音の快楽的日常

音、音楽と徒然の日々
Fragile
急遽、帰省しなくてはいけないことになり、ドタバタと準備をしているところ、
慌てていいことは何も無いと思い、クールダウンできる音楽を。


 


最近、あまり聴かなくなったと言えばJazz。
クラシック小僧になった訳でもないが、
思えば盤を整理したときに手元の数がかなり減ったのがJazzだったような。

Kenny BarronはStan Getzとの共演で知ったピアニスト。
寄り添うような音色と演奏が忘れられなかった。
このアルバム"The Moment"は、
吉祥寺の有名なJazz喫茶のマスターがすごく推奨していたから、
audio好きな方ならお持ちの方も多いかもしれない。

2曲目のFragileはStingのオリジナル、淡々とした歌唱がかえって切ない美しい曲。
カバーもたくさん出ている曲だけど、
Barronのアレンジは、原曲のさり気なさを大事にしながら、
ピアノの持つ音の強さでもって曲の芯を旨く描き出している。
Stingがこの歌のために選んだ一言、ひとことと鍵盤の重みとか交錯する。

さあ空港へ行かなくては。
数時間後には新しい緑が眩しい田園の田舎に着いているはず。
こう慌ただしいと、まるで逃げ出すようにして東京を離れるようで、ちょっと胸が苦しい。
数日間、音楽のない生活になる。
この曲が最後でよかったのか、どうか・・・。
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素数の空
このところ読む本、読む本、どれも素数について触れたものばかり。
去年の暮れ辺りから買い集めてあったものを、先月まで忙しくて積ん読状態になり、
また暑い夏がやってくれば暮れまでこのまま、というのが容易に想像できるので、
休みを使って端から読み進めていた。

話題になったり、書評で高い評価を得ていた作品ばかりだったので、
内容は甲乙付け難く、どれを一冊と言われても難しかったが、
音楽との関連付けでひときわ興味深かったのが、デュ・ソートイの「素数の音楽」だった。

三連休だったのが、あっという間に夕方になり朝になり、
で、頭に残ったのは、強者どもが夢の址と言わんばかりの名だたる数学者達の「狂想曲」。
数、数学の魅力は何故優秀な頭脳をそこまで捕らえて離さないのだろう。
後世に名を残したいという名誉欲だけでは説明のできない世界、
誰にとっても1分、1秒は平等で、人生は一回こっきり。
それでも、真実の探求に賭ける人たちがいる。 
デュ・ソートイの作品は、魅惑の沼底をほんの少し読者にも見せながら、
挑戦の軌跡をテンポよく描いてみせる。


情報過多で飽和した頭をリセットしたくなった。
此処のところ1日に何冊も本を読むことなどしなかったから、
きっと脳味噌が引き付け寸前に違いない。


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Kim Kashkashianの描くアルメニアとイスラエルの歴史世界。
ビオラのしなやかな響きが緊張を優しく解きほぐしてくれる。
現代音楽寄りの楽曲だが、抽象的で何が何やらというわけでもなく、
影絵のようにぼんやりと描きだされていく。

思えば、選挙運動のあの喧噪も昨日の夜でようやく終わり、
久々に静かな夜を取り戻している。
それに、今夜はスーパームーン、8時過ぎというからもう過ぎてしまっているけれど、
曇った夜空をぼんやり眺めながら聴くのもいい。

多分これらの曲に込められたものは、とても重たいもので、
普段だったら尻込みしそうなものだけど、
そういう異物のようなものをまるっと受け止めてしまうことで頭の中をすっきりできる。
ああ、漸くお腹がすいて来たので、食事ができそうだ。
今夜の1枚、薬のような使い方をして演奏者には申し訳ないけれど・・・。
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無題
1つとして同じもののない空、
どれだけ眺めていても飽きることが無い。
10代の頃、体を壊して1年余り療養していたときも、
やっぱりこうしていろんな表情をした空を眺めていたような。

選挙の広報カーから流れる演説が凄い勢いで響いてくる。
選挙の結果というのは、こうした音量や音の量でどれだけ決まるというのだろう。
音楽を聴くのは夜じゃないと無理だ、いくら人間の耳が指向性に優れているといっても。



よもやま | - | - | author : miss key
巡り合わせ
CSI:MiamiというアメリカのTVドラマを見ていたら、
あるエピソードのラストシーンで印象的な歌が流れた。
Ian Brownの"Forever And A Day"。


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Ian Brownはストーン・ローゼズを経て今はソロのシンガー。
本曲はわずか3分足らずの曲だが、
胸をかきむしるようなギターのイントロが感傷的過ぎて、
この曲「だけ」聴くと少し印象が変わってしまうのだけれど。

主演のDavid Caruso演じる警部補が、
事件解決後、その舞台となったpeep showの小屋を訪ね、
ガラス向こうの女性に紙幣を渡して「今日はもう上がれ」というシーン。
薄暗い中に、ぎとぎとしたピンクや赤や紫の照明が滲んで、
むせぶようなギターの音色がいい具合に絡み、美しいとさえ感じる一瞬。

 Is it all a dream or have you just found forever ?
 Get it all together, get like birds of a feather
 ...
 What'chya gonna do when you just found forever ?
 Where you gonna get to when you get it together ?

 Each and everyday ...


たった1曲の印象が、エピソードの見所を走馬灯のように思い浮かべさせる、
これがサントラの醍醐味と黙って頷く1曲。


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湿気対策な1枚
ここ1、2年くらいロシアの国内盤CDがなかなかタイムリーに入手できなくて、
まるで周回遅れのように2012年にリリースされたアルバムを丁寧に探している始末。
かつてレコード盤からCDへ切り替わった際、ロシアではCDの普及が早かったそうで、
その意味では彼の地ではmp3などのダウンロードが主でCDなんてあまり売れない、
みたいな状況がひょっとしたらあるのかもしれない。

(ロシアでの)国内リリース時、人気アーティストの盤はボーナスCDがついたり、
豪華な装丁だったりと、本当はこういうのを手に入れたいのだが、
ヨーロッパや米国のコミュニティ内ショップを通じて手に入れられる頃には、
ボーナストラック満載だけど、いわゆる廉価版で装丁はちょっとがっかりなのがほとんど。
ま、盤が手に入るだけまだいいかと思いながら根気よく盤を探している。


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つい先日届いた中ではこれが1番!というДидюляの"Орнаментальный"(装飾の)。
Дидюля(DiDuLa)はロシアのギタリスト。
バルカンブラスを伴奏に軽快に弾いてみたり、
耳懐かしいディスコアレンジを隠し味にしたポップな1曲もあったりと、
音の動きが楽しい2012年リリースの最新作。

湿気が酷くて気持ちがうつうつとする季節には、
聴いていて自然と体が動くようなのがいい。
彼のつま弾く音色はどことなく夏向き。
涼しげというよりは、じめじめをからりとした熱さで吹き飛ばそう、みたいな感じだ。
ラテンが好きでギターやブズーキがが好きならぜひ。


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本棚を写し撮る
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いつもの近所の書店に寄った際、棚に随分と分厚い本があるなあと思って手に取った。
「立花隆の書棚」、この3月に出たばかりなのにもう再版だ。
表紙のデザイン、下半分がむっつりしているのは、
これまた帯にしては幅の広い、黒字に黄色のコピーがでかでかと書かれたのがついていて、
「圧倒的な知の世界」、「決定版!立花隆自ら全書棚を解説」などと書かれてあって、
特に後半がちょっと気になり、そういえば氏のビルはネコビルというんだったと、
ついついそのまま購入してしまった。

勉強本の種にしようと思うなら、佐藤優さんとの共著で出ている新書が便利だが、
この本が面白いのは、本棚全ての1段、1段をきっちり写真に写し撮り、
わざわざ合成してあたかもパノラマ一発写真みたいにカラーで載せてあるところ。
独特の偏りがあるのは、仕事のテーマ毎に膨大な資料収集をされるからだろうし、
あるいは若い頃から一貫して興味のベクトルにぶれが無いのだろうと想像しながら、
まるでネコビルを本当に訪ねて歩き回ったかのような読後感が思いがけない収穫。

一部は折り込みで長い写真が両面刷りにしてあって、
解説部分をほとんど飛ばしてしまったとしても、眺めるだけで面白かったりする。
図書館の棚をみてもそんな感慨はきっと少しもおきはしないが、
それもそう、他人の頭の中を覗き見るような独特の空間なのだから、
この手の本が結構出ているのはうなづける。

著者も、当初はこの企画にそれほど気乗りがしなかったことを冒頭で述べているが、
作業が進むうちに面白くなってしまったのだという。
多くの仕事をしてこられた方が、或る意味まとめの時期にあって、
こうして本棚を眺め、解説を与えていく行為は、
おそらく残った時間の中で何を取り上げまとめるのか、一つの区切りになったのではないか。

意味のある本棚は生きていて、いつも同じという訳ではない。
使い手の意図に合わせて、時々に場所を与えられてまとめられていく。
写真はその一瞬を切り取ったに過ぎない。
しかし、なんと表情があって興味深い風景なんだろう。

本がたくさんある空間が好きなくせに、わたしは少し前に大半の本を手放した。
棚に入れたまま手入れが行き届かず、
痛んだり埃をかぶったりするのを見るのに疲れたからだ。
まとめて引き取りに来てくださった古書店の方が、
「これだけまとまった本を本当に手放すのですか」と一言言われた。
どんな本をどういう風に読んで来たかはわたし自身以外には誰も知らないことだが、
わたしの本棚もでたらめではなかったのかもしれないと安堵したのが忘れられない。

さて、この本。
厚みに腰が引けそうだが、会話調で書かれていてざっとの斜め読みもしやすい。
読むべき本やエピソードの紹介を通じて現代史を俯瞰するような作り、
読み手の興味の有り様によっていろんな読み方ができそうだ。
これこそ写真の凄さではないが、ネコビルという巨大書棚に迷い込んだ証なのかもしれない。
梅雨時の憂鬱な午後を愉しくしてくれる1冊。
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ギター・ランドスケープ2013 / 福田進一&エドゥアルド・フェルナンデス
6月6日の夜、待ちに待ったエドゥアルド・フェルナンデス&福田進一さんの公演。
デュエットでの難曲を中心に編まれた全6曲とアンコール曲の2時間を超える演奏会。


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MCでもおっしゃっていたが、クラシックギターの演目としてはかなり重たい内容。
中でも国内初演のレオ・ブローウェル「旅人たちのソナタ」。
ブローウェルの演奏集を何年か前に聴いたことがあったが、
あまりに緊張感張りつめた曲の数々にすっかり尻込みしたことを思い出していた。
そんなこんなで少々身構えての会場入り、
エントランスのアレンジメントが優しくてほっとする。


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白寿ホールは代々木八幡駅最寄りのビル7階にある新しいホール。
座り心地のよい温かな雰囲気の会場は繊細な響きも十分に楽しめる空間。


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演目6曲のうちソロが各々1曲ずつ。
リチャード・ロドニー・ベネットの即興曲を福田さんが、
そして、ハンス・ヴェルナー・ヘンツェの3つのテントスをフェルナンデスさんが演奏。
各々、追悼と題してのものだった。

しかしながら、何と言っても素晴らしかったのがデュオでの演奏。
息がピッタリ合った演奏からは、いい薫りのする風が吹いてくるようだった。
トーマス・アデスのダークネス・ヴィジブルは、
ダウランドの曲をベースにしたものだそうだが、
繊細な効果音を背景にメロディが浮き立つ幻想の世界。

そして、ブローウェルの「旅人たちのソナタ」。
フィンランド、ギリシャ、ドイツ、それからカリブへの旅を楽章で表現。
切り詰められた光の中の凍てつくフィンランドからギリシャへの展開は、
目の前で何かの映像を見ているかのような鮮やかさ。
ライプツィヒにバッハを訪ねてとあるドイツの章では、
耳慣れたメロディが聞こえてようやく「演奏会場に戻って来た」ような錯覚が。
と思っていたら、あっという間に最終楽章のカリブ海へ。
海を渡る風とステップの熱気に満ちた素晴らしいフィナーレだった。

福田さんの説明では、旅人たちのソナタには様々な仕掛けがあるのだとか。
ギター演奏には詳しい方なら、また違ったエキサイティングな体験ができたのかもしれない。

隣の席にいらしたご夫婦が「何だかとっても専門的な演目だ」とこぼしていたが、
黙々と演奏が続けばかなりの緊張感が続いたであろうところ、
福田さんの絶妙なMCで会場全体がほっこりとし、不思議な一体感のようなものが感じられて、
会場の大小を問わず、空気を掌握してしまう福田進一さんの魅力を体感できた一夜だった。
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Земля
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ウクライナのロックバンド、オケアン・エリズィの待望の新譜、"Земля"(大地)。
ジャケット一杯に広がった様々な穀物、そして回帰、の音。
戻ること、始まること、まずは一粒の穀物から・・・。

今回のアルバム、少し前の懐かしいオケアンのサウンドに、
ほんのりフォークロアの薫りがする。
暗闇の中を手探りしていたようなヴァカルチュクのソロアルバムを経て、
辿り着いたのが此処だったのか、それとも今だからこそのメッセージ?
閉じかけた心の隙にそっと差し込む光のようでいて、
時にぐっとメランコリックに。

迷いに迷ったからこそ、元のところにしっかり戻って来れる、
そんなことってあるよね?
虚空にぽつぽつと言葉を投げ上げてみる、水の匂いのする夜。


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バラ色の人生
ジョルジュ・ムスタキの訃報が流れたのはつい一週間ほど前のこと。
最近は有名な方の訃報がニュースに出ない日の方が少ないほどで、不感症になりそうだ。 

ムスタキの歌をそれほど熱心に聴いてきたわけではないが、
たった1曲、ものすごく印象に残っている曲があって、
その曲がテーマ曲となっていたあるテレビドラマのことを思い出した。

74年作品の「バラ色の人生」。
全体のストーリーはもううろ覚えで、
例えば、草笛光子さん演じる女性がどういう役だったのか、
思い出そうとしても思い出せないが、
川の流れをバックに流れるムスタキの「私の孤独」を、
歌詞の意味するところもわからずに、真似てみたりしていたのはうっすら覚えている。


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大分前のことだが、やっぱりこの曲、この番組を思い出したことがあって、
今ほど映像が簡単に検索できたりもしなかったから、とりあえず買ったムスタキのベスト盤。
私の〜を筆頭に全17曲。
最後に"Nadjejda"(希望)という曲が入っているが、
このスペル、単純に置き換えるとロシア語の「希望」と同じということに今頃気がついた。

そういえば、寺尾聡演じる貧乏学生と傷心のガールフレンドが、
寄り添って横町を歩いていく後ろ姿(これがラストシーン?)に、
穏やかでささやかな未来への光が差し込んでいるようにも見えて、
子供ながらほっとしたんだった。

今改めて「私の孤独」を聴いてみても、あのほっとした感じは蘇ってはこない。
ぜひもう一度あのドラマを見たいと思ってVHSやDVDのリリースを検索してみたが、
どうやら市販されたものはなさそうだ。

参考までに、ネット上でいろいろなテレビドラマを紹介しているページを載せておこう。
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◇ テレビドラマデータベース 「バラ色の人生」
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