音の快楽的日常

音、音楽と徒然の日々
食わず嫌いは損をする
テーマそのまんまのことを痛感したのがEmil Gilelsの弾くベートーベン、ピアノソナタ。
わたしは根っからの天の邪鬼であるし、
メインストリームからしっかり入っていこうなんて気構えはどこにも持ち合わせていない。
なので、

 なにゆえそんなに「辺境」を好まれるのですか

などとお問い合わせをいただいてどっきりする始末。

それでも、ロシアに興味ある者として避けられないロシアピアニズムの系譜、
そして旧ソ連の鉄人と称される素晴らしいピアニストと作品の数々を目の当たりにし、
とうとう開眼したかもしれない、という調子で上述のピアノソナタにどっぷりはまっている。

本当は1枚、1枚をレコードで集めたいが、
CDでとても評判のよいセットがまだ手に入るということだったので、
この機会にと購入したのが下のアルバム集だ。


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毛嫌いしていたわけではないが、特にこれといったきっかけもなかったベートーベンの作品。
そう、きっかけと言えば、昨年出かけたPeter Serkinのコンサートでの演目だろうか。

Gilelsというと、わたしはチャイコフスキーのコンチェルト1番とかばかり聴いていた。
バーンとした迫力と煌びやかさと繊細さ、全てが同居する豪華絢爛な演奏に目眩がするから。
逆にソロ演奏はあまり向き合って聴いたことがなかった。

元々音楽は好きでも、ピアノは子供の頃のトラウマがあったせいかどうも好きになれず、
こんな年になってあれこれ聴き始めている始末。
それも、非力で小さな手でもって面倒な練習曲を来る日も来る日も弾かされ続けたという、
とにかく痛くて辛い思いでがあるが故に、
まだ耳の若い頃は、わざわざピアノ曲を聞こうという気持ちになれなかった。

誰もが良いというもの、大勢が推挙するものにはやはり何かが「ある」のであって、
それも分からないうちから毛嫌いするのは、1度きりの人生、大損しているに違いない。
今になってそれが分かってどうするという気持ちもあれど、
これからは先入観に拘らず素直に手を伸ばしていこうと反省する。

内容のことには何も触れていないが、パッケージ違いの同作品リリース時より大評判との由、
今更書き足せることなどあるまい。

ああそれにしても、なんて素晴らしい歯切れの良さだろう、
Gilelsのピアノ、疲れた気分が一瞬で晴れるような響きがする。
眠る前の1枚ではないが、当面毎日の愛聴盤確定の1箱、おすすめです。
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『飼い猫志願』
猫が飼いたいと思い始めてから何ヶ月が経っただろう。
計画が具体的になったら引っ越しもしなくては(此処はペット飼育不可)、
そんな思いもあって、暇があれば不動産物件のサイトを眺めてもいた。

でも、猫を可愛がっている友人知人に体験談を聴いて回り、
実際に猫を、それも野良生活を送っていた猫を家族に迎えることの難しさはかなりのもので、
そして、留守番の時間が長くなるであろう我が家での生活は猫にも負担であろうことが分かってきた。

里親探しのサイトを見ても「一人暮らしの方ご遠慮ください」との条件がよく付されている。
猫と暮らしているベテランの方々の目から見ても、
やはり猫を一人にして飼うというのはいろんな意味で無理があり、
それだけ気持ちの面でも時間の面でもきちんと世話をできるのでなければ飼ってはいけないのだと思われた。
野良猫を家族に迎えたいという思いは偽りではないが、難しいことなのだと理解できた。


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この本の作者はブログも運営されていて、
1匹でもたくさんの野良猫が幸せに暮らせるようにと、体験談を綴られたとのこと。
日々、いろんな出来事を重ねて主人公であるしまさん(猫)と飼い主の心が
通い合っていく様が手に取るように見て取れて、気持ちが温かくなる。

わたしもこのしまさんのように、ごつくて大柄でふてぶてしい表情の猫が飼いたかった。
里親のサイトを見る限り、
野良猫の保護数というのは増えることがあっても減ることはないようだから、
わたしもいつか状況が許せば、彼のような猫といっしょに暮らしたい。

ことばが通じない相手とのやりとり。
でも下手な人間同士より、よほど気持ちがわかり合えているのではないかと思えるほど・・・。
人間関係って、ひょっとしたらことばの力に頼り過ぎているのではないか、
ふとそんな気さえする。
相手を思いやり、理解しようと歩み寄ることの大切さを改めて噛み締める一冊。
よもやま | - | - | author : miss key
もう1年が過ぎるのだと
今日は天気がよくて、日向でぼんやり本を読むことができた。
ベランダに置いたメダカ池(プランターを水槽にしたもの)では、
わたしに負けじと水面近くをゆっくり泳ぐメダカ達。
マンションの庭では猫たちが躯をうんと伸ばしている。
ひなたぼっこは誰だって気持ちのいいものだ。

今年は春が少し遅いと聞いているが、メダカ達には春の近づくのが分かるのだろうか。
鈍感なわたしには大して気温は違わないのに、
先週よりも今週、メダカの泳ぐ様になにか漲るものを感じるのは、
きっと先入観のせいだけではないだろう。

***

夕方、ニュースを見ていたら、
1年の区切りのセレモニーのためニュージーランドに出発した震災遺族の方の様子が流れた。 
もう1年が経とうとしている。
そして、あの3.11からも。

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ヒリアード・アンサンブルの"In Paradisum"。
こうして静かな夜に流すと、部屋がまるで教会になったよう。
美しい歌声が澄み切った空気に寄り添うようにして高く高く上っていく。

鎮魂、ということばの意味をこれほど噛み締めた1年はなかっただろう。
生きているからこそ、明日という新しい1日がやってくる。
目に見えない幸運に感謝しつつ、蝋燭の火が時折揺れるのをじっと眺める夜。
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春を待つ
先週末は新しく知り合いになった音楽ファンの方々と食事をした。
アルザス地方のお料理ということだったが、
わたしには地図上のどこら辺りかというのが大雑把に分かる程度であった。
それでも、出される料理はどれも美味しくて、
出される端からもうこれ以上食べられないというくらい食べた。 

前菜の一皿にいかにも春らしい料理があって、
なんでも空輸されて届いたたんぽぽの葉が使ってあるとのことだった。
軽快な食感のそのあとにほんのり広がる苦みは、
オマール海老の甘みとけんかすることのない、落ちてすぐ解けるような雪粒のような優しさ。

無意識のうちに春を待ちこがれていたのだろうか、
曲の調子がこれまた何とも優しげなレコードを、同じ日の夕方に買い求めていた。
ロシアのメロディア盤、グラズノフの弦楽四重奏のための作品集。


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グラズノフの弦楽のための曲は、メロディが美しく、どことなくセンチメンタルで、
それでいて、こんな季節に気持ちがほっこりするような優しい音楽がたくさん。
重心がやや低めの躍動感、手放しで軽やかに跳ね上がるような感じではなくて。

もっと有名な作曲家はいくらでもいるのだろうが、
どの曲にも、安心して身を任せられるようなゆったりとした響きを求めると、
たとえばグラズノフのような人になる。

この1枚を、もっと雪の降り積もるしんと静かな夜、暖炉に火をくべながら聴くと、
きっとすごくいい気分になるのだろうなあと想像を膨らませる。
雪も暖炉も東京のこの部屋では無理だから、せめて香りのよい上等の紅茶を飲みながら・・・。

2、3日前から酷かった風邪もようやく抜けて気分も軽くなってきたから、
明日はこの調子でゆるっと過ごそう。
それにしても、嗚呼、春が来るのが待ち遠しい。
春は待ちこがれて楽しむ時間と、桜咲く春爛漫を楽しむ時間の2度楽しめるから、
やっぱり良い季節だ。
つややかな弦の響きに春先の目映い光を思い浮かべてつい頬が緩む夜だ。
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Valentine Day
友人のチェルヌーシの新曲、"Valentine Day"。
曲はジーマ・チェルヌーシ、歌詞はM.イサノワとセルゲイ・ネモ。
ことばは要らない、ぜひお聴きください。
少し早いけど、バレンタインの夜のBGMにどうぞ・・・♪


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ヘッドホンがありがたい季節
通勤途上のリスニングをイヤホンからヘッドホンに代えて早1年。
モンスターなんかのおしゃれヘッドホンなら見た目もあれだけど、
当方のは価格と音で選んだ無骨なSony。
最近はようやく振り返られずに済むようになったが、
今年の冬はこの寒さ、耳当て代わりのヘッドホンがありがたい日々。

さて、iPodに詰め込んだ最近のロシアものから選んだのは、
Валерий Леонтьевの新譜、"Художник"。


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一時の落ち着いたバラード調の曲から離れ、
今回は随分と懐かしいディスコサウンドアレンジのオンパレード、全18曲。
いやいや、この年齢でこういうキラキラナンバーを一線で歌えることそのものが素晴らしい!

レオンチェフのように、いかにもな歌謡曲をバリバリの現役で歌ってくれる歌手が、
数年後、いったい何人いるのかな。
そんなことを思いながらぼんやり今朝も電車に揺られていた。

過去を振り返るような音楽の聴き方はあまりしたくないけれど、
10代の頃に刷り込まれた音楽の存在感たるや思いのほか大きいようで。
嗚呼、ラジオにかじりついていた夜が懐かしい。
フェージングの波間に見え隠れしながら、わたしの部屋にまで届いた歌の数々。
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コンセルトヘボウ・アンソロジー
円高の恩恵というと、個人的には海外盤を安く買えること。
去年1年間で買った海外盤のBox Setはいったいいくつかというくらい、
気になるものは一通り押さえた格好になる。
全部聴かなくてはという強迫観念はとりあえず棚の上に置き、
あとからゆっくり気になるものを聴いていけばいい、その程度の気楽さでもって買えるのは、
やっぱり普通ではない安さゆえ。


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10年刻みで編集されているロイヤル・コンセルトヘボウ・オーケストラのBox Set。
出始めは高くて手がでなかったのだが、年末に5と6の2セットを購入した。
どっしりとした古い録音ではなくて、最近のものが聴きやすいのではと想像して。

元々苦手だったクラシック音楽を気軽に楽しめるようになったのは、
なんといっても好きな指揮者、好きなオーケストラが見つかったから。
作曲家から追いかけていくのは息切れしそうなしんどさがあったけれど、
演奏家で好きなものが決まれば、そこから横に広げていきやすい。
気に入った曲、演奏があれば、次に同じ作曲家の作品に。
或はソロの演奏家の別録音で別な曲を、という具合に。

好きなオーケストラはというと、チェコフィル、シカゴ響、
そしてライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団。
そしてその次がコンセルトヘボウ。
善し悪しを言い出したらきりのない世界なのだろうが、
素晴らしいと感じられる音楽をゆっくりのんびりそしてじっくり楽しむ時間を大事にしたい。

***

2月は短い月だけれども、一週間がとても長く感じられた。
おまけに夕方近くになるとついあくびが出てしまうほど体力不足。
こうしたセットを聴き始めるとつい夜更かししてしまうが、そこそこにしておこう。
明日もいい天気になりますように。 
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いつかは壊れるのだろうけれど
電卓が壊れた。
いつから使っているのか覚えていないほど古いものだが、
太陽電池?で作動するタイプのものだから年代ものというほどでもない。
でも、こういうものでも壊れてしまうんだなとしみじみ。
あまりに、突然で、意外だったから。

思えば電卓というと、学生時代に使っていたカード式の電卓を除けば、
職場で支給された1台(これもすでに太陽電池?式)、そして今回壊れた電卓のみで、
自分で買ったものはなく、職場のものは20年以上不具合知らず。
壊れてしまって「え?」という感じだったけれど、
こんなに毎日使っていて壊れないなんて、思えばそのことの方がずっと不思議で意外だ。




音楽で電卓というとクラフトワークくらいしか思い浮かばないが、
もっと古い作品だとおもっていたら81年のリリースとのこと。
クラフトワークの「電卓」をラジオで初めて耳にしたときは何とも新鮮に聞こえたけれど、
今こうして聴いてみてもどこか癖になるようなフレーズが一杯。

さて、壊れた電卓。
うちのPCは画面に電卓が出てきて一見便利だけれど、
ブラインドでさっさ計算するのには、やっぱり適度な大きさの電卓が便利だ。
amazonでみても、選べないくらいたくさんあるけれど、
せっかくだから使いやすそうなのを選ぼう。
きっとまた20年ほど壊れずにいるのだろうから。
丈夫で便利な装置というか道具の代表格のようなものなのかもしれない、電卓って。


 
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