この春にリリースされた福田進一さんの新譜、バッハの第2集発売を記念して、
都内2カ所にてミニライブが開催された。
この手のミニコンサートは音も今ひとつだし、
落ち着かないのであまり気にしたことがなかったが、
他でもない福田進一さんだというので、これはもう万難を排しての参加しかないと、
この日をずっと楽しみにしていた。
天気予報では晴れだったのが、午前中から雲行きが怪しくなり、とうとう雨が降り出した。
一旦小やみになったのを見計らって早めに出かけたが、
地下鉄の駅を出てみたら、バケツをひっくり返したような酷い降雨。
子供の頃の夕立とは違うなあなんて暢気な調子でいたが、
傘をさしていたにもかかわらず膝下はびしょぬれ、これでは間近で聴くのも失礼というもの。
それでも、早めに着いた店内でうろうろしているうちに何とか乾き、事なきを得た。
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会場は10Fフロアの端、窓から見える景色も見通しがよく、悪くなかったが、
何しろエアコンの音や店内のアナウンス、それから宣伝用の映像音声、お客のざわめき・・・
とにかく繊細なギターの音を聞くような環境ではなかったことは確かで、
福田進一さんご自身も、最初は雑音で集中するのが厳しかった様子なのが残念だった。
それでもさすがにプロの演奏家で、演奏が始まるとすっと音楽の中に入っていき、
あとは私たちが目の前の演奏に集中するだけ。
司会者とのトークを挟みつつ、バッハから3曲、そしてヴィラ=ロボスを1曲アンコールで。
演奏が素晴らしかったことは言うまでもなかったが、
トークの中で触れられていたことで、すごく印象的なことがいくつかあった。
・クラシック音楽の作曲家はその多くが他界しているけれど、
ギターの作曲家は存命の方も多く、その音楽について作曲家とやりとりができること
・クラシック音楽は北半球の一部で盛んな音楽だけれども、
ギターの音楽は赤道を超えて南半球まで広がっていること
(赤道を超えられる、そのこと自体が素晴らしい)
・ギターを製作する名工は、例えばストラディバリ等と違ってまだ活躍している方も多く、
楽器について直接演製作者とやりとりできること
・演奏できる曲の幅が他の楽器に比してかなり広いこと
例えば、チェロの曲をバイオリンでというのは意外と大変であり、
いろいろな楽器向けのバッハの曲をアレンジして演奏したのが今回の作品集であること等
そうそう、どうやったらギターが早く上達できるのかという質問に対し、
「タイムマシンに乗って、若い頃の自分に直接教えること」という回答には思わず笑みが。
鈴木大介さんとの間でそんな笑い話がでたそうだが、
福田さんのような方でも、演奏に関しては発見の日々なのだそうだ。
そして、新しいチャレンジを苦にするのでなく、新たな試みを楽しんでやっていける、
そんな印象をことばの端々に受けた。
素晴らしい演奏会のあとは、サイン会。
この機会にと、わたしもちゃっかりジャケットにサインを戴いた。
今後、バッハの作品集は第6集まで制作予定とのこと。
他楽器の曲をギターアレンジにしていろいろ演奏してみよう、というコンセプトだそうだ。
どの曲が選ばれ、どのようなアレンジなのかも気になるが、
次回第3集を心待ちにすることにしよう。
雨が降ったおかげで、日が暮れたあとは幾分秋口らしさが出てきた。
そんな夜だから少しメランコリックに行きたいと思い、探したのが下の映像。
まだ若い頃の演奏で、映画「ひまわり」の主題曲。
この曲のメロディの美しさがひときわ映えるギター演奏、
さらなる秋の深まりを期待しつつ、まだまだ昼間の興奮が覚めやらぬ夜だ。