音の快楽的日常

音、音楽と徒然の日々
『レーニンの墓』
1年のうちで一番忙しいこの時期、
毎年のこととはいえ、要領よく過ごす術が未だに身に付かず。
買った本が読まないまま机の端に積まれていき、
その山の高さについため息も出る。

知り合いから紹介してもらったロシア関係の新刊。
佐藤優さんが推薦という帯のことばに惹かれ、買ったはよいが、
買って1週間ほど手が伸びなかったのは、
忙しいというより分厚い上下2冊組という量のせいだ。



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ソ連帝国最期の日々、と副題が添えられたデヴィッド・レムニックのピュリツァー賞受賞作。
自らの取材を元に編まれたソ連崩壊の交響詩、その響きは人によって違うのだろうが、
霧の向こうの、遠い島国からは見えづらかった世界が、
或は旅先に見た黒煙で煤けたホワイトハウスの景色の意味がようやくそれらしく、
輪郭のある形となって想像できるような気がした。

二巻組の大著であるが、焦点はゴルバチョフ時代。
個人的にはその前段のチェルネンコ、そしてアンドロポフの書記長在任時代についても、
短いとはいえ、もう少し掘り下げてもらいたかったと思う。
個人的にはアンドロポフが居なければロシアはまた違った姿になっていたのではと思うから。

話は逸れるが、
子供の頃、ソ連の書記長の交代は、前任者の荘厳な葬儀に象徴された重みあるもので、
葬儀のひな壇に並んだ後継者たちの並び順を確認しようと、
TVで映像が流れていた様子を思い出す。
蝉の一生かと思わせるような、どこかの国の総理大臣の交代とは違って、
子供ながらにカーテンの向こうの政治劇を想像しながら、ため息したものだった。

本の話に戻ると、
個人的には下巻の後半が、
先日みたグシコフのTV映画の時代背景がよくわかって面白かった。
その意味で、全部読み通す必要はなくて、
目次をみて気になる項目だけ目を通しても読めてしまう組み立てになっている。

わたしがロシア語の夜学に通っていた頃はまさにゴルビーブーム。
クラスも定員オーバーで大盛況、あんな時代はもう二度と来るまい。
そのゴルバチョフの凋落ぶりがこうも淡々と描かれていることに複雑な思いもないではないが、
「終わってみればこういうことだった」
と簡単には語れない変革がわずかの間に起こっていたのだとは、
こうして少し時を置いて噛み砕いてみて、
はじめて受け入れることができることなのかもしれない。

帰宅時間がつい遅くなり始めてから手を付けた2冊の本、
読み通すのに1週間もかかってしまい、ペースの遅いのに我がことながら閉口するが、
一気読みしなければ筋がよくわからない類いの本でないのが救い。
値段も量もヘビーだけれど、この時期のソ連史に興味のある方ならお薦めだ。
others (music) | - | - | author : miss key
突然思い出して聴きたくなる音楽がある
日々、あれこれ音楽を聴いていて、
聴く順番や聴きたくなる盤の各々に何か脈絡があるのかといえば、あまりない。

甘いものを食べた後は辛いものが食べたくなる、
そんな感じの取り混ぜ方はあるような気がするが、
何かふと思い出したきっかけで突然聴きたくなる音楽というのがわたしにはある。


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同年代の方ならきっと覚えのあるジャケット、スザンヌ・ベガのアルバム、
1曲目がトムズ・ダイナーで始まると言えば思い出してもらえるだろうか。

初めてこの曲を聴いたのはいつだったか、ラジオを聞いていてのこと。
出だしに一体何の歌なのかとすごく驚き、耳が緊張するのが自分でも分かった。

先週の土曜、部屋の掃除をしていて寝室にある古いスピーカーを眺めていたら、
初めてLINNの装置を納入していただいたときのことを思い出した。

その時の担当はKさんという方で、
当時は女性一人暮らしの家に凝ったaudio機器を納品することなどまだ珍しかった頃。 
さぞかし気を遣われたことだろうと思う。

余りに狭くデッドな部屋でのセッティングで、
しかも中古のアンプを買っただけだったのに、
スピーカーの位置や脚周りなど丁寧に見直してくださった。

無言の作業を見守るのは当方とて気詰まりなので、好きな音楽の話などしたと思う。
その際、Kさんの口から出たのがトムズ・ダイナーだった。


先週末、国境の南に出かける前に渋谷レコファンに立ち寄った。
久々のレコード探しだったけど、トムズ・ダイナーのことがあったせいか、
スザンヌ・ベガのこのレコードもしっかり確保、あまり聞かれていない状態のものが380円。
帰宅後に早速かけてみたが、そうそう、この音、この歌だととても嬉しくなった。

スザンヌ・ベガで知っているのはこの他にルカぐらいだったが、
ついでに彼女のベスト盤(こちらはCD)も購入、なぜかこれも380円。
思い出を安く買い戻そうというわけではないが、廉価で手に入るとやっぱりそれも嬉しい。

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audioを選んで買うのは、洋服を買うのとはやっぱりどこか違うようで、
一つ一つの装置に思い出がいっぱいある。
思えば、やむなく手放したいくつかの装置は、余裕があれば手元に残したかった。
気に入らないで処分したものなんて、ただの1つもなかったのだから。

そんなことを改めて思うと、少し寂しいような、そうでないような。
心の根っこがどっしり安定しないのは、もうすぐ春だから?
見上げた空が見事な冬色で、ああまだ冬だったと不意に口元が緩んだ日の夜。
pop & rock | - | - | author : miss key
Renacimiento / 再生 ペルーのブエナ・ビスタ
週末寒さをおして出かけた渋谷は国境の南、レコードコンサート。
今回はペルーの音楽ということで、全くの不勉強で参加したのだが、
熱心な常連さんの中には「予習」して準備万端な方も!

でも会場には、大きな南米の地図が。
わたしのような輩を想定してかーチリとペルーの位置関係が怪しい!、
最初は北中さんの初心者向け解説からぼちぼちと始まったので一安心。
今回は特にWorld Music Timeの生放送のようでした。

粋な女性ヴォーカルとか、各種ダンス音楽とかいろいろ取り混ぜての20曲ほどの中で、
ひときわ気になったのが、去年あたりから国内でも話題になっていたらしい、
ペルーのブエナビスタ!、"La Gran Reunion"、クリオージャ音楽の護り手達。
笑顔のステキなおじいさんたちが実に楽しそうに演奏しているのが幸福感満点。

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このCDには豪華なブックレットがついていて、
演奏者一人一人が写真で紹介されている。
でもショックなのが、名前の下に添えられた誕生年の後ろに更に4桁の数字が・・・。
録音からCDがリリースされるまでに惜しくも亡くなられた方が数名、
何せ御歳70代(なら若手!)から90代のベテランミュージシャンによるプロジェクト。

ちなみにこのアルバムはシリーズになっていて、同様の第二集が出ている。
上のCDはジャケもブックレットもセピア色で統一されているが、
第二集は懐かしさ漂うカラー刷。
わたしはとりあえず第一集のみ買って聴いているが、
部屋の中が突然町場のビストロに変わってしまうかのような芳醇な香りと色気にびっくり。
近く第二集の方も入手しようと思う。 

ペルーの音楽というと、笛と太鼓のコンドルは飛んで行くをつい思い浮かべるのだけど、
どうしてどうして、そこここで注目され、流行っているというのが納得以上の感動。
スペイン語でワルツを意味するバルスという音楽、
ワルツといってもぶんちゃっちゃではなくて、これは下手な説明をするよりは、
とにかく聞いていただいた方が早い。

対訳と詳しい解説が欲しければ国内盤、そうでなければ外盤がちょっとリーズナブル。
人気盤で品切れのお店もあるようだが、worldを普段聞かない方にも超お薦めの1枚。
騙されたとおもってぜひ聞いてみてください。
world music | - | - | author : miss key
降雪に参った夜
昨日の夜からの雪には参った。
もともと苦手な雪だけど、用事の立込んだ、休みの取れないこの時期に、
体調も絶不調、雪が1日で降り止むのを心の底から願った。

そんなこんなで、
昨夜は疲れ過ぎたせいかなかなか寝付けず、
先日届いたウクライナの民謡をJazzアレンジしたCDを繰り返し聴いていた。
Igor Zakus z-bandによる"Ukrainian Bass Song"というアルバムだ。


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このCDはジャケ買いした1枚で、もっと泥臭くいかにもウクライナな音を想像していたが、
予想とは裏腹に、透明感溢れるいかにもヨーロッパジャズといった演奏。
全11曲のうち、ウクライナの音楽を基調にしたイゴール自身のオリジナル曲が大半を占め、
何曲かは女性ヴォーカルが添えられている。

ウクライナではJazzのジャンルでベーシストのソロデビューは珍しいそうだ。
いかにもトラディショナルな歌の伴奏でもそれほど違和感がないのは、
彼のベースもまた同じ根っこを持っているからなんだろうか。

ECMの作品によくあるような、独特の張りつめた緊張感のようなものはなくて、
どこか懐かしい空気漂う不思議な世界。
worldファンが聞くとjazzだと言うかもしれないし、
jazzファンからすれば、どうだろう。
境界を自由に行き来するようなつかみどころのなさも、
かえってこの作品の魅力を高めているかも。

それにしても、北方の国に憧憬の念を捨てきれないというのに、雪が苦手だなんて。
ため息も積もりそうな部屋の暗がりの中、
ベースの物悲しげな響きがいっそう沁みる冬の夜だ。 

◆ Igor Zakus Official Site http://Igorzakus.info/


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レコードコンサート『世界の音楽を聴く』渋谷・国境の南♪
2ヶ月に1度の恒例となった渋谷・国境の南でのレコードコンサート。
主催者のお一人、北中正和さんのHPで告知がありましたので、
転載してご案内いたします。

***

国境の南トリオ(蒲田耕二、北中正和、田中勝則)がご案内する世界の音楽。
2か月に1回程度のペースで土曜日の午後4時から行なっています。
会費1000円ワンドリンクつきです。次回は2月19日。

テーマはペルーの都市音楽の魅力に迫ります。
「コンドルは飛んで行く」のようなフォルクローレとは一味ちがう
アフロ系の要素も入った混血度の高い洗練度の高いクリオージョ音楽。

カエターノ・ヴェローゾがとりあげた「粋な男」をはじめ、いい曲がいっぱい。
ブエナ・ビスタ的なベテランたちの新録が続々発売され、
クラブ系のDJからも熱い注目を浴びています。

最新のアルバムから貴重なSP音源まで、知られざるペルー音楽を聞きましょう。
どなたでもお気軽にご参加ください。

日 時:2月19日(土) 16時〜 (15時30分開場)
場 所:国境の南 渋谷区道玄坂2−25−5 島田ビル3F- D
         TEL 03-3463-5381
                           web site : http://www.kokkyo.net          

live & イベント | - | - | author : miss key
嗚呼、懐かしのラジオの日々
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リンク先の円盤日記さんで紹介されていた『東京人』3月号の特集。
この表紙で紹介されている深夜放送に親しんだ人々からすれば、
わたしは若干遅れてその楽しさを知った世代になるが、 
それでも、ページを繰る度に溢れる懐かしさ。

ただ、もう真空パックの封を切ったが如く、
この特集を読み進めるにつけ、
当時の気分のようなものが津波のように押し寄せて一杯になる。
わたしは今もラジオ小僧だが、
なにせあれほど夢中になって、
番組に参加したり行動したりということはなかったのだから。

でも、もう一度あの頃に戻りたい、数々の番組を聴き直してみたいとは思わない。
ちょうど、あの頃の世相や雰囲気、それなりの年齢だったからこそ楽しめたし、
刺激があって面白かったのだろうと思うから。


わたしは10代を関西で暮らしているので、
この雑誌に特集されている番組の大半をかなりのムリをして聞いていた。
特に文化放送はわたしの実家ではなかなか受信が難しく、
当時まだ流行していたBCLの雑誌なんかを参考に自作のアンテナまで作ったりした(笑)。

今はラジオから離れているわけではないが、
昼間は仕事だし、夜はすぐ眠くなるしで、
朝起きてから出かけるまでのわずかの時間、某かの番組を楽しんでいる程度で、
今どきのインターネットでは、
もっぱらモスクワやサンクトペテルブルクの放送ばかり聞いている。

『東京人』を読んでみて、今一度、国内のAM放送をあれこれ聞いてみようと思った。
10代の頃とは聴き方も興味のありどころも全然違っている今の自分に、
ツボのはまった番組があるんじゃなかろうかと、おぼろげながら思えたから。
愉しいラジオの時間、過去のものにするには余りに早すぎるよ、
そんな気付きを与えてくれた一冊、興味のある方はぜひ書店で手に取ってみてください。
よもやま | - | - | author : miss key
ロシアのTV映画にはまる 
借りているマンションのフレッツ光がバージョンアップしたので、
毎月安くBSデジタル放送を見ることができるようになった。
ベランダの角度の関係もあってBSは諦めていたが、これならと思って問い合わせたら、
契約の際、工事費等々、初期費用が4万円近くもかかることが発覚。

しがない賃貸住まいなので、それだけ投資しても元が取れるほどここにいるか分からないし、
それほどTVを観るかと言われれば、答えはニェート。
かくしてわたしのBS生活ははかなくも潰えた。

そういうことがあったからというわけでは決して無いが、
昨年あたりからすっかりハマり出したロシアのTV映画鑑賞。
画質はまあそれほど良い訳ではないが、エピソード全12話、DVD4枚組で$40前後だから、
そうめちゃくちゃ高いわけでもなくて、ちょっとしたきっかけさえあれば購入できる。

この週末、ぶっ通しで観続けに観たのは"Охота на изюбря"、2005年の作品。
なぜこれを観たかって、去年一押しの映画『オーケストラ!』の主演、
アレクセイ・グシコフが出ているから(笑)。


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英語字幕どころかロシア語字幕もなければ、もちろん吹き替えも無い、
ごく普通の「国内仕様」のため、
ロシア語が得意でなければ相当厳しい条件ながら、
一度見始めたらノンストップになってしまうほど、本作はハマりやすい。

おそらく主だった登場人物3人ぐらいの役どころと時代背景がある程度わかれば、
ストーリー自体は掴みやすくできている。
下敷きは重たい経済ものでシリアスなサスペンス仕立てながら、
登場人物が織りなす様々な人間関係が物語の軸になっている。
要所要所に胸がキュンとなるようなエピソードも織り込まれていて、

< 昔わたしが教わったロシア語の先生は「恋愛にことばは要らない」と力説されていた

かといって、どこかの2時間ドラマのように泥臭くもない。
もちろん90年代以降のロシアの社会経済に興味がある方なら、
もっと面白くて深い見方もできるだろう。

最近はネットでいろいろな情報やまとめサイトがあったりするので、
ストーリーを予習することもできるようになった。
わたしなどは台詞を全部聞き取れないが故に細かなニュアンスの理解には課題を残すけれど、
昔のように作品のソフトを手に入れること自体が難しく、
何のヒントもなかった苦行のような映画鑑賞から比べれば、今は随分楽になった気がする。

今回のような全エピソード10話6時間!というのはなかなか大変だけれど、
長いだけに物語もじっくり進んでいくので、90分1本勝負の映画作品よりかえって掴みやすい。

もっともこんな鑑賞の仕方は時間も体力も要ることなので安易に勧められないけれど、
或は、きちんとした作品鑑賞のありようからはかなり隔たっているのかも知れないが、
台詞が全部聞き取れないからといって観ないというのはあまりにもったいない気がする。

近い将来、こういう作品がもっと気軽にオンデマンドで観られるようになったら、
そうしたら、「4万円の投資」なんて安いものだけれど、どうだろうか。
そうなったらそうなったで、
わたしなどは仕事に行きたくなくなってしまうかもしれない(笑)。
今は今ある環境をありがたく享受しつつ、次に観る作品探しをするとしよう。

◆ "Охота на изюбря" Wiki Site  
      http://ru.wikipedia.org/wiki/Охота_на_изюбря_(телесериал)
cinema & Soundtrack | - | - | author : miss key
「リョウシ、フナノリ・・・」
「すごくいい歌があるんだ。とにかく聞いてみて!」
友人のジーマから教えてもらったミュージシャン、
Игорь Буланов(イーゴリ・ブラノフ)の歌う "рыбак"(漁師)という曲。

ジーマも日本の文化に興味があって、自分の歌の中で日本語をうまく使ったりするけれど、
ことば尻ではなくて、異国の人が見た日本のイメージが音楽にとけ込んで、
イーゴリの歌声のせいもあるのか、儚さのようなものがしみてくる。




上のクリップはイーゴリの新しいアルバムの発表Liveの模様からのもの。
砂絵の女性アーティストが彼の歌に合わせて描く絵は、物悲しくも美しい。

ジーマがイーゴリの歌を聴くように言ってきたのは、
以前わたしがジーマに今井忍さんのソロアルバムの曲を紹介したからではないかと思う。
お二方の歌はベクトルこそ違えど、その透明感がどことなく共通していると思うから。

曲の紹介のMCで、アルセーニエフの名前が出て来るが、
極東探検家の彼が記した紀行をもとに描いた映画『デルス・ウザーラ』はまだ見ていない。
これを見ればひょっとして、この歌で歌わんとした世界にもっと近づけるだろうか。

イーゴリの歌がもっと聴いてみたくて、公式サイトへメールしてみたら、本人から返信が。
CDをどこなら買えるのか知りたかったのだが、彼自身も把握していないという。
ロシア国内だけでなく、ヨーロッパでもLiveをやっているようで、
前作のCDはドイツのお店で入手できたが、
完成度は今回の作品の方がずっと高いような気がする。




新譜に収められた曲のうち、いくつかは彼の公式サイトで試聴することができる。
表題曲「ニェーバ・クライ」、ニュアンスを壊さずに訳すのが難しい。
イーゴリ自身がLiveの模様をYouTubeにアップしているので、
じっくり聴き込んでみようと思う。
なんだか久しぶりに詩の世界にどっぷり浸かってみたい気分、
眠るのが惜しい夜だ。


◆ Игорь Буланов Official Site  http://www.igorbulanov.ru/
  YouTubeでの彼の映像集 http://bit.ly/dEOSwf 
pop & rock (russian and other slavic) | - | - | author : miss key