音の快楽的日常

音、音楽と徒然の日々
Davaar9!
LINN DSのファームウェアがバージョンアップし、Davaar9になった。
twitterや何かで早々とバージョンアップしたユーザーの感触も良かったので、
わたしにしてはこの早いタイミングで、えいっとバージョンアップしてみた。

いつもより時間がかかって、途中不安でもあったが、
一旦スタートしたら終わるまで全て自動なので、実は何もすることも考えることもない。
今回はKonfigもバージョンアップし、画面もお洒落で分かりやすくなったので、
PCやソフトが今ひとつ(否、かなり)苦手なわたしでも気後れせず触れる。

さて、バージョンアップ後の再生音。
あくまでも当社比、だけれど、Caraの途中からDSを使い始めて現在に至るまで、
今回ほどバージョンアップの有り難みを感じ、
また自分のイメージにフィットしたことはなかったので、
以後、自分のテンションまで上がってしまい(笑)、数日に渡り寝不足進行中。

どんな点が変わったのか気になるユーザーもおいでになると思うけれど、
我が家では、何といってもaudio臭さが一層取れて自然な広がりが出たこと。
live盤の臨場感もぐっと増したし、声のベールがまた一皮むけて自然かつエモーショナルに。
なので、ついつい聞き入ってしまい、ついで聴きやながら聴きは難しくなった(笑)。


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ここぞ、という時に再生しているChet Bakerの"Chet Baker in Tokyo, Memories"では、
ついに貴重なLPに何度も針を落とさなくても、毎日Chetに逢える気分。
ダルでアンニュイでどうしようもなくて、鈍い光を放つトランペットの響き。
そして今そこにある体温を感じさせるヴォーカル。

あと一曲、いやもう一曲だけ、といいながら毎夜いい時間になってしまう。
もちろん、今はこうしていても、きっと耳慣れてしまうのだけれども。
今夜もあと寝るまでに何曲聴けるだろうかと、Kinskyの画面を眺めている。
Happy listening, Happy time!
audio | - | - | author : miss key
肩の力を抜こう
年末が見えるこの時期になると、体が張って疲れが積もるのを嫌でも感じてしまう。
朝から晩まで会議に打ち合わせで椅子に座っていることを余儀なくされ、
お茶を汲みに席を立つ時の、背中の伸びる感じが、
縁側で昼寝から起きた猫のようだと笑われながらも、
席を立って体を動かすことが、とても壮快だったりする。


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耳当て代わりにプチフォンを普通サイズのヘッドフォンに代えて通勤、休憩時間のiPod time。
ランダムに選曲するモードでいきなり流れたJoe Henry、
空気がブルブルっと揺さぶられるような出だしに、眠気も何処かへ飛んでいく。
否、テンポはゆるっと感満載の1曲目だけど、タイトルは"Heaven's Escape"だって・・・。

目の前の山から逃げてもしごとは減らないから、
とにかく根気よく山を崩していこう、でも肩の力はうんと抜いて。
「無意識のうちに歯を食いしばっていませんか」
いつもお世話になっている歯科の先生に言われて驚いたが、
それからは、顔の緊張も意識的に解し、体も伸ばしてリラックス。
がんばることは必要だけど、体を虐めていいことはなにもないから。
明日もリラックスモードでいこう。
pop & rock | - | - | author : miss key
静かな月夜に
太陽か月か、どちらがより好きかと訊かれたら、
少し迷って、多分「月」と答えるだろう。
自らは誰かを温めることはできなくとも、そっと寄り添い見守るような静けさ。
部屋に戻る時間がつい遅くなり、ふと空を眺めたらいい月夜だったりして、
何という理由もなく、ただぼんやり眺めていたくなる。


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静かな月の表情によく合う響きは・・・先日挙げたウード、そしてドゥドゥク(duduk)。
流星降る今夜は、ドゥドゥクの美しい音色を堪能できる作品「アルメニアの心 」を。
ドゥドゥクはアルメニアの代表的な楽器だけれども、
今夜はいつもの歌謡曲ではなくて、古い時代から近代に至るまでのアルメニアの伝承音楽。

ジャケットには録音の様子が出ているが、古い教会のような場所で録られたよう。
打楽器のドンという低い響きが、辺りの厳かな空気を伝えてくれる。
それにドゥドゥクの美しい音色、クラリネットに近い木管楽器だそうだが、
歌謡曲の伴奏時の、あのけたたましさは影も形もなくて、
同じ楽器なんだろうかと疑いたくなる。

暗がりから立ち上るような空気、何もかも忘れて真っ白になれるような音楽。
演奏の素晴らしさは、サヴァールとエスペリオンXXIだから折り紙付きで、録音ももちろん◎。
CDレイヤーでこれだけ素晴らしいのだからSACDだとさぞや・・・。
audio phileの方にもお勧めしたい月夜の晩のBGM。
深夜、静まり返った部屋の中で、こっそり愉しむ1枚だ。
world music | - | - | author : miss key
中身か側か
ふと、思うことがある。
自分は、音楽が好きなのか、それとも黒い円盤が好きなのか、と。
音楽が好きで買い始めたレコードだけれども、
どうやら、中身よりも側が好きなのだということに、気づき始めた。

もちろん、中身は大切だ。 
側さえよければどんな音楽でもよい、というわけでは決してないが、
いい音楽の入ったレコードは、大抵、いやそのほとんどが自分にとって素晴らしいもので、
それは買っても当たらない宝くじとは違って、裏切られることがない。

側、といってもほとんどが黒い円盤で、色つやとか傷の具合とか、
あるいはラベルのデザインや溝の調子など、
どうでもいい人にはあまり違いが感じられないほどのものかもしれないが。


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音質を数値的に突き詰めたら、
ひょっとしたらレコードは再生のための記録媒体としては劣っているのかもしれない。
でも、プチパチと小さな音を立てながら針が拾いだす響きの心に沁みる様は一体なんだろう。

わたしはレコードが台の上で一定の速度で回り、
針がだんだんと内側に行く様子を眺めていたくて、
スピーカーの間、ソファに座ったときの正面にプレーヤーを据えてある。

購入以来、不調を来したこともなく、いつも期待通りの音がして、
毎日来る日も来る日も、それが普通にできるということはすごいことだと思うようになった。
レコードは、手に取って眺めたり、飾ったり、或は手触りや匂いを愉しんだりもできるけど、
音楽が素晴らしい音で再現されることで、幸せが何倍にも膨らむような気さえする。

10年ほど前からレコードで音楽を聴くことを再開し、
この部屋にもたくさんのレコードがやってきた。
大半は手元にとどまっているが、
いくつかは友人に貰われ、或は次のオーナーの元へ旅立った。

レコードの姿形をこのようなものに決めた人は一体何を思ってそうしたのだろう。
これより大きくても、小さくてもいけない、LPレコードのサイズ。
ドーナツ盤をこよなく愛する友人に言わせれば無駄に大きいというのだけれども。

秋の夜長はレコードにぴったりだ。
そういいつつ、どの季節でもレコードを聴かない日はないのだけれども。
これからも、まだ見ぬ素晴らしいレコードとの出会いがありますよう。
レコードの話 | - | - | author : miss key
これも何かの縁と思い
今月末に東京を離れる友人に会いに、蒲田に出かけた。
仕事でも時折立ち寄る場所ではあるけれど、駅前をぐるりと歩いて回るのは、
本当に久しぶりのことで、
見慣れた店が別なものに変わっていたり、駅ビルがおしゃれになっていたりと、
それなりの時の経過を感じさせられた。

これで最後というのなら、もっと違う話もあったのかもしれないが、
彼の行く街は水の澄んだ水路があって、魚の美味しい街だと知っていたから、
顔を見て話したくなれば、電車に乗ってでかければ良い、そう思って出かけたのだった。

つもる話はあったけれど、改めて思う、友達は大事だと。
心通いあわせることのできる友達は、人生にそう大勢はできないだろう。
不器用な自分であるからこそ、そのことが一層痛感された。

寂しくないと言えば嘘になるけれど、
PCの画面を眺めれば、ネットでもって近況を、これまでと何ら変わらずやりとりできるから、
ひょっとして「距離感」はそう変わらないでいるのかも知れない。
今は新しい環境に早く馴染んで、家族揃って元気に過ごして欲しい、ただそれだけだ。


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せっかく蒲田に来たからと立ち寄ったえとせとらレコード。
以前は新宿にも支店があったが、その他の支店も整理され、
今はこの蒲田店のみの営業だそう。
たった1つ残ったこの店もさほど広くはないけれど、
それでも可能な限りぎっしりとCDやレコードで埋め尽くされた空間が存在するだけで、
つい安心してしまったりする。
たくさんあるから安心する、なんてあまり健康的な感じではないけれど。


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店頭のお買い得箱の、先頭にあった1枚のレコード、
高橋達也と東京ユニオンの「処女航海」。
スタンダードとオリジナルを織り交ぜた全7曲、
中でも、S.ワンダーの「サー・デューク」がノリノリ、ビッグバンドの風が吹く。
こんな気分にさせてくれるバンドは、国内では自分の知る限り彼らだけ。
そんな彼らのレコードだから、連れて帰らない訳にはいかない。
いや、こんなレコードと出会ってしまうなんて、これも何かの縁だから。

ジャケットの中には、解説の他にコンサート案内が1枚。
77年のジャズフェスティバルで、宣伝にマグネパンというスピーカーの写真が載っている。
何と言うことのないチラシだけど、
こういうちょっとしたことが古いレコードを買っていてすごく楽しかったりする。


つきあいの随分長い友達が遠く離れた街にいってしまうのは、やっぱり寂しいけれど、
送り出す側がしんみりしてはいけないね。
とは言うものの、この盤を引っ張りだす度に、今日という日を思い出すだろう。
レコードは音の記録だけれど、聞く者のあれやこれやのエピソードも詰め込まれ、
それを聞く度に記憶の扉が開かれるから。
レコードの話 | - | - | author : miss key
夜寝る前に聴く1枚を
こうして時々、頁を更新していると、
ごく少数だけれども、感想や問い合わせを戴くこともあり、
一つの音楽について、共感や、或は全く異なる角度からのご意見を聞かせていただくなど、
思わずそのまま考え込んでしまうこともあったりする。

ほんの1行、
「この季節、寝る前の1枚にお勧めのものはありますか」
とのメールが届いたのは、昨日、随分夜遅い時間のこと。
暑い夏がようやく過ぎて寝苦しさから解放された季節だというのに、
眠れぬ夜が辛くている方がいるんだと思うと、胸の脇が少し痛むような気がした。
わたし自身は眠れずに困ることは滅多になく、
夜ごとなかなか眠れずにいる方のしんどさがわからないから。


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最近、寝る前の1枚に聴くことの多いアファナシェフのピアノによるブラームス後期作品集。
シンフォニーを思い浮かべて敬遠される方がいたら、少し残念かもしれない。
収められた13曲の中にはタッチの強い演奏もあるけれど、
心穏やかにして静かに耳を傾けるのに、これはいいかも、と思った。
不眠に悩んだことのないわたしの寝る前の1枚が、
本当にその方にとって眠りを誘う1枚になるかどうかは正直自信がないけれども。


子供の頃は寝るのが惜しくて、
トランジスタラジオで深夜放送を聞きながら、気に入った本を繰り返し読んでいた。
今は目が疲れてとてもそんな真似はできないが、
ラジオ独特のノイズが子守唄代わりなのか、
土曜の昼など、ラジオを聞いているとついうとうとする。
そのうちラジオもデジタル化するというから、そういう愉しみは今のうちかも知れないが。

秋の夜長というけれど、眠れぬ夜を辛く思う方がいる一方で、
わたしのように寝て良いと言われれば何時間でも眠れる酷い人間もいて申し訳ないけれど、
メールを下さった方が少しでも眠れぬ夜から解放されますよう。
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秋の夜長、音の快楽に溺れる
窓を開け放していたら、足下が冷たくなってしまった。
最近では一番気温が下がっていたとのこと、わたしの部屋はこのくらいの方が音もいい。
今日は久々に朝一番からampの電源を入れっぱなしにしていたから、
美しい声の響きも十分に楽しめるだろう。


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秋冬に好んで聴くSavallの作品集。
どれを聴こうかといつも迷うのだが、今夜の空はしっとりと深い色あいだったので、
これがいいかなと選んだ"Invocation to the Night"。
表題がまんまその気分ではないですか、とは言わないで欲しい。

このCDは2枚組で、1枚目はコーラス、2枚目は器楽演奏が収められている。
ほんのり地中海の薫りがする古楽の懐かしい響き、
独りの夜も彼女の声があるのなら・・・
昨年惜しくも亡くなったモンセラート・フィゲラスの歌声が美しすぎて余りに切ない。

ぼんやりしているうちに、2枚目の演奏、Yair Dalalのウードが始まっていた。
ぞぞと下腹に響くこのメロディ、この音色が好きだ。
眠るのが惜しいと思えるほど、夜の深みに嵌りながらずっと聴いていたい音楽がある。


※上のアルバムとは違いますが、Yair Dalalの素晴らしい演奏です。
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見えない都市
もうずっと以前に人から勧められていて、そのままになっていたのを思い出した、
イタロ・カルヴィーノの『見えない都市』。
マルコ・ポーロとフビライの対話に浮かび上がる幻想都市紀行だ。

何かを調べたり、知るための本ばかり読んでいて、
「あちらから」自然と語りかけてくれるような本には手が届いていない時期があった。
そういう本と出会うには、部屋で座ってばかりいては無理だから、
仕方なかった、といえばそうなのだけれども。

短い章立てそのものが、迷路のように組み合わされているようでもあり、
不思議な都市巡りの終わりには、無意識ながら長い溜息が出た。
かといって喉が渇くでもなく、何となく取りつく島が無いといった感じで、
わたしは一人、部屋で宙に浮いてしまったようだった。


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Kim KashkashianとRobert Levinの作品、"Asturiana : from Spain and Argentina"。
以前もこのアルバムを取り上げたことがあったと思う。
主張しずぎない、たおやかな弦の響きと、それを受け止めるピアノの落ち着いた音色と。
小さな音量ではなく、できれば実際に演奏を目の前で聴いているような音量で。
2つの楽器の間の、しっとりとした空気の重みが、今夜のわたしには何にも代え難い救いだ。

ここ数日ですっかり秋らしくなり、朝晩随分と過ごしやすくなった。
季節の駆け足につられず、空色の移り変わりを愉しもうと思う。
今年の秋は、何時にも増して短いように思えるから。
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Salty Dog
台風一過で爽やかな秋風、と思ったら一転してこの蒸し暑さ。
でも、不思議とこの暑かった夏のことを思い出したりした。
年々暑さが堪えるのに、懐かしく思うなんて意外だ。


逝く夏のイメージに合う音楽はどれだろう。
ふと思い浮かんだのが、プロコル・ハルムのソルティ・ドッグの出だし部分。


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このゆっくりとしたテンポ、凪いだ海、カモメの鳴き声。
海のある風景はやっぱりいいなあ、山や野原にはない季節感と匂い。
そう、何かを惜しむような匂いが海にはある。

最近、大きな風車のある風景の写真を見せてもらえる機会が増えた。
先日出かけた横浜では、1機しか見えなかったけど、本物の、雄大に廻る風車の羽の、
時折きらりと光る様が、思いのほか絵になっていてじっと見つめてしまった。

ソルティ・ドッグ、この歌の歌詞は逝く夏とは全然違うのだけど。
せっかく思い出したから、今夜はこのアルバムを聴きながら眠ろう。
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Kozmic Blues
最初はドタバタ・コメディの類いかな、と寝転んで画面を眺めていた。
モスクワの友人が「日本語版を探して見て欲しい」とわざわざ言ってきたから、
いやそれではちょっと違うなあと思いながら眺めていた最初の30分。
ここからがこの映画の真骨頂というか、察しの悪いわたしにもようやく掴めたというか。
『歌え!ジャニス★ジョプリンのように』、2003年のフランス映画だ。


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物語は、こう。
保険会社に勤める実直な夫と、「普通」と「ありきたり」以外に何も見いだせない妻。
余りに平凡な日々、これを魔が差したというのだろう、
顧客を騙して保険の掛け金を横領したまではいいが、
絶対に安全と思われた架空の保険が請求されることに・・・。

埋め合わせに必要なのは50万フランという大金。
そこで夫は、ひょんなことから遠縁の男性が手にした遺産金をだまし取ろうと画策する。
薬で心を病み、心酔するジョンとジャニスが会いにきてくれるとの妄想に溺れる男から。

売れない俳優をジョンに、
そして妻を!ジャニスに仕立て上げてひと芝居打つところまではドタバタだったけど、
演技のはずのジャニスに身も心も嵌っていく妻、
そして彼女は自分の知らない自分を見つけ、
とうとう自由という名の翼を手にしてしまった・・・。
夫が見た、バーでバンドを従え絶唱する妻、
その時に歌っていたのがKozmic Blues。

台風が今まさに通過しようとしているこの暴風雨に見舞われた部屋で、
台風というと学校が休みになるのがうれしくて、それが染み付いているんだろうか、
そこここで大被害が出ているというのに、暢気なわたしは台風ナチュラルハイ。
申し訳ない気持ちもありながら、この映画のインパクトがボディブローのように効いてきて、
わたしは夕方からずっとジャニスばかり聴いている。
強烈にのどの渇きを覚えるような歌詞、彼女の歌はみなそうかもしれないけれど。

この映画を見終わった時のことばにならない幸福感、乾ききった心が一気に潤う様よ。
途中、あまりの救いの無さにフランスの冗談はきついと溜息が出たが、
それもきっと、最後のチャプターのために用意された演出なんだろう。
わたしも、Kozmic Bluesを歌ってみようかな・・・。


cinema & Soundtrack | - | - | author : miss key