチェットは、あまりにも若く、月影に浮かび上がるような憂いは、まだない。だが麗しきチェットには変わりなく、このオルタネート集に収められた2バージョンのAlone togetherは、いずれも選び難く、嬉しい悩みを与えてくれる。雨のなかなか止まない夜に静かに沁みるトランペットの音色に身を任せる、幸せなひととき。お疲れOLにぜひお勧めしたいアルバムである。
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分からなくなったら最初に戻る―Universe--Modern Talking
 ここしばらくそっとしてあった家のオーディオを、最初からセッティングし直した。電源ケーブルやタップなど、オプションで追加しているアクセサリもあり、どんどんやっていくうちに、出したい音が分からなくなる。そんなときには、素に戻ってやり直すのが一番いい、という話をうかがったからだ。

 春先にLINNのコンポーネントを買って以来、雑誌やお世話になっているショップの方のアドバイスを頼りに少しずつやってきたのだが、結局、何をやっても音は変わるので、試しながら進めるしかないのがオーディオである。特に、まだスピーカーを鳴らし始めたばかり。あまり神経質になっても仕方がないのだが、機器の位置確認をしながら接続をやり直した。教わったのは、ケーブル類を標準品に戻して取り組むのがいいということ。確かに、音の変化が掴みやすく、多少弄り過ぎのきらいがあることも判明した。

 結局、いろいろ試してみて、昨日までと比べ、1か所接続方法を変更した。それが功を奏したのか、ベールが一枚はがれたようにクリアーになり、素の音の良さを保ちながら音の厚みが維持できるようになった。昨日のお宅では、お客の来る1、2時間前まで調整をしたとのこと。私はまだ細かなところまではできないが、今日少しやってみて、新しく買った機器の良さを改めて知ることとなった。今度、また分からなくなったら、今日のように全部最初からやり直そうと思う。面倒なようで、それがきっと一番早い。このことは、オーディオ以外のことにも通じるように思う。

 冬の寒い日というのに、汗をかいたので、ここでは爽やかな音楽を。出身はドイツなのに何故かロシアで人気のあるデュオ、モダン・トーキング。ひと昔前のノリノリのディスコミュージック(クラブ、じゃなくて−笑−)といった感じで、緩んだり曇ったりするところがひとつもないサウンドだ。このアルバムは12枚目で、しかも最後のオリジナルアルバム。資料によると、13枚目はラスト・ベストアルバムとなっているからだ。

 良く分からないのは、このCD、スペシャル・ラシアン・ウ゛ァ―ジョンと記されているのだが、どこがラシアン版なのかが不明なこと。英語表記の英語ボーカルだし、ロシア語が書いてあるのはジャケにはさまったアンケート用紙ぐらい。最近は、ロシアの音楽事情もどんどん様変わりしているが、このモダン・トーキングはエレクトリックな打ち込み系なのに、どこか少し泥臭さが残っていて、それが受けている理由じゃないかと思ったりする。80年代ポップスに懐かしさを覚える方にぜひお勧めしたい1枚である。
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サウンドパーティにて―Samba do mar--Dusko Goykovich
 今日は、前から楽しみにしていたサウンドパーティに参加した。少し前に私のところにわざわざ聴きにきてくださった方のお宅だ。ゆったりとしたワンルームで、ウィルソン・オーディオというブランドの素晴らしいスピーカーを大切に鳴らされている。どのオーディオ機器も丁寧に扱われていて、ほこり一つ見当たらず、オーナーの人柄が表れているようだった。

 こういったオフ会では、皆さんが熱心に話されるのは、やはり機器の話題だが、私などはどちらかというと、聴いたことのない音楽やソフトが紹介してもらえるので重宝している。いい音楽を探すといっても、自分一人では限界があるので、やはり人から紹介していただく機会は貴重だし、なんといっても素晴らしいサウンドで聴かせていただけるのでこれ以上ないチャンスである。

 今回は、聴かせていただいた音楽もすばらしかったが、リラックスして音楽を聴けるよう、あらかじめ柑橘類の香りのするろうそくが灯されており、さり気ない中にも行き届いたもてなしに感激した。私のような不粋者には思いもよらないところだ。また部屋の間接照明にも凝っていて、音楽を楽しむのには、そうした心遣いもぜひ必要だと痛感した。

 いい音を求めると同時に、自分の気に入る音楽を探し求めている人も少なからずいて、何だかホッとする。オーディオどころか、最近は周りに音楽の話で盛り上がる友人が少なく、寂しいと思っていたところだったから。きっと、音楽どころではない、そういう心持ちの人が増えているんじゃないかと思う。心の注油が必要な人にこそ音楽を、と思うが、本当にキツい時、音楽を聴く余裕すらなくなるのが実際のところなのだろうから、私はそこまで行くまでに、うまくブレーキングしたいと思う。

 素敵なパーティの余韻を感じさせてくれるようなボッサのアルバムが出た。なんとダスコ・ゴイコウ゛ィッチである。私はダスコのアルバムをかなりの枚数持っているが、確かボサノバは1枚もなかったはず。優しく美しいミュートの音色がボサノバに本当によく合うので、これまで出ていなかったのが本当に不思議なくらいだ。秋の海の、どこか切ない香りと今夜のオレンジが綯い交ぜになってそっと眠気を誘ってくれる、そんなお勧めのアルバムである。
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この1曲―People time--Stan Getz & Kenny Barron
 人には誰でもきっと、「この1曲」というような、好きで忘れられない曲が1つくらいはあるものだと思う。それは、恋人と二人でよく聴いた曲かもしれないし、或は好きな歌手のヒット曲かもしれない。はたまた、人によっては母校の校歌かもしれない。私の場合は、チャーリー・ヘイデン作曲のFirst Songが、まさに、この1曲である。

 録音で出ているものとなると、意外に少ないFirst Song。演奏が少ない理由には、多分リズムセクションが入りにくいというようなことや、メロディラインが意外に複雑なことがあったりするのかも知れない。しかし、美しい旋律とコード進行が魅惑的で、私は、誰の演奏であろうとこの曲が入ってさえいれば、迷わずCDを買ってしまうだろう。ただ残念ながら、手元にあるのはまだ、ヘイデンのオリジナルが1枚とデウ゛ィッド・サンボーンの演奏が1枚、そして今日のアルバム、スタンゲッツのラストライブであるピープル・タイムの3枚である。

 ピープル・タイムは、夏のヨーロッパツアーを控えながらも、因縁の地での最後の演奏となったメモリアルライブ盤。晩年、パートナーを務めたケニー・バロンとのデュオで、どの演奏もシンプルで曲の素の良さを出しながら、透明感に満ちあふれている。途中、ゲッツの息切れして苦しそうな吐息が混じり、彼の病状進む中でのギリギリのパフォーマンスがあまりにも生々しい。

 First timeはこのアルバムの2枚目の1曲目に入っている。その他、ハッシャ・バイやソウル・アイズなどゲッツとバロンに共通するお気に入りナンバーが収められている。このアルバムが出たのは92年。国内盤で購入したが2枚組のCDが4400円もしたのだ。ただ、ケースも装丁もしっかりとしていて、高いなりのことはある。

 最近、エンリコ・ピエラヌンツィのアルバムを辿っていたら、ヘイデンを入れてのピアノトリオで、その名もFirst Songというアルバムが90年に出ているのを知った。CD自体が品切れでまだ手に入らないが、試聴した限りでは、エンリコのピアノが素晴らしく、ひょっとしたら、この演奏をゲッツが聴いて選曲したのではないか、などと思ったりもする。

 First songというアルバムはイタリアのSoul Noteから出ており、前に書いたチェットの件もあって、これはイタリア国内で通販してくれる店を何とか探さねばという気になっている。去年、イタリアの国境の街、トリエステに一泊したが、探した限りではCD店など1つもなく、がっかりしたのを思い出す。若い時だととっくに飛行機のチケットを予約していると思うが、さすがに、少しモノを考えるようになったので(笑)、ネットで根気良く良さげな店を探そうと思う。今夜もまたソフトを探してネットサーフィンである。
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バリウムを飲む―Живи и здравствуй--Сябры
 1年に1度の行事がやってきた。健康診断である。決まりきった内容であるが、やはり備えあれば憂いなし。面倒臭がり屋の私も、きちんと受診することにしている。それが、今日に限っては受難の1日となった。

 まず、第一のハードル。採血である。針先が苦手であり、早く済ませて欲しいものを、なかなか5cc×3本が採れず、針を指しなおすこと数回。おかげで皮膚が青じんで、内出血が見る見る広がった。あまり上手な検査員ではなかったらしい。そこらじゅう針先が触ったのか、痛みが酷くなり、さすがに「まだ終わらないんですか」と聞いてしまった。ルーチンの社会保険事務所がやっている検査だから、あまり受診者への配慮はなさそうだ。まあ、値段の安いなりということなのだろうが、仮に病院でこんな対応だったら、きっと「お客」をどんどん失うばかりだろう。このことだけでなく、一連の検査を通してそう思わざるをえないような、雑な扱いを受けたように感じてかなり疲れてしまった。

 そして、レントゲン。検査用のバスに乗り込んでの検査。疲れきっていたので、胃の検査はパスするつもりだったが、ベルトコンベヤに乗せられるがごとく、検査を受けることに。粉状の薬を水で飲み込むと、つぎは大きな紙コップになみなみと注がれたバリウムを飲まなければならない。前日の夜8時から何も食べずに、今は昼前の11時すぎ。胃を膨らませるための「膨らし粉」を飲んだ上でのあのまずいバリウムである。いきなり嘔吐感に襲われる。―「がまんしてください」。この一言のなんと事務的に響いたことか。そのまま、検査台にのり、体をねじったり上下に揺すられたりで、検査が終わった頃には、すっかり「船酔い」状態であった。

 検査が好きな人はそういないだろうが、それにしても酷かった。家に帰ってからも、何もする気も起きず、長風呂し、音楽を聴きながらダラダラしている。来年からは、きちんとお金を払って、いい病院へ行こうと思う。

 棚から選んだのは、今日の苦しみがモロにタイトルに表れているシャブリィの新譜。シャブリィはベラルーシのグループで、国内でもかなり人気のあるアーティストだ。曲調は、ごくごくナチュラルな歌謡曲。ビデオクリップをみると、ショーアップされたステージが魅力的。こういうの、少なくなってるなあと思わず溜息のエストラードナヤの楽しさ満載。詳しくは公式サイトをどうぞ。mp3や MIDIの音源もあり、音質はかなり良い方。CDを手に入れるのは大変だが、主なヒット曲はここで聴くことができる。派手派手しさのない、心休まるいい曲を丁寧に歌い上げるシャブリィ。ベラルーシの情報は少ないだけに、私も彼等のリリースをチェックしていきたい。ほっとしたい時のBGMに一押しのアルバムである。
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CDよもやま話―Irreplaceable--George Benson
 都心の大きなCDショップでは、外国人の買い物客をよく見かける。私の場合、海外ではその国のアーティストのポップスコーナーが目当てなのだが、先の彼等は輸入盤がほとんどのクラシックやロックのコーナーでかごを片手にまとめ買いしているから、何故だろうとずっと疑問に思っていた。ある方の話では、日本のショップの品揃えはかなりのものらしく、海外からのお客にとって、価格が高いのを割り引いても、十分魅力的とのこと。なるほど。

 ここ数カ月は、アマゾンの各ショップでの買い物に慣れたせいか、国内に限らず、いろいろな国からネットでもってCDを買っている。今年の話題は、なんといっても、アイスランドのレイキャビクのお店から買ったこと。何もそんな遠くから買わなくても、と思われそうだが、シガー・ロスのデビュー盤はその店でしか買えなかったのだ。

 一般のCD通販は、アマゾンを始め、大体思ったよりも速く届くし、これまで事故もない。国内ではアマゾンの他、 HMVやタワーレコードも利用しているが、店頭より安いこともあるので重宝しているし、対応もかなり丁寧だ。しかし、厄介なのは、海外アマゾンのマーケットプレイスで買った商品。これが届くのに時間がかかることが多い。通常だと1週間程度で届くはずが、たった1枚のCDを手にするのに、発送通知から3週間をゆうに越えていたことがあった。このときはさすがに少し心配した。新品ならまた買えば済むことかもしれないが、レアな中古盤をやっとの思いで探したとなっては、届かないことには意味がない。

 なぜこんなことに頭を悩ませているかというと、今、廃盤になってしまっているチェット・ベイカーのCDをそこここから落ち穂拾いのごとく探しているからである。チェットの没後、数年間は、新旧合わせてそれこそ鬼のようにリリースが続いたが、ちょうどその頃は酷い金欠のために、絶対逃せないというタイトルしか購入していない。しかも、晩年のヨーロッパ録音でこれは外せないというイタリアものをほとんど買い逃している状態で、これらは再発もほとんどなく、半ば諦めている状態である。レコードなら、「お金さえ積めば」という感じなのだが、初期の中古 CDはその普及度合もあってリリース枚数が少ないのか、探すのが意外に大変である。

 そんな状態なので、いっそのことアナログも始めようかと思ったりするが、前にも書いた通り、とてもじゃないけれどお金が掛かり過ぎるのでやはり無理である。従って、しばらくはこの落ち穂拾いを辛抱強く続けていくしかないようである。

 こんなことを書いていると、楽しいはずのソフト探しが苦痛のようになってしまうので、目のさめるような濃い1枚をセレクト。ジョージ・ベンソンの新譜、イリプレイサブルである。嬉しいことに、彼のボーカルがもりもり入っていて、しかも思いっきりブルースしている。だが、夜よりは、朝寝起きの1枚にもってこいかも。明日はおあつらえ向きのかったるい月曜。今週はジョージの新譜でバッチリ、不粋な目覚ましにかわる爽やかな朝のBGMにお勧めの新譜である。
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「彼女」は175歳
 「彼女」のプロフィール

  □ B.D  1830.11.15
  □ name  Harriet
  □ 出身地  エクアドル
  □ 好物  ハイビスカスの花

 オーストラリアの動物園に暮らすガラパゴスゾウガメの、めでたくも175歳の誕生日を祝うパーティが催された。何でも好物のハイビスカスの花をたくさんプレゼントされ、美味しそうに食べたと言う。このニュースは世界中に配信された。彼女の名はハリエット。

 彼女は希少なガラパゴスゾウガメであるがゆえに交配が試みられたが、トライアルは全く巧く行かなかった。ハリエットは当初、雄だと思われていたために、残念ながらパートナーに選ばれたのはみな雌のカメだったためだ。

 ハリエットは、彼女の長い人生の100年をハリー、すなわち「彼」として過ごした。ガラパゴスから「種の起原」のダーウィンによって英国に連れられた彼女。雌雄の区別がよく分からなかった当時はともかく、その後、なぜ彼女が彼ではないことがわからなかったのか。それは、彼女があまりにも大きく重かったので、「裏返すことができなかったから」だそうだ。

 彼女は科学的な方法で1830年に生まれたことが判明しており、長寿のカメということでギネスブックにも掲載されているという。ダーウィンが持ち帰ったという話で時の隔たりが実感されるが、彼女はまだ元気で、あと20年くらいは生きているのではということだ。

 彼女が言葉を話すことができたなら、これまで見てきた175年分のエピソードを一体どのように語るだろう。あと20年もすれば、ひょっとして動物の考えていることを人間の言葉に翻訳してくれるような装置が出来ているかも知れないから、彼女によって貴重な歴史の一コマが明らかにされるかも知れない、というのはあまりにもSF過ぎるだろうか。

 ハリエットが誇れるのは何も年齢だけではない。彼女は飼育される動物園を何度か移っており、今は気候の関係からオーストラリアの動物園で暮らしている。ダーウィンによって共に連れ帰られた雄のカメ、ディックとトムはとうに世を去り、独りハードな人生をクリアして今日という日を迎えただけでなく、彼女の旅した距離を考えれば、もっとも長い距離を旅したカメとも言えると英国のミラー紙に出ていた。人生こそ最も長い旅ともいうから、これもまた彼女に相応しい記録と言えるかもしれない。

 「亀は万年」と日本でも長寿の縁起物のようにいわれるカメ。でも本当に長生きなのだとは知らなかった。ロイター通信で配信された写真には、動物園の係の方に寄り添われ、瞳に潤いのあるしっかりとした様子で祝いの客を眺める彼女が写っている。生きているという力強さを感じさせる彼女の表情に、生きている、ということ自体が本当にすごいことなんだと、単純に感動した今日のニュースだった。
よもやま | - | - | author : miss key
模様替え―You can't go home again--Chet Baker
 我が家にオーディオがやってきてからというものの、模様替えを頻繁にやっている。最初はそれこそ団地サイズの6畳間にベッドとテーブル、テレビにオーディオがぎっしりと詰め込んであった。さすがに、私の耳にも「デッド」というのが分かるほど、ほとんど音が響かず、チェットのトランペットも何だか糞詰まりのようになってしまっていた。

 そもそも初めは、わざわざオーディオショップの方がセッティングに来てくれるので、「もう少し見栄え良くしたい」という、音よりも体裁が大きな動機となっていた―まずベッドを狭い方の部屋に移した。うちには、エアコンが6畳間にしかなく、夏はきっと暑いだろうと覚悟の上である。さらに、本棚から溢れていた本を整理し、通常手にとって見ないものは箱詰めして押入れにしまった。

 さらに、さらには、である。今回、やはりエレクトーンがどうしても邪魔であると一念発起し、なんとか狭い方の部屋に収まらないかと紙の上で試行錯誤すること1時間。ぎりぎり収まりそうな気配。でも念のため、メジャーで採寸し、確かめた。はかったようにぴったりというのはこのことである、というくらい、余裕のない家具の配置である。ということは、動かすのはなかなか大変だ。

 昨日は日曜出勤の代休で、朝から時間があったので、思いきって、「動かす」ことにした。それにしても、このマンションに越して来てから、一体何度模様替えをしたことか。模様替えは決して嫌いではないが、こうも重たい荷物が増えると、そう簡単にはいかない。今回限り、しばらくは止めようと思った。思い通りに整った部屋で過ごすのは気持がいいが、この筋肉痛をなんとしてくれようか(笑)。

 今回の模様替えの副産物は、お気に入りのCDが棚にズラッとならんで6畳間に収まったことである。ベッド下のコンテナは思いのほか埃が堪りやすく、フェイバリット盤をしまうのには不都合であった。で、コンテナにはマイナーリーグ落ちしたタイトルをしまうことにしたので、そう頻繁にゴロゴロと引っ張りだす必要もなくなった。めでだし。

 より広くなった部屋で聴きたいのはやはりチェットの演奏だ。今日のアルバムは、先にThe best thing for youというタイトルでリリースされたアルバムの曲に、別テイクを加えた2枚組のものだ。最初の方がジャケもシンプルで魅力的なので、ネットでみつけるとつい買いたくなるが、曲を見るとYou can't...を既に持っているのを思い出し、なんとかダブリを回避している始末。

 1曲目の love for saleなどは、これってチェットの演奏って思うくらい、予想外の音がスカスカ出てくる。サイドメンには、なんとマイケル・ブレッカーやジョン・スコフィールドの名前も。チェットのテンションが上がっているのもうなづける。カムバック後にこれだけ息を入れてバンバン吹き捲くっている録音は少ないので、意外性の一枚と言えるかも。お勧めは、1枚目の7曲目、Oh, you crazy moon。いかにもドン・セベスキーのアレンジですという感じで、好き嫌いが分かれるだろうが、チェットは喉の調子が良いのか、この曲のボーカルは声に芯があって、なかなか魅力的。うん、これを聴いてみると、辛い模様替え(笑)をしたかいがあったと大満足の休日。良い気分転換にもなるので、お疲れのOL同志には模様替えも今日のチェットも合わせてお勧めしたい。
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