異動の季節 | 2013.02.27 Wednesday |
2月が終わろうとしている。
いつもの月よりたった数日少ないだけで、随分短く感じるものだ。
友人知人の、あちこちから異動するよ、したよの声が聞こえるのも今時分。
わたしはこの7年間、何十年も前の古い資料に埋もれながら、
答えがあるかないかも分からないようなパズルを解くような仕事をしてきた。
解決のために、なぜそうなっているのか、の謎解きはもちろん、
そういう或る種の技術のようなものを誰かが継承するために。
ほんとうはわたしよりももっと若い人がこういう作業に興味を持ち、
その意味や意義を強く感じ、訓練を積む気持ちを持ってもらえたらいいのだが、
この仕事の持つ本来の面白さ、奥深さを周囲に伝え切れていないからか、
あとに続いてくれる人がなかなか現れないでいる。
ここ数年、針で刺すような心の痛みを感じながらも、わたしはこの季節を迎えて来た。
終わりや限りのないものの無いのと同じで、気持ちにも限りがある。
他のしごとに変わったとしても、次の人をうまく作れないままという後ろめたさが、
或は同じ仕事をもう1年やれるとしても、これまで以上の気持ちを維持できるかの不安が、
いずれにしても心の中の澱がまた一つ二つ増えるようで、
春とはどこかそういう季節なのかもしれないと曇ったガラスの向こうをつい眺める。
最近、どこかの雑誌で見た記事の「団地」というキーワードが意外に新鮮で、
そういえば団地ということばを初めて耳にしたのは、中学の頃だった。
当時できた友人の多くが団地住まいで、彼らの家に遊びにでかけた折、
農家のだだっ広さにはない、ぎゅっとした密度感がとても魅力的に思えた。
農家の人間関係のウエットさとは違う、家族の各人が持つ距離感がモダンにも感じられた。
まるで覗き趣味のようだが、住まいの様子をこうした本で眺めたりするのは、
その人の人生をほんの少し体験させてもらうような錯覚があって、
< 家族の存在や、生活そのものや、趣味・・・
凝り固まった頭を解すのにとても具合がよかったりする。
東京R不動産という会社は賃貸好きなら知らない人はいないだろうユニークな企業で、
彼らの視線でまとめられたこの団地本も、
団地というキーワード、空間を通じて生活をどう楽しむかの提案が盛りだくさんだ。
今度もしも仕事が変わることになったら、
住み替えと同じように、新しい環境を得るチャンスと前向きに考えられるだろうか。
もう少し時間に余裕のある職場にかわれたら、
もっと緑がたくさんあって、月夜の明るさが嬉しくなるような郊外に住めるかもしれない。
寒くて気が塞ぐ2月の重たさを、たった数十分で別方向へ振り向ける馬力のある本。
「生き方本」がうざったく感じる向きにも店頭で眺めて欲しい1冊。