音の快楽的日常

音、音楽と徒然の日々
異動の季節
2月が終わろうとしている。
いつもの月よりたった数日少ないだけで、随分短く感じるものだ。
友人知人の、あちこちから異動するよ、したよの声が聞こえるのも今時分。

わたしはこの7年間、何十年も前の古い資料に埋もれながら、
答えがあるかないかも分からないようなパズルを解くような仕事をしてきた。
解決のために、なぜそうなっているのか、の謎解きはもちろん、
そういう或る種の技術のようなものを誰かが継承するために。

ほんとうはわたしよりももっと若い人がこういう作業に興味を持ち、
その意味や意義を強く感じ、訓練を積む気持ちを持ってもらえたらいいのだが、
この仕事の持つ本来の面白さ、奥深さを周囲に伝え切れていないからか、
あとに続いてくれる人がなかなか現れないでいる。 

ここ数年、針で刺すような心の痛みを感じながらも、わたしはこの季節を迎えて来た。
終わりや限りのないものの無いのと同じで、気持ちにも限りがある。
他のしごとに変わったとしても、次の人をうまく作れないままという後ろめたさが、
或は同じ仕事をもう1年やれるとしても、これまで以上の気持ちを維持できるかの不安が、
いずれにしても心の中の澱がまた一つ二つ増えるようで、
春とはどこかそういう季節なのかもしれないと曇ったガラスの向こうをつい眺める。




最近、どこかの雑誌で見た記事の「団地」というキーワードが意外に新鮮で、
そういえば団地ということばを初めて耳にしたのは、中学の頃だった。
当時できた友人の多くが団地住まいで、彼らの家に遊びにでかけた折、
農家のだだっ広さにはない、ぎゅっとした密度感がとても魅力的に思えた。
農家の人間関係のウエットさとは違う、家族の各人が持つ距離感がモダンにも感じられた。

まるで覗き趣味のようだが、住まいの様子をこうした本で眺めたりするのは、
その人の人生をほんの少し体験させてもらうような錯覚があって、
< 家族の存在や、生活そのものや、趣味・・・
凝り固まった頭を解すのにとても具合がよかったりする。

東京R不動産という会社は賃貸好きなら知らない人はいないだろうユニークな企業で、
彼らの視線でまとめられたこの団地本も、
団地というキーワード、空間を通じて生活をどう楽しむかの提案が盛りだくさんだ。

今度もしも仕事が変わることになったら、
住み替えと同じように、新しい環境を得るチャンスと前向きに考えられるだろうか。
もう少し時間に余裕のある職場にかわれたら、
もっと緑がたくさんあって、月夜の明るさが嬉しくなるような郊外に住めるかもしれない。

寒くて気が塞ぐ2月の重たさを、たった数十分で別方向へ振り向ける馬力のある本。
「生き方本」がうざったく感じる向きにも店頭で眺めて欲しい1冊。
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Sweet Deceiver
つい先日、18日にKevin Ayersが亡くなったそうだ。享年68歳。
ソフトマシーンは知っていたけれど、彼のソロアルバムを知ったのはずっと後のことで、
音楽というより声に惹かれ、アルバムというアルバムを端から買いそろえた。

彼の録音作品は、それほど多くはないけれども、
通常のアルバムの他、liveやラジオ放送等の音源が思いのほか数あって、
私的なものを除いて手元に全部揃っているかどうかは自信なし。

彼の訃報を知ったのは、FBに1stアルバムのジャケットを貼った方がいて、
ふと気になって調べたら・・・ということだった。
どういう理由で亡くなったかも一切書かれていない短信であったが、
要らぬ想像をしても仕方がないと諦めて、
今日は手持ちのレコードやCDを古い順から順に聴いていった。

1枚だけ選べ、と言われたらどれを選ぶだろう。
サイケデリックなサウンドも、あれ?と思うような歌謡曲チックなのも結構気に入っていて、
1枚というと難しいけれど、一番たくさん聴いたアルバムといえば、
きっと"Sweet Deceiver"だろう。


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以前、このblogにも何かを書いたかもしれない。
このアルバム、最初はレコードで買ったのだが、夜寝る前に聞きたくなり、CDで買い直した。
ちゃんと聴きたいときはレコードが一番いいけれど、
プレーヤーがオートリターンではないため、うっかり寝落ちするといけないから。

亡くなったのを知って、ものすごくがっかりし、寂しくなったかと言えば、
例えばフロイドのリックが亡くなったときのような喪失感は、正直、ない。
残念なのは確かだけれど、
もともとKevinという人はわたしにとってつかみ所のないミュージシャンであり、
また彼の音楽、サウンドもそうだからなんだと思う。

ある日偶然に彼の歌声を耳にし、買えるアルバムは全て買ったけれど、
まるで風が躯を吹き抜けていくかのように、彼は遠くに逝ってしまった、それだけのこと。
或は、まだ新譜がでるような期待の残る連続感があまりなくて、
最後のアルバムですべてが完結しているように感じていたから。

Kevinというミュージシャンについてはなんと薄情なリスナーだけど、
手元にはアルバムがたくさん残っているし、
これからも今まで通り何ら変わらず彼の歌を聴くだろう。
今夜は最後の1枚に、やっぱりSweet Deceiverを聴こう。おやすみなさい。


pop & rock | - | - | author : miss key
Bartok 44 Duos for two violins
クラシック音楽を普通に聴けるようになったのは何時頃だったろう。
鍵盤楽器の練習のため、題材として無理矢理聴いていた頃のあの嫌々さ、
あれは聴いたうちに入らないんだろうなあと今でも懐かしく思い出す。

普通に聴けるように、と言っても、
うんと古いか、そこそこ新しい時代のものか両極端で、
或るレコード店のご主人の話では、
元々ジャズファンがクラシックを聴くようになった人にはよくある傾向なんだという。


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冬の夜だから、ついついこういうジャケットの音楽を引っ張りだしてしまう。
バルトークの"44 Duos for two violins"。
バルトークは何故かクラシック聴き始めの頃から馴染みやすかった。
どこからか民謡が聞こえてくるようだからだろうか。

一時期、ケラー四重奏団のバッハにはまっていた頃、他のも聴いてみたいと思い、
ジャケットが特に目を引いたこの盤を購入した。
このアルバムは、ケラーSQの第1、第2バイオリン奏者である
ケラー・アンドラーシュ、ピルツ・ヤーノシュによる息の合った演奏。

冬の夜と書いたけれど、艶やかで活き活きとした二人の演奏からは、
少し早めの春を思い浮かべてしまう。
技術の勝った、エキサイティングな演奏ではなくて、
周囲の空気までもが澄み切って清々しく感じられ、
まるで楽器がそれぞれ生きていて息をしているような演奏・・・。

美しくても哀しげな響きはどうも重たくて敬遠しがちなのだけど、
彼らの演奏や、Savallの古楽には何か隠し味のようなものがあるのか、
ささくれ立った心の中もやがて自然と凪いでしまうような懐かしさがある。
曲が終わり響きが途絶えてしまえば、それとて手のひらで溶ける雪のように儚いものだけど。
なんだかいい夢を見そうな気がする、とても静かな夜だ。
others (music) | - | - | author : miss key
年末年始の恒例番組を
とりあえず紅白よりも、ロシアの歌謡番組を見るのが恒例になって久しいけれど、
ネット上で見るのは田舎では辛いので、
結局、いつも録画のDVDを購入することになる。
今年はロシア版紅白のピェースニャ・ゴーダ2013が1枚ものになり、おまけ映像も省かれた。
レコ大に近いんでしょう、ザラトイ・グラモフォン2012が独立して1枚に。
それから、今年始めて買ってみたのが、ガルボイ・アガニョーク2013。


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写真で真ん中にあるのがピェースニャ・ゴーダ。
1枚ものにしては画質も許せる範囲で、有名どころが勢揃いの50曲。
ちょっと懐かしいアーティストが出演するのもこの番組ならでは。
もしも今どきのロシア歌謡をざっと眺めようと思えば、この1枚があればとりあえずOK。
国内の経済状況を反映してか、大型ホールで凝ったセットと演出が楽しい。
一時期はかなり地味になってどうなることかと思ったが、
やっぱり新年の祝いだから、こうこなくちゃね。

向かって左がザラトイ・グラモフォン。
選出にちょっと偏りがあるように思えるけれども、
注目の新人、とか、逆に大ベテランのワレーリィ・スュートキンが出て来たりとか、
ロシアのポピュラーに思い入れのあるファンには見応え十分。

最後に1番右のガルボイ・アガニョーク、これがロシアンフリークには一番受けそうだが、
何しろ最初から最後までハイテンションのパーティムードで、とにかく喧しい(笑)。
アーティスト名などのテロップも何もないし、
普段はやらない組み合わせで誰かの曲をやってたりするので、
初めてロシアの歌番組を見る方には何がなんだかさっぱりの状態(汗)。
ただ、豪華ゲスト多数で、ただ流し見るだけで楽しい、新年を迎えるお祭り騒ぎの1枚。
pop & rock (russian and other slavic) | - | - | author : miss key
So
このエントリー、world musicに分類してみたけれど、
アルバムを聴いていると、北欧とかポーランドのJazz Piano Trioみたいに聞こえるから、
本当はあまり適当でないのかもしれない。

何かの専門誌で話題になっていたAntonio Loureiroを初めて聞いてみた。
彼の第2作目となるアルバム、"So"。


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このジャケットからしても、
何かのピアノトリオだと勘違い(じゃないのかも知れないが)しそう。
ちょっと物悲しい感じのする、美しいメロディ、美しい響き。
彼の出身地であるブラジル、ミナス地方の音楽は、
ポルトガルやスペイン、それから教会の音楽の影響を受けた美しいものが多いそうだ。
でも、このアルバムに限っては、スペインとかポルトガルの音はあんまりしない。

歌声までが楽器のようで、メッセージよりは全体の響きとして伝わってくる音楽。
最初、手持ちのピアノトリオと間違えて再生しているのかと思ったほど、
ピアノやドラムの入りかたなどは、とてもクールなJazzのそれで、
途中から、某かの枠組みで初めて聴く音楽を捉えようとするのは無駄な抵抗と知り、
それからは、部屋に充満する仄暗いピアノと声の響きにぼんやり身を任せた。

1曲の演奏時間も少々長めで、8分強の曲も数曲。
能動的にこれを聴こうというよりは、
例えば本を読む後ろで、ごく小さな音量で静かに鳴っていると具合が良さそうだ。
1stアルバムと比べると、歌の割合も少なくなっているそうで、
ひょっとしたらわたしには1stの方が良かったのかもしれない。

美しいからメロディが焼き付く音楽と、美しいけれど何故かつかみ所のない音楽と。
本作は後者、それにどこか現代音楽のような匂いも。
たまにはこういう音楽を受け止めてみるのもいいのかもしれないが、
どこか不安を覚えつつ、焦点の定まらない夜。
world music | - | - | author : miss key
DSのデータ整理
2台のNAS(1台あたり1TB)で1年半ほどやってきたけれど、
やっぱり容量が足りなくて、データを出したり入れたりし始めている。
NASをもう1台増やすのは、少しライブラリの整理の仕方を考えてからでないと、
またすぐ足りない!という事態になりそうで、少ししゃがんで考えているところ。

時間のないときに、取りあえず入れてしまった曲データは、
ネットからソフトが自動で拾ってくれたものそのままにしてしまっていて、
それが、例えば同じアーティスト名でも、英語表記とカタカナ表記では、
フォルダから別になってしまい、後から曲やアルバムを探す時に面倒だ。

とはいえ、最初から全てについてルールを決めるのも難しいので、
とりあえず数ヶ月に1度、標記やアルバム名などを修正して、
探しやすく、見易いデータに整理するようにした。
但し、あんまりがんばると肩が凝ってしまうので、
自分さえわかるレベルにまとめるのが途中で放棄しないですむコツではないかと思った。

DSのソフトがすごいなあと思うのは、
world musicファン向けにというわけではないのだろうが、
かなりの言語表記に対応していて、
うちではロシア語はもちろんのこと、例えばヘブライ語のアルファベットまで表記される。
この調子なら、アルメニアの文字だって大丈夫そうだが、
それはわたし自身が読むのに大変なので英語のアルファベットに置き換えている。 

あと、よく迷うのはジャンル分け。
どの程度、細かく分けるのか・・・分け過ぎても後から探しにくい。
ジャンルはざっくりとしたフォルダの方がかえって探しやすいようなので、
当初はクラシック分野をシンフォニーとか器楽とかいろいろ分けてみたけれど、
普通にクラシックというフォルダとコーラルの2つにした。
あとは指揮者かソロのアーティスト名で引っ張れるようにしておけばだいたい大丈夫。

そう、よく聞かれるのが、ジャケットはどうしているのかということ。
必ずカバーアートも入れるようにしている。
一番探しやすいのは何たってジャケットだから。
自動で拾ったのが同アルバムのジャケット違いなら手持ちのジャケット絵と入れ替えは必須。
アーティスト名やアルバム名が思い出せなくても、意外にジャケットは覚えているから。

作業量が一定に達したら、面倒でもバックアップを取るようにしている。
何のはずみでNASがだめになるかもしれないので、念のため。
同期してバックアップしてくれるソフトが便利で、
こまめにデータ修正しても、これでなんとかそれほど時間を食わずにバックアップできる。

いくつかDSのことでお尋ねをいただいていたので日頃の作業をメモしてみたが、
おそらく他のユーザーさんはもっと緻密にやられているかも知れない。
この程度で4000枚程度なら十分管理できるよ、という事例として参考までに。


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好きなものが好きなものを連れてくる
虫好きだからだろうか、
気に入ったものの中には虫にまつわるものがたくさんあって、
音楽だって例外ではない。 

ここ2日ほど、先日買った中南米音楽のCDをびっしり聴いていたので、
今夜は自然と聞き慣れたアルバムに手が伸びた。
シカラムータ、彼らのlive(盤)は生蝉(なまぜみ)と呼ばれていて、
ああ、シカラムータというのはきっと蝉の意味なんだと面白がったのを思い出した。


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初めて聴いたのは、いつだっただろう、
音楽好きの友人に連れられてライブハウス巡りに凝っていた辺りだったろうか。
それまで爽やかな風が吹く、みたいなのがブラスだと思っていたわたしの、
固い頭を背後からかち割るような勢いで、或は背中に電気が走るような衝撃そのものの音楽。

大熊亘さんの演奏は、ちょっとCDのような小さな入れ物には収まり切れない感じで、
生演奏のあの衝撃というのは部屋での音源再生ではなかなか難しいのだけれども、
いやいやこれは違う、これは凄い!サントラの極北、と思っていた音楽が、
実は大熊さんも参加するユニット「蠱的態(KOTEKITAI)」のものだったと、
後から知ってまた驚いた。

思えば同じ根っこを感じさせる脳髄にぐっさり刺さる音。
一度聞いたら忘れられない響き、
映画「山谷(やま)、やられたらやりかえせ」のサウンドトラックでの演奏。




残念ながらCD化はされていないようで、
当時、映画の上映会場などでカセットテープが売られてたのだとか。
某有名芸人のテーマソングでもあり、サントラとは知らずにいる人も少なくないのでは。

やすやすと国境をまたいでしまうような軽みと雷に打たれたような衝撃の同居。
自在の中にも危うさを見いだしてはまたしても独り言つ。
どれだけたくさんの音楽を聴いたとしてもこれは忘れたくないから、
備忘録としてあげておくことにしよう。
cinema & Soundtrack | - | - | author : miss key
ピンクの象の街で即売会が
world系の音源探しは、やっぱり情報に触れる機会をたくさん持つこと、これに尽きる。
世の中に日々、一生かかっても聴き切れないほど多くの音楽が生み出されていく中で、
これと思う音楽、すごく気に入って手放せなくなるCDやレコードとの出会いとなると、
半分以上は運かな、と思わずに居られないが、
「これは、いいよ〜」と紹介してくれるような友人、知人が周囲に居たら、
もうそれだけでラッキーなんだ、そのありがたみを一層痛感する日々。

この週末、ピンクの象がある街で、 アオラ・コーポレーションさんの販売会があった。
今後2、3ヶ月に1度程度開催するかも、
という展示即売会の第1回目は、カリブ・中南米特集。
自分の棚を眺めてみれば、この辺りのライブラリが一番寂しいのがすぐわかる。
これは行かねばと、インフルエンザ以来、久々の(仕事以外の)外出。


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方向音痴のわたしは、とにかくこの象を目指して会場へまっしぐら。
アオラさんの事務所につくられた臨時販売コーナーには、もう何人もお客さんが来ていて、
箱に並べられたジャンル別のCDやレコードを熱心に眺めていた。

わたしは初心者だから、お勧めをしてくれるようお願いして必聴盤をピックアップ、
それから数枚はいつものように何となく惹かれたジャケ買いをしてみた。
< 人生 冒険は 大事だ・・・
(もちろん、どんな感じの音楽なのかは、売り場の方に尋ねれば詳しく教えて貰えます!)

ということで、販売会のお土産として貰ったおまけ1枚を加えての今日の成果はこれ。


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個別にはまた紹介する機会かあるかもしれないが、
これまであまり盤を買ってこなかったキューバの音楽は、思っていた以上に合うようだし、
一人では多分なかなか選ばないだろう女性ヴォーカルもかなりツボなものを勧めてもらった。

でも、疎いエリアの音楽でも↑の状態なので、これがヨーロッパ方面ともなると・・・。
最近は滅多にやらない大人買いなので、まあたまにはいいかなと思いつつ、
各々をさわりだけ聴いてはニンマリしている。
やっぱりジャケットを見ながら話も聴きながらの選盤は画面でのそれよりずっと楽しい!

また開催されるだろうとのことだったので、気になる方はweb siteをチェック。

◇ アオラ・コーポレーション http://www.ahora-tyo.com
  インフォメーションブログ http://eventlive.exblog.jp
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