高みから見下ろせば―Сквозь пальцы--Настя | 2004.05.23 Sunday |
窓はあれども決して開けることの出来ない高層ビルで仕事をするようになってから、早2か月が過ぎた。土地の有効利用と称して、新築のビルは上へ上へと、まるで星でも掴もうかという勢いで高層化された時代があったが、私の居るビルもおよそその頃のものだ。
休憩時間にすること、あるいはできることといえば、この「高さ」から遠くを眺めることぐらいだ。他所のビルも公園も道路も、そしてその上を這い蹲るようにして走る車の群も、まるで作り物の世界のように視界に飛び込んでくる。その一方、陽の光りはただ眩しいだけで、どれだけ高いといってもここからは手が届きそうにもない。
私が好んで立つ窓の遥か下に、ぽつんと古びたホテルが見える。ホームレスが屯する公園の脇、道路を一つはさんで立つそのホテルは、当時としてはかなりモダンな趣であったのだろう―ありきたりのビジネスホテルとはどこか違っていて、私はついついそれを眺めてしまう。
昔見たテレビの話だが、主人公とその恋人は、事情あって人目を忍んで逢う場所として、繁華街のはずれにある古いビジネスホテルを選んでいた。逢瀬の数だけ、恋人がなけなしの財布から出すホテル代をその女性は密かに積み立てていて、その通帳はやがて彼への別れの言葉代わりとなる。静謐が支配するいつもの部屋に、彼女が置き去りにした通帳を見て呆然とする男。そのシーンが何とも印象的だった。それは、寒々とするどころか、小さな窓からは柔らかな光が差し込んでいて、およそ別れのイメージとはかけ離れたものだった。
私が眺めるそのホテルも、そんな出逢いと別れのときがあったりするのだろうか。その場所を占める人々は、それが密室と知ってそこに居るのだろう。私のように、決して覗けたりはしないのだが、こんなに高いところからじっとそのホテルに目を凝らしている人間がいることなど、思いもよらないだろう。私は性格がよくないから、そんなことが愉しかったりする。
私は日々高いところで働きながら、なにがしかの「勘違い」を積み重ねつつ、時の過ぎるのに身を任せている。他にもっとすることはないのかという叱責の声が聞こえつつ、それでも、耳に蓋するわけでもなく、さりとて反省にうなだれるわけでもなく。
脇に抱えたポータブルプレーヤーから漏れるのは、ナースチャの新譜、スクボージ・パリツィ。ナースチャは少し喉でも傷めているのか、ボーカルはいつもの潤いに欠けるものの、そのつかみ所のない気楽な旋律が無意識のうちの緊張を解してくれる。迫ったり、抉ったりするロックではなくて、包み込むような音楽へ。ナースチャは少しずつその姿を変えていると感じるのは私だけだろうか。私同様、働く女性に聴いてもらいたい癒しの1枚である。
休憩時間にすること、あるいはできることといえば、この「高さ」から遠くを眺めることぐらいだ。他所のビルも公園も道路も、そしてその上を這い蹲るようにして走る車の群も、まるで作り物の世界のように視界に飛び込んでくる。その一方、陽の光りはただ眩しいだけで、どれだけ高いといってもここからは手が届きそうにもない。
私が好んで立つ窓の遥か下に、ぽつんと古びたホテルが見える。ホームレスが屯する公園の脇、道路を一つはさんで立つそのホテルは、当時としてはかなりモダンな趣であったのだろう―ありきたりのビジネスホテルとはどこか違っていて、私はついついそれを眺めてしまう。
昔見たテレビの話だが、主人公とその恋人は、事情あって人目を忍んで逢う場所として、繁華街のはずれにある古いビジネスホテルを選んでいた。逢瀬の数だけ、恋人がなけなしの財布から出すホテル代をその女性は密かに積み立てていて、その通帳はやがて彼への別れの言葉代わりとなる。静謐が支配するいつもの部屋に、彼女が置き去りにした通帳を見て呆然とする男。そのシーンが何とも印象的だった。それは、寒々とするどころか、小さな窓からは柔らかな光が差し込んでいて、およそ別れのイメージとはかけ離れたものだった。
私が眺めるそのホテルも、そんな出逢いと別れのときがあったりするのだろうか。その場所を占める人々は、それが密室と知ってそこに居るのだろう。私のように、決して覗けたりはしないのだが、こんなに高いところからじっとそのホテルに目を凝らしている人間がいることなど、思いもよらないだろう。私は性格がよくないから、そんなことが愉しかったりする。
私は日々高いところで働きながら、なにがしかの「勘違い」を積み重ねつつ、時の過ぎるのに身を任せている。他にもっとすることはないのかという叱責の声が聞こえつつ、それでも、耳に蓋するわけでもなく、さりとて反省にうなだれるわけでもなく。
脇に抱えたポータブルプレーヤーから漏れるのは、ナースチャの新譜、スクボージ・パリツィ。ナースチャは少し喉でも傷めているのか、ボーカルはいつもの潤いに欠けるものの、そのつかみ所のない気楽な旋律が無意識のうちの緊張を解してくれる。迫ったり、抉ったりするロックではなくて、包み込むような音楽へ。ナースチャは少しずつその姿を変えていると感じるのは私だけだろうか。私同様、働く女性に聴いてもらいたい癒しの1枚である。
pop & rock (russian and other slavic) | - | - | author : miss key