音の快楽的日常

音、音楽と徒然の日々
Red Heat
ちょっとしたきっかけで、ふとある映画のことを思い出した。
A.シュワルツェネッガー主演の"Red Heat"(邦題「レッドブル」)。
米国映画作品として初めて赤の広場での撮影を許可された、というエピソードはもちろん、
この作品のオープニングテーマが何とも印象的で、すっかり頭に焼き付いてしまった。
当初はサントラを担当したJames Hornerのオリジナルだと思っていたのだが、 
かなり後になって、
原曲はプロコフィエフの「十月革命20周年記念のカンタータ」第2楽章であることを知った。

レッドブルのOSTレコードも手元にあるはずだが、探しても出てこない。
最初のテーマばっかり聴いて、その部分だけ溝が痛んでいるようなレコードだが、
どうやら以前のオーナーさんもそうだったのか、最初っからそういう状態で(笑)、
でも気持ちはわかるような気がする。

プロコフィエフ、手元の音源をあれこれ聴いてみると、
愛国心を鼓舞するようなメロディのものが結構あったり、
スキタイ組曲のようなド迫力の大編成ものもあったり、ピアノ曲がずらり揃っていたりと、
思っていた以上に意外性のある作曲家だと改めて思う。

来日時のインタビューなどから、性格悪いみたいな評もあったようではあるけれど、
この曲を聴いていると、まあそんなことはどうでもよくなってしまう。
演奏のテンポやコーラスに女声が入るか入らないかなどで、
聞こえ方も随分と違うし、表現の幅もあるこの第2楽章「哲学者たち」。

領土問題であれこれ話題にことかかない時節柄、
こういう曲を聴いていて隣近所の方はどう思うのかと思わないでもないが、
背筋がしゃきっとしてお腹に力の入る曲は、たまにはいいものだと思ったりする(笑)。

ちなみに、CDでは、Neeme Jarvi指揮、フィルハーモニア・オーケストラ演奏のものが、
Chandosから出ている。

下の音源の背景にあるのは、プロコフィエフを記念した切手なのだそう。
想像していた顔とも全然違う、これでわたしにとっての「意外性」がまた積み重なった。
さて、もう1回、この曲を聴いて寝ることにしよう。



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50周年記念が重なったら
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話題になっていたのに最近ようやく入手したCD、
"Chimes of Freedom: The Songs of Bob Dylan"。
ディランのデビュー、そしてアムネスティ創立50周年が重なって生まれたトリビュート盤。
なんと4枚組で、思わぬアーティストによるカヴァーもあるから、
中身をあまり知らないで、いきなり聴いてみる、が吉。

わたし自身はディランの凄いファンというわけではないけど、
ラジオで耳にして、自然と覚えてしまった歌が何曲もあって、
ここ10年くらいで彼のアルバムを順を追って聴いてみたりしていた。
でも、オリジナルだと少し重たく感じることがあって、微妙な距離感だったのが、
このアルバムだとそういう重しのようなものが取れて、
歌にすっと入っていけるのが不思議。
 
4枚組というボリュームに腰が引ける方もいらっしゃるかもしれないけれど、
どこから聴いてもいい感じだし、構えなくても聴けてしまう。
軽く気分をあげていきたいときにおすすめの1枚(というか4枚!)。
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写真
春先の大残業のおかげで、新しいカメラが買えた。
RX100という小さな手のひらに乗っかるサイズのカメラだが、
レンズがツァイスということで、T2などを長いこと使っているわたしには馴染みがあった。
エレクトロニクスは最新のものだけれど。

少し前に、フィルムのカメラで撮影し、プリントを注文したが、
できあがってきた写真は、思っていたのと違う、きりきりと余裕の無い絵だった。
昔、1枚10円とか20円の安いのでも、もっと柔らかでゆったりとした絵だと思ったが、
むかしのことはよく思えたりするんだろうか。

それこそ10年以上前のアルバムを引っ張りだしてプリントを眺めても、
この間のプリントとは大違い。焼き方そのものが違うように思えてならない。 
今時はもうそういうことも言ってられない、
まだ焼いてくれるだけいいと思わなければいけないのだろうけれど・・・。

以前使っていたRXのような質実剛健だけど、手に馴染むカメラが欲しかった。
でもちょうどそういう条件に合うようなものがなかなかなくて、
今時のコンパクトデジカメにしたのだが、これが思いのほかよい買い物だったようで、
カメラをいつも持って歩き、メモを取るように写すのが楽しくてならない。

使って楽しい、これはよいカメラの大事な要素ではないか。
わたしには肩が凝ったり、持ち出すのが億劫になるような大げさな装置よりも、
こういう気軽なものの方が向いているのかもしれない。
FBなどで面白がってもらえる画像はたいていこの小さいので撮ったやつだ。
思えば一番使ったカメラがContax T2。
癖があるけれど、やっぱり撮っていて楽しいカメラだ。

良い写真って、なんだろう。
ああ、この景色が、この様子が後からもう一度見たい!
それを写し止めてしまいたい、
もう一度の瞬間は、二度と訪れることがないことがわかっているから。


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※ 実家の柴犬、11歳の夏。彼なりにカメラ目線でモデルのお手伝いです。
よもやま | - | - | author : miss key
Richter in Warsaw: The Scriabin Recital
メトネルとスクリャービンの曲を演奏したアルバムで、
これはと思う演奏家の録音は見つければなるべく購入することにしている。
新しい録音はそれほど多くはないし、
「これは」と思う演奏家は、実はその大半が鬼籍に入っているので、
手に入れる録音は、たいてい数十年も前の作品だ。


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スクリャービンが生まれたのが1872年、
そしてこのアルバムのライブ演奏は1972年、ワルシャワでのもので、
ちょうど作曲家が生まれてから100年後の区切りの年だ。

メモリアルイヤーということで企画されたのであろうが、
旧ソ連のピアニストが弾くスクリャービンは、いかにもという感じで、
どこか幻想的で、美しくもまた切なく感じるのは、わたしの思い込みゆえか。
 
思い込みであってもいい、スクリャービンの曲はこうあって欲しい、
そういう前のめりで楽しむ作曲家は、わたしにはまだ少ないから、
こうしたアルバムが手軽に手に入るのは大歓迎だ。

夜静かに聴くには、力溢れるフレーズもあって思わずはっとするが、
おそらくは、秋から冬の夜の良い時間に適度な音量で聴くのがよいのではと、
今から涼しくなるのを楽しみにしている。

プレリュード、エチュード、そしてソナタから編まれた全36曲、70分超の大作。
これだけまとまった作品数をリヒテルの演奏で聴けるというのが何とも幸せなことかと。
スクリャービンがお好きな方にはぜひお手元に揃えていただきたい1枚だ。
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「人生はビギナーズ」
事実は小説より奇なり、とはいうけれど、
突飛なようでいて、見ていてそれほど違和感もないのがかえって意外で、
この作品の解説をネットで探したら、なんと監督自身の自伝を元にしたストーリーとか。
それにしても、見終わった後の気分はまるで凪いだ湖面のように穏やか。
ユアン・マクレガー主演の「人生はビギナーズ」。


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ユアンの作品はここ数本、どれも充実して見応えがあるけれど、
こんなに気持ちが優しくなれる作品は初めて。
相手役のメラニー・ロランは「オーケストラ!」の若き音楽家役で注目されたけれど、
ここではちょっと風変わりな女優志望の役どころ。
いや、今回は何と言ってもユアンの父ハルを演じたクリストファー・プラマーの好演が光る。

物語は主人公オリヴァーの恋の行方を軸に、記憶と現実の間を行きつ戻りつするが、
その背景に様々な登場人物の人生や思いをあぶり出しのようにして描いてみせる。
またタイトルはラストシーンでその謎解きをすることができるが、
ことばで書いてしまうと詰まらないだろう。

物語の流れは、ひょっとしたら悲しくて切ないかもしれないが、
話せる犬、ジャックラッセルテリアのアーサーがともすればの緊張感を和らげてくれる。
犬が話すって? ほんとうですよ、犬は心で会話します、うちの実家の犬もそうですから。

不器用だからこそ、見える愛、掴める愛があるかも知れない。
地味だけれど、お勧めの1本。
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美しすぎる花図鑑
fbを通じて紹介していただいた本、あまりにも美しすぎる花の図鑑。
東信、椎木俊介著 『Encyclopedia of Flowers-植物図鑑』(青幻舎)。


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花ってこんなに美しく綺麗なものだったのか。
そして頁をめくる度に溢れるような生気。
500頁を超える本ながら、微塵の手抜きもなく、最後の1枚まで緊張感が漲る。
掲載された点数は何と1600種以上、全ての花の名前が確かめられる。

一気に見たいが、それはあまりにもったいない。
次にはどんな花が出てくるのかとこんなに楽しい図鑑も少ないだろう。
きっと高価に違いないと思われるだろうが、これだけの内容なのに3,360円。
正直値段から想像して、装丁などにはそれほど期待していなかったのだけど、
こういううらぎられかたもまたうれしいもの。
夜ひとりでこっそり眺めたい秘薬のような本だ。
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Измерение жизни(人生を測ること)
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Олег Газманов(アレク・ガズマノフ)の60歳記念にリリースされたアルバム、"Измерение жизни"。
ここ数年、ロシアの年末恒例歌合戦やコンサートで歌われるここ一番の曲が表題曲で、
歌詞は、胸に詰まるような、どこか物悲しさを堪えきれないところはあるけれど、
彼の書く歌は、これまでもふと考え込んでしまうような歌詞が少なくなくて、
今回のアルバムに収録された15曲のなかでもとりわけ、
LIVEのフルバージョンで収められたこの曲には、彼の特別な思いがあるように思う。

 ....Ну почему листья опадают, 
     Почему птицы улетают, 
     Почему все кончается когда-то, 
     И мгновеньям нет возврата, 
     Так зачем спешим куда-то мы?... 
  ( 何故、木の葉は落ち、鳥は飛び立ち、すべてはいつか終わってしまうのか。
    二度と戻らない瞬間、そう、我々は何故どこかへ急がんとするのか? )

リフレインされるこのフレーズをつい口にしてしまう。
この暑い夏にはあまり似つかわしくないけれども、
思わず見上げた陽の光がまぶしくて、目を細めた瞬間にフラッシュバックする映像は、
たくさんの鳥が一斉に飛び立つときのような、何処で見たのかも思い出せない風景で、
そしてまた、わたしは考え込んでしまう。

この歌の歌詞は、冒頭からそんな調子だが、
こういう場所でことばにすると、自分の心持ちが透けて見えてしまうようで、
怖いような気もして、するすると書き連ねることはできない。
そして、この歌詞の奥に見え隠れする風景は、
聴く人によってすべて違っているにちがいない。
     

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pop & rock (russian and other slavic) | - | - | author : miss key
暑中お見舞い申し上げます
暑中お見舞い申し上げます   2012年 盛夏


一週間ほど滞在した田舎は、確かに暑かったのですが、
夜になれば水田の方から涼しい風が吹いて、寝苦しいほどではありませんでした。

この夏、いつもと違うのは、蝉が少なく、そして蛙の鳴き声も少ないこと。
ゲコゲコという大合唱に悩まされつつ眠るのもまた夏の楽しみだったのですが。


オリンピック観戦で寝不足の向きも少なくないかと思います。
くれぐれもご自愛くださいますよう。


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よもやま | - | - | author : miss key
Fricsayのレコード
夏休みに読む本を探していたら、レコードマップ11-12年版が出ていた。
さよなら号だというので驚いて手に取ってみたら、電子媒体に移行するのだという。
紙ベースはひょっとしたらオンデマンドで対応するかもとあった。
紙媒体の方が、パラパラ何となく読みめくるには都合がいいのだけれど、
これと狙って検索するのには、電子の方が便利かもしれない。
ちょっと寂しい気もしたが、そういう時代になったんだろう。

いつもの書店の隣のビルが、やっぱりいつものレコード店で、
であれば、当然のように時間が許せば「お隣り」にも立ち寄るのであって、
この数十メートルの区画は、まるでわたしのための街のように錯覚するくらいだから、
何とも幸せな話だ。


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今回、なんとなく手が伸びた1枚、Ferenc Fricsayのモルダウ。
この指揮者を、チャイコフスキーの6番がすごくいいと教えてもらって最近知ったのだが、
ちょっと試聴してみたら、このモルダウが何とも言えない緊張感に包まれていて心地良い。
モルダウは、もう少し伸びやかに壮大に歌っている演奏が好きだけど、
これは一度聴いたら忘れられない、最初の有名なフレーズですっかり嵌ってしまった。

たった700円でこの盤はわたしのものになった。
こういう値段が本当にそれでいいのかどうかは別にして、
レコード好きにはこんなに良い時代はないだろうと思えるほど、
「探す」と「手に入れる」のバランスが取れているような気がするのはわたしだけだろうか。
東京という世界的に見ても中古レコード店が密集している地域だからこそ、
そう思えるのかも知れないが。 

さて、このレコード、
いつもの黄色いマークの下に"Resonance"とあるが、これは何だろう。
それと右下に生誕70年の記載が。記念にリリースされた盤なんだろうか。
裏ジャケに説明らしきものがあって、囲みの中をネットの翻訳を使って読んでみると、
どうやら傑作を特集し、お値打ち価格で再発するシリーズらしい。
(ドイツ語は不慣れかつ不勉強なので難しい)

ここのところレコードでよく聴いているのはギレリスのピアノかシャフランのチェロなので、
久しぶりに大編成のものを聴いて楽しいということもあるのだろうけれど、
このモルダウを、部屋のキャパシティが許すギリギリの音量で聴いたらどうだろう、
そんなことを想像したら、下腹あたりからのわくわくというかもぞもぞが止まらない。
こういう風だからレコードってやっぱり止められないんですよね、
とまた都合のよい言い訳をして1日が終わる。
今日もいい1日だった。
レコードの話 | - | - | author : miss key
暑い最中でも読める本を
とうとう始まったロンドン・オリンピック。
オリンピックが始まると必ず思い出すのが浪人時代。
高校卒業間際に体を壊して1年を棒に振ってしまったが、
ちょうど最後の夏休みがロサンゼルス・オリンピックに当たっていて、
クラスの誰よりも競技の結果や外国選手に詳しくなってしまっていたわたしは、
当然にして入試もしくじり、浪人という名の人生のボーナスを手にした。
あれほど損に思えた時間が今はボーナスだったと思え、負け惜しみがそうでもなくなった今は、
残りの時間をどう過ごそうかなどと考える歳になった。

今年も猛暑、こういうとんでもない暑さになるのはもう何年目だろう。
早めの夏休みを貰い、本を抱えて田舎に引きこもった。
引きこもる前に考えたのは、暑い最中でも読める本は何か、ということ。


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雑誌連載をとりまとめたおなじみの1冊、『不謹慎 酒気帯び時評50選』。
新刊書はあまりチェックしていないわたしでも、このシリーズだけは発売日購入。
連載誌を読んでいないこともあるが、2年弱分の対談で時事を振り返り、
ときには笑ってしまえる話題もありと、頭のリセットにはもってこい。

今回の50本、3.11があり、立川談志や吉本隆明が亡くなり、と話題には不足なしだが、
実はこの本、時事放談というよりは、読書の薦めとして手に取っている。
そういう読者が少なくないのか、筆者(語り手)のお二方の意向もあるのか、
巻末に豪華「対談10年で語られた本100」がとりまとめられている。

推薦コメント、これまでの「対談」に目を通している方が説明を面白く読めるかもしれないが、
これだけ読んでも十分楽しめ、役立つ構成になっているのがすごい。
コンパクトで硬軟取り混ぜた100冊、
広く浅く歴史本をなめるよりは、きっと血になり肉になるであろうお薦め本の数々。
こんなガイドは探してなかなかあるものではなくて、これだけでも本作を買う値打ちがある。

長いものを読むのに、夏休みは都合が良かったりするが、
この暑さでは、さすがにテンポよく小刻みでも読み進められるものがいい。
生真面目に真っ正面から読んでも、或は飲み食いしながらの斜め読みでも、
某か応えてくれるものがあるうれしい1冊。
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