音の快楽的日常

音、音楽と徒然の日々
こころ旅、というけれど
田舎にて年越しの準備や掃除の合間のこと。
家族が気に入って必ず見ている番組があるというのでいっしょに見てみたら、
予想外に面白かった。

俳優、火野正平さんがスポーツサイクルに乗って全国を旅して廻る様子を、
出会った人々や場所のエピソードと共に淡々と伝える番組。
全国の視聴者から各々の思い出の場所が綴られた手紙が届いていて、
その中から選ばれた手紙の「思い出の場所」が旅の目的地。

素朴というのとは違う、独特の語り口。
火野という俳優のイメージが瓦解してしまうほどの印象に戸惑ったけれど、
地味な中にもお洒落な出で立ちに、合点がいくというかほっとするというか。


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部屋に戻り、その番組のことを思い出していたら、
つい懐かしくなって古いレコードを引っ張りだしてみた。
俳優が歌った作品が好きでいろいろ聴いてきたけれど、
火野の歌は今のわたしには少々甘ったるく、どこかくすぐったい。
レコードのジャケを見て分かるとおり、随分若い頃のアルバムで、
それは流れ出る音を聴けば、同じ年代の方ならそれとわかるもの。

で、今回改めて調べてみたら、2009年に歌の活動を再開してアルバムも出ていた。
「ウーマン達への子守唄」。
過去の作品を含むカヴァーと新曲からの全10曲構成。


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残念ながら現在は廃盤のようで、中古盤で入手したが、
これもまた以前の歌声のイメージで聴き始めたらかなりの驚きだった。
お酒で喉が焼けているんだろうかというような声質の変わりようもあるが、
歌自体はラヴソングなんだけれど、これがじーんと沁みる。
いやもうまいりました、こういうのありですか、ありですよね、といった感じで。

どうやらカラオケにも入っているようだ。
10曲目の「今年の薔薇」、新年会二次会向けに練習しよう♪
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Song for You
しばらくネットのつながっていない田舎の家に戻っていた。
TVとラジオはあるが、逆に娯楽と言えばそれくらいのもので、
ネットやメールから少し離れてみると、それだけで時の流れが変わるような気がした。
それにしても、まるでわたしが冬の寒さを連れて帰ったかのように連日降る雪に、
わたしも実家の犬もすっかり参ってしまった。

それにしても、雪の降る夜というのはなんと静かなことか。
これが雪国であれば、もっとしんしんと深い闇夜の音がしたりするのだろうか。
南の海に近い田舎は雪が降っても積もることはまずないが、
風に揺れる草木の音がさわさわとして、
虫と蛙の大合唱の夏の夜とはまた違った良さがあるなあと。

***

気がついたら今夜はもうクリスマスイブ。
道理で帰りがけの商店街ではチキンやケーキを屋台で売り出していた訳だ。
喧噪をくぐり抜けるようにして部屋に戻り、しばらくは何も音楽を流さずにいた。
あの田舎のしんとした空気とは違うけれど、
暗がりの部屋の静けさを、少しのあいだ大事にしたいと思った。

こんな夜は好きな曲を1曲だけ。
"Song for You"は手元に幾通りもあるけれど。





Jachinthaの歌う"Song for You"。
音の良い盤ということで人気の作品で、しばらく品切れが続いていたが、
最近になってまた再発しているようだ。

彼女の素晴らしい歌は勿論のこと、歌を包むようにして再生される気配が素敵だ。
小さな音でそっと耳を澄ませながら聴くのもいいし、
ある程度のボリュームで存在感たっぷりに楽しむのもいい。
音数が厳選されたピアノの伴奏も、文字通り寄り添うようにして心地良い。

いつかも取り上げたアルバム、"Song for You, Karen"。
曲目を見ればこのKarenが誰のことかわかるはず。
この日に紹介するなんて遅すぎるけれど、
こんなアルバムが手元にそっと届いたりしたら、
その人との距離がぐっと近く感じられるに違いない。
大切なひとへの贈り物にもお勧めの1枚だ。
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素敵な本棚のある
その部屋は、柔らかな光が差し、暖かでゆったりとした広さがあったが、
何と言っても、壁際に並んだ数本の本棚が本当に素敵なのだった。
もちろん、本棚という家具が、ではなく、
丁寧に並べられた、否、それ以前に部屋の主に読まれるべく集められたその本が、
本棚を見れば人柄が掴めるなどと言う人もいるくらいだけれども、
はっとするような魅力があったのだ。

当時、語学をやりたくて夜学に通っていたころに知り合った方で、
学生時代は英文学専攻だったと思った。
不思議の国のアリスのその国から逃げ出してきたような浮世離れした様子に、
昼間は固い事務のしごとに追われている風情はまるでなかったが、
それが顔の疲れが抜けないわたしなどは羨ましくて、
ほんのいくつも変わらない同性の学び手と話すのが楽しくてならなかった。

最近、何年も思い出す機会のないような出来事を夢に見て、
朝起きて驚きのまま、身支度も半ばにぼんやりしてしまうことが増えた。
いったいなんだというのか。

20年近く経ってわたしがしたことと言えば、
上京時から溜まりに溜まった本を整理処分し、本当に読みたいものだけ手元に残すという、
まるで老前整理のムックにでも出て来そうな一連の作業だった。
何度も組み立て直したが故に歪んだ本棚は処分し、
1本だけ気に入ったチーク材の本棚を購入。
すでにそれは一杯になり、ここからどう整理したものかと、
こうして寝る前にぼんやり眺めてはつい考え込んでしまう。
せめて彼女に、上手な本の集め方をおそわっておくのだったと。

もっとも本は人なりで、
集まった本の様子はまさにその人の考えや生き様を映す鏡のようであり、
複雑な思いがあるも、雑多で統一感のないこの目の前の様子が、
そう捨てたものでもわるいものでもないかもしれないと思ったりもする。


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件の彼女がまたうちに遊びに来てくれるような機会があったら、
まずはこのアルバムを聴いてもらいたい。
Piotr AnderzewskiのPiano Works、シューマンの作品集だ。

クラシック音楽を当時のわたしは全く聴かなかったから、
ちょっと暗くて湿っぽいピアノトリオなんかを流しながらおしゃべりしていた。
今思えばお客さん思いのBGMではなかったなあと。
Piotrの弾くピアノの響きのように、どこまでも澄んで優しい音楽なら、
きっと気に入ってもらえるだろう。

寒さも本格的になってきた。
明後日には都内も初雪などとニュースが流れている。
しんとした雪の夜、静かに過ごしたいひとときにお勧めの1枚だ。
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紅いコートの少女
オリンピックそのものにはあまり関心がないが、
冬の競技のフィギュアスケートだけは例外だ。
ロシアのソチ開催ということで、開催都市決定後は話題に事欠くことが無かったが、
先日のグランプリファイナル女子の大会では6人中何と4人がロシアの選手だった。

中でも、ユリア・リプニツカヤ選手の演技は、
技術の確かさや体の柔軟さを生かした美しい演技と表情の豊かさでもって、
ひときわ目を引いた。
フィギュアスケートにしては厚手で少し重そうな深紅の衣装。
曲の滑り出しで、嗚呼あのシーンだと。
あの映画全体に横たわる重たさは冬の薄曇りのように一定にして、
画面が途切れてからも胃の辺りに残っていたのを思い出した。






彼女のフリースケーティングの曲は「シンドラーのリスト」OSTのメインテーマ。
音楽はJohn Williams、テーマのヴァイオリンソロはItzhak Perlman。
映画そのものは見ていなくても、曲の出だしで否が応でも想像できてしまう。

演技を見る前にこの曲で、というのを知っていたなら、
いくら素晴らしい技量の持ち主といえども15歳の少女にはと余計な心配をしたのだろうが、
まさに杞憂のひと言に尽きる。


 






オリジナルサウンドトラックは全14曲。
全編に渡って弦の響きを生かした美しいアレンジと、
映画音楽ならではのダイナミックさが自然に共存し、
音楽自体が一つの物語のように悠然と流れていく。
Perlmanのサウンドトラックへの演奏を集めたCDがSonyから出ているが、
メインテーマのコンピレーションなので、できればこちらのOSTで聴きたい。

映画作品の方も、今年は製作20周年のメモリアルイヤーにあたっているそうで、
限定版のソフトが改めて発売されている。
モノクロ映画だからこそ、滑らかな美しい映像で楽しみたい。
もっとも当時のリーアムの演技から、
現在のようなアクションバリバリのサスペンスで主演なんて
とても想像できなかったが・・・。
主題は重いが、この機会に今一度見直したい作品だ。
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闇と光に揺れる - Ivo Pogorelich Piano recital
去年出かけたPogorelichの演奏会があまりに素晴らしく、印象的だったので、
また来日公演があるときは絶対に行こうと決めていた。
昨年に続く2013年の来日公演は3カ所。
そのうち2日目のMuza川崎と最終日のサントリーホールの公演を予約。
チケットと一緒にサイン入りの写真が届いたのは招聘元の用意した特典だそうで驚いたが、
もっと驚いたのは、そのサインを用意したIvoが事前のインタビューで、

「いくつかの写真には❤️を書いたので当たった方はおめでとう!」

などと語っていて(このblogに絵文字を使ったのは初めてだ)。
わたしは残念ながらその幸運に恵まれることはなかったが、
そういうお茶目なところがあったりするんだというのが意外だった。


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12月6日の夜、被災改修後のMuzaに初見参。
開場ギリギリ、食事を摂るか、開演前に普段着のIvoがピアノに向かう姿を見るか。
迷う必要など全くないが、演奏者に手の届きそうな席だったので、
お腹が鳴ったりしたらどうしよう、などとくだらない心配までした。

当夜のプログラムはショパンとリスト、去年聴いたプログラムの再演。
事前の指慣しなんだろうか、時に不協和音を交えて静かに流れるピアノの音も、
確か去年耳にしたものと同じだ。
何かを一つひとつ確かめるようにしてピアノを弾きながら、
時々顔を上げて会場を見やる表情はどこか厳しいものがあった。

前半のショパンの葬送、そしてリストのメフィスト・ワルツ第1番。
自問自答のような演奏、ものすごく慎重に見える運指、この気配の重たさは何だろう。
会場の響きの違いを差し引いても、同じ曲が違うものに聴こえるほど印象が違う。
冷たい金属の塊をじっと胸に押し付けられるような重さに思わず溜息が漏れた。

後半が始まる前に、ピアノの調律が。
どこか仄暗さを感じさせる響きはごく僅かなピッチの影響もあったんだろうか。
後半の1強目、ショパンのノクターン ハ短調op.48-1は、
音の粒立ちや音の消え往く様の艶やかさにうっとり。
ラストのリスト、ピアノ・ソナタ ロ短調はもう半ば口を開けたままになってしまい、
アンコールを求める拍手の波間にかろうじて漂う抜け殻と化した。

それにしても。リストの曲というのは・・・。
からっぽの躯に遺された黒いかたまりを、
誰でもいい、手を突っ込んででも取り去ってくれないだろうか・・・。


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***


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中1日挟んでの8日はサントリーホール。
さすがに12月の夕方ともなると、外で開場を待つのは体が冷える。
今夜もまたあの黒いかたまりが胸に迫るようなのだとどうしようと気弱になるも、
やっぱりPogorelichのピアノに触れたい気持ちの方が大きいから、
席は指定だというのに、開場後きっちり中に入ろうと列に並ぶ。


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この開場の合図のからくり時計が、
プラハの街にあったような、もう少し派手なものだったらいいのになどと
つい勝手なことを考えつつ、心の中ではもう大拍手。

さて、最終日の夜はオール・ベートーヴェン・プログラム。
衣装は一昨日のままに、開演前の儀式のPogorelich。
でも、長調の和音を中心にして、ときおりベートーヴェンの楽曲のフレーズも。
弾くというより、指がかすかに鍵盤に触れるようにして静かにピアノと対話しているよう。
あまりに間近い席のせいで、

 「座るとズボンの裾がすごく上がって短くなってしまってる」とか、
 「Chetも晩年大好きだった細いストライプのズボンが可愛い」とか、

演奏とは関係ないどうでもいいことが気になってしまい、肝心のわたしが集中できない。
儀式の演奏が陽性で軽やかな調子のものだったから、
緊張がつい解れてしまったのもあるが、
ほんとうに演奏に浸ろうと思えば、
こどもなわたしには少し離れた席の方が良かったのかも知れない(反省)。


演目の予習も怠り無く挑んだ当夜のリサイタル。
曲目も何も違うけれど、ピアノの響き、
音楽そのものがぐっとこちらに近づいてくる演奏に体中の細胞が全開モード。
正直、ベートーヴェンが素晴らしいと思って前のめりになったことはあまりなく、
好きなピアニストができてから、少しずつ聴き進めてきて、
子どもの頃のような食わず嫌いで聴く前から疲れてる、みたいなことはないが、

 こんなにベートーヴェンの曲が好きになるとは!

ピアノ・ソナタ第8番の「悲愴」に始まり、ロンド・ア・カプリッチョを挟んで22番に。
休憩後は続く23番「熱情」、24番を。
もちろん予習はしたし、半分は前からよく知ってる曲だ。
でも、初めて耳にしたような新鮮な驚きと、
不意に手を引かれて知らない空間に連れ出されるような不思議感覚の連続。

そう、抵抗せずに身を任せてしまおう。
理解しようとかどうとか足掻くのではなく、無駄な力を一切体から抜き去って。
彼の奏でる音楽を目一杯楽しむにはそれがいい。
地の底まで届きそうな垂直の力を込めての低音の連打も、
消え入る様がなんとも美しく切ない高音のピアニッシモも。
音と音の間合いまでもがこちらに語りかけてくる。
それでもたじろぐことなく身を預けよう。

アンコールは一昨日も弾かれたショパンのノクターン。
冴え冴えとして一層音の引き立つ演奏に溜息が止まず、
席を立つことがなかなかできなかった。
そしていつもの地下鉄に乗って部屋に戻ったのだが、
どう帰って来たのかも思い出せないほど、ずっと興奮が続いていた。

なのに、目を閉じれば、
あのフレーズでの右手指の動きが今もそこにあるように思い出せてしまう。
眠れぬ夜がこれほど幸せに感じることはこれからもそうはないだろう。
自分の手をじっと眺めては溜息する冬の夜だ。


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「嶋護の一枚 - The BEST Sounding CD」
音楽好きにとって、「この一枚」を探し出すのは終わりのない旅のよう。
世の中には素晴らしい音楽は何千とあるのだろうけれど、
自分が「必要」としない音楽の数もまた星の数ほどあるわけで、
これという存在を知って探すのはまだしも、そうでないなら出会いはまさに時の運。

もしとめどもないこの旅にこの1冊!というガイドがあれば・・・。


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「嶋護の一枚」は、専門誌で連載中のコラムを中締めのようにして集めたディスクガイド。
連載が開始された2003年からの10年分39本とボーナスの計40本から編まれている。
以前紹介した「名録音106」と違い、図版も必要最低限にして一見地味な印象だが、
これがどうしてトリッキーで、内容は幅広く次の1枚は予想不可能、
その色鮮やかさ豪華さは「名録音106」に引けを取るどころか・・・!

本編に入る前に置かれた「はじめに」の4ページは旅の心得のようにして、
まさに文字通り、この本をどのように読めば楽しめるのかが掴めるガイドになっていて、
なぜこれらの音源がとりあげられたのかと同時に、
それらをぜひに聴いて欲しいという著者の思いがひしと伝わリ、気が逸ってしまうほどだ。

でも、このディスクガイドは逃げも隠れもしない。
文字通り、快哉を叫ぶと同時に今風に言えば胸熱な「はじめに」を通過したら、
縦横無尽に音楽という名の宙を旅する船に乗り、
あとは読者の思いのままにもくじから好きなディスクを選んで読み出せばいい。

よい音のするディスクを追い求めて、と帯にも銘打ってあるように、
録音の時代背景や技術的側面に分析を加えながらの掘り下げた解説に、
何も尻込みすることはないのだと思う。
その辺り、わたしのようなただ音楽を面白がって聴いている不勉強なリスナーには、
ちょっともったいない、その凄さが半分も理解できなくて猫に小判だけど、
行間から溢れる「この一枚」を探し求める読者への温かな眼差しもあって、
どんどん読み進めることができるのだから。

正面切って並べられた40枚のディスクの他に、
各コラムの中にこれこそ1枚というような素晴らしいアルバムの情報が詰まっている。
例えば、読み出して途中、どうしてもこの音楽が聴きたい!と捜しまくってしまった1枚が、
先の写真に写っているPhilippe Sardeの"La Petite Apocalypse"。
モラゲスというクラリネット奏者によるモーツァルト集のCDの紹介の件に出て来るのだが、
まさにこのアルバムの紹介を読んで、いてもたってもいられなくなった。
特に心の真芯を捕らえた3行をここに書き出したいけれど、ネタバレはまずいだろう。
Sardeのファンの方なら、もしこれをお持ちでないなら、必聴の1枚とだけ書いておこう。

アポカリプスつながりではないが、何とバイオハザードのサントラまで取り上げられていて、
これを単にゲーム音楽まで取り上げられた、と言うだけでは物足りない。
既成概念の囚人とならずによい音のするディスクを追い求める、ということ以上に、
その分け隔てのなさは音楽への深い愛のなせるわざかと。
とすれば、一方で音源への厳しい批判も理解できてしまう。

こうでなくてはいけない、というような縛りからの解放感、
そして丁寧な表現から繰り出されるまさにこの一撃というのが、
痛快と言わずして何と言えば良いのか。


ノイマン&チェコフィルのオペラやテミルカーノフのマーラー5番、
果てはジョン&パンチのサントラ集にまで言及された論集は、
偶然にも個人的にかなりのツボな1枚が積み重なり、
これを読まずしてと大興奮のままに人にお勧めするのもどうか、なのかもしれないが、
手にする人のスタンスや求めるものに応じていろんな読み方を許してくれる一冊は、
長い長い旅のお供にあって、荷物でも損でもなんでもない。

手元に届いてから何度か読み返しているのだけれど読む度にわたしなりの発見がある。
標題となった1枚の解説中に盛り込まれた紹介盤にも熱視線を送りつつ、
或はこのコラムが季刊ステレオサウンドで現在も連載中であることを更に楽しみにしつつ、
はたまた「欲しい盤がなかなか見つからない!」というむず痒さに堪えつつも、
旅を続けることにしよう。

もちろん、書かれた通りに追体験するのは簡単ではないとわかりつつも、
ついついこうして読み返しては新たな想像と期待が膨らんでいく。
紹介された盤をきっかけにさらに行きたいところが見つかってしまう、
悩ましさ満載のディスクガイド。
願わくば、わたしのようなリスナーのために本書の第二集、第三集が出ますように。

◇ 「嶋護の一枚 - The BEST Sounding CD」 
  嶋護(しまもり)著(株式会社ステレオサウンド社) 
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Rumours
随分といい時代になったもんだ

いきなりなんだといわれそうだが、
つい先日、改めてのLINN Exaktシステムの紹介イベントに参加した帰り、
銀座の雑踏にまぎれてそんなことを呟いていた。

偶々、その際のデモンストレーションに使われた1曲目がFleetwood MacのRumoursの曲で、
内緒で欲しかったものを期せずして贈られたときの嬉しさ爆発のような、
ポン!と軽い破裂音(お祝い事のような)が頭の中でしたような気がした。
ああ、ほんとうにこんな風に音楽が聴ける時代になったんだ、と。


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手元にある彼らの何枚かのアルバムは、基本、アナログレコード。
でも彼らの音楽を外にも持ち歩きたくなり、RumoursだけはiPod用にCDも買った。
うっきうき〜な調子に気分をあげたい時の曲、
仕事でしくじって落ち込んだ時、自分に優しくなれる曲、
今いる場所から瞬間テレポートで異空間に連れていってくれる曲。
まるで元気の素が何種類も揃った不思議の箱よう。

今日、まさに今日のこと、惨劇というしかない出来事が目の前で起きた。
用意周到に進めてきて、何故こんなことが起きるのか、こういう結果になってしまうのか。
熱冷ましに冷たい風に当たりながら都心のペデストリアンデッキで夜景を眺めていたら、
何となく口からRumoursの曲が付いて出て、
ああ忘れちゃいかん、この手があったと、iPodを取り出した。

理不尽の雪隠詰めに遭い、悔しかったり情けなかったり或は腹立たしく思っても、
こういう時にはなぜか涙など出てこないものだ。
涙をがまんするのも、あるいは出ない涙を流そうとするのもエネルギーの要ることだと、
つまらないことを考えていたら、すっかりいい時間になり、
ヘッドフォンからはアルバム最後の曲が流れてた。
Rumours、寒さを忘れるほど冷えきった頭と心のための1枚だ。
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Water Mirror
とうとう今年も12月を迎えた。
早いもので、ということばを一体何度繰り返したろう。

ここ数日で一気に冷え込むようになり、大掃除の意気込みも削がれてしまったが、
手帳の残りを見て、できる範囲でものごとを整理しようと思う。

昨晩、もう何年も前に住んでいた街の様子を何ともリアルに夢に見た。
ある方のメールにあった、いつかの下宿の話題が当時の記憶とつながったようで、
畳の焼けた様子や夕暮れ時の光の射し具合、ベランダに転がっていたガラスの欠片などと、
どうでもいいものまでそれこそ手を伸ばせば届くような気がした。

覚えていないようでいて、そうでもない、
心の奥深く沈んだ記憶の、こうして時折所在なく浮かび上がってくるのには、
首根っこを掴まれた子猫のようにして、正直参ってしまう(笑)。

そういえば、という訳ではないけれど、
その時の大家さんから貰った応接セットの椅子、
部屋が狭いからと1脚だけいただいたのだが、
さすがに30年以上も使われて来て直すのも難しい状態になったので、
思い切って処分することにした。
この椅子を眺めていて思い出せることも多々あり、
そういう意味でなかなか思い切れなかったが、
大切な思い出や記憶というものはものに頼らずとも胸の奥でそっと息をしているのだと、
今回あらためてそう思えたから。


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日曜の静かな夜にぴったりの1枚、
大石学さんのピアノソロアルバム、"Water Mirror"。
先日訪ねた北欧の古い雑貨を集めた店で流れていたのを教えていただいたもの。

澤野というレーベルから出ているアルバムは、
ピアノの音色に特徴のある作品が多いように思う。
大石さんのピアノ、
打鍵の調子や指使いが、どこかミラバッシを思い浮かべさせるようでいて、
弱音のリリカルな響きがしんとした寝室の暗がりに溶けていくのがいい。
眠れぬ夜のお供としてもお勧めの1枚。
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