音の快楽的日常

音、音楽と徒然の日々
低音中毒
字面の通り、ここのところすっかり低音中毒に。
音楽を聴き始めてから、ということはもう数十年、
正直「真ん中」中心に聴いてきたし、
特定の音域を喜んで聴くという習慣はなかったから、
しかも低音というと集合住宅に住まう都合上あまりよろしくないので、
ちょっと困ったことになっている。

真ん中を喜んで聴いてきたとしても、
手元にはそこそこ低音の入った音源が揃っていて、
スピーカーの配置を変えたり、音量あげたりしてやれば、
それはそれでけっこうなことになってしまう。

それで、少しわかってきたことが。
音階がしっかり掴めて、その動きや迫力自体が魅力のものと、
気配というか、ブワーンと胃の辺りに響いてくるようなのとがあるな、と。

何事も消化不良はいけないので、
向こう三軒両隣が不在になりそうな時間帯を見計らって、
うちとしてはかなりの音量であれこれ試してみた。
それで、うちの装置でも驚くほどコントロールの効いた低音が
出せてしまうことに気がついた。(今まで知らなかっただけ)

多分、もうこんな音量で再生することはないだろう「はげ山の一夜」、
大好きなMedeskiのドファンク、Jacoのベースやコントラバスマリンバ・・・。
中には、音の快楽を突き抜けて気持ち悪くなるほどの低音の出る録音も。
この「実験」で部屋と装置の限度のようなものが測れたせいか、
ここのところのもやっとしたものは霧が晴れるようにして解消された。

よかった。

最後に、低音実験ではなくて、かっこいいベースが楽しめる1枚を。
Brian Brombergの"Downright Upright"。

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このアルバムも帯に「低音」と銘打ってあるくらい、その方面でも評判が良いようで。
残業漬けの夜に部屋に戻り、難しいことを考えたくない時などは、
ただただかっこよくて無駄な緊張を解してくれる音楽がいい。
もちろん、近所迷惑になるような音量にしなくても、十分楽しめるのでご心配なく。
others (music) | - | - | author : miss key
糾える縄の如く
開けてはいけない、と思えば思うほどに開けたいとの想いが募る、
そんな箱があるような気がする。

もう随分長いこと思い出すこともなかった出来事。
咽せるような草の匂いと突き刺さる陽射しよ。
手を伸ばせばいつもそこにあった生きた季節が、今はもう遠い時の彼方だ。


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週末、またしてもせんの無いことを思い出しつつ街を歩いていて思い浮かんだ音楽。
これと、随分後に耳にした、
まるで偏微分の数式が頭に飛び交いそうな楽曲と同じ人の作品だと知ったときの驚き。


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映画「燃える秋」の音楽。
わずか3分と少しの楽曲ですべてが歌われてしまう不思議さ、切なさ。

陰と陽のメロディが糾える縄の如く、
或は、寄せては引く波が砂と絡み合うようにして、
虚空に映し出される物語よ。

同じことばを口にして笑った人の、その背の寂しそうな様子が、
まるで渇いて苔も生えない墓標のようでやるせなかったのを思い出す。
わたしはまだ開けてはいけない箱を開けたがる子どもでしかないのが、
それでいいのか悪いのか。
遊歩道を歩くも足下の葉音が胸に迫る、燃え切らない秋の最後の週末。


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cinema & Soundtrack | - | - | author : miss key
Solarisのレコードが一度にたくさん出たので人柱になってみる
タルコフスキー映画のサントラ盤は何度か取り上げてきたけれど、
どれもCDで、それも入手が少々面倒なものばかり。
映画作品の権利や音楽のそれなど、ややこしいことがあるんだろうなあと想像し、
手に入るもので納得してきたのだけれど、
ここ数ヶ月でSolarisのサントラ盤が、しかもアナログレコードで3枚、
そしてストーカーと鏡も1枚発売された。

リリースしたのがマイナーレーベルで情報が少なかったこともあるが、
当初はどれを買おうかと迷ったのだけれど、
内容がどうやら違いそうでもあったので、とりあえず大人買いした。
買って聴いてみないことにはわからなかったので。


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左上下と右上のストーカー盤は、Мирмир(ミールミール)というロシアのレーベルのもの。
右下はSuperior Viaductというところからもの。

amazon.co.jpから購入したのだけれど、
イメージ写真では装丁がいまいちな感じなのにいい値段だったから、
届いてがっかりのパターンも覚悟していたが、
いざ届いてみれば、ミールミールのジャケットはコーティングのきれいなのだし、
内袋も写真が刷り込んであったりしてそれなりに凝っている。
特にViaductのSolarisは、ジャケットの絵柄(写真部分)が3種類あって、
届くまでどれが当たった!のかわからないけれど、
細長いブックレットが入っていて、3種類すべての絵柄がきちんと配されている。

肝心の中身については、
左上のSolarisとViaduct盤が映画のOSTで内容は同じであり、
それ以外が後に作曲家のArtemiev自らがシンセ等使って再録音したバージョンだった!
つまり、OSTのSolarisを1枚だけとなると、どちらか迷うところ。
(わたしならシンセ版やStalkerと揃うというのとロシアのレーベルだからという理由で一択、
 音質もミールミールの盤の方が好みだった)

わたしはもう20年以上も!この再録音版のレコードをずっと探していたので、
針を落として曲が流れ始めたときには思わず「ひゃっほー」状態(笑)。
というのも、
学生時代にお借りしたそのレコードというのは2枚組(Solaris, Stalker, the Mirror)で、
イタリアの海賊盤だった。
なので、偶然にしか見つけようもない感じでもうだめかなと思っていたところだった。

さらに肝心の音質については、
ものすごくHi-Fiということはないが、ごく普通に安心して音楽に浸れる音質で、
数年おきに再発を繰り返すCDの再生音と比べれば、思わず笑みが漏れてしまう。
今回の4枚はどれも作品やアルテミエフのファンの方なら十分満足できる内容だと思う。

レコードに関しては、CDと比べて売れる枚数がやっぱり少ないからか、
無くなってから探すのが面倒なので、あるうちにえいっと買って聴いた方が幸せになれる。

 買わずに泣くか、買わないで泣くか。(買わないで後から泣くより、買って泣きましょう)

さあこれから本格的な冬、静電気にも負けず○欠に負けずせっせとレコードを聴こう。
cinema & Soundtrack | - | - | author : miss key
Ellipse
前にも書いたが、audioの様々なイベントに出かける大きな理由は、
例えば最新のテクノロジーや製品に触れたり体験できるということもあるが、
何と言っても最大の目的は、デモで使われる様々な音楽や選曲が興味深く、
面白い音源捜しのいいきっかけになるからだ。
といっても、ごりごりのJazzファンでもなければ、クラシックオンリーでもないので、
できるだけいろんなジャンルにまたがって選曲してくれるデモンストレーターの講演に通うことになる。

ここ数年は、中でもオーディオ評論家の傅信幸さんの講演にでかけることが楽しみで、
先日のTIASでは金魚のふんのようにして講師を追いかけるようにして会場を巡った。
傅さんの講演を梯子するメリットは、
単に解説やエピソードが面白く飽きないどころかまた次も聞きたいと思うだけでなく、
一定のプレイリストから選ばれた曲を異なるシステムで聴かせてもらうことができ、
audioの技術やブランドの特徴に明るくなくても違いを体感できるということ。
一人の方の視線をお借りして、自分の頭の中にいろんなイメージや地図を描けるというのが、
技術や何かがわからないなりにとても楽しかったりするのだ。

今年は、いつも配ってもらえるプレイリストに新たに加わったアルバムの中でも、
Imogen Heapが強く印象に残った。
同性ながら、耳元がくすぐったくなるような不思議な声。
生成りの感触かと思えば、複雑なエフェクトを加えてふんわりと仕上げてあったり、
エレクトロニカっぽいアレンジもあれば、ハウスのようなノリもあり、
1枚のアルバムから一人の女性の多面性を音で浴びるようにして感じることができる。


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当日、このアルバム"Ellipse"から選ばれたのは4曲目の"Little Bird"。
自在のメロディに軽やかに乗る歌声は、まばゆい光に包まれ風にゆれる羽のよう。
このしなやかな感じが上手く出てたシステムもあれば、
エッジが強調されて、少し違った印象が強く出たシステムもあり。

それにしてもこの曲、音量をぐっとあげると、特にイントロの部分で、
小さい音量では掴みにくいいろんな音がふわっと出てくるのが面白い。
デモ効果も考えられてのことだろうか、傅さんの選ぶポピュラーには、
こんな仕掛け?がある曲も少なくないような。

さて、このプレイリスト。
TIASでは毎年、講演の参加者に配られます。
硬軟、新旧とりまぜてずらりならんだ充実のアルバムリスト、
欲しいという方はぜひ来年のTIASへ。
pop & rock | - | - | author : miss key
NASのファームウェア、みだりに更新すべからず
週末がこんなに嬉しい日もなかったが、こういうときは得てして最悪なことが・・・。
早朝からすっきりと目が覚めて、掃除も捗り、さてと一服したときに、
そういえばと、前から気になっていたNASのファームウェアのことを思い出した。

2年以上も前に1TBのNASを2台(QNAPの製品)買ってあったのだが、
買った当時のまま何も弄ってなかったので、
これという不具合ではないものの、
例えばLINN Recordsからダウンロードした高音質音源の演奏時間の誤表示とか、
Twonkyのヴァージョンの兼ね合いもあって、以前よりどうにかしたいなと思っていた。

NASを覗くためのソフトにはいろいろな機能があり、
例えばネットワークごみ箱、なんていうのがあるというのもつい最近知ったほどで、
ファームウェアはどうやってアップするんだろうとあれこれ見ていたら、
最新版のファームに更新するタブを見つけたので、

「なんだ、簡単じゃないか」

などと安心して、念のためバックアップを取り(これが功を奏した!)、
1クリックの作業開始と相成った。

***

後から思えば、Twonkyの設定が少し違っていただけなのだけれども、
いつものKinskyの画面(LINNのDSを操作するためのソフト)が違っていた!!!
「使用前使用後」が写真で比較できれば分かりやすいのだけれど、
以前はNASの表示(アイコン)があって、そこから音楽ファイルの選択画面にいけるのが、
今度はそれだとおかしな(否、おかしくないのだけれど)知らないサンプルとかが出て来て、
いったいわたしのデータはどこに!?と慌ててしまった。

以前はなかったTwonkyのアイコン(これがデザイン今いちで憂鬱)をクリックすると、
関係ないものも表示されていたが、とりあえずは自分の音楽データも出てはきた。

見た目がごちゃついて嫌だったのと、QNAPの設定画面が使いにくそうだったので、

「もともとのバージョンに戻したい、いや、戻そう!」

などと、考えたのがそもそも「折角の休日を台無しにした最悪のきっかけ」だった。
戻す方法をネット上で検索したり、人に尋ねたりしたものの、はっきりしたことは不明で、
それでもこの表示は嫌だ!となれば意地でもなんとかしたかったので、
思い切って「工場出荷前の設定に戻す」というのをやってみた。

2台あるうち、とりあえずは1台やってみて、巧くいけばもう1台も、などと、
取り乱していた割には冷静な部分もあって(笑)、
本当に最悪の事態は免れたのだけれども、
NAS1台分のデータ約900GBは一旦チャラになってしまった。
それでも、元の表示に戻りさえすれば・・・と思ったのが甘かった。

確かに、QNAPの表示は元に戻った(しめしめ)。
しかし、Twonkyに入れない。この瞬間の落胆といったら!
とりあえずNASを買ったお店に電話してみたら、こういう操作の場合、
古いデータが残っていて悪さをすることがあるので、
ハードディスクを取り出して直接PCにつなぎ、初期化することが必要とのこと。
「(わたしには)大変そうだけどやってみますか?」
とお店の方が助言してくれそうだったが、
一旦立ち止まって考え直すなら、今だと思い、お礼を言って電話を置いた。

結局、気に入らないアイコンと付き合う方を選択した。
もう1度、NASのファームを最新に戻し、先ほどの電話で教えていただいた、
Twonkyの設定間違いのところを、今度は正しく設定し直した。

そして、データを元通りにコピーし直すのに約15時間・・・。
もちろん、ほとんどは寝ている間にPCが作業してくれたのだけど、
夜中にまさか停電とかはないよね、と思いつつ、あまりいい気分のものではなかった。

 教訓その1 なれないことは、しないにかぎる。 
 教訓その2 思いとどまるのに、おそすぎることはない。

部屋の床に積もり積もった溜息の山を一掃したら、
多分こんな爽やかな空気が入ってきそうな気がした。
勉強にはなったけど、こんなに気疲れした土曜も知らない週末の午後だ。

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audio | - | - | author : miss key
この悩みはよく分かるような



レコードの増殖。
レコードが増えていくのを、仕事やストレスのせいにはすまい。
とはいっても、一時期「断捨離」と称して長年手放し難かった本やCD等、
思い切って人に譲ったりして量的圧縮を試みたのだけれども。

それにしても、IKEAの広告よ。
IKEAの家具はまだ1つも買ったことがないのだけれど、
少し前に、上京してワンルームに引っ越しますというような設定の、
10代の女の子が大量のレコードやDJセットをかっこ良く並べ、
さあ新しい生活のスタート!みたいなCMもあって、これもすごく良かったが。

 「うちはまだトイレに盤を置いてない」

なんて、喜んでていいんだろうか(けっしてよくはない)。

こんなCM見ていると、やっぱり壁は目一杯使いたいよな、とか、
一度は諦めたことが頭をぐるぐると駆け巡る。
最近は同様のニーズがあるのか、
組み立て式で大きさにバリエーションのある棚がいくつも出ているが、
例えば、マルゲリータというメーカーのおしゃれな棚などは、
ますのうち2つほどを強度を上げるために斜めの板を入れて塞いだりするので、
入れる枚数がそれだけ少なくなる、みたいなことをつい考えてしまい、
おしゃれなレコード棚生活、はなかなか実現できていない。

知り合いの中には、昔ながらのカラーボックスを巧みに積み上げ、
それこそ大きな揺れでも来ようものなら名誉の・・・なんてことになりかねない状態で、
それでも日々、部屋にレコードを迎え入れている。
わたしには、そういう勇気(ほんとうに勇気か)や割り切りが足りないような気がする。
嗚呼、あの古い方のCMにあったお洒落なワンルームで、
たくさんのレコードとプレーヤーに囲まれた空間が何とも羨ましい。
10代をもう一度やり直せるなら、もうあれしかないと思えるほどに。
レコードの話 | - | - | author : miss key
TIAS2013 その後
年に1度の大イベントが終了して数日経過。
耳がどうにかなってしまったのか、ナチュラルハイなのか、
部屋の環境をつい忘れてボリュームを上げがちに。
時間帯を選べば多少は融通が利くけれど、
部屋に戻ってくるのはいつもそこそこの時間。
近所迷惑にならないように、気をつけなければ・・・。

2013TIASを振り返って。
どのブースの装置にも各々の魅力があるけれど、
その場を去り難い何かを強く感じたのは、先日のLINNのExaktを除けば、
何と言ってもYGアクースティクスのヘイリーというスピーカーだった。
竪琴マークのオルフェウスのトランスポートを始め、
つながっている装置はどれも最新、ハイエンドの製品で、見た目も美しく、
再生された音楽の解れ具合が心地良く、
ほらすごいだろう、みたいな押し付けがましさもなく。

フルメタル!な外観のそのスピーカーはどのようにしてできるのか、
という設計者自らの解説もすごく興味深くて、
そこまで強度や材質、形状に拘る理由が素人なりに掴めたし、
かなりの高額製品だけど、それも仕方ないと納得がいくものだった。
ちょっと嬉しかったのは工作機器に日本のメーカーの製品が導入されていたこと。
精密な製作に要求される精度や効率に応える製品と認められてのことだから。

そのすぐ近くのブースに同じような思想の、やっぱりフルメタル!なスピーカーがあったが、
どうしても馴染めなかった。
すごいんだけれど、聴いていて楽しくなったり、うずうずしたりの感覚が沸いてこなかった。

そういえば、ということではないんだけれど、
様々な製品に加えて、各ブース毎、デモ用の音源や選曲にも特徴があって、
もちろん製品の良さを一層アピールできる曲が用意されているのだと思うのだけれど、
設計したり製作している方の、
なんというか、音楽が好きで堪らん!
というのが言わなくてもわかるようなライブラリの充実度で感動したのは、
先のYGアクースティクスのブースと、ハイエンド、という名の代理店のブースだった。

ハイエンドのブースには、
紫の目玉が光るツイーターの付いたランシェオーディオのスピーカーがあって、
わたしは毎年この部屋でこのスピーカーで音楽を聴かせてもらえるのが楽しみなのだが、
今年もデモで流れた曲は幅広で演奏、録音ともにとても楽しいものばかりだった。

そこで聴いた中の1曲だが、
透明感に溢れ、コケティッシュな歌声が何とも妖艶魅力爆発だったので、
誰の何と言うアルバムか教えていただき、
早速入手したのがKatie MeluaのPiece by piece。


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Katieはグルジア出身のシンガーソングライター。
このアルバムは彼女の2ndアルバムでヨーロッパ各国でプラチナ或はゴールドディスクに。
グルジアのアーティストは結構気をつけてチェックしているけれど、
彼女の名前を意識したことはなかったなあと思いながら調べてみたら、
子供の頃にベルファストを経てロンドン住まいとあった。
音楽活動は当初より英語圏でのことのようだ。

会場で聴いていたときには、大勢のお客さんの中だったこともあって、
部屋に浮遊する歌声にただもう聞き惚れていたが、
こうして自分の部屋で聴いてみると、
思いのほか切なく、膝を抱えたくなるのだった。

ほんとうなら冷たい風に当たりながら月夜でも眺めていたいけれど、
あいにくの天気で雲がびっしりの夜空だ。
歌の文句を部屋に浮かべるようにして、時に小さく、時に大きくリピートする。
それにしても耳について離れない、癖になる声だよ。


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LINN Exakt systemを体験する in 2013 東京インターナショナルオーディオショウ
11月2日から3日間連続で開催された2013年のTIAS。
いつもなら初日は休みを取らないと参加できないのが、
今年は運良く連休のため、初日から伸び伸び参加できた。
といっても、数多くのブースをイベント等中心に回ろうとすると、2日間でも結構厳しい。
今回は特に人気で混み合うブースを狙っていったので思い切り体力勝負に。

あまりに一度にたくさんの体験をしたので1度では書き切れないが、
何はともあれ、ようやくLINNのExaktシステムを体験できた。
事前に「くち あんぐり」とは聞いていたのだけれど・・・。

※うまく説明できないのでシステムについては映像で。
※当日も日本語字幕版の紹介映像が流されてから、具体の説明に入ってました。
※日本語字幕の映像は、LINN JAPANのサイトで見ることができます!







LINNのブースでは、山之内正さん、山本浩司さん、
そして和田博巳さんのプレゼンテーションに参加できたのだが、
何と言っても聞いているジャンルやスタンスが身近な和田さんのプレゼンがもう胸熱で。
もっとも、山之内さんと山本さんの回も凄い人で、定時ちょい前に会場に入ろうとしたら、
立ち見の場所を確保するのがやっとの状態だったので、
三度目の正直ではないが、和田さんのプレゼンは、始まる1時間前からブースに入り、
よい位置の椅子を確保して準備バッチリだったので余裕をもって聴けたこともある。
それが良かったのかどうか、はとりあえずおいといて(笑)。

さて、和田さんがExaktシステムを紹介するにあたってのプレイリストは以下の8曲。

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まずはJoni MitchellのMingusから、God must be a boogie manを。
しかもアナログレコードで!
JoniとMingusのエピソードを交えながら、
曲の聴き所をうまく伝えてくださるので、曲を知らない人でも入りやすかったのでは。
ベーシストでもある和田さんの選曲は、ベースがやたらカッコいいのが多いけれど、
この曲もその例に漏れず、しかもJacoの指さばきが見えるような臨場感!
録音の場の空気がモリモリとスピーカーから漂うような異様な気配に圧倒されつつ、
わたしなどは既にくち半開き。1曲目から額に汗が(笑)。


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2曲目もやっぱりレコードで、Bill FrisellのGood Dog Happy ManからShenandoahを。
すごく音の良いレコードであることは先刻承知だけれど、
この曲の頭から流れるブーンともウーンともいうような分厚い低音がとても心地よくて、
それを土台に色彩感たっぷりのギターがたゆたうように流れていく。
かなりの大音量なのだけど、夢見心地でうとうとするくらいに気持ちのいい空間。
(※このレコードにはCDがおまけについています。買うならレコードを!)


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やっぱり録音がいいことで有名なピアソラのタンゴ・ゼロ・アワーから、
Contrabajissimo。
ついさっきアメリカの田舎で良い日差しを浴びながらのんびりする夢を見たとおもったら、
今度は夜のブエノスアイレスだよ。
ヒンヤリしているのだけど、じわっと熱い感じ、嗚呼、ピアソラ。
この3曲目からあとはすべてCDやハイレゾリューション音源のデータを
EXAKT DSMに取り込んでの再生。


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古い録音でもこんなに楽しめてしまうし、
これだけ録音に凝っている様子が分かるという例として、
The Beach BoysのPet Soundsから、アルバム最後の曲、Caroline noを。
これはもう、うまくことばにできない世界。
何と言うか、彼らのファンの方が聴いたらどんな感想を持つんだろうか・・・。


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StingのThe Last Shipから表題曲をハイレゾリューション音源で。
これが、聴いてて一番「やばかった」。
前にも書いたけれども、心に余裕がないと淡々と聞き留められない歌なのだ。
驚きの連続で心の窓は全開、無防備な状態で、
そんな人間の目の前でStingが全身全霊で歌ってる。
普通で居られないって。もう涙がこぼれないよう必死。


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続いてマッカートニーの最新盤から表題曲のNewを。
ポールの歌もノリもすごく陽性で楽しくて、
場の空気も一転して一気アゲ調子に(おかげで、救われました)。

***

続いて、ちょっとクラシックもかけてみようということで、
選ばれたのが和田さんも好きだというWispelweyのショスタコーヴィチ。
この辺りは、集中力が飛びそうになっていて、
どの曲のどの楽章を聴いたかよく覚えていない。
曲が長くて途中までだったということは覚えているのだが・・・。
※ 当初、チェロコンチェルトの1番かと思ったのですが、
  記憶不確かで確認できないのでジャケ絵は削除、訂正しました。すみません。


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最後はお約束のJAZZで、ドルフィーのOut to lunchから。
ボビー・ハッチャーソンのソロが出てくるまでは時間が足らなくてお開き。
最後にとてもシュールな曲が選ばれたのは、
参加者がちょっとクールダウンしてから家路につけるようにという配慮だったのだろうか(笑)。
意外な選曲でハッとさせてくださるところも和田さんの魅力。

***

和田さんが他の話し手と少し違ったのは、LINNの40周年記念パーティに参加されて、
現地でのお披露目でいち早くシステムを体験され、
その驚きをそのまま会場に持ってきてくださったような感覚で話されていたこと。
紹介者としてだけでなく、リスナーとしても、新しい技術と再生された音楽に驚き、
楽しんだ体験がダイレクトに伝わってきて、思わぬプレゼントを貰えた気分。


実は、この日、朝一番にLINNのブースに出かけて、予習をしたのだった。
その時にここ!というポジションで、レコードで2曲聴かせてもらえたのだが、
何とMedeski Martin & WoodのUninvisibleとGregoy Porterの最新盤だった。
特に1曲目。
ドの付くファンクで澄み切った朝の空気が一変して煙臭くなるような凄い泥臭さと重低音に、
Medeskiが大好きなわたしなどは悶え死ぬんじゃないかと思うくらい喜んだが、
(いつだったかのliveの様子が眼前に広がり、手が届くところにMedeskiが現れた!)
隣に座っていらした年配のご夫婦が、ちょっと息苦しそうにされていた。
(そんな横でひとり喜んでて申し訳ありません)

LINNの新しい試み、Exaktは、噂以上に本当で、
毎日お部屋がライブハウス状態になるというとんでもないシステムだということが分かり、
頭で理解して冷静にイベントに臨んだのだが・・・。
最新のテクノロジーだけに価格も簡単に手の届くものではないが、
LINNのことなので、いずれ手の届く範囲の製品を作ってくれるのではと内心期待しつつ。

2013のTIAS、わたしがLINNのユーザーだということをおいたとしても、
わたしが体験させていただけたブースの中で、Exaktがぶっとびの1番で素晴らしかった。
充実のイベントをたくさん用意してくださった講演者や関係者の方々に海より深く感謝。
来年のTIAS(来年は9月だそうです)も楽しみにしたいと思います!

(※写真はavcatさんからお借りしました)
live & イベント | - | - | author : miss key
加藤訓子「ライヒ〜ペルトの世界」at トッパンホール
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先日触れたばかりの加藤訓子さんのペルト楽曲の演奏だが、
1日の夜、トッパンホールで行われたコンサートは、
リンレコーズからのアルバム"Cantus"とその1つ前の"kuniko plays reich"を
なんと一気生演奏してしまおうというもの凄いプログラム。


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いきなりハイテンション、という訳には、演奏者も聴く側もいかないだろう、
ということなのか、前座的なものも自分でやってしまおうということなのか、
1曲目はクセナキスのルボンだった。
でも以前に聴いて知っていたルボンとは全然違う、筋肉質でパワフルなルボンに焦る。
焦る必要は何も無いのだけど、これから始まるタフなプログラムの予告のようであり、
まるで準備体操のようにして軽々と演奏されてしまったルボン。

そして続け様にシックスマリンバ、ニューヨーク、ヴァーモントと
カウンターポイントのアレンジ曲が演奏される。
予め録音されている自演の音源を再生し、
その上に生演奏を重ねて一つの音楽にするという試みは、
回を重ねて相当の完成度に。
もちろん耳で録音再生を聴いてではタイミングが全然合わない難しさを、
つい忘れてしまいそうなぐらい。

そして今回、期待で思わず前のめりになってしまった後半、ペルトのプログラム。
ここ数年、幸運にもリュビーモフのピアノや訓子さんのヴィブラフォンやマリンバで耳にした楽曲の数々。
ピアノ曲も素晴らしいが、1音、1音の打鍵から生まれる深い深い揺らぎに包まれる幸福。
作曲家がイメージしていたのは、むしろ後者ではないかと思えるほどに。

加藤さんのライブはこれで数度体験できたわけだけど、
最初じわじわ、曲の途中から空気の動きを感じるほどのグルーヴで、
観客もろとも会場空間全体を掌握してしまう。
そして、まるでご本人が遠い世界に行ってしまったような錯覚を起こしてしまうのだ。

最後に演奏された「鏡の中の鏡」の手前でMCが入り、
そこでこちら側に「戻ってきた」訓子さん。
ひと呼吸置けたことがあったんだろうか、静かに染み渡るような演奏だった。
もうここで終演であっても十分以上に満足だったが、拍手が止まずアンコール演奏に。

今夜のアンコールはマリンバによるバッハの無伴奏チェロ組曲第1番。
どうしてこの曲が選ばれたのか。
訓子さんの解説では、
前半はライヒ、後半はペルトと、動と静の二つの世界のミニマルだが、
ミニマルミュージックを辿ってみれば、バッハにいきつくのではないか、と。
彼女がここ数年、アレンジにアレンジを重ね、追求して来た世界の、
その答えの一つがバッハだったのかもしれない。

コンサートが終わった直後の脱力感、
そして間もなく深い爽快感が全身を包み込む。
会場を出て駅に向かう道すがら、なんとなく膝の動きがちぐはぐで、
そういえばルボンのリズムもこんなだったよねえと思い出してみるのだった。
それにしても、ライブ演奏は一期一会であることを改めて痛感した都心の夜だ。


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live & イベント | - | - | author : miss key
AMETORA
日が短くなった。
夕方5時になる前に窓の外が暗くなる。
視界が狭くなったようで、だからというのではないが、何だか寂しい感じがする。

季節はすっかり落ち着いてきたというのに、
盤探しの勢いはどういうわけか一向に衰える気配がなく、
適度な間隔で「これは」と思う盤に出会ってしまうのは、
運以上のものだと思いたい。


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UAの2ndアルバム、Ametoraはなんと98年リリース。
そんな前の作品なんだと意外に思いつつ、
1曲目の「哀しみジョニー」は当時話題になったTVドラマの主題歌だったが、
ドラマの筋立てを思い出すに、随分時代めいていて、ああそうだったなと納得。

渇いた声、くぐもったエフェクトまみれのオルガン。
独特の発音でひらがなの音が日本語じゃない、何処かの世界のことばに聞こえる。
この辺り、手元にあったベスト盤のCDだとなぜか上手く出てくれなくて、
どこかふん詰まった感のある再生音が今ひとつ好きになれなくていたが、
最近やってきたこのレコードで、悩み解消。
再生装置の違いがあるから、一概にはいえないのだけれども、
うまく解れて歌と伴奏とが自然にまとまるのが、何と言ってもいい。

ちなみにAmetoraのレコードは2枚組の見開きジャケット。
当時、限定発売だったようだけど、中古で探しやすい方だと思う。
盤自体もいまどきのような重量盤じゃなくて、ごく普通のもの。
けっしてワイドレンジではないし、hi-fiでもないけれど。

曲によってはホーンセクションを入れたお洒落なJazzアレンジだったり、
ものすごくブルージィに作ってあったり。
70分近いボリュームがあるも、一気に聴いてしまえるのは、
ひょっとしたらわたしの心が渇いているせいなのかもしれない。

遠い空にチカチカと点滅する航空障害灯、ぽっかり浮かぶ高層ビル街のかたまり。
こんな背景にこれほど合うアルバムがあったなんて。
一貫したコンセプトの中にも意外性が詰まった魅惑の1枚。
pop & rock | - | - | author : miss key