風景の「中」へ - ピアノの音に包まれた1日 | 2008.02.28 Thursday |
春一番がどれだかも知らないうちに二月も最後の週末を迎えた先週のこと、
神保町で兼ねてから懸案の『冥土』を探し当ててから向かったのは、
お茶の水から徒歩数分の写真スタジオにて開催されたレコードコンサート。
とても良い香りのする紅茶をいただき、
さらにはしっとりと滑らかな口当たりのシフォンケーキをおやつに頬張りながら、
13時過ぎから19時までの約6時間、
ピアノの曲及びその関連楽曲を終始心地よい音量で包まれるように聴いた。
DJはLINN JAPANの古川雅紀氏。
氏の選曲は意外性と柔軟性の両方を兼ね備えた、まさにワクワクが一杯の玉手箱。
当日は「ピアノ、ピアノ!? ― 鳥籠(Cage)から風景の外へ、友人(Yuji)たちと」
と題し、ジョン・ケージと高橋悠治にスポットが当てられていたが、
それにとらわれることのない緩さのようなものがあって、それはまさに音の快楽。
これまで氏に紹介していただいて好きになった音楽はいくつもあるが、
今回にしても、欲しくなったディスク多数で悩ましさも倍増。
もっとも、期末と確定申告が重なるこの時期故か、参加者も少数だったので、
ゆったりとした時間を過ごすことができてなかなか贅沢な体験だった。
なかでも特に強い印象を残した曲は次の演奏家によるもの。
□ Der Bote - Elegies for piano / Alexei Lubimov (p.)
アレクセイ・リュビーモフの02年アルバムから当日流れたのが、
ジョン・ケージ作曲の"In a landscape"。
リュビーモフのピアノ、
まるでひんやりとした鉄の棒でも喉元に当てられているかのような、
独特の抑制感と艶かしさがある。
指先の隅々まで行き届いた緊張感が鍵盤に移ることはないが、
迷いのない音の整理のされ方にどのような曲調を耳にしても安堵を覚える。
リュビーモフの作品は何枚もリリースされているが、
合わせて購入した"Messe Noire"も素晴らしい演奏。
こちらはストラヴィンスキー、ショスタコーヴィチ、プロコフィエフ、そしてスクリャービンと、
ロシアの4大作曲家の作品を収めた、まさにロシアづくしの1枚。
□ パーセル最後の曲集 / 高橋悠治
パーセルの音楽はわたしにとっても特別なもので、
いつもこっそりと隠し持っているお守りのような感じだ。
そのパーセルの数あるオリジナル曲の中から素材として選ばれたのは「組曲第2番ト短調」。
ピアノ、チェレスタ、電気ピアノ、そして電子オルガンを使っての創作の世界は、
まさに初めて食べた未知の料理のようだった。
当日流れたのは4曲目、「たっぷり五尋(ごひろ)の底に」。
目の前に広がる海のイメージ、海に我が身が沈められるイメージ。
そこに苦しさはなく、寧ろ解放感を持って自ら進んで沈んでいく様。
楽器の持つ可能性を探りつつ、ルールに囚われない響きから音の世界が構築されていく。
今回のレコードコンサートを締めくくるに相応しい1曲だった。
□ Cornelius Cardew: We Sing for the Future! / Frederic Rzewski (p.)
コーネリアス・カーデューという名前も初めてだったが、
ジェフスキというピアニストの演奏も初めて聴くことができた。
そしてピアノが苦手なわたしにとって貴重な、数少ないお気に入りの演奏家となった。
ジェフスキ、という名前は前から気になっていていつか聴きたいと思っていたピアニスト。
現代音楽に括られる演奏家となると、どの辺りから入っていいものやら、
物差しというか目安がなくて、最初のハードルが高い。
当日は別のアルバムから自作自演の曲が流れたが、
取り敢えずの1枚をすぐ手に入るアルバムの中から選んでゲット。
これが予想以上に良かったのでジェフスキのBox Setをオーダーすることに(笑)。
レコードコンサートが終了後も話しは続き、会場の近くのカレー屋でも音楽の話は続く。
濃密かつ濃厚な音楽の一日。
こんな音楽喫茶なら毎週通うぞと思いつつ、そんなお店は採算が合わないだろうからと、
あれこれ想像しながら電車の揺れに身を任せた帰り道。
現代音楽とは新しさの創造に囚われてかえって窮屈になっている音楽のことだと思っていたが、
窮屈なのはそんなわたしの了見だったことに改めて気づかされた。
終始途切れることのない心地良さは、
まさに「風景」の中へ知らず知らずのうちに身を置いていることの快楽だったに違いない。
いい週末だった。
神保町で兼ねてから懸案の『冥土』を探し当ててから向かったのは、
お茶の水から徒歩数分の写真スタジオにて開催されたレコードコンサート。
とても良い香りのする紅茶をいただき、
さらにはしっとりと滑らかな口当たりのシフォンケーキをおやつに頬張りながら、
13時過ぎから19時までの約6時間、
ピアノの曲及びその関連楽曲を終始心地よい音量で包まれるように聴いた。
DJはLINN JAPANの古川雅紀氏。
氏の選曲は意外性と柔軟性の両方を兼ね備えた、まさにワクワクが一杯の玉手箱。
当日は「ピアノ、ピアノ!? ― 鳥籠(Cage)から風景の外へ、友人(Yuji)たちと」
と題し、ジョン・ケージと高橋悠治にスポットが当てられていたが、
それにとらわれることのない緩さのようなものがあって、それはまさに音の快楽。
これまで氏に紹介していただいて好きになった音楽はいくつもあるが、
今回にしても、欲しくなったディスク多数で悩ましさも倍増。
もっとも、期末と確定申告が重なるこの時期故か、参加者も少数だったので、
ゆったりとした時間を過ごすことができてなかなか贅沢な体験だった。
なかでも特に強い印象を残した曲は次の演奏家によるもの。
□ Der Bote - Elegies for piano / Alexei Lubimov (p.)
アレクセイ・リュビーモフの02年アルバムから当日流れたのが、
ジョン・ケージ作曲の"In a landscape"。
リュビーモフのピアノ、
まるでひんやりとした鉄の棒でも喉元に当てられているかのような、
独特の抑制感と艶かしさがある。
指先の隅々まで行き届いた緊張感が鍵盤に移ることはないが、
迷いのない音の整理のされ方にどのような曲調を耳にしても安堵を覚える。
リュビーモフの作品は何枚もリリースされているが、
合わせて購入した"Messe Noire"も素晴らしい演奏。
こちらはストラヴィンスキー、ショスタコーヴィチ、プロコフィエフ、そしてスクリャービンと、
ロシアの4大作曲家の作品を収めた、まさにロシアづくしの1枚。
□ パーセル最後の曲集 / 高橋悠治
パーセルの音楽はわたしにとっても特別なもので、
いつもこっそりと隠し持っているお守りのような感じだ。
そのパーセルの数あるオリジナル曲の中から素材として選ばれたのは「組曲第2番ト短調」。
ピアノ、チェレスタ、電気ピアノ、そして電子オルガンを使っての創作の世界は、
まさに初めて食べた未知の料理のようだった。
当日流れたのは4曲目、「たっぷり五尋(ごひろ)の底に」。
目の前に広がる海のイメージ、海に我が身が沈められるイメージ。
そこに苦しさはなく、寧ろ解放感を持って自ら進んで沈んでいく様。
楽器の持つ可能性を探りつつ、ルールに囚われない響きから音の世界が構築されていく。
今回のレコードコンサートを締めくくるに相応しい1曲だった。
□ Cornelius Cardew: We Sing for the Future! / Frederic Rzewski (p.)
コーネリアス・カーデューという名前も初めてだったが、
ジェフスキというピアニストの演奏も初めて聴くことができた。
そしてピアノが苦手なわたしにとって貴重な、数少ないお気に入りの演奏家となった。
ジェフスキ、という名前は前から気になっていていつか聴きたいと思っていたピアニスト。
現代音楽に括られる演奏家となると、どの辺りから入っていいものやら、
物差しというか目安がなくて、最初のハードルが高い。
当日は別のアルバムから自作自演の曲が流れたが、
取り敢えずの1枚をすぐ手に入るアルバムの中から選んでゲット。
これが予想以上に良かったのでジェフスキのBox Setをオーダーすることに(笑)。
レコードコンサートが終了後も話しは続き、会場の近くのカレー屋でも音楽の話は続く。
濃密かつ濃厚な音楽の一日。
こんな音楽喫茶なら毎週通うぞと思いつつ、そんなお店は採算が合わないだろうからと、
あれこれ想像しながら電車の揺れに身を任せた帰り道。
現代音楽とは新しさの創造に囚われてかえって窮屈になっている音楽のことだと思っていたが、
窮屈なのはそんなわたしの了見だったことに改めて気づかされた。
終始途切れることのない心地良さは、
まさに「風景」の中へ知らず知らずのうちに身を置いていることの快楽だったに違いない。
いい週末だった。
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