音の快楽的日常

音、音楽と徒然の日々
夜桜の公園を通り抜けて
肌寒さの抜けないこの時期なのに、
今夜は少し気が向いて、夜桜の公園を通り抜けて職場から歩いて帰ってみた。

気の早い花見組。
囲む鍋のカセットボンベが弱々しくてこちらの方が気になってしまうよ。



iPodに入れたジューン・テイバーの『林檎』がこんなそぞろ歩きにはぴったりだ。
彼女は英国のフォークシンガーで、
若い頃はフランソワーズ・アルディに憧れた、なんて解説に出ていたけれど、
わたしが初めてジューンの歌を聴いて思い浮かべたのがアルディだった。
アルディのごく初期のヒット曲の素朴な感じが、二人の音楽の底の方でつながっているような気がする。

本作のアルバムコンセプトになっている林檎。
ヨーロッパに横たわる林檎のイメージは、
遠く離れた島国の、彼の地の歴史に疎いわたしにはなかなか掴めないところがある。

でも桜なら、そう、桜なら。

桜の花の下を歩いていると、どこかそわそわと落ち着かず、
気持ちの在りどこもよくわからなくなってくる。
遠く記憶の彼方に去った懐かしい人々も、
桜の花の下ならそっと空から降りて来るような気さえする。

東京の夜は、随分と物騒な時代になった。
日々新聞に載せられる事件の記事。
何が一体それほどまでに人の心を狂わせるのか。
それでも、今夜のような夜はひとり、街灯に身を明かくする桜に身を寄せて歩きたくなる。
満月を1日過ぎた、ちょっとずれたところがいかにもわたしらしい夜。
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最後の1枚


ようやく届いたScorpionsの最後のアルバム、"Sting in the Tail"。
最初から最後までヘビーメタルらしい、ギンギンにパワー漲る全12曲。
彼らのアルバムとしては何と17作目になるそうだが、
わたしは偶然、初期の作品を店頭で聴いてファンになったので、
最初の10枚ほどは後追いでLPやCDを集めて聴いた。
でも、これで彼らの新譜を手にするのが最後になると思うと、
なんだか気が抜けて一抹の寂しさを禁じ得ない。

旧ソ連での公演を果たしたロックバンドとして、
彼らの名前はずっと以前から知っていたけれど、
当時は今のようにネットで何でも調べたり、音源を拾ったりすることはできなかったから、
彼らの音楽も容姿も詳しく知る機会もなく・・・。

今回の作品を聴いていると、一番最初にクラウスの歌声を聴いたときの、
背筋に電気が走るような衝撃を思い出す。
声に魂を吹き込んで忘れ得ぬ歌にしているのはまさに彼本人だけど、
こればかりは、持って生まれた声の素晴らしさを思わずにいられない。

ちなみにわたしが購入したのはヨーロッパ仕様の盤で12曲入り。
米国盤は11曲、日本国内盤(未発売)は13曲と曲数が少しずつ違う。
わたしは国内盤発売まで待てないのでついEu盤に手が伸びたが、
解説etc...によっては国内盤も欲しくなってしまうかも。

それにしても、国内盤のタイトルが・・・。
Scorpionsのアルバム邦題って、どうしてこういう風なんだろう。
『蠍団とどめの一撃』って・・・。
このネーミミングから、少なくともクラウスの胸に迫るような歌声は想像できない。
無理に邦題つけなくても、元タイトルのカタカナ読みで十分なのに。
最後のアルバムなのに・・・、内容良くてもどこか寂しいのはこの邦題のせいかも。
まあ、そんなことはどうでもいい、今夜はもう一度このアルバムを聴いてから眠ろう。
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春が来るようで来ないような
もうあと2日で4月というのに、
外はごうごうと凄い風が吹き荒れている。

せっかく咲き始めた近所の桜も、これではひとたまりもないだろう。
桜並木の下を、朝も帰りも眺めて歩くのが、この季節の心からの愉しみであるというのに。




こんな季節だから余計涙もろくなってしまうのか、
多くの方々とお別れする3月、毎日目が潤んで仕方がない。
年度末の残務整理に追われつつ、区切りを得て新たな年を迎えることの幸運を思う。




疲労困憊、よれよれで部屋に戻って聴いたのはArchie Sheppの"Something to live for"。
ジャケにSingsと銘打ってある通り、彼のヴォーカルをフィーチャーした、思うに隠れ名盤。
自在に伴奏と溶け合いながら、時には語るように、或は思いの丈を叫ぶようにして。
こんな歌を聴いているとついつい夜桜の乱れ咲きを想像してしまうけれど、
それ以前に散ってしまえば元も子もなし。

嗚呼、春という季節の何と心落ち着かない様よ。
せめて夜の風が凪いでくれないかと心の底から願う。
揺れる木々の間から洩れる街灯の寂しさに、つい田舎の父を思い浮かべては目に涙しながら。
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トリノに鐘の鳴り響いた日
オリンピック直後の世界選手権で浅田真央選手が優勝した。
片や、先のオリンピックで金メダルに輝いたジュニア時代からのライバル選手は、
同い年で背格好もよく似ており、
双方タイプの異なる美しさを持ちながらも、人気も伯仲。
いろいろな意味で重圧がのしかかっていただろうことは想像に難くない。
それを越えて結果を出した彼女の演技は本当に素晴らしいものだと思う。

最近のフィギュアスケート人気もあるのだろうが、
今シーズンほど、滑走曲に注目が集まった年はここしばらく記憶に無い。
韓国のKim Yu-na選手のショートプログラムは007のサントラ曲をアレンジしたものだが、
「来るぞ、来るぞ!」と観る者、聴く者の胸躍る編曲と振り付けは、
対する選手が100年も前のクラシック曲で演技するなんていかがなものかなどと、
ごく普通のファンの間でも話題になるほど、一つのきっかけを与えた。

さて、100年も前の・・・と鼻であしらう者が出たほどのラフマニノフの鐘。
ラフマニノフには同じ鐘と題された合唱曲があるが、
浅田選手の滑走曲はピアノ曲の「24の前奏曲 第1番 嬰ハ短調 作品3の2」の方。
わたし自身も、よくこんな重たい曲をと、
花と花の間を蝶が舞うようにして軽やかに演技する彼女に相応しいのか当初は腑に落ちなかったが、
鐘の演技を何度も観ているうちに、
彼女や彼女の指導者が「乗り越える」ということばの意味が、
やっとわかるようになってきた。

確かにこの曲が作られた帝政ロシア時代の、
それこそまだ日露戦争も二月革命も起こっていないその時代の空気を、
十代の選手が感覚として捉え、理解して曲を滑っているかといえば難しいかもしれないが、
ただでさへ商業性の色濃い競技であるフィギュアに一つの主張を持たせた選曲と構成は、
これまで彼女が演じて来たものとはやはり一線を画していたと思う。


さて、ラフマニノフの鐘。
「鐘」で検索すると合唱曲の方がたくさん出て来てしまうので、
音源を探すなら「24の前奏曲」で捜すのが吉。
アシュケナージの演奏集は録音が少し古いものの今でも容易に入手できるようだ。



さらにいかにもロシアを感じさせるピアニストの演奏で、ということで映像を捜してみた。
ロシアピアニズムの鉄人、エミール・ギレリスのピアノは、
張りつめた緊張感の中にも独特の甘やかさがあって聴く者を虜にする。




誤解を招いてはいけないが、
フィギュア選手の誰もがクラシックやスタンダードを選んでいるわけではなくて、
そういう選手もいれば、一昨日のSPでトップになった米国の長洲選手や日本の小塚選手のように、
ヒットした映画のサントラやポピュラーから選んだ個性的なアレンジで滑る人だっている。
わたし自身、観客に対するアピールの強さは決して否定しないが、
だからといって単に古いからというだけで全面否定する必要も全くないだろう。
どんな曲にもその背景や個性があって、要はいかにそれを活かした演技を構成し実現するかであって、
単に作曲年次が古いから観る者の共感を得られないとまでは言えないのではないか。

さて、今回の選手権、フリースケーティングの模様は、今夜、テレビで放映されるとのこと。
通常、各選手はシーズン毎に曲を用意するので、浅田選手の鐘の演技はこれで見納めのはず。
今一度、原曲をゆっくり味わいながら、その演技を観るのを楽しみにしたい。
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時にはセクシィな歌声に満たされて


ロシアンポップスの歌手、Лолита(ロリータ)の最新盤"Запавшее"(ザパーブシェー)。
かつて男性の相方とアカデミヤというポップデュオで歌っていた彼女。
その美貌とは裏腹にコミカルな舞台もこなせる芸達者ながら、
ソロとなってからのアルバムも既に5枚を超えている。

今回は旧作のリメイクやカバー曲を織り交ぜた全20曲の総集編的アルバムになっていて、
おまけに3曲分のPVが収められたDVDも付いている。

最近、数曲のPVが入ったDVD付きというのがロシアものでも珍しくないが、
ロシアの女性歌手の中でも特にムンムンした雰囲気を放つ彼女ながら、
ジャケ絵がセクシィ系でもビデオクリップ集のおまけ付きは初めてかも。

癖のあるハスキーな声に好き嫌いはあるだろうが、
彼女の歌のしっとり感は同性であるわたしにも嫌みがない。
特に本作の18曲目、オーケストラをバックに歌う"I'm fool to want you"は白眉。
欲を言えば、もう少し録音の質が良ければもっと楽しめるのにというのは、
少し贅沢な悩みだろうか。

どうしても見た目先行になってしまいがちなのが惜しいと思うのは女性ファンの勝手な思いだろうか。
もちろんその美しさも彼女の魅力であるのだけれど・・・。
桜が咲きそうで咲けない、今夜のような夜に聴きたいアルバムだ。


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My Oracle Lives Uptown
Linnの新しいフォノイコのお披露目イベントに参加したのは先週の金曜のこと。
英国よりLinn社長のギラード&エンジニアのサンディが、
Uphorik(ユーフォリック)と名付けられた新製品と、
同じくLinn RecoedsからリリースされたばかりのLPを携えて来日。

わたしは製品の音を聞きに行くというよりは、どんな音楽がかかるかが楽しみで、
こうしたaudioのイベントにも結構出かけるけれど、
製品を作った人たちの話が直接聞けるというのは何と言っても貴重な機会。

サンディの解説によると、UphorikはLintoをモノ使いしている事例にヒントを得ているとのこと。
2台使いだと1台にかかる負担が小さくなって余裕が持てるということなんだろうか。
それはともかく、そのモノ使いより少なくとも音質向上しているというのが、今回のUphorikだそうだ。
それに、Lintoはmmに対応していなかったので不便だったけど、今回はmmもmcも大丈夫。 

さて、解説もコンパクトに収めて早速かかったのは、ジャクリーヌ・デュ・プレの演奏。
チェロの響きがとても豊かで、弦の質感がすごく自然だった。
そして、2曲目が真打ち登場といわんばかりに選ばれたWilliam Orbitの新譜。




このアルバム、実は昨夏にCDでリリースされているが、
高音質な録音をさらに楽しめるようにということで、
Linn Recordsから、Stereo Master音源と、更に2枚組レコードで発売された。
2曲目に流れたのは、その出来立てほやほやのレコードの9曲目。

!!!!!

一体なんだ、このたっぷりとした音の洪水は!?
低音マニアな方が聴いたらさぞ喜ぶだろうという音がびっしり入っていて、
しかも、しっかりと低音の制動が効いた中で細かな音がキラキラと踊るように動いている。
椅子にじっと座っているのが難しいほど、体中がむずむずする(笑)。

正直、エレクトロニカというジャンルはあんまり好んで聴いてはいないけど、
このアルバムは特別。
確かに無理矢理ジャンル分けするとエレクトロニカなんだろうけれど、
すごくファンキーでとにかく乗れる。

イベントが終わり次第、会場となったお店の方に、このレコードがもう買えるのか尋ねたら、
Linnの方が2枚販売用に持ち込んでくれていた。
価格は決して安くはなかったけれど、どうしても自分の部屋で聴いてみたかったので、買った。
いやー、大満足。

さすがに帰宅直後の夜のいい時間に音量上げて聴けるアルバムではないが、
聴きごろの時間帯としてはやはり、夜(笑)。
この連休、結構聴き込んだのは言うまでもなく。

さてこのアルバム、amazon.comでも試聴できるけれど、
触りだけなら、Linn Recordsのサイトの方が音質もよさそう。
で、アルバムが気に入ったら、CDじゃなくて、やっぱりアナログレコードがお薦め!
もう春だというのに天気いまいちで気分をアゲて行きたいときにうってつけの1枚。

◆ Linn Records  http://www.linnrecords.com/recording-my-oracle-lives-uptown.aspx
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タランテッラ

残業漬けの日々からようやく脱出、
時間休を貰って午後から街にでたのは金曜のこと。
久しぶりにレコード店を巡って歩くも、
しばらく机にかじりついていたせいかすぐに疲れてしまう。

行けないと諦めていたイベントが夕方6時からということで、
少し時間があった隙間に覗いたタワーレコードの試聴台で見つけた1枚。

このアルバム、何度か再発されていて、通常のCDとSACDハイブリッド盤があるが、
わたしが手にしたのは、最近改めてカタログ付きで発売されたCD仕様のもの。
"La Tarantella"という、タランチュラの毒にやられた際の舞踊治療の音楽だ。

そういう由来が本当かどうかは別として、
バロックハープやテオルボを始めとした古楽器の数々と瑞々しい女性ヴォーカルが織りなす蜘蛛の音楽。
とはいっても、おどろおどろしさはなくて、前振りがなければ、ただただ静かで美しい音楽だ。

また録音も清々しい空気をたっぷりと感じさせる、奥行きと透明感に溢れている。
再生で部屋の空気が一変する様に、思わずため息が出てしまうような・・・。
こうした音楽の好き嫌いはともかくとして、audioファンなら手元に1枚あっても惜しくない。

このCDを買ってから2時間ほど後に、
今度は蜘蛛の毒どころではない、ドラッギーなアルバムを紹介されることになるとは、
思いも寄らなかったこと。
そのLPについては、また項を改めてメモしたい。
今夜は風が強いからこの辺で眠ろう、解毒の舞踊に酔ってしまわぬうちに。 
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История одной любви (ある愛の歴史) / Штар


Штар(シタール)はロシアのジプシースタイルのバンド。
リズミカルなギターのノリのいい曲を聴けば、
ジプシーキングスを思い浮かべる人もいるのでは。

でも彼らの真骨頂はむしろ、メロウでディープなバラードナンバー。
今年リリースされた新譜、『ある愛の歴史』には、
ひとこと、ひとことが丁寧に歌い込まれた珠玉の14曲が編まれていて、
これを雪降るような寒い夜に独り聴いたら、
思わず膝を抱えて涙してしまいそうなくらいだ。

中でも5曲目の"Шаг до любви"(愛までの1歩)。
同じ題名の歌はたくさんあるけれど、
こんなに美しい曲はそうはない、
この歌のように素直に気持ちを伝えることができたならどんなにいいか。

◆ この曲の試聴はコチラ → Russian DVD


今回のアルバムは、彼らの公式サイトによると4枚目のオリジナル。
一つ前の3rdアルバムから、如何にも彼ららしい曲の映像を探してみた。
居ながらにして素晴らしい映像に、いとも簡単にアクセスできる。
ほんとうに良い時代になったものだとしみじみ、否もう、ほんとうに。


 
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♪ レコードコンサートのお知らせ(渋谷/国境の南)
◆ 主催者のおひとり、北中正和さんのweb siteで告知がありましたので転載してご案内します。

***

渋谷・国境の南・レコード・コンサート

国境の南トリオ(蒲田耕二、北中正和、田中勝則)がご案内する世界の音楽。
次回は4月10日(土)午後4時から。
「世界のタンゴ」を特集します。
どなたもお気軽にどうぞ。
会費1000円ワンドリンクつきです。

***

会場のご案内

国境の南 http://www.kokkyo.net/access.html

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追想と沈黙と
若い頃親しくしていた人が、超のつくモーツァルトファンだった。
当時のわたしといえば、典型的な食わず嫌いのクラシック嫌いで、
音楽といえばモダンジャズか歌謡曲。
話題があわないのを承知で、気長につき合ってくれていた相手に、
今なら大感謝、礼の一言も素直に言えるであろうに・・・。

iPod touchの音楽ソフトでクラシックの曲を随分たくさん詰め込んだ、
しかも非常に廉価なアプリがあって、
時々暇のある時にぼんやりと曲を選んだりしながら楽しんでいる。
今夜もそんな風にしていたところ、偶然にモーツァルトのレクイエムが流れた。

レクイエム、というとわたしの手元にはフォーレばかりが並ぶ。
モーツァルトを避けていたといえば、そうかもしれない。
何となく重苦しくて、わざわざソフトを買ってまで聴きたいという気持ちにはなれなかった。
でも、今夜は、ちがった。


毎週のように病気に臥せた田舎の父を見舞っていると、
もう残り少ない、限られた時間の存在を否が応でも間近に見ることとなる。
時間は早まることも、またその逆に遅くなることもなく、
ただ淡々と過ぎゆくばかりだ。

ひょっとして、そんなわたしと父との間に今流れている音楽があるとすれば、
例えばこのモーツァルトのレクイエムのような重たい音楽なんだろうか。
そんな想像を少しだけして、一瞬のうちに思い飛ばした病室の白い壁を思い出し、
テーブルの上の、小さなスピーカーから流れるレクイエムに耳を傾けた。
でもさすがに長い時間聴き続けるには少々しんどいので、
つい今しがた、よく売れていそうなCDを注文してみた。


 


このCDが届く頃には、また別の感情が胸に渦もっているかも知れないのに。
当時、件の人はモーツァルトのレクイエムは特別な曲なのだとよく口にしていた。
何がどんな風に特別だと言っていたのかは、もう忘れてしまった。
曲のほんの触りは覚えていても。

何をどう思っても悲しいという現実の他になにもない、
そんな空間を埋めることのできる音楽はあるのだろうか。
その当事者にとって、まさに救いとなる音楽はなにか。
沈黙の重さに堪えかねて某かの音を求めてしまう愚を許して欲しい。
誰に請うわけでもないのに、許されたいという気持ちの根源に戸惑う自分がいる。
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