音の快楽的日常

音、音楽と徒然の日々
40th anniversary
いわゆる「記念の品」にあまり縁のなかったのが、
ご好意により譲っていただけたLINN 40周年記念のレコード。


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「いつまでも、あると思うな○○とレコード」

などと常日頃から悪態をついているわたしが、
「まだ、大丈夫」と無根拠に構えていたら、LINN Recordsでは既にSold Out
高音質のダウンロード版の方が曲数多いもんね、
と酸っぱいぶどう状態だったのは、「なかったこと」にしている。

ところで、この記念アルバムは、A面に女性ヴォーカル、
B面にはクラシックの主要録音からのハイライトが配され、
濃厚な再生音に思わず口元も緩む快楽盤の仕上がり。
それこそ「毛穴まで見えそう」なくらいの解像感のようなものを要求するなら、
高音質データ配信の音源再生の方がぴったりくるのだろうけれど。

惜しむらくは、加藤訓子さんの演奏がレコードの方には収められなかったこと。
ペルトの曲"Fur Alina"の訓子さんによるアレンジと演奏は、
その浸透力たるや、ことばにできないのがもどかしいほどなので、
これをぜひレコードで聴きたいと思っているのはわたしだけではないはず・・・。
でも、同記念アルバムのダウンロード音源版では最後の40曲目に入っているので、
もし加藤さんの演奏をまだお聴きでない方はぜひ。

■ LINN Records http://www.linnrecords.com/
■ LINN Japan http://www.linn.jp
レコードの話 | - | - | author : miss key
Liquid Spirit
しごとも季節も少し落ち着いて来たのをいいことに、暇を見つけてはレコード三昧。
今週の台風は東に逸れてくれそうな気配だけど、
いくら安いレコードでもこれでは買い過ぎ注意報
数年前まではレコード=旧譜だったのが、今では新譜もいろいろ出てる。
うっかりCDで買ってしまわないよう、
LPでの発売があるかどうか確認しなくてはいけないくらいに。

しばらく遠ざかっていた男性ヴォーカル集めだったが、
リリース情報のジャケット選びで詳しい情報なしに買った1枚が今の季節にまさにピッタリだった。
つい先だって来日公演も果たしたGregory Porterの最新作、"Liquid Spirit"。




何と言っても、声が温かい。
じんわりと、冷えた身体を芯から温めてくれる暖炉のよう。

凪いだ海から眺める波の煌めきのような、落ち着いた中にも艶と輝きのある歌唱に、
ピアノトリオ+1ホーンのシンプルな伴奏陣。

手の届きそうな距離で歌っているかのような録音も心地良く、
全16曲を2枚組にしている辺り、音質にも拘った作品のよう。

もし残念なことがあるとすれば、レコードの内袋が、つるっとした紙製で、
これが、この季節は特に静電気で盤を取り出しにくくなること。
いつもの内袋に換装すれば解決だけど。
その場合にも、オリジナルの内袋に歌詞が配してあるからそのまま保存だ。

ひと言で言えば、ハートフル(和製英語だけれど)。
この毛布に包まってホットミルクを飲んでるみたいな幸福感はいったい何だろう。

となれば、彼の旧譜もぜひ聴きたい、できるならばレコードで。
本アルバムでのBlueNoteへの移籍前に出された2枚については、
別レーベルからLPもリリースされているよう。
こうしてレコード買い過ぎ注意報が発令中の最中に警報へと変わって・・・。

ジャケット買いから始まった静かな衝撃の1枚、
財布の中身が寂しくなっても、歌を聴いてホットになれるからと、
何とでも言い訳のできる素晴らしいアルバムだ。

◇ Gregory Poter Official Site http://www.gregoryporter.com
others (music) | - | - | author : miss key
冷たい雨の降り止まない日曜に
台風が行き過ぎれば秋が終わって冬が来る。
そう頭の中で思ってはいても、体はついていけないようで、
何となく眠い時間がだらだらと続くのは、今も止まない外の雨のよう。


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もうすぐ菊花賞の中継が始まると気もそぞろの中、
部屋に静かに流れるブランフォード・マルサリスの演奏。
あまりに静謐で時が止まったかのような空気が充満する。
この凛とした空気が懐かしくなるのか、
寒くなるとやたらに聴きたくなるのだ。

天気予報では京都も雨模様。
せっかくのクラシックレースに重馬場ではかわいそうだが、
これも運、雨ならかえって逆転できそうな馬がいるかもしれない。
吹きっさらしのスタンドから応援しているが如く、
冷えきったこの部屋から静かに声援を送ろう。

+++

急に寒くなりました。
風邪などひかぬよう、くれぐれもご自愛ください。
others (music) | - | - | author : miss key
日本語の歌が聴きたくなる夜
今朝からの冷え込み具合のせいか、
温かみがあって自然と耳に馴染む歌が聴きたくなり、
では、と迷わず選んだのは柴草玲さんの「あじさい」。


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5曲入りのミニアルバム。
お、と一瞬あせるのは、4曲目の「ローランド・カークが聴こえる」。
この曲だけアップテンポで強い陽性、無理矢理アゲられてしまうような強引さでもって。
その前に、タイトルを不思議に思って調べてみたら、
柴草さんは音大でジャズのピアノトリオ演奏などもやられていたよう。

急に寒くなると、どうも体がついていけなくていけない。
3週間ほどのちょっとした残業続きと寝不足で風邪と熱発、なんとか週末に辿り着いた。
そんなだから、優しく歌う彼女の歌が聴きたくなったんだろうか。
頭はとうの昔に死んでしまっていて、歌の文句は入ってこない。

ファンヒータを足下に置いて音楽を聴く季節が早くもやってきた。
咳き込みつつ眺める近所の並木の一部は色づく前に葉が枯れ落ちてしまった。
四季、というにはあまりに短い秋に寂しさを禁じ得ない週末。
pop & rock | - | - | author : miss key
かもめの鳴き声が聞こえる音楽
映画の邦題というのは、どこか微妙なのが多い気がするが、気のせいだろうか。
フランス語はわからないので、元々の題のニュアンスもよくわからないが、
主演のアラン・ドロンとミレーユ・ダルクの当時の関係を投影してそうしたのなら、
少々、悪趣味な感じもする。
回りくどくなった、邦題が作品への印象を悪くしているような気がしていた映画、
「愛人関係」(Les Seins de glace)。


 


夫殺しという暗い過去を持つ女性と、彼女を助けた弁護士、
そして人気のない砂浜で偶然彼女と出会い、恋に堕ちた脚本家・・・。
いまどきのサスペンスと比べたら、ストーリーも登場人物もシンプルで、
メロドラマと切って捨てられぬも、哀切という一言に尽きる結末。

この作品の映画音楽がものすごく好きで、ずっと探していたのだが、
仏盤のサントラはなかなか探しにくく、難儀していたところ、
作曲家Philippe Sardeの作品集にメインテーマが収録されていたのを見つけた。
"Le Cinema de Georges Lautner"。


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総じてメランコリックな印象のメロディが多いPhilippe Sardeの音楽。
主旋律を大切にしながらしなやかに展開していく様が、
一瞬見えた一筋の光にすがろうとするヒロインの表情に相俟ってかえって胸を締め付ける。

脚本家との出会いのシーン、うらぶれた砂浜に群れるかもめの鳴き声。
そして、弁護士ドロンがミレーユを伴って山に向かい、そして轟く一発の銃声。
一発の意味に戸惑うも、エンドロールは無情にも流れていく。


思えば子供の頃から意味もわからずフランス映画を喜んで観ていたのも、
きっとLegrandやSardeのような美しいメロディ、音楽に浸れるからだったんだろう。
ついそんなことを思い出して、ここ数日帰りが遅いことをいいことに、
昔、TVで深夜映画をみていたように、こうして夜中にDVDを観ていたりする。

さすがに深夜の映画と早朝レコード聴きの生活では寝不足が募る。
でも、「愛人関係」のテーマがいい音で聴けるようになったし、
そろそろ冬の足音、これで一度リセットしなければとの区切りの1枚。
ジャケットを観て気になる作品が思い浮かぶ方に、ぜひ。
cinema & Soundtrack | - | - | author : miss key
荘厳のポリフォニー
この連休は父の納骨があって田舎に帰っていた。
実家からさらに車で数十分も山あいに入ったところの古寺。
昨日までは蒸し暑くいったい残暑とはいつまでかとうそぶいていたのも嘘のように、
秋というより冬の訪れを感じぜずに居られぬほどにキンと冷えた辺りの空気に、
多くの若い僧が修行するという歴史ある寺の一端に触れた思いがした。


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早朝から出かけてややもすると眠気が首をもたげそうな時間。
案内されて渡り廊下をなれない足付きで歩を進めた先には、
思わず深呼吸したくなるようなお堂があった。
隅々まで磨き上げられた、古いけれども潔さの溢れる空間。


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縁者親戚が出揃い、着座したところに、供養の経をあげる僧侶が静々と入場してきた。
いつとも分からぬほどの合図があって、僧の声が朗々と響き渡り始める。
不勉強を晒すようであるが、般若心経の一言、ひと言は正直理解しきれていない。
それでも三方が詠み上げる経は、
ユニゾンの大河に、時折光が射すようにしてポリフォニーの部分が絡み合い、
たった三方の声が大きな揺らぎとなって空間一杯に広がっていく。
その様を荘厳といわずして何と言うだろうか。


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わたしは、失礼とは承知の上で、たった一つしか無い目の前のアンサンブルに無心になった。
詠みあげの言葉の意味をさておけば、まるで中世の民謡のようでもあり、
空間の響きを読み切ったような清々しくも今生の思いを彼方に届けてもくれるような祈りに、
有り難いというありきたりではあるが、感謝でいっぱいになった。
大勢での教会カペラにはそれにしかない厳かな響きがあるであろうが、それにしても。


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少々気重になりがちの行事ではあるが、とんでもない心得違いだった。
集中できているようで、できていない証拠のひとつだが、
ふとシュレーディンガーの「精神と物質」を思い出した。
脈絡がないのを承知の上で、それでも、
宇宙の真理に近づく術があるとすれば、
それは東方世界の方がより近いところにあるような、そんな気がした。

こうした行事の一つひとつが、
実は遺された者の心の区切りをつけていくためのものだということを思いつつ、
ある頂への道標に近いところの東方世界に確かに立つ足下をじっと眺めていた。

荘厳なるあの一瞬のポリフォニーに包まれた、まさに一瞬のときよ。
すべてが限りある中で、ほんの一瞬、輝くことができたなら―。


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Last ship
朝からこういう風に音楽を聴くようになるとは思わなかった。
あまり余裕のない時間帯に、盤を弄るというのはよくないことだとも。

時間がないなら、つくればいい。
ビジネスマン向けのなんとか本ではないが、
問題が解決しないのは、まずは解決しようとしないからだ。


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Stingのポピュラーとしては久々のアルバム、Last ship。
わたしの周囲にも彼のファンは少なくないが、評価がこんなに割れる盤も久々か。

声や力の抜けた歌の調子、整理された伴奏・・・。
きっと、何度も聴き込んで染み込ませていくようなアルバムなんだろう。

慌ただしく、気持ちが荒れてる今に手に取るアルバムじゃない。
わたしの中ではもうすっかりダウランドなStingだけど。
枯淡という表現がふと浮かぶ、ほんとうなら心の余裕がたくさんあるときに聴きたい1枚。



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pop & rock | - | - | author : miss key
レコードプレーヤーが戻ってきた夜の次の朝に
メンテナンスの旅に出ていたレコードプレーヤーが昨夜帰り戻ってきた。
やっぱりいつもの場所にいるのといないのとでは、部屋の空気が違う。
今朝は久々に明るい朝焼けで気分も上々だけど、
それも格別であるのは、きっと空模様のせいばかりではないだろう。

見た目はすごくシンプルだけど、
調整されて戻って来たその様子は、いつもいっしょにいるからこそわかる変化があって、
視界がすっと開かれるような見通しの良さは、
すっきりとした顔で戻って来たその表情同様、はっとするほどで、
心の中で思わず手を合わせてしまった。
手を合わせる、というのはおかしな表現かもしれないけれど、
敢えてことばにすれば、そんな感じだったのだ。

最近疲れやすくて寝落ち必至、遅くまでレコードを聴くのは危険なので、
(オートリターンではないから。)
昨晩は、あと1曲、という気持ちを振り切ってベッドに潜り込んだのだが、
おかげで今朝はいつもより1時間以上も早くに目が覚めて、
こうしていつもの場所でレコードを聴いて喜んでいる。

今朝の1枚目は、昨晩いただいた素晴らしいレコード、
フィンランドの音楽家、Merikantoのピアノ曲集、"Summer Evening"。
中身を知っているのは、いつものお店のイベントで耳にして知っているからだ。


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この見通しの良さに北欧で生まれた曲の合うことといったら。
戻って来てたちまち部屋の空気を掌握しているLP12は、
単なる道具、とか、装置、ということばでは全然足りない存在感でもって、
いつもどおりにわたしのそばにいる。
ほんのしばらく、レコードが聴けなくてさびしいな、という自覚があったのだけど、
さびしさの根っこは、そうではなくてちょっと違ったんだな、と。

おかえり、LP12。


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回送電車という名の本
表題だけ見ると、一体何の本だろうと思う。
少し前にaudio専門誌の特集記事で写真とエッセイが載っていて、
その時に、堀江敏幸という人の名前を初めてしっかりと知った。

書評か何かでちらりと短い文章を目にしたことはあった。
けれど、行間から温かな息遣いが漏れてきそうな、こういうエッセイが出ているとは。
いや、少し前に、
エッセイや小説などがずらり出ている作家でもあるということはわかっていたが、
そういう本に手が伸びるような気持ちになれるまで2年ほどかかってしまった。 


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回送電車、と名付けられたあちこちに掲載されたエッセイが編集されたシリーズの、
これは「一階でも二階でもない夜」と副題のついた第二集だ。

堀江さんのテーマによく選ばれるものは、
例えば、普通なら通り過ぎてお終いの、日頃目にする何ということの無い風景や、
手元の(思い入れのある)文房具、そして古本。
仏文学者である彼の街や町へのまなざしが、いつか見た写真のように、
とてもシャープなんだけれども優しくて、木漏れ日のような温かみに溢れている。

短編集であるが故に、いつでもどこでも読んでしまえるが、
2、3気になるタイトルのものを読んでみて、思わず口元が緩んだり、声が出たりするなら、
きっとこの本を買って後悔することはないだろう。
美味しいものを一時に食べてしまうのはこどものすることだからと、
つい大人買いをがまんしてゆっくり読み進めているが、
半分も読まないうちに、次の集が欲しくなる。
そんなことがとてもうれしくなったりするのだ。

全体からすればほんの少しだが、audioのことにも触れてあったりする。
本格的にaudioや音楽の話題が取り上げられたらどんな風だろうかとも想像する。
文章の終わりから、次々と膨らむ想像を与えてくれる本もまた久しぶりのことだ。

相当な読書量、勉強量を背景にした、一見して密度の見えない柔らかな筆致は、
それ自体いったいどこから来るのだろうかと驚きもするが、
わたしは一人の読者なので、余計なことは気にせず愉しむこととしよう。

夜も涼しくなり、本が読みやすくなってきた。
開いた窓のの隙間から漏れ聞こえる虫の鳴き声をBGMに、
もう一度読み返してみるとしよう。
思わず独り言が出てしまう、傍に誰かいるとちょっと気恥ずかしい1冊だ。
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Rain
何千枚もCDやらを買っていると、
偶然からなのか、同じタイトルのアルバムが結構あったりする。
ジャケットに惹かれて衝動買いはあるが、
タイトルに惹かれて、はあまりないので、
しかもそれ自体はあまり好きではない「雨」というのが複数枚あるのは意外だった。


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なぜか"Rain"というアルバムが何枚かある中での1枚。
ECMから出ている、Ghazalというアンサンブルの2003年作品。
ケマンチェにシタール、そしてタブラ。
15分から20分弱の長尺全3曲から成るライブ録音だが、
会場や聴衆の気配までが漏れなく録り込まれ、独特の緊張感が漂う。

指先から命を与えられているかのように、
何やら妖しげな響きが音階の縛りから悠然と解き放たれていく。
こんな音楽は今夜のような乾いた夜に随分合うようだ。

ふと、恵みということばの意味を考えてみる。
天恵、天啓、啓示・・・。
この週末はまた雨だという。
少しは違った風景が見えたりするだろうか。
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