音の快楽的日常

音、音楽と徒然の日々
ジャンルに拘らないで
ジャンルに拘らないで音楽を聴けるようになったのは何時頃からだろうか。
10代の頃、小難しい現代思想の本を(無理に)読むことと同じ感覚で、
モダンジャズを聴くというのがちょっと流行ったりした。
単にかっこ良く見えたからじゃないか、と思う。
中身が分からなくても、肩肘はってそういうのを楽しむ(ふりをする)というのが。

映画音楽で始まったわたしの音楽体験は、今まさにそこに回帰しているという感じで、
わずかな空間を逆手にとって空気の動くような再生をして喜んでいたりもするが、
その反面、自分の物差しで測れないような音楽に出会うと、
全身の細胞が開くような驚きと感動でいっぱいになる。


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RM Hubbertという人を知ったのは、つい最近のことで、
LINN RecordsのHi-Fi音源リストでこのアルバムを見かけたのが最初だ。
彼はロックバンドをやっていたようだけど、
今はフラメンコギターを使っての演奏で、もうすぐ3枚目のアルバムをリリースする。

"Thirteen lost & found"という不思議なタイトルのこのレコードは、
爽やかだけど、極太なギターの音色で始まり、
途中、やっぱり不思議なメロディラインと、女性ヴォーカルの楽曲を挟んで、
最後は見事に「着地」する。
なんだか、遊覧飛行にでも連れ出されていたような、不思議な感覚。
そうでなければ、知らずに口に入れたキャンディーが、いろんな味に変わって、
それでもって次はどんな味になるのかと、つい期待してしまうような。

彼はグラスゴー出身のギタリスト、というのも、LINNが取り上げている理由かもしれないが、
もちろん録音も良くて、
本当なら提供されているHi-Fi音源で聴く方が、
もっと身震いするような感覚がお腹の下の方からこみ上げても来そうなのだが、
へそ曲がりなわたしは、すごく時間がかかったが、LPで手に入れた。
それでもって、このアルバムはぜひレコードで、これこそベストマッチだ、
などと独りごちている。

彼のことを調べていると、ポストロック、とか、下手するとパンク、とか。
こういう単語を目にすればつい敬遠したくなるわたしだけれど、
このジャケットにして、出だしのこの音! が全てを物語っているような気がして。

今週はトラブルが雨霰のように降り注ぎ、一週間が一ヶ月のようにも感じられたが、
こうして部屋に戻ってくれば、当たり前のようにレコードが回っている。
それとこれとは脈略のないことだけれど、
がんばったかいがあったな、とやはり独りごちる猛暑の夜だ。
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Into Darkness



先週末から一般公開になったStar Trekの最新作、"Into Darkness"。
初日に行きたかったがそういう訳にも行かず、週末の午後、ゆっくりと劇場へ。
春先から作品情報がそこら中で流れていたので、
相当ネタバレ状態ではあったのだけれども、
やっぱり聞くと観るとでは雲泥の差、映画はやはり環境の整った劇場が一番。

予告編の流れる間、周囲をざっと見渡すと、
オリジナルのシリーズから観ているような年代の方はごく僅かで、
10代〜20代のお客が随分多かったよう。それも男女だいたい半々で。

物語の中身は、ぜひ本作をご覧になってください、ということで触れないが、
リニューアルの第一作と比べて、まとまった感のあるのがOSTだ。


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前作時には手探り感のあったつくりが、音楽の位置決めが明確になったのか、
いかにもな構成ではあるけれど、かえってそのことが映画音楽好きにはぐっと来る。
効果音的な使われ方の楽曲が多いけれど、
大編成のオケが奏でるド迫力の演奏は、あのシーン、このシーンが目の前に現れるよう。

今回、サントラを先に入手して聴いていたのだが、
映像と一体になって更に増す迫力と存在感に圧倒された。
だからといって、さすがに自宅ではあの音量で再生する訳にはいかないけれど。

映画は、もちろん新シリーズから入った方にも十分楽しめる内容だけれど、
オリジナルシリーズを観ていればこそ、随所に仕組まれたエピソードに胸熱に。
元のストーリーを少し弄っていたりとか、
アクションシーンが多くて多少違和感あったりとかはするが、
CG技術の進歩でここまで魅せてくれるんだという映像自体の美しさも目を引いた。

敵役がかっこ良くて強ければ強いほど、映画は面白くなることを改めて痛感した作品だ。



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夢は夜ひらいたか
突然の訃報。
自殺、というのが驚きではあっても、意外ではなかったのが哀しい。
勤め先からほど近い高層マンションからの転落というニュースは、
ネットニュースのトップになり、続報が後を追った。


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藤圭子さんが歌っていたことをよく知っていた同僚は、そう多くなかった。 
宇多田ヒカルさんのお母さん、というイメージがだいたいのところで、
彼女が現役で歌っていた時代を考えると、まあ無理もないなと溜息が出た。

わたしは何を隠そう彼女のファンで、大抵の歌は歌ってしまえる(上手ではないが)。
このジャケットのように白いギターに憧れたのは、
何時のことだったかも思い出せないほど昔だけど。


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こんな日は本当に飲みたいけれど、あいにくまたしてものドクターストップで、
友人知人を誘ってカラオケへというわけにもいかず、
昨日の夜から彼女のレコードをこうして何度も聴いている。
何度聴いても、唯一無二の声と歌だよ。
さようなら、たくさんの歌を、歌声をありがとう。


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静謐、深々と。
今日も今日で随分とおかしな天気だった。
いきなりの豪雨と暴風、そして雷。
それが30分と経たないうちにあっという間に何処かへ行ってしまう。
もちろん、長引いたらとんでもないことになるから、それでいいのだけれど。

軽い寝不足が積み重なって層を成しているような捕らえ所のない怠さ。
ほんとうなら体をうんと活発に動かして解消すればいいんだろうけれど、
元々の腰の重さに加えてこの天気。無理だ、と一言口にしてほっとする自分がいる。

 
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北欧のアーティストが奏でるピアノとチェロの調べ。
鳥の舞うこのジャケットが気になってつい衝動買いしたが、
聴いてみたら、今のわたしにはまさに薬のような1枚だった。
Night Song、オスロで録音された2011年ECMのアルバム。

楽器同士が対話しているかのような穏やかな音楽。
でも響きは深々として部屋全体を包み込むようだ。
ECMのアルバムによくある独特の緊張感はなく、
ほんのりと温かみを感じさせてくれる。
そう、ゆったりと横になり、胃の辺りに手をそっと置いたときのような。

今夜もまたこれを聴きながら眠ろう。
寝る前の1枚をお探しの方にぜひお勧めしたいアルバムだ。

 
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Wilkomirska
Wanda Wilkomirskaというポーランドのヴァイオリニストのことを初めて知ったのは、
2年前のちょうど今時分の頃のこと。
嶋護さんのディスクガイドを手にして、あれやこれやと狙いを定め(笑)、
最初に手元にやってきたレコードが彼女の録音だった。
深まる秋の夜のあまりに似合いの1枚を手にした時の嬉しさといったら、
今でもやっぱり思い出して口元がつい緩むのだ。

それからレコード店に何度通おうとも、彼女のレコードとは出会いがなかった。
いいなと思っているうちに、次々と見つかる時もあるが、
そもそも彼女のレコードを出している主なレーベルの盤は、
わたしが日頃お邪魔している店にはあまり置かれていなかった。
なので、再発盤でもいいから何かないかな、と思っていた矢先のこと。


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最初に手にしたプロコフィエフの盤と同じConnoisseur Societyから元々出ているもので、
わたしが手にしたのはフィリップス盤。
ジャケットもオリジナルとは違っていて残念だったりするが、
とにかくなかなか聴ける機会がなかったので箱から出したらそのまま手から離さず。

週末に早上がりできたのが第一の幸運、
なのにいつでも行けるいつもの店に何故か直行してしまったのは第二の幸運。
金曜の夕方、あんなに閑古鳥状態で新譜箱をマイペースで見放題、は第三の幸運。
立ったままでの箱覗きは足下に来るけど、こんな日は偶然が重なったりもするので、
見たい箱を全部覗いたら、相当な金額になってしまったが、焦っても仕方ない。
こういうときは、そういうものだと思って開き直ることにしている。

さて、彼女のバッハの演奏に戻ろう。
収録されているのは、無伴奏ヴァイオリンソナタ第1番、
それから、無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番。
いずれも瑞々しさと弦の艶やかな響きが解け合う様は息を呑む美しさ。
でもうっとりできるのは一瞬のこと、
ひしひしと伝わってくる、余りに強い思いの存在にたじろぐ自分がいる。

針が最後の一周を終えて無音になるときの解放感に呆けてしまいそうだ。
それでもまた聴きたくなるのは矛盾しているのか、していないのか。
音楽の世界は深くて広い。
まだまだ開けたことのないドアが無限にあることを思い知った1枚。


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レコードの話 | - | - | author : miss key
秋を待ちこがれる
こんなに秋が待ち遠しく、冬が恋しい夏もなかったよと思う。
おかげでちょっと鄙びた響きのするアルバムばかり聴いている。




Timelessといういかにもなネーミングのレーベルから出されたアルバム。
ああいう事故がなければ日の目を見ることもなかったかも、と思うほど録音の状態も悪くて、
最初に聴いたときは、再生装置が壊れたのかと思ったほどだった。
ギグの模様はそれまでも小さなレーベルから何枚も出ていたが、
演奏が異様にダルくても、音はしっかりしていたから、それはそれでという世界だった。

でもこうして聴いてみると、当時は気がつかなかったことが随分たくさんあって、
それはちょっとした背景の物音だったりするのだけれど、
それが却って、確かにそこに彼が居たという実感を沸き立たせる・・・。

昼の黙祷に感じるところがあり、家に戻ってみれば、
灯籠流しの模様があちこちで紹介されている。
水に流す、という表現があるけれど、
ああ、そういうことだったのかもしれないと誰に問うでもなく一人ごちた。
気分はすっかり秋だけど、季節が追いついてきてくれない。
こんな年もなかったな、歳とるってこういうことなのかなと思わず溜息の夜。


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レコードの話 | - | - | author : miss key
Blade Runner
CDが2種類、OSTではないレコードが1枚。
これで更に買い足してしまうところがだめだなって思うけど、
しばらく考えてやっぱり手元に置こうと買ってしまった赤いレコード。


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180gとか、お肉屋さんじゃないんだから、と重量で売るのはどうかと思いつつ、
やっぱり音がいいんだろうか、とか、頭の隅に引っかかったまま去ること数ヶ月。


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見開きのジャケットには映画のキャラクター満載で、
CDやブルーレイのBox Setで見飽きたんじゃないのと言われそうだけど、
これはこれでやっぱり喜んでしまうところが、だめなんだろうな、と(笑)。


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色の付いたレコードは音質が今ひとつ、とはよく耳にすること。
でもこの赤い色を見てしまうと、
このレコードはこの色でなければいけなかったんだろうなあ、と思えてくる。
(肝心の音質も大丈夫です)

両面を聴き終わって、さあどうしようと思っていたら、
にわかに外が暗くなって雷の轟音が。
その爆音にレコードを聴くどころか、装置があぶないので全ての電源を慌てて落とした。
この映画の中でも雨はとても重要な要素だけれど、
この雨はミニゲリラ豪雨なのか、ものの10分で上がり、どこかへ行った。

やれやれ、装置の電源を一つひとつつなぎ直してスタンバイOK、
一雨のあとは少し涼しいのかと思いきや、ベランダにはむっとする空気が立ちこめている。
それではと気を取り直して聴き直したレコードの音は、なんだかすっきりしていた。
気分の問題ではなく、多分、一旦電源を落とした影響だろう。

レコードの棚から追加で数枚選ぶ、ほんの数分の間にわたしは汗だくになり、
このままではとても聴けないとエアコンでクールダウンし、
それからまた例によってがまん大会のようにしてレコードを聴き始める。
別に修行ではないが、レコードは静かなところでちょうどいい具合の音量にして、
体が全部耳になるようにして聴くのがいい。

ほんとうは、もっと気楽に聴きたいので、早く秋、冬になってくれないかと思っている。
夏はこんなに暑くなくても、秋が秋だと分かる程度に夏でいてくれればいいのにと、
言っても仕方の無いことを口にしたくなる猛烈な暑さの午後。
cinema & Soundtrack | - | - | author : miss key
残暑お見舞い申し上げます 2013
エアコン無しに過ごせない暑さですが、
レコードを聴くときはエアコンを切ってがまん大会のようになっています。
体に良くないリスニングはほどほどにしつつ、夏を乗り切ろうと思います。
厳しい残暑の毎日、くれぐれもご自愛ください。


よもやま | - | - | author : miss key
Good Dog...
自分の好きなものが入っているジャケットのアルバムは、
「自分にとって」ほぼハズレがない。
中身に迷う時は、外観で。
場合によっては、あまり褒められたことではないけれど。


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先日のレコードコンサートでは、随分たくさん聴かせていただいたが、
Bill Frisellの"Good Dog Happy Man"は、知っていたつもりの盤だったのに、
いざ聴かせていただいたら、体中の細胞が一瞬にして解放感に溢れた。

独り部屋で聴いていたとしたら、げらげら笑い出してしまったかもしれない。
心地良さを遥かに通り越してしまうと、おかしくもないのに笑いが出るのは、
想定外の反応に自分自身が戸惑ってしまうからかも。

演奏というより、ギターという楽器から発せられたあらゆる響きが心底心地良く、
ああこの1枚をあの忌々しい梅雨時に聴きたかったよと場違いな後悔に戸惑うも、
家に帰ったら早速この盤探そうとメモしたのだった。

わたしが入手したのはノンサッチから09年に出たアナログ盤で、作品自体は99年リリース。
2枚組のレコードに何とCDがついている。
簡易ジャケだけど、中身自体は単体発売のCDと変わらないと思う。
これには思わず声が出たというか、嬉しい限りというか。
こういう音楽はiPodに入れて持ち歩きたいわけで、
そんなアルバムは、購入時に「レコードにするか、CDにするか」といつも悩んでしまうから。

これから新譜として出るようなレコードは、
できれば多少割高でも構わないから、
CDのおまけか、ダウンロード音源を提供してもらえれば、
迷わず大喜びでレコードを買うのだけれど。
そういう風にしてもらえるよう、もっと新譜や再発をレコードで買わなければ。
日頃の言い訳が一つ増えてそれもまたちょっと嬉しい猛暑の夜。
pop & rock | - | - | author : miss key
クラシック・レコード・デザイン集[ロシア&ポーランド編]
FBで素敵なジャケット集を紹介していただいた。
「 クラシック・レコード・デザイン集[ロシア&ポーランド編]」
いつもお世話になっているディスクユニオンから出された本だ。

ここ1年ほどでかなり充実したディスクユニオンの書籍コーナー、
盤選びで大抵体力を消耗し、書籍まで辿り着かないので、
新刊コーナーに並んでいるのも全く知らず、ダメダメ状態なのを、
この本をおしえていただいたその翌日、仕事帰りにダッシュした。



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解説などは極度に切り詰め整理された中で、
淡々とあれやこれやのジャケットがカラーで紹介されている。
それにしても、盤もジャケットも階級別仕様があるなんて、
当時の彼の国らしいといえばそうだけど、
ここに載せられていない、一般向けわら半紙ジャケも捨て難い。
模様や色使いが、当時の空気をたっぷり含んで、
ひょっとしたら溝から出てくる音楽以上に時代のかほりを伝えてくれるのだから。

美麗ジャケット集のような大迫力はないけれど。
このひっそり感、独りで愉しむには惜しいような、何と言っていいものやら。

ところで、このジャケット集、第1集はアジアのレコードジャケット集だそう。
現物は店頭で確認できなかったけど、これもかなりディープな世界が待っていそうだ。
更なる続編を期待しつつ、載っている盤探しの遠い旅に出るのをぐっとがまんしつつ。
露盤に興味のある方にちらっと覗いていただきたい一冊。
レコードの話 | - | - | author : miss key