音の快楽的日常

音、音楽と徒然の日々
Нечего терять
ロシアのポピュラー音楽を聴いたことのない人に、それを紹介するとしたら、
いったいどんな風にすれば興味を持ってもらえるのだろう。
私はロシアのレーベルや業界の回し者ではないが、
単なる趣味や嗜好を越えて、素晴らしいと思える音楽を、
もっと他の方にも聴いてもらえたら、とはいつも頭の中で考えることである。

t.A.T.uのように一過性のような感じで大ブームになると
それをきっかけにその背景にあるロシアのポピュラー音楽も
注目されたりはするのだろうが、
話題性が先行してしまって、
他にいくらでもいる地味なアーティストが日の目をみるというのは
なかなか期待しても厳しいようだ。

チーシュ&カンパーニヤの"Нечего терять"
(ニェーチェヴァ・チェリャーチ、「失うものがない」の意)
を久しぶり通しで聴いてみたが、
この時期(99年)あたりのアルバムは
どのアーティストも充実していたように思う。
思えば、80年代はあまりいい思い出がない。
ペレストロイカとグラスノスチをきっかけとして、
あれよあれよと音を立てるようにして体制が崩壊し、
その後、一時期のロシアのポピュラー音楽も
粗製濫造などと揶揄される状況に。

そんな中、徐々に市場も整い、
音楽を演奏する側の環境も良くなったのだろう、
CDの音質一つとってみても、ここ10年の作品はかなり安定している。

「質の悪いカセットを苦労して手に入れたはいいが、
音の酷さに閉口する、それでも聴けてうれしい」
みたいなロシアに執着のある人間以外はギブアップしそうな状況が、
私がロシアのポピュラー音楽を聴き始めてからかなりの長い間続いたが、
そこからすると、今はインターネットで簡単に音源にアクセスできるし、
興味があれば簡単に触れられる環境が整っている。

私のサイトの永遠の宿題なのだけれども、
人に伝える、ということの難しさを改めて感じること、しきり。
当時のヒットチャートや話題の人についてメモっとけばよかったなあ、
とか、にわかブロガーには後悔の念が絶えない。
勝利の方程式!といった方法論はないのだろうが、
何かのきっかけづくりができないかなあと思いを巡らせている。
暑さのぶり返しにすっかり参った頭をリセットしつつ。
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魅力のbox set
ロシア&クロアチア関連で魅力のボックスセットをご紹介。

□ Oliver 1 / 2




クロアチアのシンガー、Oliver(オリベル)の豪華オリジナルアルバムボックスセットがこの夏リリース!

セット1では、デビューアルバムから全14枚のアルバムをCD化(初CD化音源も含まれている模様)。
セット2では、15枚目以降から近作までの6枚をパッケージ。
パッとみはセット2があまり大したことがないように見えるが、
アルバム「ネカ・ノヴァ・スヴィターニャ」が廃盤となっていたのが、
このボックスセットで改めて入手可能となった。
このアルバムのみ、他とは異なるレーベルから出ていたこともあって、
おそらく最初のCD化時からややこしかったのだろうと思われるが、
何はともあれ、オリジナル録音で聴けるのだからありがたい。

悲しいかな、ユーロ高騰の影響か、
クロアチア・クーナと円のレートはここ数年で最悪(涙)。
でも、日本一のオリベルファンを自称する管理人(笑)としては、
ここは苦しいながらもゲット。
まだ届いていないが、リマスターの有無やボーナストラックについては
入手後、改めて紹介予定。

□ Антология - Аквариум (Коллекционное издание)

いつか出るだろうなと思っていたアクアリウムの20枚ボックスセット。
実はこのセット、リリース自体は3年ほど前になるが、
ロシア国内の限定流通だったのか、US経由では最近ようやく購入できることに。

こちらはリマスター、および数々のボーナストラックが魅力。
問題は、価格。300ドルほどするので、セットで買うメリットがやや乏しい気もするが、
何せ、20枚。(などと、管理人もバラで持っているアルバムも多いので、迷っている最中)

ボックスではないけれど、
初期のロシアンロックということで、
ツヴェトゥイのCD化など、うっかりすると見過ごしそうなリリースがちらほら。
油断大敵、逃すと涙!なアイテムがまだまだ出てきそうな気配。
管理人も「稼がなければ〜」(気合いだけでは収入は増えないが)と思っているところです。
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秋よ、来い![その2]
秋というと、ロシアの秋も素晴らしい。
あっという間の短い黄金の秋だから、余計に感傷をそそるのかもしれないが、
私が昔ロシア語を習っていた先生は、
「秋というなら、モスクワよりも表参道の並木道の方が美しい」
とおっしゃっておられた。
確かにモスクワの街並は雑然として埃っぽく、
キエフ郊外を訪れた折の、秋の農村の風景の方が、
私にも印象深く思い出される。
そこで、新作ではないが、秋の夜にお勧めのアルバム2枚を選んでみた。

□ Бард-Авангард / Трофим

 トローフィムの02年のアルバム「バルト・アバンギャルド」。
 トローフィムは66年生まれのシンガーソングライター。
 サウンドはややシャンソン寄りのバルディで、ギターの音が美しく、
 また作曲家としても、作品を他のアーティストに提供している。
 本作はカントリーやブルースタッチの曲も収められていて、
 ロシアものはあまり・・・という方にも入りやすい構成。
 正直、彼自身はそれほど歌える歌手ではないと思うけれど、

しんみりと聴き込める本作はロシアの弾き語り系作品としてもお勧めだ。

◆ Трофим(トローフィム)のOfficial Site
 http://www.trofim.com

□ Осень музыканта / Геннадий Пономарев, Жанна Бичевская

「音楽家の秋」と題された
ゲンナージィ・ポノマリョーフとジャンナ・ビチェフスカヤの98年作品。
これもまたギターの音色が素晴らしい秋色のサウンド。
どちらかというと、秋の入りというよりは晩秋を思わせる、
物悲しさを誘うマイナーなサウンドの中にも、
差す陽の光の暖かさを感じさせてくれ、
深くてゆったりとした歌と演奏が楽しめる。

作曲はジャンナの夫でもあるポノマリョーフの手になるが、
詞はオリジナルを始め、マンデリシタームやプーシキン、ツヴェターエワといった
ロシアを代表する偉大な詩人たちの作品や、
珍しいところではタルコフスキーの名前も見える。
詩に負けないどころか、その美しさを何倍にも引き立て、
新しい世界を開くポノマリョーフの紡ぐメロディをぜひ堪能いただきたい。
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秋よ、来い!
最近買ったディスクから、秋の音色をご紹介。

□ Nocturnes & Serenades / Scott Hamilton

ここ数年、順調に作品が発表されているスコット・ハミルトンの最新盤。
アメリカのスタンダードナンバーを集めたワンホーン作品で、
ハミルトンの渋くて美しいテナーの音色が堪能できる。
サウンド全体がヨーロッパの秋(曲はアメリカなのに!?)だなあと思ったら、
サイドメンはイギリスのミュージシャンなのだそう。
この深みと湿り気がスコットのテナーにベストマッチ。
暑さが一息ついた夜に静かに流したいお勧めのアルバムだ。
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御詠歌
いつも拝読しているwabisabiland pop diaryに御詠歌が取りあげられていた。
御詠歌というと、私自身の体験では、祖父が他界した折、
四十九日を迎える日までの毎週末に母屋に和尚を呼んで「あげてもらう」ものだった。
もちろんその場にいる人々もいっしょに唱和する。

まだごく幼い子供だった私は母親に「きょうもごえいかうたうんか?」
と尋ねると、「ご詠歌は”歌う”んとちがう、”あげる”いうんよ」と教わった。
「あげる」というのは、亡くなって仏様になった人に向かって発するものだから、
「歌う」じゃまずいんだろうと、そういう理解をしていたのだが、
御詠歌は何もそういう時ばかりのものではないようで、
調べてみたら、随分たくさんネットに紹介されていて驚いた。

もっと驚いたのは、お寺さんのblogやHPがたくさんあって、
お寺さんによっては、御詠歌がmp3!で聴けるようにしてあったりする。
御詠歌のDVDやCDなど、商品化されていることも知らなかった私は大層驚いた。

私の実家は真言宗高野山が本山になるので、早速高野山金剛峰寺も探したが、
残念ながらmp3はなかった。

私は人の真似をするのが好きなので、
御詠歌もご多分に漏れず、何度かその場に居合わせることで
すっかり歌の文句も節回しも覚えてしまっていた。
幼かったから言葉の意味はさっぱりわからなかったが、
「ありがたいものだ」という先入観と、
金剛峰寺バージョン(御詠歌というのは寺によっていろいろな流派がある)
の節回しは陽性で、子供にも馴染みやすいものだったので、
少なくとも人は亡くなったら極楽浄土にいけるというおぼろげな印象を抱くには
十分なものだっただろう。

面白いので、さらに調べてみたら、御詠歌の譜面があった。
御詠歌の譜面はもちろん洋楽の五線譜ではなく、もう少し複雑な記号で記されていたが、
でもこれはあくまでも補助的なもので、これさえあれば解釈はともかく、
例えばモーツァルトのレクイエムはレクイエムとして再現できる、
というようなものではなさそうであった。

最近、『南総里見八犬伝』を読み返したり、なんとなくお寺さんに縁があるような話が多い。
これもこういう季節柄なのか。
信仰とか信心というものはまるでないが、
先祖の仏様にはお参りを欠かさないという典型的日本人の独り言である。
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ウームカ・ドットコム・ウクライナ
 ロシアものをあれこれ聴いていると、
 だんだんとカルトなものや流通の制約で
 なかなか手に入らないアーティストの作品なんかをつい聴いてみたくなる。
 ウクライナのロックバンドДруга Рика(ドゥルーハ・リカ)もその一つ。
 旧作が別ジャケで再発になったのを知って、俄然聴きたくなってしまった。
 でも一般的なロシアものを扱っているCDショップでは
 あまりやっていないレーベルのせいか、
 結局、ウクライナ国内の通販店で買い求めることに。


◆ WWW.UMKA.COM.UA(ウームカ・ドットコム・ウクライナ)
  http://www.umka.com.ua/

純粋にウクライナ国内盤を扱っているお店で、そういうディスクを探すには重宝する。
送料も常識的な範囲で、決済はペイパルのような決済専門のサイトと連動している。
ショップの担当者は質問にも丁寧に答えてくれ、なおかつレスポンスも早い。
サイトの表示は一部英語表示も可能で、環境もそこそこいい。

それならいいことづくしじゃないか!ということなのだけれど、
注意すべきは、ものによってCD-Rだったりすること。
サイトに表示されていないので、その辺りを店に尋ねたら、
流通上の問題もあって、店では中を開封してチェックできないので表示は難しい、とのこと。
今回、ドゥルーハ以外にも90年代のタイトルを幾つか抱き合わせに買ってみたら、
旧作の再発ものにCD-Rがいくつか混じっていた。
音質的にはそんなに変わらないものの、コンディションの維持はCDに比べるとどうかというところか。

外盤を現地もので調達すると、ちょっとしたトラブルがあったりするけれど、
それなりの価格なので、私などは許容範囲と捉えている。
そんなことより、聴いたことのないアーティストの音楽を
自分の部屋で聴けることの方がよほど魅力的だ。

面白いものを見つけたり、あるいは地元の人たちが楽しんでいる
普通の話題盤を手に入れるなら、その場所のお店へのアクセスが手っ取り早い。
ウームカは質問もブロークンな(下手、ともいう)英語で十分足りるのでありがたい。
ご興味のある方はぜひ店を覗いてみてください。
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メートルあげる?
「メートルあげる」ってどういう意味ですか?

たった一行のメールが届いて、静かな深夜の部屋で独りウケてしまった。
「酔いが回る」ことの喩えだけれど、きっと今の若い人たちには
そんな言い回しを聞く機会がないのかもしれない。

念のため、その質問は、先日のCRTに参加したことの感想を読んでいただいてのこと。

私がまだ20代で社会人になったばかりの頃は、
週に2度、3度と飲みに連れていかれることも少なくなくて、
お説教とも愚痴ともつかない先輩職員の話を聞きながら、
まだまだ自分の給料で飲めない身分の私はありがたくビールをいただいた。
そんな調子で、覚えたことと言えば、サラリーマン用語やら、カラオケのデュエットやら、
大して仕事には役立たないものばかりだったが、
まあ、邪魔になるものでもないという雑学が多くて、
時々酔っぱらった酒の席で、ぽろっとそういう言い回しが自分の口から出ることもある。

メートルあげる、なんて、そうだな、きっとあんまり言わないな、
そう思いながら、ネットで検索してみたり。
思えば、どこから来た言い回しなんだか。
日本語の語感ってほんとうに面白いって思う。
ああ、冷たいビールが飲みたい。
よもやま | - | - | author : miss key
CRT&レココレ『ポール・サイモンを楽しむ50の方法?』
8月17日、まだ夏休み気分も抜け切らない夏の夜に、
新宿歌舞伎町はロフトプラスワンで開催された
CRT&レココレ『ポール・サイモンを楽しむ50の方法?』
に出かけた。
私は、ポール・サイモンのソロ作品をじっくり聴いたことのないリスナーだから、
今夜、紹介された貴重な映像の数々に、思わず声を出しつつ、
後年、フュージョンぽくなったりetc...のポールの音楽の変遷に、
ちょっと戸惑いを覚えてしまう自分がいた。
私が聴いていたのは、ポールというよりは、
サイモン&ガーファンクルであって、
どちらかといえば、ガーファンクルの歌を聴いていたのかな?

 いやいや、あのハーモニーと、あの曲が好きだったのだ
 などと萩原健太さんの熱い解説を聴きながら、ちょい神妙な気分に。
 私にとってサイモン&ガーファンクルは、映画の向こうで聞こえた歌で、
 映像とセットになって思い出されるメロディだった。
 あまりにもその印象が強いせいか、
 後年のソロアルバムは私にとって少しばかり距離があるのかもしれない。

 能地祐子さんがお話の中で「あの頃、ペニーレインと」に触れていて、
 そうそう、そうなんだ、そうだったよね〜とうなずきながら、
 この映画のサントラにはビッグネームがずらり揃っていて、
 ロック入門が遅かった私には、今になってその豪華さにびっくり。
 < ちなみに、Simon and Garfunkel,The Who,Todd Rundgren,
  The Beach Boys,Rod Stewart,The Allman Brothers Band,
  Led Zeppelin,Elton John,David Bowie,etc...

19時30分にスタートしたイベントは、22時30分を過ぎても、なお盛り上がる。
後半はThe Silver Crickets(天辰保文さん&北中正和さん)のお二人の解説や映像紹介で、
ポール・サイモンの核心に迫っていく・・・
というところで中座するのは残念だったが、宿題があった私は会場を後にした。

もっとも宿題があるという割には、すっかりお酒も進んでしまって
< 休憩の間にメートルあげてくださいね〜という萩原さんのお話通り(笑)
眠い頭を抱えて帰る車中、あの懐かしいギターのメロディが浮かんでは消えた。
指先に弦の硬さの感触が蘇るような、そんな気がした夜だった。

*******
The Silver Cricketsのお二方が参加されるイベントは、ゲスト参加、主催イベントともに各々のOfficial Siteで案内が出ます。
「次はぜひ!」という方はこまめにチェックを!!
◆ IN-CAHOOTS / 天辰保文さんHP
  http://members3.jcom.home.ne.jp/in-cahoots/
◆ Wabisabiland / 北中正和さんHP
  http://homepage3.nifty.com/~wabisabiland/
live & イベント | - | - | author : miss key
リマスター、侮り難し
今年に入って、Chet Bakerの未発表映像や録音が相次いでリリースされている。
人見記念講堂での来日ライブ映像がDVDで出るとは思ってもみなかったので、
その画像が多少悪くとも、そんなものはたいした問題でもない、
動いているChetがそこに居る!ということに直に感動する。

これまでChetの、特に初期の作品は何度となく再発され、
その度に、ボーナストラックだの、紙ジャケだの、リマスターだのと、
Chetを追いかけるファンの財布にむち打つ割には、
音質が期待ほどではなくて、やっぱりアナログレコードでなければだめかな・・・
などと落ち込むことを繰り返してきたけれど、
今日、購入した"Cool Cat"のリマスター盤は、すばらしい音質で、
これが1995円で買えるのなら、ほかのタイムレス盤も全部リマスターして欲しい、

などと勝手なことをほざきながら、冷たいジャスミン茶を喉に流し込む。
これまでのリマスター盤と違うなと感じる点は、
例えば以前のリマスターが、
初期のデジカメで撮った絵の白いエッジのように「とってつけた」臭さが抜け切れないもの、とすれば、
本作のリマスターは、ナチュラルなのに、情報量が増えて、
薄皮が剥がれた感じ。曇りが取れたというと語弊があるだろうか。
それでもアナログで聴く音とはやはり違うのだけれど、
これなら十分Chetの演奏と歌を堪能できる!!!というハナマルもの。座布団3枚あげてもいい。

冗談はさておき、ここ数ヶ月はとみにChetの再発/初CD化作品のリリースが忙しい。
どういう経過かわからないが、とうとうマリアッチブラスの作品までCD化された。

 思いっきりイージーでラウンジなサウンドで、
 面白くなさそうに演奏するChetの顔が浮かぶよう。
 でも、干されたこの時期の彼の演奏は捨てたものではない。
 むしろ、脱アイドルで彼の演奏力を別な角度から示した、
 と言ってもいいのではないか。
 ファンとしては、相次ぐ再発が彼を再評価する動きと受け止めて、
 ファン心理を逆手にとったマーケティングに腹を立てずに(笑)、
 我が財布に引き続き鞭打つことにしよう。

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ナウカ
炎天下の中、久しぶりに神保町を歩いた。
先日、閉店が決まったナウカの最後のセールに出かけるために。
裏通りの民家の玄関先には、高校野球のラジオ中継を聴きながら、
「暑いね〜」と団扇であおぎながら世間話をするお年寄りが。
これで冷やしたスイカがあれば昔と変わらぬ「日本の夏」。



ナウカが店舗を移転したのはそれほど前のことではないが、
現在の場所になってから初めての買物が、最後の買物となってしまった。
いつも電話一本の問い合わせに丁寧に応じていただき、
欲しい本をあれこれと探してもらったりと、
大して利用している訳でもなかったのに、お客として大事にしていただいた。
今時点で探し物はこれといってなかったが、
お世話になった店員さんへのご挨拶を兼ねて覗いてみた。

8月一杯の営業ということで、もう店頭には本があまり残っていないのでは
というのは杞憂で、
新刊書もしっかりと揃えられていた。
古い店舗の時もそうであったが、在庫量がある割に探しやすいので、
余程タイトルの難しいもの以外は、初心者の私でも欲しいものを探すことができた。

今日、買ったのは、「イーゴリ軍記用語集5巻立」と「20世紀の詩人事典」。
普通なら高価で手が出ないところ、処分価格だったので購入することができた。
残務処理、ということなのだろうが、貴重な本を安く手に入れたうれしさと、
本当ならこういう本を日頃からまめに買える客でなければいけなかったのだろう、
という後ろめたさのようなものが綯い交ぜになって、
店を出る時には少し複雑な気持ちになった。
数年前にお会いしたきりの店員さんたちであったが、顔を覚えていてくださって、
「長い間お世話になりました」「いえいえ、こちらこそ、ほんとうに・・・」というやり取りに、
いよいよ廃業、閉店というのがひしと感じられ、寂しくなった。

どんなお店にせよ、やめてしまうというのは物悲しいものだと思うが、
少なくとも20年以上にわたってあれこれとアドバイスを貰いながら、
数百部しか発行されない貴重な書籍を手に入れたことも一度、二度ではなく、
その割には私のロシア語の力は大して変わらなくて、
自分の努力不足を思い知らされるようでもあった。


せっかくだからと、久しぶりに古書店街を歩き、文学の専門店をはしごしたが、
近所の書店の棚にはもう見ることのなくなった
昭和の作家達の全集などを眺めるにつけ、
手にする小説が面白くて仕方のなかった頃を思い出す。
本の匂いというのは、ほんとうにいいものだ。
愛することのできる母国語を持っていることの幸せを、
平凡な生活に埋没するわたしであっても再認識させてくれる。
少し余裕が出たら、堀辰雄と梶井基次郎の全集を買いにいこう
そんなことを思いながら地下鉄に揺られた猛暑の夕刻。
よもやま | - | - | author : miss key