音の快楽的日常

音、音楽と徒然の日々
暦通りの
結局、遠出の予定は組めずに淡々と過ぎていく暦通りのGW。
忙しい時期に重なっている不幸な連休ながら、
混まない電車がうれしい通勤途上。

車両の揺れに任せてぼんやりしていたら、
前に座る男性客からじっと眺められていた。
よっぽど顔が緩んでしまっていたんだろうか、
雨の1日をいい気分で始めたいから、車内で聴いていたのは"HOSONO HOUSE"。


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細野さんの歌を最初に聴いたのはラジオ番組だったと思う。
小学校に入学、憧れの!ラジカセを買ってもらってからというもの、
ラジオ放送にかじりつき、暇さえあれば音楽を聴いていた。
がんがん聴いていて特定のミュージシャンや特定の歌に執着が生まれ、
すこしずつ拘りの城を築いていく。

それにだいたい、いいものはいい!と純粋に感じ取れる柔らか頭だったからー
あの時期に出会った「好きな曲、歌」はいまでもずっと好きだったりする。

それにしても「恋は桃色」って本当にいい歌だ。
声を出して歌えない(そりゃ車内でそんなことしたら近所迷惑)のが残念だ。
そんな気分だから、きっと顔が緩んでいたんだろう。
美味しいものを食べた記憶をほっくり返すときと同じように。

これから、こんな風に何度も聴いていつでもどこでも幸せ一杯になるアルバムと、
一体、どれだけ出会えるやら。
後ろを振り返っても、人生、残りの長さは分からないわけだけれど、
ちょっと振り返りたくなる、そんな歳になったんだとしみじみ、
道理で、普通のことばと楽しいメロディで編まれた歌がやけに楽しい今日この頃。


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深爪
週末毎の庭(ベランダ)弄りもすっかり習慣づいてしまった。
土を弄るのは、子どもの頃は実はそれほど好きではなかったのに、
お店でわざわざ土を買い求めてまでこんなことをしているのは、
少々皮肉な感じもする。

すぐ割れてしまうような貧弱な爪だということもあるが、
もともと爪を伸ばすのは苦手だ。
それが、土埃で指先が汚れるので、以前に増して深爪するようになった。
キーボードを触るとちょっと痛みが出てしまうから、切り過ぎているようだ。
それでも、気に入った花が満開を迎えると、
そういうこともまあいいかと思ってしまう。


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日が暮れるとベランダの作業も店じまいし、
休憩しながら音楽を聴くのも習慣となった。
先日観た映画を思い出しながらの1枚、「キャプテン・フィリップス」のOST。


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作曲はHenry Jackman。
映画音楽ならではの作りと音。
静寂と緊張を淡々と伝える響きの力。

映画作品の方は、その背景や描き方など賛否両論あるだろう。
それでも艦長を演じたトム・ハンクスの演技を観れば、
エンディングに思わず胸の中で万歳したくなるほどぐーっと来るものがあって。
個人的にはこの作品かプライベート・ライアンか、というくらい。

映画音楽。
観てから聴くか、聴いてから観るか。
この「キャプテン・フィリップス」は観るのが先の方がよさそう。
映像の迫力を知ってから、淡々と聴くOST、
メロディが覚えられるような類いではないが、シーンが自然と蘇る。
映画音楽って凄いと思う瞬間だ。



 
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hollow talk
北欧のミステリーやサスペンスものは本当にハズレがない。
ミレニアムシリーズをきっかけに見始めた北欧作品初心者だが、
最近はレンタルショップでもいろんな作品が並んでいるのがありがたい。





The Bridgeという2011年のTVドラマ。
デンマークとスウェーデンの国境で発生した殺人事件を皮切りに、
次々とおこる猟奇的事件。
そして事件を軸として複雑に絡み合う人間模様。

色数の少ない街や風景の描写が少し重たく感じられるかもしれないが、
ひとは決して完璧な存在ではなく、
各々が何かしらの闇を抱えて生きているものだという、
物語の底に淡々と流れている強いメッセージがいい緊張感を与えてくれる。

まるで凍りついた大地から響いてくるような主題歌。
似たようなサウンドが他に無い訳ではないが、
この物語にこの音、というぐらいピッタリはまっている。
Choir of young believerというバンドの"hollow talk"。
眠れない夜を一層深くする音楽と映像だ。


 
 
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無題
週末毎に天気が下り坂になるのが少し惜しい。
暑い寒いを小刻みに繰り返すのがこの時期いつものことながら、
少しずつ追いついていけなくなっている。

大きくなった植物の植え替えには少し早いと思いながら、
その植物にあうよう配合済みの土と鉢を買って来て早速植え替え作業。
いざ抜こうとして古い鉢からなかなか出てくれない根っこの塊。
植物の根は強いというけれど、
ようやく抜けたのはもう鉢を割ってしまうしかないかと思ったその時だった。

植え替えの次はメダカ水槽の水を換えてと、ベランダの作業が一段落したら、
今度はちょっと部屋の中をいじりたくなった。
家具の配置をかえるまでは難しいので、ものの整理程度だが、
バタフライテーブルを畳んで小さくしただけでも随分すっきりして驚いた。
あとはせいぜいソファの位置をずらしたり。

作業しだすと、あちこち気になることが出て来てしまう。
そういう性分なんだろうと思いつつ、
つい、前から気になってもいた家電等への配線をやり変えた。
何も夜10時過ぎからそんなことしなくても、だが、
古いマンション故、壁コンセントの数や位置があまり便利な状態ではなく、
足下にひっかかったりしないようにするだけでも違うだろうと。

家電や装置はみな電気頼りだからコードだらけなのは仕方ないが、
これがもっとシンプルになったらいいのになあとしみじみ思う。
大貫妙子さんの「私の暮らしかた」というエッセイを先日読んだのだが、
読後の清々しく晴れ晴れとした気持ちとは裏腹に、
考えるべきことが多過ぎてややもすると立ち止まりたくなる。
ひょっとしたら、少ししゃがんでじっくり考える時間が必要なのかもしれない。


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よもやま | - | - | author : miss key
不遜という名のalbum
なぜか無性に緑が懐かしく思う。
緑しかないような場所に20年からいて育ち、
それから、その年数以上に都会で過ごしているから、
そういうことの反動が今更来ているんだろうか。

浴びるような緑は日々望めないからと、
道ばたのちょっとした雑草にもつい目を留めるようになり、
最近は丈夫だとうたってある観葉植物を買ってみたりして、
暗くなってからの帰宅時に目を休める場所をつくってみたりしている。





特に欲することがなくとも得られていたものが、
いざ欲しいと思った時にはなかなか難しくて、
植物ひとつ育てるにしても、日照の強さや時間、葉や土の乾き具合など、
ほんとうにきめ細かく環境を整える必要があると知り、
子どもの頃の居場所が何と恵まれたものであったかを今になって痛感し、
愕然とする。
そしてあまりに不遜であったのであろうと。
でも、何に?


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まさにタイトルもそのままにHubrisという名のリッチー・バイラークのソロ 1st album。
ECMから出ているこのアルバムに曰く因縁があることはさておき、
このリリカルで秘めやかな、そして時に夜の深みに嵌ってしまうようなピアノの響きに、
深呼吸と溜息を繰り返す。

植物の育て方のこつのようなものとして、話しかけたり触れたりすることも大事とあった。
うちの観葉植物たちは、audioから流れる響きに包まれて何を思うだろう。
苗を買って来てからしばらくは葉っぱの枚数を数え、増えては喜びの毎日であったが、
たった2週間かそこらでそれも面倒なほどに成長している。
何かの成長に触れることがこれほど深い歓びを呼び覚ますものとは!
何を話しかけていいものやら戸惑うばかりなので、
当分はこれと思った音楽を一緒に聴こうと思う。
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初夏の足音を
以前の職場に近いからと作ってあった銀行口座。
何年も放ってあって、小額の定期預金は20年も預けっぱなし。
そんなものに気がついたのも当該行より直筆のDMが来たからだ。

それは口座のこと自体ではなく、介護保険とセットになった商品の勧誘であった。
もうそんな広告が来てしまう自分なのだ。
単なる印刷のDMなら中身を読むこともなく処分だが、
ボールペンで書かれた、柔らかで伸びやかな筆致が目を引いた。
若い女性を思わせるその文面が何となく気になり、店頭に出向いてみた。


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久々の街並はすでに初夏の足音。
歩く人々の表情もどこか明るくて、この時分がいちばんいい季節だなあと思う。
就職して最初の事務所は、この街の端にある古びたビルにあって、
住めば都ということばがこれ以上ない居心地の良さだった。
最近思い出すこともなかったのだが、
久々にヒールの高い靴で歩くのは、ただそれだけで爽快だった。

直筆のDMと言えば、当時のわたしも初めての仕事で同じような作業をした。
30件ほどの得意先に宛ててのものであったが、
或は件の女性のように美しくも書けなかったと思うが、
いくつかは連絡もいただけて、それだけで随分高揚したのを覚えている。

当時というのは、おそらくはこれまでの中でもっとも音楽から離れていた時期で、
何しろお金も時間もなくて目が回りそうな毎日、夜寝る前にラジオ放送を聴きながら、
それでも密度だけは濃いものだったのが救いというか、何と言うか。
さわさわと風に揺れる木々の葉音が耳について眠れない夜だ。
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旅と映画と音楽と。ー「HOSONO百景」
嗚呼、こんな本があるなんて。
手のひらにのるわずか200頁足らずの本だけど。
めくる頁々に旅と映画と音楽が満載の1冊、「HOSONO百景」。


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いまどきの世の中、新刊書は日々ウン百冊と出ているに違いない。
でも、内容はさておき、装丁や構成、ちょっとした作りの隅々にまで、
これほどこの本を世に出したいという愛情が溢れた本もそうはない。

細野さんの新著が河出から出るというので一体どういう本になるんだか、
想像がふくらみ過ぎて発売されるまで胸が苦しくなった。
それが目次を見て数頁眺めてみただけでぱっと視界が開けるような爽快感が押し寄せてくる。

もちろん、長年のファンだから、うれしいと思える企画だったりするだろう。
例えば、挿入されている写真ひとつとっても、
細野さんの随分若い頃の写真だったり、懐かしい!YMO時代のスナップだったり。

本文は、テーマ別に細野さんのインタビューをまとめたものに、
彼のその時々に注目するディスクの情報が欄外にジャケットと一緒に並べられていて、
読む角度を変えれば、かなり濃厚で楽しさ一杯のディスクガイドにも。
これだけひとの名前やアルバムタイトルがそれこそとめども無く口をついて出てくること自体凄いと思うけれど、
自らいろんな音楽を生み出してきたと同時にいろんな音楽を探してきたわけでもあって。

そういう盛りだくさんのエピソードが海外のいろんな街を旅した記録に織り込まれていて、
ただそれをずんずん読み進めていくだけで、
新緑の眩しさをみたときのような清々しさに包まれていくのだ。

細野さんのアンテナは音楽や映画だけではなくて、
失われていく街の良さや自然そのもの、そういう変化をしっかりと捉えているよう。
ものごとの感触をしっかり自分の皮膚で感じ取りながら、
その道程にいろんな国の音楽やカルチャーが絡めとられていく。

わたしはそんな彼の「触角」にそっと触れてみたい気がした。
そして、自分自身が感じている世の中の変化の何か、にもっとしっかり目を向けようと。
最近とみに植物の緑や空の色が気になって仕方がなかったが、
その理由が少し分かったような気がした。
思わず深呼吸したくなる、旅と映画と音楽が満載の!スピリチュアルな1冊。
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満開の桜に圧倒される
せっかくの春だからと、土曜の朝から桜の見どころとして有名な公園へ。
重たい機材を持って出かけるのも久しぶりで、
現地に着く前に肩が悲鳴をあげていた。

東京は都会ながら緑の多いところというのは、上京して初めて知ったことだ。
いにしえの時代からの大きな敷地が緑に覆われてそのまま残されている。
もちろん当時の所有者のままではないけれど。





何種類もの桜を眺めながら、ぶらぶら歩くこと約2時間。
昼過ぎになって一挙にお客が増えてきて歩くのもままならないので撤退。
もう所々、散り始めていたのでギリギリ間に合った感じ。
おまけに公園のゲートを出る頃には雨まで降って来た。
週末の度に天気が崩れて、もう少しなんとかならんかなとは言っても仕方の無いこと。





たくさんの桜を眺めていたら、久しぶりに聴きたくなった作品、
プッチーニのトゥーランドット。
レコードで3枚組の長編ながら、一旦聴きだしたらあっという間の世界。





「誰も寝てはならぬ」がキム・ヨナ選手の引退の演技に使われるそう。
本当は試合で使いたかったのが、誰もが使いたい曲は向かないということで、
最後の最後に本人の希望で選ばれたのだそう。
オペラ音痴のわたしでさえ、このアリアは知っている。
そのくらい、どこでどう聴いたのかは思い出せないが知られている曲なのだ。

ネットでストーリーを確かめつつ、通しでゆったり聴いてみる。
じわじわと盛り上がっていく空気に圧倒されて、
目を閉じてみれば、そこにはまだ見たことのない舞台が浮かび上がる。

なんだかもう1度聴きたいが、さすがにこれからでは夜遅くなりすぎる。
週に2日の休みがあまりに短く感じられる春の日。
よもやま | - | - | author : miss key
満開の桜に情熱的なピアノを聴きたくなった
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近所の桜は先日の酷い雨風にも堪えて、満開の日を迎えている。
美しく咲いている時間は思いのほか短いが、
だからこそ、命の燃え盛るような瞬間に立ち会うようで、
ぼんやりと日々を過ごすわたしでさえ、生をまざまざと実感させられる。


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少し前に入手していた女性フラメンコ歌手Mayte Martinのアルバム、
"De Fuego Y De Aqua"。
1曲目が少々エキセントリックな調子で驚くも、
2曲目からがほんとの物語、ではないが、
日頃フラメンコを聴かない方でもしっとりと楽しめる曲が並ぶ。

歌唱はもちろん素晴らしいが、
このアルバムで注目すべきは、なんといっても、
しなやかなグルーヴで彩りを添えるラベック姉妹の2台のピアノ。
最近「2台のピアノ」に縁のあるわたしだが、
そうでなくても、時に強く、時に輝かしいまでの光を放つピアノの響きに、
彼の地の陽の光を想像する。

職場への行き帰り、満開の桜の下を歩く贅沢な時間。
部屋に戻って咲く桜の表情を反芻する度にこのアルバムが聴きたくなるのだ。
熱すぎず抑制が効いているところが、一層秘めた情熱を感じさせるお勧めの1枚。


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