音の快楽的日常

音、音楽と徒然の日々
Stay with me
ソチオリンピックが終わった。
否、正確にはアイスホッケーの決勝とセレモニーがまだ終わってないが。
私的にはプルシェンコの負傷、欠場があって早々と盛り下がってしまったが、
そういいつつ深夜の中継の連続ながら、結構な競技数を観てしまった。

力が入り過ぎて、観ているだけなのに消耗したのがフィギュアの女子シングルで、
今回の浅田真央さんの演技はあまりに強烈で忘れることができないものとなった。
単に技術的に優れていることと、
観る者の心を揺さぶることができるのとは違う。
そのことを改めて噛みしめる時間だった。

素晴らしい演技におつかれさまと心からの感謝を込めて。
英国のギタリスト、John Verityのバンド、Phoenixの曲、"Stay with me"を。


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エモーショナルなスローバラード。
アルバム"Still Burning"は2010年にセルフカバーのような形で出ていて、
この"Stay with me"もオリジナルのアレンジよりぐっと迫る感じがいい。
CDは入手が少々面倒だが、ダウンロード音源ならいくつかのサイトで入手できる。
わたしはLinn Recordsのflacデータを購入した。

それにしても、エキシビジョンでの表情が同性ながら何とも魅力的だった。
このことだけをとっても、競技の重圧の凄まじさが想像できようが、
さらに気持ちを切り替えて来月の大会に臨むこと自体もまた想像を絶する。
とにもかくにも、
頂点を極めんとする選手の気持ちが少しでも和らぐひとときがありますよう・・・。

◇ Johen Verity Official Site  http://www.johnverity.com

(追記)
 フィギュア・ペアの金メダリストのエキシビジョンでの使用曲"Опять Метель"は、
 以前紹介したこちらの頁でどうぞ。→ http://miss-key.jugem.jp/?eid=1288
pop & rock | - | - | author : miss key
祈るような
祈るような思いをすることの多い毎日。
大雪の悲劇であったり、ほんのひとときのバカンスを襲った出来事であったり、
或はこれがもう最後と決めて挑んだ勝負でのアクシデントであったり。

どこか落ち着かない1日を何とか終えての1枚を。
Jordi Savall率いる古楽グループのアルバム、「エルチェの聖母被昇天劇へのオマージュ」。


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澄んだ空気の中を伸びやかにたゆたう美しいソプラノ。
ついさっきまで耳に残っていた喧噪も、全て一瞬にして消し去るような。
祈るということばの意味が、
信仰を持たないわたしにもほんの少し実感を持って感じられるような。


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ただ慌ただしくも過ぎ去るのみの毎日から切り替えたくて、
部屋の中に花を置いてみた。
夜、部屋に戻ったときには凍るような冷たさの部屋で、
それでも花のつぼみが少しずつ膨らんでいく。

枯らしてしまうのが嫌で、しばらく花の類いは避けていたが、
どうであれ形あるものは朽ちていくのだから、
なんでもない当たり前の自然を自分に取り戻すには、
こうして生きた花の様子を日々眺めてみるのもいいのではと思った。

ほんとうは、
名も知らぬ季節の草花が生い茂る庭や草原で、
風の匂いを感じながら過ごすのがいいのだろうが。

それにしても、時のあちらとこちらを行ったり来たりするような、
あまりに美しすぎる声に胸の内をさらけ出されるようで少し心許ない。
それでもstopボタンを押す気にはなれない、魅惑の1枚。
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集めるということ
「手放す時代のコレクター特集」

というタイトルに釣られ、つい買ってしまった雑誌。
車中の中吊りではないが、表紙やキャッチコピーはやっぱり大事だ。


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愛すべきおたく特集のような雑誌は少なくないが、
興味や収集の対象となるグッズがこれほどカラフルに彩られていて、
集めることの愉しさを端的に伝えてくれるものはそうないだろう。

どのコレクションも驚きと充実の溜息ものだが、
露盤の、しかも貴重な稀少盤ばかりのコレクターが紹介されている頁には、
いやもうなんともはや。
そういう拘りが長期に渡って持続する、というのが羨ましすぎる。
わたし自身は薫りのようなものが感じられれば盤そのものにはそれほど条件を付さないが、
そういうエネルギーが、わたしのどこを探しても無いもので、
無い物ねだりとはこのことだと痛感した。

この方が集めたレコードのジャケット集が昨年出版されたばかりで、
こういう本を手に取るのはどんな人なんだろうと時折眺めてもいる。
それにしても。
ブルータス本号に掲載されたコレクター諸氏の幸せそうな表情といったら。
集めることは人生を楽しくすることに通じる近道なのかも知れない。
集められる、そのエネルギーと集中力がほんとうに羨ましくてならない。
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廃墟嗜好
書店巡りでひっかかったこと。
廃墟をテーマにした写真集のなんとたくさん出ていることか。
いや、何年も前から、その手の本は並んでいた。
それは廃線跡だったり、或は軍艦島のような特殊な環境であったりしたが、
昨日棚に見たような、とにかく廃墟なんだ、という
おどろおどろしくもつかみ所のない作品集というのは見た覚えがなかった。


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部屋に戻って検索してみれば、
個人ブログの廃墟をテーマにしたものが随分とあって、
写真の中の一つのカテゴリーになっていることが理解できた。

滅びていくことの中に何か止めておくことのできない美しさや儚さを感じたり、
というのは、散る花を愛でる気持ちにも似てよくわかる。
でも、既に廃墟として時がそこで止まってしまっているかのような恍惚の世界。
それが、迫ったり引いたりしながらも延々とつづいていく。


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廃墟写真の中には、あるものには生きているものに感じるのとは違う、
はっとさせられるものがあるけれども、
胸を押しつぶされてしまうかのような重苦しさに満ちて、
あんぐりと口を開けているような底なしの暗さを感じさせるものもある。

怖いもの見たさに近い気分で、何度もページを閉じては開いてしまう。
これはもう自分でそのような写真を撮りだしたら、
足が抜けなくなってしまいそうな。

レンズの前にあるものが写し撮られているだけでなく、
そこに撮る人間の心持ちも映し出されてしまうのが空恐ろしい気もする。
こんなことを考えていると眠れなくなるので、今日最後の1枚を。
タリスの「エレミアの哀歌」をThe Hilliard Ensembleで。


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それにしても、いろいろな「廃墟」を、
写真に写った廃墟の世界を、
廃墟に囚われてしまった撮り手の胸の内を、
決して見てはいけなかったものを覗き見てしまった気がして、
どうにも心のやり場が見つからない。
そういう夜もたまには悪くないのかもしれないが。


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よもやま | - | - | author : miss key
蔦屋体験
今月の雑誌は部屋と趣味、本をテーマにしたものが次々に出て来て、
普段買わないようなタイトルもついつい買い込んでしまった。
ポパイ、ブルータス、そしてRoost。
手放すのではなくてもの集めをいい意味で肯定した中での特集は、
各々の個性が溢れる、眺めていて楽しくなるものばかりだ。

そんな中で、「本と暮らす」をテーマにしたRoost vol.2の中で紹介されていた、
代官山の蔦屋書店に行ってみた。


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雪がちらほら舞う寒さの中、店内はお客で賑わっているのにまず驚いた。
活字離れ、なんて言い古されたことばもあるが、
PCとコーヒー片手にくつろげるコーナーは満席で、
ごく普通の書店でもなく、図書館でもない空間を掴み切れないのか、
わたし自身はこのお店の提案になかなか馴染めずにいた。

​これという本を探しに行くには、どうやら普段利用するお店の方が合いそうだ。
棚の作りが頭の中の引出しと合っているとでもいえばいいのか。
2時間ほど「漂流」し、
写真集の棚のヴィンテージ(古本)コーナーに溜息しつつお店をあとにした。


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結局、探しものはいつもの紀伊国屋にて完了。
30年近くも通っていると、どこに何というのがよくわかっていて安心。
サブカルな強烈提案、とか、文学を極めているからこそのこの1冊とか、
ある意味極端だったりするのは他に譲るのかも知れないが。

帰りの電車に揺られながら思ったのは、
東京の地の利だ。
新刊書も古本も、これほど縦横無尽に探せるエリアはそうないだろう。
レコードについても全く同じことが言えるのではないか。

最近、仕事の慌ただしさにかまけてつい探す努力を忘れてしまっているが、
環境に甘えず、活かしていかないともったいないことを痛感。
おしゃれなファッションに身を包んだ若い人たちに紛れながら、
楽しさ半分、反省半分の1日だった。
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大雪の静かな1日
今週は頭痛が酷かったから、きっと雪が降ると思っていた。
雪にあたると言って、降雪の前後に体調を崩すのを田舎ではそう呼んでいる。
それでも、こんなにも雪が降るとは。
10年ぶりの、20年ぶりの、そして最後には45年ぶりのと数字がどんどん増えた。
ニュースでの数字も増えたが、雪もみるみるうちに積もっていった。


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昨晩から大雪で外になんか出られないだろうからと食材も買い込み、準備万端。
まるで世の中が全て休みになってしまったような静けさ。
暖房がなければまるで冷蔵庫のように冷たい部屋の中で、
こんな日には一体どのアルバムが合っているんだろうなあと思いながら、
いくつかかけてみたら、
ピアノの独奏がいい具合に響いて体の中に溶け込んでくるようだった。
中でも特に印象に残ったアルバム、Keith JarrettのParis Concert。





当初、CDで買って聴いていたのだが、偶然同じアルバムのレコードを見つけてしまい、
それ以来、この作品はレコードで聴くようになった。
1曲目が38分もある長い曲なので、レコードでは2面に渡ってしまう。
コンサートの雰囲気をノンストップで味わうという意味ではCDの方がいいのかも知れないが、
ピアノを起点にして細かな音の粒子が広がっていく様は、
レコードでの再生の方が、ぐっと胸に迫るものがある。

淡々と流れていく音楽のように、雪はまるで止む様子がない。
一晩中降る雪というのは、ロシアの旅先と、霧積の温泉旅館の一夜しか知らないが、
このしんとした空気の重さまでが皮膚に感じられるような時間が、
この日ばかりは随分心地良く、また贅沢にも思えた。

曇ったガラスの向こうに降る雪を眺め、
寒さも悪いものではないと勝手な独り言をいいながら。
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雪のあと
夕方から雨がみぞれになり、雪になった。
みるみるうちにその粒子は粗く、大きくなって、
高層階の窓から見える風景はまるで吹雪のようだった。

帰る頃には降り積もるのかと思えるほどの勢いだったのが、
外に出てみると跡形も無く、ただ地面が濡れているだけのこと。
なんだ、という独り言が漏れだした。

雪の結晶について書かれたエッセイを思い出した。
小学校の教科書だったか、それとも中学だったか。
中谷宇吉郎さんの作品からの抜粋で、結晶を写し撮った図版も美しかったが、
文学作品とは少し違うところの、日本語のしなやかな美しさが、
子どもながらに印象的だったのだ。





こんな音楽を流すと、寒々しい部屋が一層・・・。
それでも雪の結晶の、あの透明感に満ちた清々しさを思うと、
このアルバムでなくては、と思えた。
Alexander Knifelの楽曲集、"Svete Tikhiy"。

Keller Quartettが参加したアルバムでECMだったから、という理由で買った1枚。
作曲者のことは詳しくはわからないが、ウズベキスタン出身の音楽家だそうだ。

この、しんとした冷えた部屋に広がるピアノや弦の美しい響きよ。
もし一晩中雪が降り積もったのであれば、その美しさが更に極まったのではと思うほどに、
今夜のような冷たくて静かな夜に寄り添う音楽。
雪も寒さも苦手だが、今夜ばかりはちょっと眠るのが惜しい夜だ。
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リヒテルのソロレコーディングス
天井の高い空間での響きというと、まず思い出すのは銭湯だ。
それを教会と言えればおしゃれなのかもしれないが、
残念ながら子どもの頃には教会独特の、
音が天に吸い込まれていくのであろうかといった響きは体験したことがない。

さて、銭湯。
銭湯に通う人はだいたい各々が決まった時間にやってくるものだから、
おなじみさん同士の世間話もあれば、
桶を床に置いたりするときのいい音がするのがいかにも銭湯という感じで心地良い。

少し前のことだったか、ケロリンの桶が流行っていて、一般にも買えるようになっていた。
ケロリンの桶といっても何のことかと分からない方がいるかもしれない。
昔ながらの宣伝方法であったのか、薬の商品名を底に刷り込んだ黄色い洗面器が、
だいたいどこの銭湯でも置いてあったりして、銭湯といえばケロリンというぐらい、
これぞ刷り込みという具合のものだった。

話が逸れてしまったが、銭湯のような音の響きを想像してまず頭に浮かぶのが、
困ったことに(否、別に困らないが)、リヒテルのバッハだ。
リヒテルによる平均律の録音が、
これはどうやって録ったのだろうと思うような独特の響きで、
この演奏をレコードで聴いていると、何やら暗示にかかってしまいそうなくらいだ。

+++

思えば、リヒテルはわたしにとって特別なピアニストの一人であるにも拘らず、
まとめて買ったものと言えばブリリアントのロシア音楽家のボックスセットや
ハンガリーでのライブ録音集ぐらいで、
あとは飛び飛びに気に入ったものを買っているくらいだったが、
かっちりとまとめて聴いてみたいなあと思っていたところに出たのがこのBox Setだった。


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ソロでの録音集で33枚組。
しかもデッカだけでなくフィリップスやグラモフォンから出ている作品も含まれている。
今回の発売にあたり、特にリマスターしているような記述はないが、
全体に音質に不足はない。

先ほどあげた平均律は全曲収められていないが、
バッハ、ベートーベン、モーツァルトはもちろんのこと、
ハイドン、ブラームス、シューマン、シューベルト、そしてスクリャービンと、
主だった作曲家の作品が一通り網羅されていて、
どこから聴いても楽しみな選集になっている。

演奏の素晴らしさは改めて触れるまでもないのだろうが、
時に剛直とまで表現される他所での感想とは違って、
どの演奏もとてもリリカルで胸の内の暗闇までもそっと照らしてくれるような、
リヒテルのピアノはわたしにとってはそういう音楽であったりする。

こうした大部のボックスセットで音源を購入してしまう功罪については、
あちらこちらで書かれたものを目にする機会があるが、
確かにそれらで触れられている通り、1枚1枚を吟味してレコードを買って聴くよりも、
聴き方が大雑把になってしまう可能性は否めない。
それでもなお、廃盤であまりに高価で手が出ないようなものも含め、
単品では購入できなかいものが入っていたりして、
所謂初出音源が含まれていないとしても、こうしたセットものはありがたい点が少なくない。
大雑把にざっと横断的に聴いてみて、どの時代のどの作品あたりが自分に良さそうだ、
というあたりを付けるのにも、まとまった作品集を一気に聴くというメリットがある。
特に、これと気に入ったものをレコードで買い直す、
というようなことをしているわたしにはとてもありがたい。
なによりセットの方が廉価で(これはもう演奏家に申し訳ないぐらいの安さだ)、
購入する側からすればそんなありがたいことはない。

どうやら風邪をもらってしまったようなので、
今週末はリヒテルのシューマンを聴きながらのんびり過ごすことにする。
少し寒さが緩んだせいか、思わず表情もほころぶ週末の朝。
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