暑さもここに極まれリ!と思われた週末の午後、
代々木体育館の脇を木陰づたいに出かけたNHKホール。
原信夫とシャープス&フラッツのファイナルツアー、いよいよ千秋楽1日前の公演。
シャープの演奏というと、NHKや昔は普通の民放でもあった歌番組でおなじみの歌伴。
なので、彼らの名前を知らなくても、実際に耳にしたことのある方はとても多いはず。
開場後、すぐに並んでわかったのが、お客さんの年齢層の高さ。
自分がひょっとして最年少!?みたいに思えてしまうほど。
それはそのはず、原信夫さんは大正生まれ、軍の楽団に所属していてその後ジャズのバンドを編成。
司会の方がその長い歴史をうまくまとめていらっしゃったが、
私が初めて聴いたのだって幾つくらいの時だったか、もう随分前のことだ(笑)。
ジャズのビッグバンドが好きであれこれ聴いてきたわたしも、
基本的には国内の楽団というとそれほど熱心には聴いていなくて、
うまく比較の対象も思い浮かばないけれど、
海外の有名どころの良さを上手く消化しながら、
日本の音楽らしさを意識的に打ち出しているのが他所にはない魅力ではないか。
その昔、わたしがそれなりの広さのホールでオルガンを演奏することになり、
その時の恩師の選曲が何と『シャイニー・ストッキングス』だった。
当然ながら、この曲の持つ流麗で子供にはこなしがたい艶のようなものがだせなければかなり厳しいのだけれど、
それを言葉で判らせるのは無理と思ったのか、シャープの演奏が録音されたテープを渡されて、
それをひたすら聴いて真似しなさい、というのが彼の指示だった。
シャープの演奏に感じられた、バタ臭くなく、抑制が効いてどこか爽やかさもある艶やかさは、
当時12歳の子供が聴いてもそれはもう十分に魅惑的で、
それこそ踊り子たちが自慢の御脚を披露するシーンなど思い浮かべさせもしたが、
或はまた、その少し「残している」ところが
12歳のわたしにもなんとか弾きこなせそうな気持ちにさせてくれたのだった。
ところでライブ当日、尺八の山本邦山をはじめ、
シャープの演奏をバックに雪村いずみ、綾戸智絵など新旧の歌姫がゲストで次々登場。
番組収録もあってか、前半は多少固さも感じたけれど、
後半、歌伴が始まってからはエンジン全開、心地よいグルーヴに身を任せて思いでの曲を聴きついだ。
上のジャケットは今回のツアーで、昨年中に収録された演奏から編集されたCD。
SACDハイブリッド盤で、おそらくシャープのCDでは初めてではないだろうか。
今回の機会を捉えて、旧作もかなりの枚数、復刻発売されている。
ビッグバンドの音源は意外に手に入り難いものが少なくないし、
シャープス&フラッツのアルバムはCD化されていないものも結構あるように思う。
ビッグバンドがそれほど得意でなくてもワールド系が好きな方なら、
彼らのニューポート・ジャズフェスティバルに参加した時の録音をぜひ聴いてみて欲しい。
全曲、日本の曲でチャレンジ、大成功を収めた際の貴重な音源でもある。
アレンジの妙、侘び寂びとゴージャスな金管演奏の融合が癖になってしまうかも(笑)。
世界でも類を見ないと言われるほど、一人のリーダーのもと長きに渡り活動してきたシャープス&フラッツ。
生演奏を聴く機会が失われたとしても、
その残された素晴らしい音源で名演の数々を楽しめることを幸せと思おう。
最後のツアー、聞き逃した方は上のCDをぜひ。