音の快楽的日常

音、音楽と徒然の日々
雨の桜は寒々として
もう1週、桜を愉しめるかと楽しみにしていたが、週末が近づくにつれ天気は下降気味。
気温の上下動も激しくて、桜を観るどころか体調がおぼつかず。
光の少なさと咳き込みで、今年の桜写真は手振れを大量増産。
フィルムの時代だったらとてもできたものじゃないと、デジタルの有り難みが身にしみた。


さて、寒の戻りと薄暗い雨混じりの曇天の週末、
じっくり聴き込んでみたのは、Lisa Batiashviliの最新録音。


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ブラームスは日頃、交響曲ばかり聴いていて、そうでなければグールドのピアノぐらい。
それに女性の演奏家の録音はあまり手元になくて、馴染みもないのだけれど、
Lisaの作品は、あの印象的なジャケットの、ショスタコーヴィチを弾いたのが凄く好きで、
彼女の、時折、仄暗さを感じさせる弦の響きに魅了され、
それ以来、新作が出るのを楽しみにしていた。

雨に湿った桜の花にもにて、
しっとりと、そして艶やかに響くLisaのバイオリン。
花粉症のこの時期、指の先まで乾燥しきってしまうような毎日だったが、
これで潤いたっぷり補給して、明日はなんとか新年度を爽やかに迎えることができそうだ。


***

桜を追いかけて北上も考えていたのだけれど、
あまりに体調が伴わず、それでいて年度の切れ目も関係なく仕事が追いかけてくるので、
GWが過ぎるあたりまではおとなしくしていることにした。

今年は新年早々インフルエンザで出端を挫かれ、
以来、かかりつけの専門医にお世話になりっぱなし。
こんな年も珍しいのだが、しっかりと足下を見直せとのメッセージと受け止めている。

ぱっと咲いてぱっと散る桜という花の、まさにその潔さに特別なものを感じるけれど、
ここ数年特に思う、春という季節のあまりの短さにも似て、
どこか落ち着かぬ心許なさは、
やっぱりこの季節特有のものだと空を見上げては溜息が漏れる。


今年の桜写真はどうやらこの辺で撮り納め。
少しずつデジタルカメラにも慣れてきたので、
次はもっと表情の豊かな様子を収められるよう精進しよう。
(嗚呼、少しやる気が出て来てよかった、で安堵の溜息、部屋の床には溜息の山)



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厳かに
先週末、近所の桜ははち切れんばかりの満開。
あいにくの天候で目映いばかりの花びらを写し取るのは無理だったが、
その分、時間をかけてゆっくりと花の咲き誇る様子を眺めて過ごした。

そして今夜は更にあいにくの雨と風。
家に戻る途中の街路には、散ったばかりの薄桃をした花びらが散乱し、
儚くも美しいとはこのことかもと僅か数分の帰り道を惜しみつつ眺めて歩いた。


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桜咲く夜景にどこか厳かなものを感じたので、珍しくBachのMotetsを聴いている。
カントゥス・ケルンというバロック期のドイツ、イタリアの合唱曲を得意とするグループだ。
ほんとうは、もう少し音量を上げると、残響の余韻を余すところなく愉しめるのだけれど、
さすがにこの時間ではいつもより音を絞らざるを得ないのが残念。

合唱曲は歌い手で随分と印象が変わるもので、
日頃よく聴くヘレヴェッへの演奏などは、もう少し湿度があって艶かしささえ感じるけれど、
今夜のカントゥス・ケルンの歌声は厳かながらもどこか明るく軽みがあって、
宗教曲の重たさに押しつぶされそうになることもない。


今週で3月も終わり。
4月が全ての始まりではないけれど、一つの区切りが迎えられることにほっとする。
桜の花が散る潔さに打たれつつ、少しずつ気持ちの整理を付けていこう。


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ヘッドホンが壊れた・・・
通勤途上、iPod用に使っていたヘッドホンが壊れた。
前日まで大丈夫だったのに、朝になっていきなり片側から音が出ず。

仕事から帰ってから、単なる断線ならケーブル交換でOKだからと、
開けてみようと精密ドライバ持ち出して、さーて!と構えたはいいものの、
これが、ほとんどネジ使わずの製品で、
無理にケーブルをむき出しにしようと思うと、プラの部品が壊れてしまう。
これもコストダウンの一環なんだろうか。

仕方ない、特別な治具があったりするかもと思い、某メーカーの相談室へ電話してみたら、
なんと、「修理できない機種」なので「交換」になります、とのこと。

「交換」・・・

思い出せば、iPodの修理も交換対応で、
最初のiPodが壊れたとき、交換が嫌でHDを買ってきて自分で交換した。
使い込んだものへの愛着、執着があって、新しいのが来るからそれでいいとは思えない。

それに、件のヘッドホン、交換の費用が購入した価格と変わらない。
そういう廉価な製品を買った自分が悪いということなんだろうか・・・。
ちなみに某メーカーの相談室の回答は、製品によって修理対応も可能とのこと。
高額のものですか?と訊いたが、さすがに「製品によります」ということだった。

プラのはめ込み製品なんかはやっぱりだめなんだろうなあ。
今度からはそうじゃない、直しながら長く使えるものを選ぼう。

壊れたヘッドホンの写真じゃなんだから、桜の写真を。
週末まで、どうぞ咲き切らないでと祈りながら。


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River
偶々、音の良い録音ということで、同じ歌手のCDを持っていたので、
何となく買ってみた1枚のアルバムの中に、
意外な取り合わせで、とても好きなアーティストが歌っていた。

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Jeanette Lindstromの2009年にリリースされたアルバム、"Attitude & Orbit Control"。
これより前に出ていたピアノとヴォーカルのシンプルなアルバムは、
シュールでいかにも北欧的な透明感に溢れるジャズヴォーカルに仕上がっていたから、
このアルバムは1曲目からとても驚いた。
打って変わってエレクトロニカのようなアレンジとコンボスタイルの伴奏。

でもそれよりもずっと驚いたのはRobert Wyattが参加していたことだった。
トランペットと、それから1曲はヴォーカルで。
その1曲、"River"という歌に釘付けで、この曲ばかりリピートしていたら、
森の奥の湖で、たった一人湖面を眺めているような気持ちになった。

何て哀しげに歌うんだろう。
彼女の歌だと、ファンタジックでどこか肌の温かみを感じさせるのに・・・。

  Flying high, flying low
  No regrets, let it flow .....
 

まだ見たことのない夢の世界への片道切符、今夜はこの歌を聴きながら眠ろう。


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レコードの日
今日という日は何年か前から「レコードの日」と決めている。
(今日をそうと決めなくても、レコードは毎日聴いているが)

通勤途上の電車の中でも、それこそ湯船につかっているときも、
1日中、黒い円盤のことばかり考えている。
(仕事は、さぼらずに、やっています)

島レコード10枚、とか、
(無人島に持っていく10枚に何を選ぶのか)
或はChetのベスト10枚、とかを選んでみたり。
(誰も見たいとは思わないだろうランキング、
 フロイドなら10枚というと大半入ってしまうが、Chetは手元に300タイトルほどある)
 
若い同僚がうちにやってきて、
初めてレコードを聴いたときの、ノイズ(プチプチ音)に驚いたことといったら。
「**さん、audioが壊れてます!」

仕事のことやら何やらでどんなに落ち込んだとしても、
レコードのことをちょっと考え始めるとすぐに元気になるので、
落ち込みとか、下手をすると「反省のない」人間だと周囲から思われているらしいけれど、
そんなことはない、レコードを聴いたり、レコードを触ったりするのが好きな人間には、
粗忽で乱暴でいい加減な人間はそうはいない、と思う。
(ほんとうに、そうか。)

さて今夜のお題は、ここ数年で最も印象に残ったレコードを1枚。




ダニール・シャフランの弾くバッハ。
前のオーナーも相当この盤を聴いたらしく、それなりのコンディションだけに、
いいやれ具合というか、プチパチがいい感じに乗っていて、
完璧Hi-Fiレコードよりも、何故か愛着が強まってしまう。

もちろん、演奏は素晴らしい。
ふくよかで、時折ハッとするような艶やかさ、人によっては過剰と受け取るかもしれないが。
楽器全体がよく歌っているのが、しかも楽しそうに歌う様が目の前に浮かぶような録音。

そう、このレコードを聴いてから、
シャフランの弾くチェロの音色を知ってからの、
レコードを聴くこと自体から来る幸福感の高まりといったら、何といっていいのか。

人にも勧めたりして、「犠牲」になった人は複数いる。
(このレコードは、残念ながら少し高い)
「犠牲者」ではあるけれども、
ひょっとして中には自分のように幸福感に包まれる人だって居るかもしれないからと、
少しだけ(ほんの少しだけ)言い訳をしながら。

手に触れただけで脳内麻薬がどっと溢れる1枚というのが誰にでもあると信じて。
(わたしには1枚どころか、何枚もある、なので島レコード10枚はちょっと厳しい。)


   Ты - Путеводная звезда, Сияющая звезда. 
   Там, где я стояла рядом...
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Тихая молитва(黙祷)
今日で2年が過ぎた。 
2年は短かったのか、長かったのか。

Для пострадавших от большого землетрясения, 
посвятить соболезнования : 14:46 jst, 3.11.2011


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Separate Ways
風が異様に強い今夜、東京ドームの試合が少し気になってTVを見たら、
随分と懐かしい曲が流れていた。
Journeyの"Separate Ways" 。


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Steve Perryのヴォーカル、
当時ことさらロックに関心のなかったわたしにも彼の歌声は、
メロディアスな曲だったこともあって胸にジーンと来た。

思えばロックもポピュラー同様、ギターやドラムじゃなくて、歌として聞いてたから・・・。
Separate Waysが収められたアルバム"Frontiers"、
部活の先輩に録ってもらったカセットテープは実家にも多分残ってないと思うけど・・・。

ところで、試合はどうなってるんだろう・・・と中継に戻ってみたら、
7回表、対オランダ戦が4対16と侍ジャパンが12点差の大量リード中。
HR6本攻勢で毎回得点、今ひとつ鳴りがなくてという最近の試合ぶりからは予想外の大爆発。
サンフランシスコがぐっと近づいている。

今日は朝から夏のような暑さかと思えば、午後、にわかに空が黄色になり、
夕方からは打って変わって酷い暴風。
こんな日だから余計にこんな曲で締めくくりたくなる落ち着きのない夜。


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春と共にやってくる憂鬱を
朝目が覚めて空気の冷たさにおののくことも少なくなり、
日ごとに暖かさの増す今日この頃。
それでも浮かれるどころか気が沈むのは、
花粉アレルギーが酷くなる季節でもあるから。

服薬の副作用の眠気は重く、振り払うのが厄介なのに、
この時期、度末特有の細かな仕事が山積みで、
鼻が詰まってしまうと、思考力、集中力が如実に低下し、うっかりミスもつい出てしまう。

気分を切り替える手っ取り早い音楽はないか。


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普段ならちょっと気が重くなったり哀しくなったりのフラメンコ、
なぜかこの季節のややこしいときに聞きたくなる。
このアルバムはTomatitoのベスト盤で2枚組。
カンテ・フラメンコからフラメンコギターの技術を駆使したスタンダード曲のアレンジなど、
硬軟取り混ぜて盛りだくさんのアルバムだ。

汗の代わりに血がにじみ出て来そうな激しい曲は無いけれど、
異国の響きに身を任せていれば、知らないうちにさっきとは違った風が吹いている。

相変わらずしごとは思い通りには進んでくれず、
蓄積するのは後悔と溜息だけだが、結果はそれなりに出て来るんだろうから、
焦らず、自然体であと3週間を過ごしたい。

昼の休憩時間、音量をぐっと上げて頭の中にかき鳴らすギターの音色。
この数分の、別世界への脳内旅行が、だれかけた神経をしゃっきりさせてくれる(笑)。
あと1日で週末、しっかり前を向いてがんばろう。
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静かなる音楽
Carlos Aguirreという人の名前を、先日の即売会で初めて知った。
南米の音楽の音源が少なかったり、ほとんど知らなかったりするのは、
多分、ものすごく好きな音楽が方向で言えば地球の北側の寒い地方に多くて、
そこから関連を手繰り寄せながら盤を買い進めていくと、
南米に行き着こうとするときには、軍資金が怪しくなって力尽きる、という繰り返しだから。


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Carlos Aguirreのピアノソロ作品、Caminos、2006年のリリースだ。
アルゼンチンのミュージシャンであるCarlosについて調べてみると、
数年前の「静かなる音楽」ブームで注目された、とあちらこちらで記事が出てくる。

薄暗い教会の中に差す一筋の光のような、少し哀しげでいて芯のあるピアノの音色。
人工的なものから遠く離れた、オーガニックで懐かしいメロディ。
Giovanni Mirabassiのピアノからも同じような匂いがすることもあるけれど、
もっと深いところの根を、そして土のもつ温かみを感じさせる。

このアルバムは中身を知らないでジャケットが気に入って買ったものだけれども、
あとからCarlosの作品を調べてみると、どのアルバムもジャケットが素敵で、
そういう点からも、ヨーロッパジャズのピアノものが好きな方なら、
日頃worldを聞いてなくても何の躊躇もなく入ってこれそうな世界。

クラシックの難曲の、演奏者の指が悲鳴を上げるのか、それより早く楽器が限界に至るのか、
というような緊張の極地のような音楽ではなく、
ピアノと演奏者がまるで溶け合って一つになっているような演奏の、
どこかほんのりと温かくて救いを感じさせてくれる音楽に偽りのない歓びを感じる。
疲れ切った夜ながら、ほっとするひととき。

◇ Carlos Aguirre Official Site  http://www.carlosaguirre.com.ar
◇ Ahora Online Shop "El Arrullo" http://www.ahora-tyo.com
 ※上記shopでCarlosのアルバムが一部試聴、購入できます♪ 
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audioを選ぶとき
年に4回の季刊誌"Stereo Sound"。
今日出た春号の巻頭特集は「欲しくなる理由、使いたくなる理由」。
難しいテーマを選ぶもんだなあと思ったら、編集後記にも近いことがちらっと書いてあった。


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audioの専門家は、常にとは言わないけれど、
積極的に最新の装置を導入して耳を鍛えているのかと思っていたのだけれど、
コアとなる装置は意外に長年にわたって大切に聞き込まれているようだ。

常々記事を楽しみにしている傅信幸さんは、
ノーチラスというスピーカーを10年以上に渡って鳴らされてきている。
氏の装置への思い入れは「傅信幸のオーディオ読本 「美しい響き」の探求」に詳しいが、
そうはいっても仕事柄、最新の装置を試聴される機会も多く、
「悩ましい」体験や「悪魔のささやき」を半ば振り払うようにしておられるよう。

わたしは、もう10数年以上も前にLINNの黒箱と呼ばれるアンプを中古で入手して以来、
少しずつ充実をさせてきているのだけれど、
スピーカーはLINNのプレス記事で見た姿形にすっかり参ってしまい、
我が家にやってきてから今年で早10年目を迎えている。

何かの記事に、スピーカーの寿命は10年くらいとあったけれども、
使っているスピーカーに関して言えば全くそんなことはなくて、
年数を経たスピーカーだからこその、練れて安定した音を奏でてくれている。
(ちなみに寝室で使っているものはそれよりもっと前の製品で、
 ああこれでなければと思えるようなしっとりとした美しい響きをしていて、
 いつか寿命が来るとは正直思いたくも考えたくもない。)


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audioの装置には持って生まれた能力が各々あるのだろうが、
それを十二分に発揮させるために、一から育てていくもののような気がしている。
買った最初から今の音が出ていれば、それはそれで凄いことだけれども、
実際に当時のことを思い出してみれば、その予兆や持てる能力の片鱗は感じられたけれど、
それを確信していた訳でもなんでもなかった。

もちろん価格もそれなりに高価で、自分にとってはかなり大きな買い物になってしまうため、
「本当にこれでいいのか」という自問自答はあったけれど、
キリリとした面持ちの中にもどこかユーモラスで剽軽な表情も見せるこのスピーカーは、
今思えばうちにやって来るのが必然であったようにさえ思えるから不思議だ。

普通の音楽ファンと比べたら、再生装置に気合いを入れていることもあって、
ときおり、audio選びについてメールをいただくこともある。
あまり細かく難しい要求をしなければ、という前提はあるけれど、
プリアンプとスピーカーさえこれと決まればあとは自ずと決まってくる気がする。

或は、確かに「夢のような装置」(高額!で見た目も唯一無二!)を
実際に自分の部屋で聞いてみたいなあなどと想像はしたりするものの、
やっぱり今の装置に戻ってくるんだろうなあと思える自分にほっとしつつ、
暖かい陽の差す休日の部屋で、好きな音楽を聴いてまったりする時間が嬉しく、
偶然も重なりながらこうしてうちにやって来た装置の数々を大事にしようと思う。
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