古書店で「光を聴く旅」という本を見つけた。
専門誌のレビューやエッセイを楽しみにしている傅信幸さんの著書だ。
CDが生まれて世に出た頃のエピソードを、
日本で生まれたCDプレーヤーが海外へ飛び出していったように、
北米、ヨーロッパ各国と世界を股にかけて旅した記録に絡めて編まれたもの。
なんだかとても懐かしい気分だ。
わたしが初めてCDを手にしたのは86年、ちょうど上京して最初の秋だか冬の頃。
何しろ、生活も厳しいのに最初のアルバイト代をCDプレーヤー購入につぎ込んだ。
最初に買ったのはデンオンのDCD-1000というエントリーモデルで、
大きさも小ぶりな、威圧感のない可愛らしいプレーヤーだった。
ただ、最初は手持ちのラジカセの外部入力につないでとりあえず、だったこともあり、
或はレコードを遥かに超える良い音を出してくれるに違いないという過剰な期待もあって、
最初に買って聴いたCDの印象はさほどいいものではなかった。
かっちりとして輪郭ははっきりしているけれど、ノリが今ひとつ、
というのが最初の感想だったと思う。
はじめて買ったCDはカシオペアの「メイクアップシティ」。
なぜこのアルバムか、というとあまり深い意味はなくて、
大学の生協にあったレコード店で売っていた(割引がある!)ということと、
上京した夏、誘っていただいた伊豆へのドライブの最中、
車の中で始終流れていたのがカシオペアだったから、という単純な理由だった。
「これならレコードの方がいいかな」と思いつつ、
やっぱりこれからはこの小さな銀色円盤の時代なんだと切り替えて、
その後、少しずつ装置を買いそろえ、CDを買い増していき、20年以上後の現在に至る。
(否、数年前からレコードと戯れる生活にも回帰、今はCDとレコードに埋もれている)
最近、当時のことを思い出しては、
87年に買った最初の装置(スピーカー、アンプetc...)を調べたりしている。
装置自体のことはそれほど強い関心がなかったため、
選ぶときに気に入って一度買ってしまえば、
あとはいかに音源を増やすかということに興味がうつってしまっていたから、
アンプやチューナーなどは機種すら覚えていなかったりする。
いまどきはインターネットで検索すればいろいろ紹介されているので、
子供の頃聴かせてもらっていたTRIOのレシーバーまで機種を突き止めることができた。
ほんとうに便利な時代だ。
上のメイクアップシティは今は逆にレコードで聴いているが、
カシオペアを夜寝る前に聴きたくなって、それではと買い求めたのが下の編集盤。
"Living on a feeling - CASIOPEA night selection"と題されたベスト盤。
正直、睡眠導入剤の1枚にはノリが良すぎて少々難ありだけど、
13曲目の"Freesia"というバラード調の曲がとても気に入っていて、
(オリジナルではアルバム"Halle")
この曲をベッドの中でどうしても聴きたくなることがある。
ほんとうはこの曲もレコードで聴きたいが、
うちのプレーヤーはオートリフトじゃないから、こういうときはCDが便利。
そう、CDは便利、という意識で、それそのものにあまり興味もなかったし、
レコードよりはガサがなくて集めやすい、という程度でしかなかった。
でも件の1冊を読んで、少しその生い立ちというか「プロフィール」を知ったせいか、
CDとわたしの距離はぐっと身近になった。
CDが5000枚以上はある部屋で生活していて身近もなにもあったものではないが、
わたしはレコード盤にあまりに執着する割にはCDにはそれほどの愛がなくて、
でもそれってどうよ、という気持ちになることも時折はあったのだ。
或は、身近になった今はもう、日々せっせとデータ化に励み、
いかに確実に聴きたい曲やアルバムを引っぱりだせるようにするかに関心が移っているので、
今からまた盤を1枚1枚プラケースに戻して並べることはもうしないけれど、
CDの出生の秘密に隠された多くの方の苦労と努力を垣間みて、
レコードと比較したりして邪険に扱ってはいけないのだと少し反省した。
長い夏休みから戻って都心の暑さに眠れぬ夜を重ねつつ、
明日もまた楽しい1日でありますようにと祈る深夜のひととき。