音の快楽的日常

音、音楽と徒然の日々
秋の終わりは冬の入り口
久々に府中は東京競馬場へ。
例年にも増して豪華を極めたジャパンカップを自分の眼で確かめたくて出かけたが、
公式発表では昨年より入場者数、馬券の売れ行きともに上回ったのだとか。

三冠馬、という響きは、
10年くらい前までは、今よりずっと重かったような気がする。
三冠馬になるのが容易くなった、という意味ではなく、
血の争いに加えて、調教や環境の調整技術が向上し、
海外の一流どころと互角に張り合える馬が1頭や2頭ではなくなった今、
持てる力を発揮して「突き抜けてしまえる」馬が出てくるようになった。

そして今日。
牡牝の三冠馬が相見えるとはいっても、直線の尽きるまで互いに譲らないレースになるとは、
いったい誰が想像できたろう。

勝った馬のコース取りが強引だということでペナルティが下されたが、
結果は入着順通り、おそらく初めて三歳牝馬がジャパンカップ優勝馬となった。
若馬でしかも牝馬が戴冠というすばらしさは言うに尽くせないが、
やはり血は争えない、いつだったかの彼女の父が豪脚を披露したJCを思い出した。

話題になりながらも、倍率はそれほどでもなかった凱旋門賞馬ソレミアは、
たいした見せ場もなく着外に沈んだが、それだけアウェーでのレースは厳しいということか。
審議が長引いて会場を後にするタイミングが難しかったが、
馬同士がぶつかったからといって微妙ながらも着が変わるような気はしなかったので、
いかにも冬の入り口らしい清々しい空気に包まれた競馬場を後にした。

同様のお客で混み合う車中、その清々しさを失いたくなくて聞いた音楽は、
アルメニアの歌手、HAYKOの"Norits"という、少し前のアルバムだ。


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アルメニアの歌手の中では、最も洋楽ポピュラー寄りの一人で、
コクのある声音ながら、ラブソングを美しいメロディに乗せて淡々と歌い上げる。
最近は新譜の発表もないようで、少々残念だが、
旧譜は4枚ほどで、アルメニアの音楽CDを売っているネットショップでまだ入手できる。
mp3で良ければiTunesでも買えてしまう。

このアルバムは2004年の作品で、今から8年も前のものだけど、
スローでメロディアスな、それでいて甘過ぎないラブソングはそう古びた感じはしない。
アルメニアの歌謡曲は、ドゥドゥークが騒がしく、アップテンポで濃すぎる!印象が強いが、
Haykoの歌は初めて聞いた方にも、違和感なく受け止めてもらえるのでは。

センチすぎないバラードは、今日のレースの余韻にぴったり。
最後の直線を反芻しつつ、思わず天を仰げば、空の色はまさに冬そのもの。
JCも来週のダートでお終い、さあ、気持ちを切り替えていこう。
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星降る夜に
今年の夏頃から、すっかりハマってしまったCSI:NYの一連のシリーズ。
物語の構成や登場人物、キャストなど、どれをとっても納得の番組づくりで、
1本100円のレンタルショップで見始めたのが、
結局同じエピソードを何度も見たくなって借りるのが面倒になったので、
ついにDVDを買って、アトランダムに好きな話を見たいときに見られるようにした。

思えば、これまで見た映画の中に、何度か主演のGary Siniseを見かけたことはあったが、
もっと驚いたのは、彼がバンド・ミュージシャンとしても活躍しているということだった。
映画「フォレスト・ガンプ」で、負傷し、ハンディを負った軍人を演じたことをきっかけに、
同様の帰還兵や退役軍人への寄付を募ってバンド活動を始めたのだそう。
その名も、映画での役名をとって「ダン中尉バンド」。

そんな経緯もあって、オリジナルのCDを出したりというようなことではなくて、
活動の中心は軍の慰問やチャリティーイベントでの演奏だという。
FBなどでも映像の一部や写真が紹介されていて、機会があったらまとめて観てみたい、
そう思って探していたら、こんなDVDに行き当たった。


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"LT.Dan Band for the Common Good"、
Garyの慰問活動やエピソードを交えたライブ演奏の模様がたっぷり収められている。
字幕もなくて、英語が苦手なわたしには細かなディティールが掴みきれなくて残念だけど、
映像をただ眺めているだけでもぐっと迫るものがあって、思わず胸が熱くなる。

冒頭、9.11でビル倒壊の様子が映し出され、CSI:NYの人物設定とも被ってくるが、
取って付けたような支援活動とは比べ物にならない、
しっかりと地に足のついた活動の厚みと重さに思わず唸ってしまう。
支援する姿の自然さに、米国には"donation"の文化が根付いていることを痛感させられる。

このDVDは、そうしたエピソードを紹介した映像の方が時間的にも長いのだけれど、
もちろん演奏のステージの様子もノリノリで思わず体を動かしたくなる楽しさ。
1曲目は言わずもがな、CSI:NYのテーマ曲、The Whoの"Baba O'Riley"。
R&Bぽい曲もあったり、ヴォーカルも曲によって変わったりと、
音楽をリスナーといっしょに楽しんだ結果、チャリティーにもなっていてというのが、
本当に自然で当たり前のようで、でもこういうイベントってなかなか無いと思う。

シビアな話題も出てくるから、ノリノリだけでは済まないけれど、
Garyが演じるMac Taylerの役作りには、
少なからずこうした活動の影響があるのかもしれないと思った。
音楽への関わり方は様々あるけれど・・・。心底考えさせられた映像集だ。
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『孤独なバッタが群れるとき』
誰にでも1つぐらい、子供の頃の輝かしい思いでがあるのだとしたら、
わたしにとっては、それはクレヨンで書いた絵を褒められたことだ。
幼稚園に入り、初めてクレヨンを与えられ、大きめの画用紙に好きなものを描くという時間。

「いちばん、すきなもの」。

小さな頃は気難しく口もほとんどきかない面倒な子供だった。
遊び相手というと身の回りの小動物や虫、魚であったが、
中でも、裏の畑にいくらでもいたトノサマバッタは、特別だった。
大きな体に美しい色合い、じっと顔を近づけてみると、何色もの色から成る美しい模様、
そして羽の編み目と言ったらその艶やかさはチョウの比ではない。

夏の暑い盛りも過ぎて、朝夕の光が眩しくなった頃のこと。
他の子供は家族と出かけた様子や車、友達の顔を描いたりしていたが、
わたしはひとりバッタの絵を無心に描き続けた。
与えられたクレヨンでは、草より輝くあの美しい緑色は出せなかったが、
細かな模様まで下書きなしにどんどん描ける様子を大人が見てどう思っただろう。
子供の集中力も限界を過ぎた半日が過ぎた頃、
夏草にそっと隠れるトノサマバッタが仕上がった。

詳しいことは覚えていないが、その絵は百貨店の展示コーナーに飾られ、
何かの賞をもらい、絵には花の飾りがつけられていた。
コメントもいただいたのだが、画用紙の端にしるしのように描いてしまった太陽が、
「なかったほうが、よかったですね」というのが今も忘れられない。

前置きが不必要に長くなった。
先日、旧東京電機大学の校舎を利用して「昆虫大学」が開かれた。
17日と18日の2日間、神保町の最寄りで開かれた、特別に「濃い」イベント。
虫が好きな方がこんなに大勢、一体普段はどこにいるのかというくらいの混みようで、
生体や写真の展示、標本やグッズの販売、書籍の販売など、
どのブースも人だかりで大変な盛況ぶり。

発売直前の書籍、『孤独なバッタが群れるときーサバクトビバッタの相変異と大発生』を、
著者から直接購入できるということを聞いて、とりあえず会場へ。
研究の為に滞在中のモーリタニアの衣装を纏った前野・ウルド・浩太郎さんを発見、
とりあえずは本を購入、なんと名前まで書き入れていただきサインを戴けた。


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サバクトビバッタはトノサマバッタによく似たアフリカのバッタで、
蝗害(こうがい)の原因となるトビバッタの1種だそうだ。
異様な大発生と行軍で作物などに大変な被害を与える害虫・・・。
あの時、手のひらに乗っていたトノサマバッタはどこまでも愛玩の対象だったが、
何故研究が進むのかって、それはその虫が害虫だからだ。

前野博士はそのサバクトビバッタの研究者ではあるけれど、
おそらくは害虫としてではなく、虫が心の底から好きな方だと思う。
本書は研究書ではあるが、虫に興味を持つ初心者や素人でも楽しく読める工夫が随所に。
短めの章立てや面白くてつい口元が緩むコラム、ありふれた昆虫本にはない写真の数々。
そして何と言っても虫が好きで研究の道に進んだ方の思いが溢れ、
読み手に虫への特別な思いあれば、無意識のうちにも強く共振する何かを感じるだろう。

あと2、3度は読み返さなければ気持ちの「済まない」本は、
出会えたことだけでも大感謝のまるもうけ。
ファーブル昆虫記が愛読書というだけで親近感を感じられては著者もご迷惑であろうが、
厳しい環境での研究をそっと応援させていただきつつ、
前野博士の一層の飛躍(トビバッタに負けないほどに!)を祈らずにいられない。

『孤独なバッタが群れるとき』、前野・ウルド・浩太郎著(東海大学出版会)、
嗚呼、虫好きの本棚に特別な1冊が加わったことの嬉しさを分かってくれる人がいたならば!
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たかがハブ、されどハブ
LINNのDSというストリーミング・プレーヤーを使うようになって、早1年数ヶ月。
自分がその考え方や操作、データの整理に慣れるのに、それなりに時間が必要だったけど、
一通りの基本を押さえた時点での再生音にすっかり満足してしまっていたので、
細かなところ、例えばセッティングとかケーブルとかはおざなりになっていた(と思う)。

当初より使っていた実売2,000円ほどの携帯ハブでも、
背中の磁石を外してやったりするだけで随分音が良くなったので、
これを換えてやればなんてあまり考えもしなかった。

インターナショナルオーディオショウで刺激を受けたというのもあって、
それほどお金をかけずにもう少し手を入れられないかな、と思っていたところ、
あまりのタイミングの良さで紹介されたのが、下の写真のハブ。


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Planexというブランドのもので、amazonでは6,000円ちょっとで売られている、
webスマートスイッチSW-0008F2という製品だ。
教えてもらってポンと買うのはどうか、と思われるだろうが、
日頃、耳が確かと信頼できる音楽ファンの方が、多数比較しての一押し!だと聞いて、
これはもう試してみるしかないではないかと思った。

電源をとって、ただ各々の装置からLANケーブルでつなぐだけなのだけれど、
再生音は、あるべき方向は変わらず、レベルが向上した。
より細かな情報がしっかり再生され、楽器の位置もよりビシッと決まるように。
ノイズのレベルが違うのがよくわかるのは、無音時。
このおかげで、見通しの利いた、更なる広がりの感じられるように。
またノイズのベールがはがれることで、ノリやタメ、ふくよかな感じが一層自然になった。

但し、ハブ自体の電源の取り方で状態はかなり変わってしまう。
装置の電源の取り方にも大きく影響を受けるようで、
うちはまだ順列組み合せでベストを探っている状態だけど、
今の段階では、装置とは別な壁コンセントから直接、アースを浮かせた状態で取るのが良い。
途中、audio装置と同じタップでアース浮かしの状態が一番良かったが、
壁コンセントの場所でも大きく違ってくることに気がついた。
途中試したのは、プラズマTVなどと同じ壁コンセントで、これはNGだった。

audio用にはいろいろなグッズが売っていて、これ以上やるとそれはそれで沼が深い(笑)。
今回はつい調子に乗って、LANケーブルを一部、ベルデンの高シールドタイプに変更したが、
これも上記の良さを更に安定させてくれ、もう以前の付属ケーブルには戻せなくなった。

「新譜の紹介が少ないですね」と問い合わせをいただいたのだけれども、
こんな調子で、都度手持ちの音源を聴き直しているものだから、
新譜漁りをついつい怠ってしまっている。

耳慣れた音源が新鮮に感じられる瞬間が毎夜訪れるなんて、これ以上幸せなことはない。
幸せはいつまでも続かない、とも言うけれど、夢ならずっと醒めないで!
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秋の夜はチャイコフスキーで
初めて耳にしたクラシックのレコードは、
ありきたりだけれども、チャイコフスキーのくるみ割り人形だった。
くるみ割り人形、がどういうものだかも知らないし、
バレエも見たことがなかった子供だったが、
曲全体が醸し出すファンタスティクな展開は、
パルナスのCM以上にわたしにとってロシアそのものだった。

ロシアへの執着は、子供の頃、部屋の壁に貼ってあった世界地図で、
その縁にあしらってあった各国国旗の色と柄が、一番気に入っていたという辺りから、
どうも始まったらしかったが(自分のことながら記憶にない)、
音楽についても、その1枚のレコードから、やっぱりこうでなくてはいけない、みたいな、
根拠のない拘りが始まってしまったような気がした。音楽もロシアが一番、みたいな。

繊細であるよりは、大胆でエキセントリックな演出が好きだ。
メロディがそれだけで十分美しく、大編成の楽器が生み出すハーモニーは、
オーケストラを見たことも無い子供にしたらそれはもう大変な驚きだったに違いない。

壁崩壊後のロシアを旅して、チャイコフスキーの墓参りまでできてしまったことも、
(墓石もまた偉大な音楽家に相応しい意匠に凝った素晴らしいものだ)
あるいは白鳥の湖を思い浮かべたというノヴォデヴィチ修道院の池をこの眼で眺めたことも、
今こうしてチャイコフスキーのシンフォニーを好んで聴くきっかけになったかも知れない。





先日のオーディオショウで見かけたが、手持ちが心許なく見送っていた廉価Boxを
そういえばと思い出して購入したのを聴き始めた。
スヴェトラーノフ没後10周年記念のチャイコフスキー交響曲全集。


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以前、単品でポニーキャニオンから出ていた盤を改めてBoxセットにしたものだそう。
音は、元盤を持っていないので比較はできないが、
こうして聴いている限りはaudioファンの方でも十分に楽しめるものだと思う。

この作品集は、90年にスヴェトラーノフがソビエト国立交響楽団を率いて来日した際の、
三夜連続東京公演の模様を収録したものだそうだ。
これがもし、ペテルブルクのマリインスキーだったら、などと、
無い物ねだりで勝手な想像をしては溜息(笑)。

障りを聴くだけにしようと思って聴き始めたら、やっぱりとまらなくなってしまい、
今夜はとりあえず6番(悲愴)だけにしておこうと決めた(決めなくてもいいが)。
秋は音楽を聴くのにほんとうにいい季節、当面は寝不足進行、
まだ月曜だというのにもう週末が恋しい、嗚呼。
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「天使」
月刊誌を買うのは随分久しぶりだった。
偶然、電車の中吊り広告をみてびっくり、安部公房の未発表作掲載とあったからだ。


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発売日、仕事帰りに一番近い書店に寄ったら「売り切れ」で、
家に帰ってチェックしたamazonでも既にマーケットプレイスのみの状態。
やれやれ、安部公房の未発表作掲載のインパクトは思った以上に大きかったよう。

家の近所の小さな書店に出かけてみると、少々よれかけた本が1冊のみ。
これが最後の1冊だというので、とりあえず買ってきた。
芥川賞発表の月刊誌でもここまで行かないとは思うけれど、
発行部数がそう多くないのかもしれない。

「天使」は10頁強の短編で、解説によると三番目の小説で、22歳の時のものだという。
冒頭に若い頃の写真が載せられていて、
それでもって、作者の若い頃の・・・という前提で読んでしまったが、
飾り気がなく、独特のテンポで進む幻想的な物語には、
後に続く彼の作品のフレームがしっかりと根付いているような気がした。

安部公房の小説を読み始めたのは、ほんの好奇心からだったと思う。
「こうぼう」という一度聞いたら忘れられない名前、そして刺激的なタイトル。
読み始めてみると、頭の中には定期的にノイズが鳴り続け、
読後の、或る種の脱力感といったら、これまで読んだものにはまるでなかったものだった。

時折、挿絵に作家自身の写真が添えられることがあって、
シュールと言ってしまえばそうだけれども、
都会の見慣れた風景や街角の、ともすれば見過ごしてしまうような、
あるいは見ないでおこうと無意識に眼を背けているような一瞬を切り取ったような写真が、
ともすれば作品のディティールよりもずっと印象強くて、
いつかの彼の写真展では、会場から去りがたくて2時間ほどもうろうろしてしまった。
小説の行間よりも、ずっと濃い空気の立ちこめていた会場・・・。

いつかそんな写真を撮れるようになったら、などと思ったりもしたが、
あんな風に見たものを切り取れる視線があったなら、
今頃は生きているのが息苦しくてならなかったに違いない、そんな気がする。
久々にあの脱力感を味わった週末の夜。
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The Art of Gidon Kremer
1+3夜連続公演の最終日、サントリーホールに出かけた。
今年一番の冷え込みがかえっていい具合、音楽を聴くのに頭は冷えてた方がいいから(笑)。


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今夜の演目が、何と言っても楽しみ中の楽しみで、
ここ1月ほどは毎晩チケットを眺めては思わず口元が緩むだらし無さぶりで、
誰かにそんな様子を見られていなくてほんとに良かった(笑)。

Kremerの演奏をliveで聴くのは初めてで、
彼の名前を意識したのはピアソラのシリーズが大ヒット時に買ったCD以来だから、
そんなに長いこと聴いてきたわけではないけれど、
気がついたらレコードやCDは相当手元に揃っていたので、
まさに今回の来日は絶好機だったかも知れない。

1曲目はバッハ無伴奏ヴァイオリン・ソナタの2番。
楽器がKremerの腕の中で息をしているよう。
ゆったりとした白いシャツの衣装の印象とは裏腹に、
緩急の中から新たな息吹が生まれる様があまりに鮮やか。

2曲目はグバイドゥーリナのリジョイス(喜び)!ーヴァイオリンとチェロのための。
これは正直、どうなることやらとつい緊張してしまったのだけれど・・・。
語り合うようなGiedreとKremerの奏でる響きに身を任せる。
曲を通じて感じられるほの暗さが何とも心地良く、
まるでどこか違う世界に墜ちていくよう。

休憩を挟んで、個人的にはこれが聴きたかった、
3曲目、イザイの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第5番。
なんと鮮やかな世界、様々な響きと自在に変化する艶やかさよ。
演奏が終わって溜息をつくのもつかの間、
いよいよ、最後の演奏曲、4曲目のバルトーク、無伴奏ヴァイオリン・ソナタへ。

わたしは3曲目で完全にメーターが振り切れた状態だったので(笑)、
これも結構好きな曲ではあったけれど、ぼんやりとしか覚えていない・・・。
音楽にすっぽりと包まれた感じで、前のめりに聴いていたはずがその記憶がなくて。


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まるでデザートは別腹と言わんばかりに、アンコールは豪華にも2曲。
その1曲目が、シルヴェストロフのセレナーデ。
シルヴェストロフはやはり大好きなピアニストのリュビーモフが取り上げていて、
アルバムも何枚か持っているから、
Kremerの口から曲の紹介がなされたときは、思わず声が出そうだった。

演奏の終わりに「みなさん、お家へお帰り。おやすみ」と言われたような収まり具合で、
ああ、これで演奏会が終わったと緊張が切れかけたところへ、
2曲目のアンコール演奏は、なんとカプリース変奏曲。
いきなりまた知らない世界へ連れて行かれ覚醒する感、ああ、驚いた。
会場出口の紹介では、ロックバークという方の作曲だそう。
今度は本当に最後の演奏だった。

今こうしていても、目を閉じればあのステージに戻れるような気がする。
わたしだけの「音源」がまた一つ増えた、幸せな夜。
live & イベント | - | - | author : miss key
東京インターナショナルオーディオショウ2012に行く
毎年恒例のショウへ。
午前中から会場に入ったのに、どのブースにも結構な人だかりが。
今年は、講演イベントを中心にスケジュールを作ってみたけれど、
立ち見がきつくて、途中プログラムを間引きながらのブース巡回。

講演の合間に会場入り時には混雑で見ることのできなかった、特設会場の音源売り場へ。
「蔵出し限定市」と称して結構なバーゲンプライスのブースもあり、
気になるものはいくつか試聴させていただきながら、小一時間買い物を堪能。
結局、LINNブースでCD5枚2500円!に惹かれ、お勧めされたピアノの1枚の他、
あれやこれやを選んで手元には5枚のCDが(笑)。
1つは3枚組のセットだったため、都合7枚をゲット、やっぱりお買い物は楽しい!




会場を濃淡あれど一通り回ってみて、
幸か不幸か、どうしても欲しい!連れて帰りたい!という装置には出会えなかったが、
ここ数年、ちょっと気になる音のするスピーカーがあって、
今回もそのブースに結構長居してしまった。

壁にモノクロの海の写真が3枚飾ってある、小さめの会場で、
代理店の社長さんが一人で全て仕切っている。
ドイツのランシェオーディオというメーカーのスピーカー。
ツイーターの奥が紫に光っていて、眺めていると吸い込まれそうな感じがする。
自然と音楽に集中できて、スピーカーの前の居心地の良さが他とちょっと違うのだ。

勝負ディスクが次々とデモされるから、ただ聴いててもすごく参考になるのだけど、
ひょっとしたら得意不得意のはっきりしたところがあるのかも知れないが、
ずっと片思いでいいから、もう少し聴いていたいなあと思える不思議なスピーカーだった。

思えば、同様の、片思いの具合の良さみたいなスピーカーはこれまでにもあって、
カーマの小さな2wayやヴェラティオーディオのパルシファルなど、
自分の部屋にあることはとても想像できないけれど、
これらのスピーカーの前に立つと、自然と収まるところに収まって音楽に集中できる、
そんなところは共通しているかもしれない。

何だかんだいいつつ、帰宅していつものように自分の装置で聴くのが一番落ち着くのだけど、
それは単に一番いい音がする、というのではなくて、
自分にとって具合のいい鳴り方、楽しく聴ける鳴り方をしているから落ち着くのだと思う。
今日のようなショウで、
高額で最先端技術のかたまりのような製品を眺めるのも楽しいけれど、
自分のイメージに合った再生をしてくれる装置に出会い、
こうしてもう10年近く同じスピーカーで音楽を聴けることはとても幸せなことかも知れない。
いろいろな装置でたくさんの音楽を聴かせてもらいながら、
あれこれ思うことが本当に多かった今年のオーディオショウだ。


audio | - | - | author : miss key
声が染み渡る夜
音楽を聴くのにこれ以上ない季節になった。
秋から冬にかけての、部屋の中に声がしっとりと染み渡る、この感じ。
気分のせいもあるのかもしれないが。

今年はいつになく器楽曲をたくさん聴いてきたけれど、
仕事から戻って落ち着いたら、やっぱりヴォーカルを聴きたい。
Greensleevesがいいなあと思って選んだアルバム、"Landscape Tapestry"。


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ドイツの歌手だけど、音は少しラテンが入ってる感じがする。
ジャケットの印象とは少し違う、軽みがあって繊細で、そして自在な弾き語り。
それにこのヒンヤリ感はいったいどこから来るのだろう。

本作はlive録音で、ギター一本での弾き語りを中心とした全11曲。
スタジオ録音のアルバムも魅力的だけど、
彼の歌を隅々まで聞き取ろうと、しんとした会場の雰囲気もまた良かったりする。
何処か密やかな感じが小音量に合いそうだけど、
実はある程度ボリュームを上げて会場の空気ごと感じ取ってもらいたいアルバム。
audio的快楽も十分の1枚。
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人生、ときには厄日というものがあって
何をやっても、裏目にでる日があるんだなあと、真っ暗な帰り道、空を仰いで独り言。
人はきっとこういう日を厄日と言ったりするのだろう。
厄落としの方法があれば、今すぐお願いしたいけれど、今日はもう疲労困憊ぐったりだ(笑)。

負のスパイラルから抜け出せるような音楽はないものか、
帰りの車中、ずっとそればかり考えていたけれど、
うちには何千という音楽ソフトがありながら、所謂、陽性の音楽は意外に少なくて、
それでは傷口に塩を塗込む方が治りが早いかも(笑)、ということで、
ブルージィな音楽を立て続けに流してみた。で案の定、今は海の底にいる気分。




Ida Kelarovaのアルバム"Old Tears"、
静かなピアノの弾き語りから弦が伴奏に入ったものまで、しみじみと聴いていく。
明日また仕事に出かける気力があるかな、なんて思いながらただただぼんやりと耳を傾ける。

そのうち眠くなって、そして朝が来て、難しいことは全部忘れてチャラになってるといいな。
週末はインターナショナルオーディオショウだから、気持ちを盛り上げていきたいが、
まあこんなダウナーな日も長い人生、何度かはあるさ、
明日は朝からしっかり食べて、いい週末を迎えられるよう、ひと気合い入れて乗り切ろう。
ああそれにしても、"Old Tears"の歌はどれも染み入るような曲でほんとに素晴らしい。
別に落ち込んでいない貴方にも、充実の1枚としてぜひお勧めしたい。
よもやま | - | - | author : miss key