音の快楽的日常

音、音楽と徒然の日々
特等席からの眺め―Baltin Voices 2 -- Estonian Philharmonic Chambr Choir / Paul Hillier
 珍しく臨海副都心に出張した、その帰りのこと。珍しく、ゆりかもめの先頭席―ゆりかもめは無人運転であり、先頭車両の先には、客席が2人がけと1人がけ各1つの計3席設けられ、ガラス張りで左右に広がる景色を楽しむことができる―が空いていた。最初は、二人がけの方に若いカップルがかけており、何やら楽しそうにしていたが、彼等は次の駅で降りた。時間が中途半端だったのか、他に乗ってくる客もなく、私は遠慮なく、最も景色がよく見える二人がけのまん中に座り直した。

 夕刻近くの海の景色は格別で、群青の水の色に、近代的な建物群の鈍い銀色がよく映える。ゆりかもめは弧を描くような軌道を持っているため、先頭席ではそれこそ空間の中へ滑り込むような錯覚さえおきて、なんとも快い。私は建物に目がないが、ある新築マンションなどは、ぱっと見はモダンなデザイナーズマンションなのに、よく見るといずれの部屋にもガラスの向こうには品のよい障子が立て付けてあり、和洋折衷もここまでうまく溶け合うと全く新しいデザインのような印象さえ受ける。空を見れば、随分と立派なうろこ雲。夕刻の淡い朱に染まった雲の群れは、絵でもみているように美しかった。

 凪いで静かな海の色が、いつかみたバルトの海を連想させる。然して選んだのは、バルティック・ボイセズの第2集。ポール・ヒリアーの指揮によるエストニアン・フィルハーモニック・チャンバー・コールの演奏によるもの。エストニアには古い教会が多数残り、ミニコンサートもよく行われている。教会の響きは、その雰囲気がそうさせるのか、厳かで爽やかであり、今回の録音もその言葉そのままに、疲れた躯をそっと包み込んでくれる。

 エストニアは、旅した際のガイドさんの言葉を借りれば、まさに歌の国である。確か3年に一度催される歌の祭典は、国民の多くが実際に参加して行われる大規模な合唱の祭りだ。しかしながら、数年前に旅したときには、およそ国内盤のCDを揃えている店はみあたらず、いくつか教えてもらったグループの作品も手に入らずじまいだった。

 エストニアはCDといわず、国内でものを作る力が弱いため、オリジナルのポップスをCDで当たり前に聴けるようになるまでにはまだ時間がかかりそうだが、ホテルで聴いたラジオの音楽番組はまだ私の耳奥にかすかに残っている。再訪がかなった折には、地元の音楽を浴びながらゆっくり旅しようと思う。それまでは、今日のような作品を聴きながら時の熟すのを待つとしよう。
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秋到来―Dvorak concero pour violin et orchestre op.53 Trio op.65 -- The Plague philharmonia
 風呂上がりに肌寒さを感じる季節になった。遠くに聴こえる電車の音が心地よい。秋は本を読むのにも、音楽を聴くのにもとてもいいシーズンだ。今年の夏はことの外長く感じられ、暑さに強いことを自慢にしていた私も、酷い夏バテでいまだに体調不良を引きずっている。ここは一つ、旨い秋刀魚の塩焼きでも頬張って、体力回復といきたい。

 タイトルを見ておや?と思われただろうか。こういう季節だからこそ、大作をゆっくり楽しめるということもあって、オーディオ雑誌の付録についていたサンプラーCDの曲で特に良かったものを何枚か買って聴いてみた。その中の1枚が今日のドボルザークだ。

 イザベル・ファーストという美しいバイオリニストがジャケを飾るこのアルバムは、プラハフィルの演奏でいかにもチェコの薫りを漂わせる。クラシックには疎い私だが、なぜかチェコフィルや今回のプラハフィルの演奏には独特の質感があって、聴いてすぐにそれと分かる雰囲気がある。オケの伝統や、あるいは風土が為せる技なのか。彼等の演奏を聴く度に、たった1度しか訪れたことのないプラハの街並を思い出す。

 聴きどころは、やはり第一楽章の最初の3分間。オケのイントロの直後にバイオリンのパートが始まるが、その音色の何と艶やかで豊かなことか。サンプラーにもやはりここが選ばれていて、全体を聴いた後もなるほどと納得する。

 今日はたまたまこのアルバムをピックアップしたが、ハルモニアムンディの秋リリースは、私のようなクラシック初心者にも楽しめる演奏がラインナップされている。中でも、今日のドボルザーク(表題のRはvが頭に付くR、Aには’が付く)が一押し。私のようなクラシック食わず嫌いの方にぜひ聴いていただきたい1枚である。
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砂時計という名のスピーカー ―Scott Hamilton 2 -- Scott Hamilton
 私としては去年に引き続いて2度目になるインターナショナル・オーディオ・ショウ。国内の主だった代理店が一堂に会して開かれる国内最大級の見本市だが、今日は二日目の土曜なのに、人出もそこそこで、去年と比べてもいま一つの盛り上がりであった。

 私自身も、別会場で催されているハイエンド・ショウでのソフト物色(マーキュリーなど日頃あまり店頭では見かけないCDやLPを試聴しながら購入できる)が目的で、IASの方はLINNのブースを見ればあとは成りゆきで、という程度の意気込みでしかなく、昨夜の残業が効いて(苦笑)じっくりと見て回る気力も失せていた。

 そんな中で、ひと際印象に残ったのが、タイムロードという代理店の取り扱いになるジャーマンフィジックス社のスピーカー。「砂時計」という名をもつそのスピーカーはこじんまりと上品な佇まいそのままに、クラシックを何とも言えず自然にかつ軽やかに鳴らしていた。他のソースならどうなのだろうという興味が湧いたが、代理店の担当者の手元には、女性ボーカルものも多数揃えられており、きっとその辺りも得意にしているのだろうと想像できた。いずれにしても300万円を超える価格だけに、おいそれと購入できるものではないが、心踊る製品があるということだけでも嬉しい限りだ。

 大して動き回ったわけでもないのにどっと疲れが出るのを感じて、部屋に戻るなり座り込む。さてと取り出したのは、スコット・ハミルトンの2枚目のオリジナルアルバム。最近になって、ファーストとの2枚組でCDも再発された彼の作品だが、中古レコードとなると、これが意外に探しにくい。お店で見つかれば、せいぜい1000円かそれ以下なのだが、Concordの作品はファンが多いのか、廃盤店の店主曰く、手放す人も少ないとか。私は、その昔、オーレックスというブランドのオーディオのCMでハミルトンの演奏を聴いて以来のファンであり、手元にある今日の1枚を大切に聴いているが、若い頃の演奏の中ではこの2に、彼の持ち味が凝縮されているような気がする。

 ハミルトンが齢を重ねて再度人気を集めるようになったきっかけは、女性ボーカルの伴奏で注目されたことが大きいと言われているが、確かにサイドメンで小さく名前が刻まれている歌ものに、光る演奏も少なく無い。むしろ、肩の力がいい具合に抜けてノリノリの艶やかな演奏で、おっ!と感じられる向きも少なくないだろう。でも、私はやっぱり、彼のリーダー作を聴きたいと思う。ここしばらく、異常な暑さに閉口してレコード店を巡回するようなことは避けていたが、季節もよくなってきたことだし、また店巡りを再開しようかと思う。

 アルバム「2」は、最近の彼の作品から比べれば音色も辛口だが、演奏そのものはオーソドックスで、どなたにもお勧めしやすい内容だ。もしも店頭でレコードを見かけたら絶対に買い!である。特別、印象に残るフレーズなどはないかわりに、いつも側において聴いていたい愛聴盤になること請け合い。夜風が心地よいこの季節にこそぜひとお勧めしたい1枚である。
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久しぶりの漁盤― 甘き調べ -- ロマンティック・ジャズ・トリオ
 昨日の休日を利用して、久々に渋谷JAROに出かけた。お店が休みだと困るからあらかじめ電話を入れておいたら、なんと時々アルバイトで臨時店長をしているAさんもいて、私が店に行くのを待っていてくれた。ありがたい!

 本当に久しぶりということもあって、壁際に並ぶ新譜や再発重量盤はどれも気になるものばかり。特に、すでに手持ちではあるが、ダイアナ・クラールの最新盤は2枚組で音質もよく、ファンならずともぜひお勧めしたい。というか、プレス数が少ないようなので、アナログファンならとりあえず押さえるべきと店長も超推薦の1枚。

 そうこうしているうちに客で込み合い、あれこれと探しにくくなってしまったので、目の前の棚にあるヴィーナスや澤野の盤を見ていたら、結構、CDですら買いのがしているタイトルが見つかる。その中の1つが今日のロマンティック・ジャズ・トリオの「甘き調べ」だ。

 ロマンティック・ジャズ・トリオのドラムは何を隠そう、グラディ・テイトである。私は彼のボーカルが好きだが、ドラミングも勿論魅力一杯だ。CDのリリースは気をつけてはいても、見逃すこともあるようで、正直、レコードを手にしたときはほっとした。こういう地味なタイトルは廃盤になるのも早いので、見たときに買うのがお約束。

 早速家に戻って針を落とそうと封をきったら、なんとこれが赤盤。曲目もラ・コンパルサやジェントル・レインなど、タイトルに偽り無しの充実の選曲に、なるほど赤盤も合点がいく。肝心の演奏はというと、タイトでおしゃれに過ぎない抑えた抑揚感が絶妙で、ピアノトリオファンなら持っていて損はない。いずれにしてもタイトルのネーミングが全て。こんな作品をプレゼントしてくれる男友達がいたら何と嬉しいことか―ぼやきもそこそこに演奏を楽しみたい魅惑の1枚である。
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CD12を聴く―bluebird -- Benny Green & Russell Malone
 いつもお世話になっているオーディオ店のご好意で、LINNのCDプレーヤーCD12を自宅で試聴する機会に恵まれた。高価というだけでなく、生産の完了がメーカーから告知されて台数も残りわずかというこの時期でのこと。根が貧乏性な私のこと、ワクワクする以前にすっかり恐縮してしまった。

 閉店後に届けられたCD12は、自分の部屋で眺めてみると、思ったよりも大きく、どっしりとした存在感でもって、他の機器を圧倒していた。実際に10kg 以上もあるというから、見た目よりはずっと重い。早速、火を入れて聴いてみる。何を聴こうか、なんて迷う間もなく、とにかく手近なCDをトレイへセット― この音の出た瞬間を何と表現したらいいだろうか・・・。

 音の向こうの静けさと、目の前に展開する、素っ気ないほどの音楽。何も足さず、何も引かず―そんな言葉が似合いそうな、否、それは音質のことではなくて、多分、演奏者が「音楽を通じて表現したい」と思ったことそのものとでも言えばいいのだろうか。

 何曲続けて聴いただろうか、さすがに部屋の空気が薄くなって、換気するためにプレーヤーを止めたら、熱気がさっと引いてもとの部屋に戻っていた。思わず深呼吸して、続けざまに溜息をついた。確かに素晴らしい、けれど、こんなに音楽に向き合い過ぎると、私の体も気持ちも続かない。その意味では、適度にいい” 加減”のIKEMIが、私のリスニングにはちょうど合っている。CD12と比較したときの、その音のある種の粗さが、私の再生の旨味となってもいるようだった。

 それ以上に、CD12はソフトを裸にしてしまうような容赦ないところもあるようで、私の手持ちの古いロシアンCDに関しては、少々厳しかった。何ごとにも完璧は存在しないから、と、私は心のどこかでほっとしている。どうしてもこれが欲しいなどと思ったら最後、私は道のり長いローンレンジャーとなってしまう(笑)。いつまで働くのか分からない自分だから、犬の首輪のように何かに拘束されるのは辛い。

 お店の方も、私がCD12のオーナーになれるほど余裕がないのを知っているから、たまたま時間が開いたタイミングにチャンスを作ってくれたのだろう。LINNの製品を気に入って使っているお客と、CD12を通じてある思いを共有していきたい―先日の山口孝さんの講演会、Forever!,CD12と同様、ある種の心意気のようなものだろうか。将棋に例えていえば、実に味のある一着でもって、私は爽やかな気分に満たされた。

 爽やかというと少し違うかもしれないが、ベニー・グリーンとラッセル・マローンのデュオの新作は、なかなかに乗れる1枚だ。特に、5曲目のLove for saleでは、マローンのアコースティックギターが端切れよく、グリーンのピアノもスウィンギーなことこの上なし。休み明けのダルさを吹き飛ばす好演奏に残業疲れも何処へやら。風呂上がりの1枚としてもお勧めしたいアルバムである。
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何を思ってサイトを作るのか―End of the world party (just in case) -- Medeski Martin & Wood
 仕事が変わったせいで、春から生活のリズムが崩れたまま、ずるずると半年が過ぎた。なんとか立て直そうといろいろやってはいるが、どうも功を奏さない。自分のサイトは、もともとロシアンポップスを初めとするスラブ系諸国の歌謡曲を紹介したくて始めたのだが、途中、オーディオにはまったりしてどうもその目的が見えないような構成になってしまった。

 主旨がよくわからないものほど、やっている者も辛いわけで、思いきって初心に返ることにした。つまり、Blogを中止して、当初の情報発信中心にして、更新作業をミニマムなものにした。

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 コメントなどに書いてくださった皆様、本当にありがとうございました。この場を借りてお礼申し上げます。また、ご意見やお問い合わせなどは、今後もメールにてお気軽にどうぞお送りください。時間がかかっても必ずお返事差し上げます。

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 この1か月、鬱になりかけたり、自律神経失調症で通院したりと、思いのほかプレッシャーに弱い自分に嘆いたりもしたが、そうはいっても人生先が長いと思われるので、ここで面倒なものを整理して楽になることにした。

 これはと思ったソフトや演奏は、この日記で随時紹介していこうと思う。ロシアを取り巻く状況もどんどん厳しいものとなり、一方で、音楽ビジネスも変質著しい。やるせないことの多いこんな時代だからこそ、いい音楽で癒されたいという思いは誰しも共通なのではないか。それを信条にして、少しずつ書いて行けたらと気持ちを新たにしている。

 メデスキ・マーチン・ウッドの新譜は、前作の重たさのあるファンクから、私の感覚では随分ポップな仕上がりになっていて、ちょっと拍子抜けしてしまった。ジャケも、ぱっと見はパステル調のやわらかなデザインで、一体どうしてしまったのだろう、と古いファンなら引いてしまいそうなものだ。

 今回のアルバム、曲という点では、残念ながらこれと気に入るものがなかったのだが、それでもさすがと思えるメデスキのメロディワークと独特の音の重ね方に酔える人には、やっぱり一度は聴いてもらいたい。オルガン好きにはなかなかこれという新譜が出なくてストレスが溜まる一方だが、とりあえずつなぎの1枚にいかが、という感じだろうか。ちなみに、限定でアナログも出ている。「擦る」音楽の楽しみ方なら、また別の感想が生まれるかもしれない。そんな気のする意外な1枚である。
pop & rock | - | - | author : miss key
音楽を聴くこと―On the moon-- Peter Cincotti
 今日の午後は、久しぶりにオーディオ好きの方が二人見えてサウンドパーティを開いた。そのうちのお一方は、ロシアンポップスにも興味を持っていただいていたので話は早かったのだが、残るお一方は、どちらかというとシステムに興味をお持ちで、手持ちのソースでどのくらい再生できるかを試されているようだった。

 早速、夜にも感想をいただき、忙殺された中でのパーティをどうにか終えられた気分でほっとしているが、中でもうれしかったのは、私がどんな風に音楽を聴きたいのか、それを理解してくれる方がいたということである。


  ― いずれにしても、機器は変わっても、やっぱりあれはmiss keyさんの音だと思ったし、以前の音をしっかり踏襲しているのではないのかな。(中略)自分の表現したいことがよくわかっていると思うし、それが僕にもよく伝わりました。音楽を通してね・・・。

 
 チェットの唄や演奏を聴いていると、もっと彼の存在そのものに近付けないだろうかと、あがいてみたりもする。細やかな息遣いや吹き入れた息の温かさが感じられるような再生。そして、薄暗い室内に浮かぶトランペットの鈍い金色のように、あるいは静かな波間に漏れる光と陰のように、音の揺らぎをうまく表現できないだろうか。そんな思いでもって、これからもオーディオでの再生を楽しんで行けたらと思う。


 今日は、ボーカルが良かったという感想をいただけたのに気を良くして、シンコッティの新譜を聴いた。マイケル・ブーブレやジェイミー・カラムと、年代も近くて実力のあるシンガーが目白押しの中、2枚目のアルバムに一番時間をかけたのがシンコッティである。

 「売らんかな」路線を嫌ったのか、選曲は意外なほどに地味で、当たりすぎた1枚目からのプレッシャーを思わせなくもない。しかしながら、1度目は、ちょっとハズレかな?という気がしないでもなかったのが、2度、3度聴くと、すごく心に沁みていい歌だなあと実感する。僕の歌いたいのはこんな歌、そんなシンガーの思いがじんわりと伝わってきて、思わず口元が緩む。イケメンボーカルは数あれど、じっくり聴き込むのなら、このアルバム。私同様、仕事に疲れたOL 同志にお勧めしたい一枚である。
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気になる唄の一曲くらい―Promises Kept--Steve Kuhn with Strings
 ふとしたきっかけで思い出し、どうしても頭から離れない唄がある。そういうのは、誰しも共通しているのか、食玩で懐かしのナンバーとして話題になったり、そうかと思えば、職場のカラオケ大会で、意外な人の意外な選曲で盛り上がったり。

 ここのところ、気になる1曲は、沢田研二の「時の過ぎゆくままに」。このタイトルの部分しかフレーズが思い出せない程、断片的な記憶なのに、テレビの「ザ・ベストテン!」か何かでジュリーが歌っていた様子が記憶の片隅に揺らめく。白い衣装に銀のラメが散らしてあるような衣装で、霧雨のような中を歌う姿が。

 CD化されているのかと思って探してみたら、それが何枚か出ているものがすでに廃盤になり、しかもそれらはみな高値で―定価の3倍以上で―オークションなどで取り引きされていた。たった1曲、それだけを聴きたい私にはかなりハードルが高い。で、レコードで買いやすいのを探しているが、未だにゲットできず。でも、近い内に聴きたい。時の過ぎゆくままに、を。


 今日の作品は、ネットサーフィンしていてたまたま見つけたCD評を頼りに買った1枚。スティーブ・キューンは日本でも人気があるし、何枚かは手元にあるが、今回のウイズ・ストリングスにはすっかり騙された、というか、その評通り「新局面」だった。繊細なタッチで透明感に溢れ、イージーリスニングかと思うような優しい音楽に、側にいる人に聴かせて「このピアノ、だーれだ!?」と問答したくなる。

 こういう音楽を聴きたくてわざわざキューンを選ばないという声があった。それは確かにそうだが、単なる上手なピアノでないことは、この聴き心地が証明している。ECMレーベルで、ある意味私にとって敷き居の高い作品だったが、これは買って正解だった。そろそろ秋の夜風が冷たくてというこれからのシーズンに合う心休まるBGM。女性リスナーにお勧めしたい1枚である。
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北オセチアの悲劇に―Faure Requiem -- La chapelle royale/Ensemble musique oblique
 日本国内で、これほど大きく取り上げられたロシアのテロ事件は、あのモスクワでの劇場テロ事件以来だろうか。地下鉄や飛行機での自爆テロに続き、北オセチアの片田舎で起こった惨劇。入学式という晴れがましい舞台を、一体何を思って、わざわざ選んだのだろうか。

 ありがちなことだが、事態が収拾したとの報道から時が経てば経つ程、死亡者の数はどんどん膨らみ、ついさっきのニュースでは400人近い人が亡くなったという。ロシア国内の報道では、その数が600と推計するものもあるが、記事の内容はゴシップのようなものではなく、これほど遠く離れた国に身がありながら、無念に胸が詰まる。

 私には、政治の難しいことは、わからない。私は、職場の人間関係にも苦慮するほどだから―民族の利害や、歴史の中の過去の遺恨や、宗教や、そして今後発生するであろう経済的障害―それらすべてが、平和の内に解決するような方程式も、おそらくないのだろうと思うのが関の山で。

 フォーレのレクイエムを久しぶりに聴いた。外は雷雨。雨と風に打たれて窓がガタガタ揺れる。北オセチアは、あのセルゲイ・ボドロフ・Jr.を永遠に閉じ込めた土地でもあり、オセチアの響きは私にとって、とても哀しいものとなった。そして、せめて、被害に遭われた人々のご冥福をお祈りしたい。合掌―。
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