音の快楽的日常

音、音楽と徒然の日々
2003年も終わり―We still love you madly--Stan Tracey with his orchestra
 31日ほどこの1年を振り返るに相応しい日はない。いや、その年を象徴している1日というべきか。早朝から掃除と煮物に慌ただしいというのに、欲しい CDがあって、結局秋葉原に買いにいった。我ながら、「聴きたくなると止まらない」のには呆れてしまう。今年は年明け早々からオーディオの買い換えに始まり、ソフトを探してはそれを聴いて泣き笑いし、はたまた機器の充実にも自分なりに手を付けてみたりと、音楽に終始した1年だった。そして、音楽やオーディオが好きな大勢の人たちと知り合うことができ、私のオーディオは、豊かな音楽を運んできてくれたばかりか、縁としか言い様のない多くの出会いまで与えてくれた。

 今月に入り、レコードを聴くことができるようにもなったことで、昔、小さい頃によく聴いたビッグバンドが懐かしく、また聴きたくなった。そうは言っても、ビッグバンドというと、エリントンやベイシー、グレン・ミラーといった大御所はすぐに思い浮かぶものの、さて、何を聴こうかと思ってこれと決められなかったので、廃盤店のご主人に推薦してもらったのが今日のアルバムだ。

 88年に録音されたこのアルバムは、8曲のエリントンナンバーから構成されている。ムード・インディゴやフェスティバル・ジャンクションなど、特別エリントンファンでなくても聴けば分かる有名ナンバーが目白押しの豪華選曲が何ともうれしい。押し迫った年の瀬に相応しい、ゴージャスなオーケストラでの演奏は景気のよいこと、この上なし。

 モウル(もぐら)というおもしろい名のレーベルから出ているこのレコードはCD化されているので、レコードよりもCDの方が探しやすいかも知れない。また別タイトルでエリントン集を録音しているようなので、今日のタイトルでなくてもぜひぜひお勧めしたいアーティストだ。

 と、ここまで書いたところで、PRIDEが始まったのでこの辺で(笑)。桜庭和志のファンでありながら、今年はアリョーシャ(アレクセイ・イグナショフ)がK1に出るので、こちらも見なければいけない。私は日頃あまりテレビを見ないが、今夜ばかりはリモコン片手にチャンネルを梯子する。彼の国では大地震で大変なことになっているというのに、こんなに気楽でいいのかという疑問も少しは持ちつつ、それでも私の気持ちはもう格闘技セッション状態(爆)。こういう支離滅裂な筆者ではありますが、来年も引き続き、拙いレビューを添えながら日記を書いていきますので、どうぞよろしくお願い致します。
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樹海に案内人―Лучшие песни--Николай Трубач
 富士の樹海に専門の案内人が誕生したらしい。樹海といえば、富士の、という冠がついてもつかなくても、思い浮かべるのは大抵一つだと思う。それも、あまり良くないイメージでもって。それを払拭し、自然と触れあえる観光地としての宣伝のため、案内人が養成されたとのことである。

 何と言うニュースでもないが、樹海、という言葉は私に嫌が応でもある出来事を思い起こさせる。いくら忘れようとしても、芋づる式に出て来てしまう。というのも、私がかつて関わった方の親しい酒屋夫婦が、当時世の中を席巻していたノンバンクから多額の借財を抱えたまま、樹海に入り、行方知れずでいる。

 バブル時は、ネコの額ほどの土地を担保に銀行がいくらでも金を貸し付けた。それが、景気が右下に傾いた途端に返せの催促とくる。町場の酒屋なんて、いくら資金がいるといってもたかが知れている。株か投機に失敗でもしたのか、返す資金のためにノンバンクから借り入れた。最初はいくらでもなかったかもしれない。だが、異様な金利にどんどんと膨らむ残高。当人に責任が無いとは言わないが、さぞ苦しかっただろう。似たような話は商売柄もあって、いくらでも耳にした。しかし、あまりに身近な話だっただけに、生々しく、忘れることは今でも難しい。せめても、彼等が私の直接のクライアントではなかったことが唯一の救いだ。

 胸のつかえを軽くしてくれるのは、ニコライの歌。無責任に明るいだけの歌謡曲じゃない。苦しいことと向き合う勇気をくれる、そんな力強さが彼の歌にはある。今日のアルバムは、ブートではない正式版のベストアルバムで、自主制作のファーストから最新盤までもれなく曲がセレクトされている、ファンでなくとも嬉しい1枚だ。特に、初期の頃のディスクは音質が厳しく、曲はいいので惜しいところだったのが、リマスターされてオリジナルの良さを損なうこと無く収録されている。感動!

 年の瀬ともなると、本当に何年も前のことを思い出しては、その度に掃除の手が止まる。東京暮らしが両の手で足りない年数になったのはいつのことだったか。この冬休みはいろんな出来事を思い出しながら、その時々の音楽を引っ張りだして楽しもうと思う。今年も残すところあと2日と少し。ニコライの「ピャーチ・ミヌート(5分)」を聴きながら、せっせと大掃除に励むことにしよう。
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レコード店通いは楽しい―Я ночной хулиган--Дима Билан
 私が気に入っているレコード店が渋谷の109近くにあるが、渋谷は国際的に見ても有数のレコード店密集地とのこと。JAZZやポピュラー、ロックなどジャンルも幅広く、レコードを探している人にとってはとても便利な街だが、それにしても、CDがこれだけ溢れる世の中でレコードで音楽を楽しんでいる人がそんなにいるとは、そのことの方が私にとっては驚きだった。

 レコード店での買物はCDのそれとは違っている点がある。店主や従業員の人たちが私を見て面白がっている(珍しがっている)のだ。勿論それは、私が通い始めた店はどれもみなモダンジャズに軸脚のある廃盤専門店だということもあるだろう。そんな所に女性客はあまり出入りしないのだろうから。或は10万円を軽く超えるような貴重盤やコレクターズアイテムが壁に飾られているような「濃い」店には、よほど目的がなければ入りづらいということもある。目的買いの客がほぼ100%の商売なのだから、「この人、どういう人?」と店側も客に関心を示すのは無理もない。

 私も店の人たちとの会話が楽しいので、ついつい足が自然に向いてしまう。予算が限られているのでいつもいつも欲しいレコードを買う訳にも行かず辛いところもあるが、そうしたお店には雑誌やネットでは得にくい生きた情報がある。それ以前に好きなアーティストや音楽について話せるのだから、会話自体がとても楽しい。特に、渋谷のJAROさんと新宿のHAL'S Recordsさんは女性の方にもお勧めできる。いずれもジャズオンリーの品揃えだが、予算とどういうのがいいのか好みを言えばお勧めを選んでもらえる。 CDショップのジャズコーナーに物足りなさを感じていた貴女、今すぐ廃盤店デビューすべし(笑)。私も、ここ当分はレコード店通いが続きそうである。
 
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 今日は期待の新人、ジーマ・ビランのデビュー・アルバム「私は夜のフーリガン」を紹介したい。タイトルはイマイチだが、82年4月生まれのスタブロポリ出身のジーマは、ルックスもなかなか。すでにシングルも5曲ほど出ていて、この夏のスマッシュヒット、「トゥイ、トーリカ・トゥイ」ももちろん収められた全 16曲の豪華版。詳しくは彼の公式サイトをご覧いただくとして(frash版がお勧め)、甘く切ないボーカルとR&Bを意識しているというアーバンサウンドは、最近出た新人の中でも出色のセンス。この時期は毎年内容の良い新譜が揃うが、今年は全体にリリースが少なく寂しい・・・と思っていたらこれだから侮れない。クリスマスシーズンの混雑で入手に時間がかかり、クリスマスに合わせて紹介できなかったのが残念なくらい。とにかく、期待の新人、これからがますます楽しみである。
レコードの話 | - | - | author : miss key
降る雪―Снегопад--Нани Брегвадзе
 いつもの店の入荷情報に、今日のBGMのタイトルを見た時は小躍りした。アルバムタイトルになっているスニェーガパートという古い民謡は、私が初めて覚えたロシア語の歌であり、その歌詞の意味が知りたくてロシア語を独学で始めるきっかけとなった曲である。

 最初にその曲を聴いたのは、NHK教育テレビのロシア語講座で、毎月1曲ずつ、番組の最後に生演奏で流れていた。スニェーガパートはまさにその中の1曲で、ピアノの弾き語りで歌われたその曲は、出だしから私を釘付けにした。歌の意味は分からないのに、胸がぎゅっと締め付けられるような切なさに、一体何を歌っているのだろうと気になって仕方がなかった。

 実際にその歌詞を手に入れ、また歌の意味が分かったのは、それから約15年たった、仕事帰りに夜学に通い、ロシア語を勉強していた時のことである。当時の私の先生でもあった、ハリストス教会の神父様が歌詞をわざわざ探して来て下さった。その歌詞は、古いキリル文字の書体を使って印刷された大変美しいもので、今でも私の宝物である。

 ナーニ・ブリグバッゼという歌手は、名前から想像してグルジアのアーティストだと思われるが、CDでは初めて目にする名前である。CDにも解説はなく、詳しいことは何も分からないが、この録音はかなり古いもののようである。どこか小さな舞台でピアノの伴奏のみで淡々とシャンソンのナンバーを歌う彼女。キカビッゼの女性版といったら乱暴だろうか。歌詞を大切にした歌い方にはとても好感が持て、その意味でも彼に近いものを感じさせるボーカルである。

 今年は暖冬で、ホワイトクリスマスとは行かなかったが、私は想い出に埋もれるようにして夜を過ごした。年を取るのが嫌だと思っていた頃もあったが、最近はそうは思わない。それだけ思い出して楽しめることが増えるということなのだから。そして、悲しかったことも、時間が経てばまた静かに思い返せる時が来る。スニェーガパートはまさにそんな気持ちになれる、私にとって特別の曲である。この一枚は、独り静かに過ごす冬の夜にぜひお勧めしたいアルバムである。
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レコードプレーヤーがやって来た―Sleepless--JOE LoCASCIO featuring Chet Baker
 オーディオ好きの友人から譲っていただいたレコードプレーヤーがとうとう我が家にやって来た。その彼自身が一番長く使っていた機器というだけあって、年期の入ったプレーヤーだが、ラックの一番上に据えると、まるでずっと前からそこにあったかのような佇まい。それだけでもうれしくなってしまった。

 宅配便は使えないからと、わざわざ車で運んできてくださった。しかも、細かな調整に調整を重ねていただいたおかげで、やって来たその日から、コクのあるまろやかな音が部屋に広がった。最初に針を落としたのは、アート・ペッパーの「再会」―私が初めておこづかいで買ったレコードである。カビが生えていたのを洗ったのだが、再生は問題ないどころか、昔聴いた音よりもずっと伸びやかに鳴った。

 私が用意したのは針だけであり、前オーナーには申し訳ない限りである。また初心者の私に、アナログ特集のムックまで用意していただき、細やかな心遣いに感動することしきり。アナログプレーヤーを調整してよい音を出すまでには、本当に指先が震えるような微妙な調整が必要であり、粗忽者の私に本当に扱えるのかという不安もないではないが、時間をかけて使いこなせるようになりたいと思う。それが私のできる彼への最高のお礼ではないかと思っている。

 昨夜はそれでなくとも寝不足で、今朝はかなりきつかったのだが、今日の1枚は、プレーヤーを譲っていただくことになって初めて探しにいった新宿の廃盤専門店で勧められたLPのうちの1枚。ジョーというピアニストのリーダー作ながら、聴いてみればほとんどチェットの作品状態。内容はイージーリスニングというか、クロスオーバー風のアレンジが全7曲。どれもこれといった特徴がなく、「売れなかっただろうなあ」と思わず溜息がでるような雰囲気。でもチェットのトランペットはよく鳴っていて、ファンならぜひの1枚だ。

 今日は今日で、また渋谷のJAROさんにお邪魔した。廃盤専門店のご主人というのは難しい方が多いと聞いていたが、JAROさんはそんなことは全然なく、常連さんからの電話もひっきりなし。テンポよくユーモアたっぷりのおしゃべりで、楽しくレコードを探すことができる。今日はダスコの再発ものやクラブ系リミックス盤を買った。またせっかくのクリスマスだから、とにかく楽しくてゴージャスな演奏をとリクエストしたら、ブラスがぶりぶり前に出るスタン・トレイシーのエリントンナンバー集を選んでくださった。これもまたすごく良い。

 とにかく、レコード三昧。まだ二日目というのにすっかりアナログにはまってしまった。こんなに楽しいのにどうしてもっと早くやらなかったのだろう。答えは簡単、レコード探しはチェットファンにはまた深い沼が待ち受けている。コレクションに走るととんでもないことになるので、適度に楽しめるようにブレーキがかけられる自信がつくまで、恐ろしくてとても手を出せなかったからである。あまりにグッドタイミングで、大切なプレーヤーを譲ってくれた彼には、心からお礼を申し上げたい。
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廃線危機―Jack's groove--Jack Sheldon with Big-Band
 久し振りに時間に余裕のある帰省だった。実家の周辺はまだ調整区域であるため、大掛かりな開発はなく、家屋もまばらだが、それでも半年かそこらに1度帰る毎にその数は少しずつ増えている。それら新築のほとんどは、母屋から分家して同じ敷地内に建てられた家だから、総人口としてはそれほど変わっていない。そんなまるで匿名性のない集落に辟易しながらも、どこか安心を求めて帰る自分がいる。

 その地元の唯一の公共交通である鉄道が廃線されるかも知れないという話題が、東京の新聞の片隅に載った。秋口のことだったか。どうしてそんな地方路線の話題が東京の新聞にと訝しく感じられたが、もともとプロ野球の球団の親会社でもあったぐらいの企業であるから、よくある不況で経営不振の一例、というぐらいにしか、記事を書いた人は考えていなかったのかも知れない。しかし、日中は2時間に3本しかないその路線であっても、私には懐かしく、また驚きを禁じ得なかった。

 東京から田舎に戻る際、空港からバスを乗り継ぎ、ターミナル駅に行く。そこまで母が車でいつも迎えに来てくれるのだが、今回は、電車に乗った。乗ってわずか19分。途中に駅も新設され、車両も新しいデザインのものに変わっていたが、完全なワンマン運転で、まるでバスのようである。ほとんどが無人駅のため、先頭の車両のドアからしか降りることができず、駅の形状によっては年寄りの足にきつい。そこまでして人を減らし、経費を節減しても、1日乗降客数が5000人そこそこでは、年間5億円の赤字を解消するには焼け石に水のようである。

 母がその昔、父の元に嫁いだとき、京都の街育ちの彼女は、あまりの田舎に驚き、不安を隠せなかったという。それを父は「すぐバス路線がつくというから、もっと便利になるよ、すぐに便利になるよ」と説得したらしい。それはとんでもない空手形で、確かにそういう計画はあったらしいのだが、私が約20年間暮らした限りでは、あるいは多少経済計算ができるようになった今でも、とてもバス路線がつくような代物ではないと私は断言できる。

 私は鉄道が好きで、地方にもよく廃線間近いという路線があるので、そういう話を聞き付けては、最後だからと泊まり掛けで乗りにいったものだった。しかし、考えてみれば、それは少々、いやかなり、失礼かつ軽率な行為であるのかもしれない。物見胡散でいく分にはよいが、地元にとっては死活問題である。私の田舎は、鉄道なんて不便だからといいながらも、静かに揺れている。季節の移ろいもあまりにゆるやかで時が止まったかのような農村で。

 今日のBGMは、ここずっと聴いていなかったジャック・シェルドンの一押しのアルバムを選んだ。Jack's Grooveはタイトル違いも含め、複数のバージョンがあるが、このディスクは、89年にスペインのフレッシュサウンドから出た盤。今日、ディスクユニオンに行ったら2、3枚あったので、また再発しているようだ。フレッシュサウンドというと、いかにも音、悪そうであるが(笑)、これに限ってはとりあえず大丈夫。今時のワイドレンジに慣れている方には退屈な音かもしれないが、ビッグバンドの楽しさが堪能できる音の濃さはばっちり。ちなみに、チェットやペッパーも参加している。57年から58年にかけての録音で、ジャックやチェットのトランペットの音色も若く、カリフォルニアの空色といったら言い過ぎかもしれないが、明るく華やかで、聴いていてとにかく楽しい。

 気の重い話があるときには、とにかく楽しい音楽がいい。今すぐ廃線というわけではないのだが、でもそのときが来れば、やはり私は乗りにいくだろう。今度ばかりは、興味本位ではなく、小さい頃から、それこそ子供料金が10円の頃から知っている電車といろいろなエピソードに区切りを付けるために。そして願わくばそんな日が来ないことを静かに祈りたい。
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贈り物はやっぱりうれしい―Saxophonic--Dave Koz
 帰宅したらポストに大きめの封筒が1つ入っていた。今時少ない手書きの宛名に、おや?と思ったのもつかの間、それはしばらく会っていない馬友達からの贈り物だった。時折メールしたり、電話を貰ったりしていたが、どうもすれ違いが多く、ここのところは没交渉で、一体どうしていることやらと気になっていた。その相手からの予期せぬ贈り物。中身が何であれ、うれしくないはずがない。

 部屋に入るやいやな開封すると、中から丁寧にくるまれたDVDが1枚出て来た。添えられたメッセージには、朴訥な彼らしい「DVD持ってる?」の一言が。これは、私にとって今年のベストレースとなるだろうエリザベス女王杯の録画集だった。しかも関西バージョンなので、私の録画したビデオよりずっと内容も濃く、きちんと編集されていた。

 勝ち馬のアドマイヤグルーヴは、言うまでも無く名牝エアグルーヴの初子である。その母もまたG1を勝っているダイナカールであり、社台版華麗なる一族といったところか。彼女をセールで競り落としたアドマイヤの冠号を持つオーナーは、やはり2冠馬ベガに惚れ込み、その息子アドマイヤベガでダービーオーナーとなった人である。クラシックレースを3つとも一番人気ながら敗れたアドマイヤグルーヴには、このレースこそという思いがオーナーのみならず、陣営全体にみなぎっていたに違いない。彼女の母、そして彼女自身の多くのファンも。

 それこそ、火の出るようなゴール前のデッドヒートを制し、古馬混合のG1を勝って牝馬ナンバーワンとなったアドマイヤグルーヴ。母はここを3着に負けているが、何といっても秋の天皇賞を並みいる牡馬を蹴散らして優勝しているという素晴らしい勲章がある。父トニービン譲りの大きな瞳と逞しい体躯でのダイナミックな走法。そんな母と比べるには、アドマイヤグルーヴはまだ若いが、また彼女はその父サンデーサイレンスの躯が薄く、終いの切れ味で母にはない魅力を持っている。しかしながら、母子三代に渡り、その美しい面持ちは受け継がれ、いかにも血のロマンを感じさせる。強さと美しさの同居。選ばれたサラブレッドに天は惜しみ無く二物を与えている。

 話がそれたが、件の彼も彼女の母を追い掛けてレースをあちこちに観戦に出かけた一人であり、当時はまだ友達ではなかった私も同じ競馬場にいてエアグルーヴを応援していた。エリ女のレース後に興奮した文面でメールを送っていたので、気に留めていてくれたようだ。時期はクリスマス間近。世間では市況に反して高価な贈り物の話題がちらほら耳に入るが、私は価格よりも人の思いに触れるような贈り物がやはりうれしいし、私自身もそういう贈り物がさり気なくできるようになりたいものだと思う。

 送られたDVDを何度もリピートしては、感動に浸っている。見れば見るほど、馬の美しさはもとより、ジョッキーの巧みな手綱さばきが見て取れる。特に、ゴール前の見せムチを、左ではなく2着馬との間である右で振ったのは、匠のなせる判断だったのか。レース確定後の調教師のコメントに「ジョッキーがうまく乗ってくれました。状態には自信がありました。」とだけシンプルに答えていたわけが、今になってよく理解できた。

 馬のこととなるとつい熱くなり、普段でもわかりづらい文章が余計乱文になるのでこの辺で。音楽は、クールダウンにぴったりの、これまた昨日に続くイケメンアーティスト、スムースジャズのDave KozのSaxophonic をチョイス。いかにもアーバンサウンドといった嫌みのないサウンドでアルトを軽やかに操るDave。見た目も美しいカクテルなど片手に、小音量でゆったり聴きたい全13曲。たまにはこんなお洒落な音楽で部屋を満たすのもいい。週末の夜を静かに過ごしたい貴方にお勧めのアルバムである。
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何故に連れ去る―michael buble--Michael Buble
 この1年、日々報道されることと言えば、連れ去り事件と鉄道の人身事故だろう。後者は、長引く不景気とリストラの影響が下地になっていると言われるが、前者は一体どういうことだろう。誘拐というと、最近の事件のニュアンスとのずれを感じる。まさに、連れ去り、なのだ。

 先日出された統計結果によると、この1年は過去に比して「連れ去り」件数が激増し、検挙数も100件をゆうに超えた。しかもその大半が、金銭目的ではなく、性的な動機によるものだという。ある社会学者の分析では、社会的弱者に対する視線の変化、とくに子供を、弱く守るべき者から性的対象ととらえる傾向が強くなっているとのことであった。

 何年もの間、連れ去った女性を監禁した事件があったが、そうしたものの模倣なのだろうか。それとも、単に、悪戯したいから軽い気持ちで連れ去ろうとするのだろうか。「模倣」とネット或は匿名の掲示板などの影響を指摘する専門家もいるようだが、欲望は古今東西何も変わることがないだろうし、真似をするといっても人間にはみな大なり小なり心のブレーキがあって、実行に移すか否かは各人の理性によるだろう。

 最近の連れ去り事件には、営利誘拐とは違う、何か深い、深い人間の心の闇が見えかくれする。価値観やものの考え方は時代の移り変わりとともに変化していくものだろうが、特に若者のマインドの変化は私の仕事を通じても否応無しに痛感させられる。「せち辛い世の中になった」などと愚痴をこぼしている場合では、すでにないのかも知れない。

 今日は夕方アメリカから届いたCDの中の1枚、マイケル・ブーブルの新譜を選んだ。マイケルはカナダのアーティストで、今時のイケメン・ボーカルの一人。プロデューサーの名前にデウ゛ィッド・フォスターやポール・アンカの名前が並び、いかに期待されているかがそれだけでもわかるというもの。サウンドはちょっと古めのジャズボーカルといった趣きで、本当は彼の素晴らしい声音をシンプルなバックで楽しみたいところだが、これはこれでなかなか楽しい。

 冒頭に書いた通り、今年は暗い事件の多い1年だったが、男性ボーカルファンとしては、新しいスターがどんどん登場して、ソフト購入が追い付かないほどであった。今年も残すところ1か月を切った。寒さが苦手な私は、冬越しのためにCDを買いだめするが(笑)、今年はボーカル・ゴージャスでホットサウンドづくしと行きたい。今日のマイケルの新譜、くつろぎの1枚として一押しのアルバムである。
よもやま | - | - | author : miss key
田舎に電話する―Twenty something--Jamie Cullum
 ジェイミーの新譜が届き、ジャケを見てすっかり安心。いかにも青年らしいシンプルで爽やかなデザイン。前回のメジャーデビュー盤は、内容はすごくいいのにジャケがいまいちで、気になっていたのだ。早速、CDプレーヤーのトレイに流し込む。美声とはいうまい。しかし、独特の甘さとゆらぎ。声を聴いているだけで心がうきうきする。ジェイミー・カラムは、ここ数年で大勢出た注目の男性ボーカルの中でも、一押しである。

 ジェイミーの新譜を聴きながら、田舎に電話をした。帰省のスケジュールなどを伝え、風邪をひいたとかひかないとか、そういういつもの話題に終始した15分間。一頃と比べ通話料金がぐっと安くなったので、時間を気にしないで話せるようになったが、だいたいいつも15分ほどだ。話し足りず、かといって話題がつきることもなく。

 来週は東京を離れると同時に、ネットからも離れることになるので、しばらくは私のサイトも休館することになる。かなり離れたところにコンビニがやっと出来て便利になった山あいの地域で、夜にはこれ以上静かにならないというくらい無音を感じることができる、そんな田舎である。私が日頃、音楽をごく小音量で楽しんでいるのも、賃貸住まいで音が出せないというよりは、そういう環境で育ち、大きな音に耳が慣れていないことからくるものだという気がしている。

 せっかくの休暇なので、注文している新譜も持って帰りたいが、どうもクリスマスシーズンのせいか、海外からの郵便物がどれもみな滞っている。たまには音楽から離れて本を読みふけったりするのもいいかもしれない。と思っている先から、ジェイミーのフレーズに耳が知らないうちにそばだち、リズムに躯が揺れる始末。ああ、やっぱりジェイミーの歌はいいなあと、音楽から早々離れられない冬の夜である。
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落ち穂も積もり積もれば―The girl from Ipanema--Astrud Gilberto
 ここのところ、探していたタイトルが中古で次々と見つかり、嬉しい反面、ソフト買い過ぎ注意警報状態になっている。一応、毎月のソフト予算を立てているので、それを超えないように計画的に購入しているが、中古は見つかった時が買うときで、逃すとまた見つかるかどうか保証の限りではない。所詮CDの中古なので、価格は数ドルと知れているが、それが積もり積もると結構な金額になる。しかし人の都合も考えないで(笑)、何故にこうもまとまって出てくるのか。

 その出て来た中古盤というのは、チェットがワンポイントで参加しているようなアルバムである。チェットは、共演する相手やサイドメンにあまりこだわらず、いろんなところで演奏している。共演者が大して有名でもない場合は、とっくに廃盤になっていて、中古でしか入手できない。しかも、クレジットにチェットの名前があったりなかったりするものだから、非常に探しにくい。

 今日のBGM「イパネマの娘」はジルベルトファンの評価も厳しい、ポップスだか何だかよく分からないアレンジのスタンダード集。ボサノバスタイルから脱しきれないのか、まるで訛ったようなもたつきが漂っていて、通常の、例えばゲッツと共演しているアルバムなどからは想像がつかない内容。ただ、チェットファンにとっては、3曲目に入っているFar Awayが超貴重録音なのである。

 ジルベルトの歌の後ろでトランペットを演奏しているのが1曲あるとは、前から聞いて知っていたのだが、それが最近まで、どのアルバムのどの曲かは全然分からなかった。偶然、あるサイトでこの曲の紹介があり、探してみたら、いろんなレーベルから同じタイトルが何枚も出ている。録音の良し悪しなどはまるで分からないので、私はとりあえず手に入りやすいDressed to kill盤を買ってみた。

 その3曲目を聴いてみて、素直に感動。なんとチェットは演奏だけでなく、歌も歌っていたからである。何でも、ジルベルトはチェットのファンで、彼女にとってもこのデュエットは想い出に残る録音だとのこと。女性には甘く優しいチェットゆえ?、ここでのボーカルは必聴ものである。このフレーズを聴いて落ちない女性はいないんじゃないかという、いやはや、こういう録音をこれまで聴かずにいて、一体何をしていたのだろうと目からウロコの休日。

 アルバム自体の評価が低くてあまり表に出てこなかったということもあるが、輸入盤で買えば600円から900円程度で買えるので、女性の方にはぜひ聴いてみていただきたい。ちなみに、曲のサンプルがアマゾンなどで聴けるのでお勧めしやすい。一人静かな夜に目を閉じて聴いたら、多分涙がでそうな1曲。あくまでもアルバムではなく、この1曲をお勧めしたい、今日は特別バージョンのToday's BGMである。
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