音の快楽的日常

音、音楽と徒然の日々
最後の一瓶
毎年、田舎の畑に養蜂の箱を置かせてもらう代わりにと、
その年に出来た蜂蜜を何本か分けて貰っていた。
その業者さんも事情あって来年はもう来られないとのこと。

そしてこの夏、最後の一瓶を実家から持ち帰った。

父が逝って、そして当たり前のものとして享受していた地縁も心無しか薄れていくようで、
今年の夏、暑さとその緑や空の色は忘れ得ぬものとなりそうだ。

***




クロアチアからようやく届いたOliverの最新作、"Samo da je tu"。
前作はバラード中心だったが、今回は全体に陽性の曲調でpopな仕上がり。
新作があといくつ聴けるのだろうと、ついつい考えてしまうけれど、
webにはPVもいろいろ出ていて、
クロアチアの遠さを全く感じることなく、彼の歌声を楽しめるのは何とも贅沢なこと。

この10月にはザグレブでLiveも予定されているOliver。
CDをクロアチアから買い求めるのはちょっと面倒だけれど、
ダウンロードに抵抗がないなら、iTunes Storeでも旧作のほとんどを購入することができる。
Oliver Dragojevic、ぜひ多くの音楽ファンに聴いてもらいたいシンガーの一人だ。



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細野晴臣アーカイヴスvol.1
2ヶ月ぶりにカットハウスへ出かけた。
銀座の裏通りに面したマスター1人で切り盛りする小さなお店だ。

切ってもらっている1時間ほどのあいだ、
とりとめもない話をしながらのんびり過ごす。
こじんまりしたお店ながら客層は広いようで、
いつもいろんな分野の面白話満載で、あっという間におしまいの時間が来る。

今日は最近話題の高齢者で行方不明者続出の件。
何でもマスターには一人暮らしの兄貴がいて、
いろいろ事情があって家族縁者とは少し距離を置いた暮らしぶりなのだという。

親戚一同が会する恒例行事に、その兄が何の連絡もなく欠席だった。
電話するも連絡とれず、ひょっとしてと慌てて訪ねていったら、
ちょうど予定のことを忘れてしまっていて、たまたま家を空けていただけと、
あまりのあっけらかんさに呆れてしまい、でも安心のため息をついたことは言うまでもない。

***

父の葬儀を終えて感じることだが、
人ひとりが亡くなって、それを隠し通すのは並大抵のことではない。
余程孤立していて外から隔絶された世界に生きている、というならまだしも、
今回の騒動の多くは幸いご家族や縁者も健在の様子。

お役所を責めて済めばそれはそれでいいのかもしれないが、
人の善意というか、家族が亡くなればそれなりの手続きなりして当然という考えの元に成り立っているしくみだから、
何かの事情で故意に隠されると、これはなかなか難しいことになる。

ちょっと前まで当たり前だと思っていたことが通用しなくなってきている今どきの世の中、
「人はそこまで落ちたのか」と一刀両断の評論も見かけるけれど、
わたし自身はそういう事件を耳にする度に複雑な気持ちになる。



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心を空っぽにしたいときは、歌じゃなくてインストルメンタルの音楽がいい。
リリースされてかなり経ってから買った細野晴臣アーカイヴ集。
vol.1としているから2もあるのかと思って調べてみたが、まだの様子。

細野さんの作品はそれこそティンパンアレイ、はっぴいえんど、YMOから、
他の歌手へ提供した楽曲までずらり多数で、
わたしは基本的に歌ものを中心に揃えているけれど、
今日のアルバムは環境音楽系で、
ながら聴きしていてもからだにじわじわとしみ込んでくる。
さながら、疲れとストレスでやれきった心身のトリートメント剤だ。

毎日、本当に呆れるほど、酷い事件、驚くような出来事の連続で、
心もどこか無意識のうちに疲れてしまっているに違いない。
感動とかそういうのとは少し違ったところで、
感情の高ぶりや緊張がほどけてだんだん凪いでいくような音楽の必要性を今ほど感じるときはない。
「細野晴臣アーカイヴスvol.1」、ことばにできない疲労感をそっと癒せるお薦めの1枚だ。
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Soul Beliver
今朝方はいつもより過ごしやすく、
日中の眠気もそこそこになんとか週末を迎えられた。
とても長かった、今週という一週間。




「ヘタウマ系がお好きですか」

とはよく言われること(失礼な!)。

ミルト・ジャクソンの歌ものアルバムはたしか今日のソウル・ビリーヴァーの他に、
確かあと1、2枚あると聞いたことがあるけれど、残念ながら手元にはない。
なので、ミルトの歌が聞きたいなあとなると、このアルバムになってしまう。

多分わたしが聴きたいのは、テクニックじゃなくて、歌心なのだろう。
否、下手でも、とかというわけではなくて、
巧拙よりも歌心が勝った歌、或は歌心満点で巧拙に目がいかないという意味で。

このスローテンポでゆるりと流れる伴奏と歌に身をまかせていると、
瞼も次第に重くなっていく。
日暮れ時のビリーヴァーも好きだけど、
こうしてすっかり夜も更けていこうという時に聴くのも捨てがたい。 
嗚呼、今夜は久しぶりぐっすり眠れそうだ。
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秋を呼ぶような歌を
今日は少しばかり曇って幾分過ごしやすいと聞いていたのに、
蒸し暑さはどれほど軽減されず、疲労感が更に積み増されたよう。

週末の待ち遠しさを抑えてようよう仕事を終えて戻り帰った部屋の更なる暑さ。
もうただただ閉口。

一人文句を言ってみても何も始まらないから、
何か秋っぽいのはないかな、と棚から選んだのが、
灼熱のロシアの歌姫、Анжелика Варум(アンジェリカ・ヴァルーム)の09年アルバム "Если он уйдет"。 




アルバムの前半、ビートの効いた伴奏に乗って歌う彼女。
それでも、どこか寂しげで、後ろからそっと抱きしめたくなるような線の細さに、
同性ながら惹かれてしまう。
特に、5曲目、6曲目あたりは、
かつて耳元で囁くよな歌声で人気を博した彼女が見え隠れはしても、
よくも悪しくも10数年の時の移ろいを思わずにいられない。

以前の彼女の歌と趣が違うなあと感じるのは何と言っても8曲目の表題曲。

 



好き嫌いを言えば、わたしは昔のヴァルームが好きだ。
人気絶頂時に結婚、出産。
カムバック後は、どこかボタンの掛け違えのようなちぐはぐ感が否めない。





彼女の、秋を呼ぶような歌と言えば、これだろう。
甘ったるくて切ない文句、美しいというのとは違うけど、
しっとりとした景色を思いながら秋の深まりに身を寄せて。
それに、失われた恋をこんなにあっさり歌われてしまっては。
いい季節が心の底から恋しくて、空を眺めてはその色具合に一喜一憂の日々。
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『タンゴの神話時代と現在』ー レコードコンサート at 渋谷・国境の南
先週の土曜、うだるような暑さの中を出かけた渋谷の街。
歩きなれない人が大勢いるのか、まっすぐ歩けず、追い越そうにも追い越せず。 
人いきれをかき分けてたどり着いたのはいつもの国境の南。

前回に続いてタンゴがテーマ。
しかも1曲目につい最近の録音でレオポルド・フェデリコの「タンゴの夢」がかかった後に、
1927年、そして1904年の作品と一気に遡る。
余りの曲調というか印象の違いに、これってタンゴ!?と思わず目を丸くする。

「神話時代」ということでたくさん選ばれた古い録音の数々。
確かに古いのだけれど、SP盤起こしのCDからは、活き活きとした音楽が流れ出た。
独特のノイズが苦手な向きもあるだろうが、
こういうのを耳にすると、なかなか後戻りできそうになくてちょっと怖い(笑)。

今夜も20曲余りが解説とともに紹介されたが、
なんといっても当時のタンゴブームを支えた景気の裏には、
ブエノスアイレスの向こうに広がるパンパで増えた牛たちがいたという話が、
そしてその背景には二度の大戦があったのだということが音楽以上に強く印象的だった。

記念に「タンゴの夢」の動画を。
どうも子供の頃に聴いた「ラ・クンパルシータ」の影響が強いのか、
この手のオーケストラの演奏はやっぱり好きだ。


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夏の終わりの悲喜交々
暦の上ではもう秋だけど、あまりに蒸して暑くてちっとも秋じゃない。 
それでも朝起きて廊下に出てみると、蝉の死骸がいくつか落ちていて、
もうそんな季節なんだ、と実感する。

***

昨日、週末の土曜の午後、国境の南でのレコードコンサートに出かけた。
詳しくは別途書くけれど、
その途中で寄った渋谷HMVの閉店セール。
よくある閉店セールじゃなくて、本当に今月の22日に閉店するのだそうだ。

いつだか、その前に買物に行ったときよりも更に売り場は狭くなって、
しかもセールでごちゃっとしていてあまり落ち着いて買物はできなかったが、
割引の大きさにつられて、Stingの新譜、アシュケナージのパルティータ新録2枚組CD、
それから、ジョアン・ジルベルトの1stアルバムを再発LPで買った。

色のきれいなジュースのサンプル配布があったり(既に発売しているものなのに)、
タオルを配っていたり、更なるギフトポイント券があったりと、
荷物も随分と大きくなってしまってレコードコンサート会場に付く頃にはすっかり疲れてしまった(笑)。
CDをお店で買うことがだんだん少なくなって、何故お店が閉まってしまうんだろうなんて、
わたし自身も言えなくなってきているけれど、
いくつかの大きなお店は続いてくれるといいなあ、なんて勝手な物言いをしてしまう。
そのうち、CDは通販か、あるいは徐々にダウンロード主体になっていくんだろうか。

***

今日も今日で朝から暑さにぐったりで涼しげな音楽ばかり流している。
昨日買ったジルベルトはぴったりだ。


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オリジナルのレコードをいい状態で探すのは大変なので、
いつか再発でもいいからレコードで欲しかった。
それほど音を弄った感じもなくて、普通に楽しく聴ける盤でよかった。
片面がすぐ終わってしまうので、うっかり居眠り注意だけども(笑)。

このレコード聴く度に、お店が閉まったのを思い出したりするんだろうか。
CDって無意識にエピソードが絡む感じがないのだけれど、レコードはそうじゃない。
だからレコードが好きなのかも知れない。
更に暑さが増していきそうな気怠い日曜のお昼時。


―追伸―

前回書いたブログをご覧戴いた方々から、
先日の不幸についてたくさんの温かい言葉やお悔やみをいただきました。
本当にありがとうございました。
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amazing grace
Star Trek 映画シリーズ2と3のサントラ盤がリマスター&ボーナストラック多数で再発。
いずれもJames Hornerの作品で、映画内で流れた曲の大多数が収録されている。




第2作『カーンの逆襲』でスポックが殉死するシーン、
そしてその棺が暗い宇宙に向けて放たれる瞬間。
テレビシリーズにはないシリアスな雰囲気だ。

当時まだ10代だったわたしはかなり引いてしまったが、
船内で執り行われた葬儀の後ろで流れたamazing graceは、
映画館で見た時からずっと忘れられないでいた。

そんなことがあったせいなのかどうかは判らないが、
先だっての父の葬儀の間、わたしの頭に流れていたのはずっとamazing graceだった。
もちろん会場には全く違うBGMが静かに流れていたけれども。

さて、サントラの話だった。
シリーズ1のサントラはゴールドスミスだったので、
正直、彼のファンであるわたしは2のイントロが流れた時、
あれっという拍子抜けた感じが否めなかったが、
しかし、これはこれで堂々としていて大宇宙を翔るエンタープライズの物語に相応しい。
夜もいい時間だというのに、ついつい大音量で聴きたくなる作品だ。
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風街ろまんとジャックスの世界
音楽雑誌に出ていた日本のロックの特集記事。
その中で、評論家の方々が選んでいたアルバムの上位に、
はっぴいえんどの『風街ろまん』が並んでいた。




わたし自身がこのレコードを初めて聴いたのはいつの頃だったか・・・。
その後自分のレコードを手に入れて、A面ばかり聴いていた。
「風にふかれて」や「ももんが(暗闇坂むささび変化)」が入っていたから。




要は細野さんの声が好きで聴きはじめたのだったけれども、
『風街ろまん』はそれまで知っている音楽のどれとも似ていなくて、
その後ずっとわたしにとっても特別な1枚でありつづけた。

だから、中身や評価は別にして、そうやって雑誌で多くの方が取り上げている、
ただそれだけで、なんだかとてもうれしかった。
何か1枚って言えば、このアルバムが選ばれることが多いことは知ってはいても。


その次に記事の中で目についたのが、『ジャックスの世界』。
ジャックスを耳にしたのは随分と遅くて、大学に入って2年目の、酷く暑い夏のこと。
涼みに通った図書館で親しくなった人が、このアルバムのテープを擦り切れるほど聴いていたのを端で聴いたのが最初だった。

彼はジャックスとドアーズが好きで、
でも彼の口からどんなグループでどんな音楽かの説明はついぞ聞くこともなく、
日焼けした畳の部屋で、ラジカセからよろよろとそのどちらかが流れていたから、
メロディや歌詞はいまでも口から付いて出てしまいそうなくらいだ。

ジャックスは、決して好きにはなれなかったが、
それは、彼らの歌を聴いていると元気が吸い取られてしまいそうな気がしたからだ。
手元には何かの弾みで買った『ジャックスの世界』のCDがあって、
今改めて聴いてみても、蒸した空気に押しつぶされそうな感じがする。
あの時、あの夏の自分よりも、倍以上時間を生きてみて、
体は弱くなったけど、気持ちはタフになってるから、
ジャックス平気になったかと高をくくって聴いてみたが、
全然だめだった(笑)。
未だにだめだよって話したいが、その相手はもうこの世にいない、
そのことが今更ながらにとても残念だ。
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怠い日曜日
強烈な暑さに見舞われて何日が過ぎただろう。
体が暑さに慣れることもなく、新聞には熱中症で亡くなった人の数が積み上がっていく。
モスクワの友人とメールしていても、灼けつくロシアの話題ばかり。

わたしはというと、冷房が苦手だなんて言っていられず、
今年は連日エアコンのお世話になっている。
結果、つい体がだるくなって宿題だけが積み上がる日々。
今日という日曜はダラダラすると決めてから、随分気持ちが楽になった。
あれもしよう、これもしようと決めたところで進まないなら、
つまらない強迫観念の種は取り除くに限る。

そこで、久々にモノラルのレコードをゆっくり聴いた。




Chet Bakerの"Baker's Holiday"。
このレコードは、mono、stereoの両方で出ているが、どちらも珍しい盤ではない。
CDも通常盤からSACDまで各種出ていて、店頭にも大抵並んでいたりする。
このアルバムは、彼にとって一区切り付ける意味合いがあったのか、
豪華な伴奏での録音だけでなく、
装丁も他の作品と違い、結構作り込まれていて眺めるだけでも楽しい。




ジャケットの見開きにカラー刷のブックレットが綴じ込んであって、
彼の写真に添えられたイラストも随分と楽しい仕上がり。
同じレーベル(Limelight)から出されたアルバムはもう1枚、"Baby Breeze"があって、
曲目で言うなら、わたしは圧倒的にBabyの方が好きだったりするが、
このうだるような午後に聴くならHoliday。

午睡ということばが浮かんでは消えて。
呑んでるわけでもないのに、このうとうと感はこの時期ならではのもの。
いつだったか、できない無理はしないと決めてから、随分と楽になった。
嗚呼、Chetの声を聴きながら、このまま秋が来るまでじっと静かにしていたい。
どこに出かけるわけでもないが、夏休みがせめて2週は欲しいと切望する酷暑の午後。
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