音の快楽的日常

音、音楽と徒然の日々
Amazing! Nikolay Khozyainov Live in Hamarikyu-hall
そんなに生演奏慣れしている訳ではない。
だから、比較するものの数も知れているのだけれど、
今夜のピアノ・リサイタルは驚きのひと言に尽きた。
昨年に続き来日の若きロシア・ピアニズムの担い手による一夜、
築地は浜離宮朝日ホールでのNikolay Khozyainovのリサイタル。





使用する楽器がYAMAHAのピアノということで、
耳あたりも少しばかり違ったのかも知れないが、
調律のびしっと決まった楽器の響きであったとしても、
正確な打鍵から放たれる響きの何と伸びやかで美しいことか。

さて、演目はシューマンのアラベスクに始まり、2曲目にいきなりダヴィッド同盟舞曲集が。
あっけにとられている端から、リストのメフィスト・ワルツ第1番へ。
これが前半のプログラムというのも溜息ものであったが、
想像を遥かに超えて迫り来る音楽の波に溺れてしまう。

確かに、難曲をいとも軽々と弾きこなすピアニストは彼一人ではないだろうが、
弱冠22歳にして提示してみせる世界はこれまでに体験したことのない音空間。
前半と知りながら思わず立ち上がりそうになったのはどうやらわたしだけではなかったよう。

ショパン・コンクールで優勝を逃したことが話題になったほどだから、
日本でもファンの多いショパンの楽曲を後半に備えているのはわかるとしても、
子守唄変ニ長調からピアノソナタ3番になだれ込んでいく様は、
前半あれだけ弾いてまだ、と呆れるほど。

小柄で細身で、手もそれほど大きくなさそうな。
でもピンと伸びた背筋と肩から指先までがとてもしなやかにつながっている様に、
あれだけの音量で奏でながら何ら無理も感じさせず、
楽器とあんな風にコンタクトしているというのがもう何とも羨ましくて。

難曲を交えてのプログラムが終わると気持ちが晴れたのか、
メドレーを入れて5曲ものアンコールが演奏され、
しかもウイットに富んだアレンジが目白押し。
要するに彼は、ピアノが大好きで、ピアノの演奏が大好きで、音楽が大好きなんだと。
しかもお客さんを楽しませようという気持ちがたっぷり伝わる濃密な時間。





あくまでタラレバだけれども、
プログラムが前後入れ替わっていれば、
今夜のスタンディングオベーションはもっと人数が増えたはず。
もうじっとしていられないほど、お尻がむずむずするほどだったのだから。

リリカルで瑞々しくて、そして何と外連味のなさよ。
時に悪魔にでも魅入られたかのような激しさと、そして破綻すれすれを行く大胆さと。
理屈抜きに、ありがとう!を全身で表現したくなった夜もそうは無い。
また追いかけたくなった演奏家と出会えた夜に感謝しつつ、
確かにその場に居合わせたことの幸運を噛みしめつつ、
次回、彼の演奏を聴く機会を心待ちにすることにしよう。


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If you go away...
朝夕の空気に夏の終わりを感じる。
季節にこれという区切りが無いのを、
昔のひとは暦に標を付けて心の整理をしていたんだろうか。

心の整理、とひと言でいうけれども、
いまどきの人々は意識してか無意識にか、
その方が楽だから、という理由でもって某かの整理をつけ、
毎日をすごしていたりするんだろうか。

自分という人間はそうでもない、
そんな勘違いが勘違いであったことを見事に思い知る機会があり、
溜息する間もなく考え込んでしまった。







ほんとうに秋が深まり、何もかもがメランコリックに過ぎてしまわないうちに。
広げた両の手からするりと何かが滑り落ちてしまうような一抹の不安と、
ちょうど釣り合うような重しが欲しいと思いつつ、
選んだのはCharles Lloydの"Jumping the Creak"。







このアルバムの冒頭、"If you go away"はJacque Brelの歌で有名な「行かないで」。
リリカルで美しいピアノのイントロだけではこれと分からないけれど、
Lloydのアルトが入ってきて、ああ、あの曲、あの歌だと。

どちらかというと、婉曲的に訳した英語の歌詞に近いニュアンスの演奏。
Brelの辛い別れの体験から来る懺悔と、
男ってそういう生き物だよという或る種の開き直りは、Lloydのそれにはなくて、
どこまでも美しく哀しいメロディをアンサンブルに仕立ててある。
わたしはそれをただのBGMにはしたくなくて、
やっぱりBrelの歌を聴いてしまったりするけれども。

朝目覚めてベランダに出ると、蝉の死骸がいくつもあって、
それはほんとうに命の燃え尽きた感を湛えてそこにあった。
確かにそこにあったはずの熱と、今はもう消えてしまったという事実と。
秋は、そんな小さな出来事に目をやることのできる季節なのだ。

今年はそんな秋をめいっぱいに愉しもう。
二度と繰り返すことのできない一度きりの時間を。




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fields of gold
黄金の秋、ということばがあるけれど、
黄金色の、というと、わたしは稲穂が重く頭を垂れて金色に輝く季節を思い出す。

まだ小学校に通っていた頃のこと、
近所に越してきた男の子と仲良くなった。
病弱でどうしようもなかったわたしを、
いつも窓から顔を覗かせて、外に出ると気持ちいいよ、
そうやって外に連れ出してくれた。

春は春で蓮華で一杯になった田んぼを駆け回り、
秋は秋で、野原で草まみれになって、
それこそ暗くなるまでいっしょに遊んだのを覚えている。
その子のことを、こうも思っていた。
大きくなったら迎えに来てくれるのかな、と。

ささやかな夢は叶うこともなく、
その彼は一足先に田舎を出て音楽を志した。
わたしは、少しでも元気になりたいと、
つよくならないと大切なひとは去ってしまうのだと、
こどもながらにそんな思いを噛みしめたのを今更ながらに思い出す。


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Eva Cassidyの"Fields of Gold"を初めて聴いたのはいつだったろう。
Stingのその歌と歌詞が少し違うのにも後になって気がついた。
趣ががらりと違って感じられる二人の歌だけれども、
いまのわたしには、Evaの歌がずっとしっくりくる。



 



あまりに遠い記憶であるがゆえ、その人の姿形を思い出せなくなったとしても、
作物が実る季節の風と土の匂いを決してわすれることはないだろう。
それどころか、こどもの頃の記憶は朽ちることもなく、
あまりに美し過ぎて、苦しく、ある意味残酷でもあったりするかもしれない。



  I never made promises lightly
  There have been some that I've broken
  But I swear in the days still left
  We'll walk in fields of gold...



軽はずみな約束はしないけれど、でも約束を破ったことはあって。
でも、残りの日々を、黄金の草原を共に歩いていくと誓うよ。
そんな歌詞にふと心射抜かれて、毎夜寝る前に聴いている。
誓うということばの意味を思い、軽々しい約束はしないと心の中で呟いてみる、
秋の気配を感じさせる夏の夜だ。
pop & rock (russian and other slavic) | - | - | author : miss key
Farewell, Robin W.
大好きなロビン・ウィリアムズが突然逝ってしまった。
朝、職場のPCで訃報を知ったとき、思わず目が潤んでしまった。
事故なのかなんなのか。
そう思っているうちに続報が流れ、自ら命を絶ったのだと。

これまで、どれだけ、どんだけ彼の演技、笑顔に救われたか。
今はどん底でもきっと楽しいと思える日が来るよね、
そういうあたたかな気持ち、希望をたくさん与えてくれた。


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ここのところ、酷い鬱に悩んでいたのだそう。
一時期のように主演作が毎年当たり前に出るようなピークは過ぎていたかも知れないが、
若い頃、薬に溺れてそれこそ人間の心の闇を知っているから、
そういう彼だからこそ演じられた役どころも少なくなかったろうに。


いま一つだけこれという作品を選ぶとしたら。
もう間違いなく、フィッシャーキング一択だ。


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この映画を観て泣けなくなったら終わりだなあと何時も思う。
涙が流れなくなったら、きっと心が死んじゃってるなあ、と。
ファンタジックで、哀しくて、そして人の心の不思議と優しさをしることのできる映画。

今こうしてこの映画を眺めていると、
この作品の続編のような位置づけのものを観てみたかったなあと思うのだ。
彼の今の年齢でしか演じられない役どころでもって。

Robin Williams、もう新しい作品で会えないと知ってほんとうに寂しいけれど、
でも長い間の苦しみから解放されて、今はほっとしているんでしょうか。
たくさんの素敵な映画をありがとう。そしてさよなら、また会える日まで。


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cinema & Soundtrack | - | - | author : miss key
一度住んでみたいと思うような
バラを育て始めてみたら、
ベランダの広さや日当り、
それも時間帯によってどんな風に陽が当たるのかまで、
矢鱈に気になるようになってしまった。

ネット上の様々な画像から、広くてゆったりとしたベランダを、
そういうベランダのある住戸を探してネット上をほっつき歩いていたら、
いい具合に日当りのある、とある分譲団地の中古販売サイトに行き着いた。

K台団地、という都心から程よく離れた街に立地するその団地は、
駅から歩くとするとちょっとしんどい距離にあるも、
住棟間の距離もたっぷりととってあって、
春が来たら植栽の桜がおそらくは見事であろうというような具合。

そんな調子で画面を眺めていたら、いつか団地に住んでみたいなあ、
なんて思ったりして、
そのうち、団地萌えなる表現まであることを知った。
そこで、先週末書店を上から下まで漂流して行き当たったうちの1冊がこれだった。


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「世界一美しい団地図鑑」。
図鑑というくらいだから、建物や配置の分かる航空写真が満載で、
その他図版はもちろんのこと、
団地の構造を理解するための基本的な知識や時代背景も丁寧に解説されていて、
単なる事例集とは趣の異なる指向。

この本を手に取ってぱらぱらと頁を繰っていたら、
やはり郊外の丘陵地にある団地に目が留り、
ああいつかこういうところに住んでみたいなあと、
特にそれ以上、それ以下でもなく、
或る種の懐かしさからそんな気持ちが胸の底から沸いてきた。
60年代の終わりに構築されたその団地は、
写真がいいからかもしれないが、何とも言えず鄙びていて、
坂の上や坂の下の住宅は意外に大変という事前のレクチャーがあっても、
やっぱり気になるなあと結局この本を買って帰ることにした。





わたしが団地という響きに持つイメージは、
上の写真のように、どこか無機質で人工的であったりするが、
あくまでも想像の産物としてそのような先入観があったにすぎない。
実際に長く大勢の人が暮らしてきた建物やその一団の区画に感じるものは、
意外にも、もっと身近で温かみのある空間であったりした。

いま、若い人達のワークショップなどが催され、
団地という空間の再生や新たな住まい方の模索のような活動があったりするという。
わたしなどはその年代から、
昭和の薫りがするというだけで所謂萌えだったりしてしまうのかもしれないが、
いま自分が20代だったらどんな風に捉えるのだろうと思うと、
そういう想像自体が面白かったりもする。


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落ち着いて考えてみると、
朝夕1時間ほどの世話で育てられるバラの数には限りがあって、
当初見た中古住戸のような広々としたベランダをいっぱいにするほどには、
バラを育てることはできないことに気がついた。

今にも引っ越そうという勢いがついていたが、
こうして図鑑を手に取ってみると、
ひとつの団地というのは、
当時の時代背景や技術、街への指向の具体化であることに思い至った。
実際の空間を体験してみたい、
そんな思いが出不精解消のきっかけになるといいなあと思いつつ。
否、今度ぜひ気になる某所を訪ねてみようと思う。
 
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目一杯のビタミンと気持ちを感じて
日本語で歌われたアルバムをこんなに何度も聴いたことがあっただろうか。
もちろん、素敵な音楽との出会いはいつも向こうからひょっこりやってくる感じで、
探しまわってどうにかなるものでは決してないのは、
こうして何十年も音楽を聴いてきたからわかっているつもりではあったけれど。

ほんとうに、ほんとうに、心にしみる音楽というのは、
こうも突然に、ひょっこりと目の前に現れてみせるものなんだと、
もうそれだけで胸のコップが溢れてしまってどうしようもない。
それだけ歳とったんだね、と自分に話しかけても、そんなのはおかまいなしに、
わたしというコップはどんどんと溢れていく。
三代目J Soul Brothersの1stアルバム、"J Soul Brothers"。



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否、ひょっこりという言葉には語弊がある。
例えば、初めてのデートに小さな花束をそっと背中に隠し持って現れるような、
デリカシーに胸震えるようなシチュエーションで携えられた歌があって。
その楽曲の中の、ほんのワンフレーズがメッセージに添えられ、届けられてからというもの、
そういう歌やアーティストの存在もついさっきまで知らなかったのに、
そのひと言の向こうに何があるのか知りたくて、このアルバムを手に取ったのだった。


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三代目J Soul Brothers、活動の区切りとメンバーの入れ替わりを経てというのがわかる名義。
そういえば何かラジオで耳にしたことのあるポップなナンバーや、
おそらくはヴィジュアルでダンサブルな眩しい楽曲など、
11曲から編まれた三代目の1stは、2011年のリリースというから、丁度3.11の年だ。
多くのひとの心が疲れきって弱ってしまったかもしれない特別の年にこうして出てくるのは、
やっぱり何か持ってるものがあるのかなと勝手な想像を膨らませたりもするが、
これを、例えばメロディ無しにことばにされたら、
ちょっと恥ずかしくて逃げ出したくなるような、
(わたしが男性ならば、こっぱずかしい、という表現をするかもしれない)
そんな切ない歌詞がこれでもかと詰め合わせになっている。

思いを歌に託して、というのは簡単なようで実はそうでもない。
受け止め方も千差万別、
相手の心にうまく届くかどうかはきっと別の話であろうし、
ポピュラー音楽の、メロディが美しく、時にキャッチーに過ぎたとしたら、
託したひとが想像もしないような伝わり方だってあり得るのだ。
それでも、やっぱりこのことばを伝えたい、というようなことがあるとすれば・・・!

ある1曲の、短いフレーズに導かれたこのアルバム、
通して聴いてみれば、その凝縮感や輝くばかりの若さに思わず眩しくなるけど、
こんなにも心を元気で満たしてくれる楽曲でいっぱいのアルバムもそうはない。

懐かしい70年代の歌謡曲にあった、切なくもメロディアスな音楽に、
洋楽ポピュラーの展開の美しさのようなものが相俟って1つになったような印象も。
なので、わたしのような60年代生まれのリスナーにも届くものが、
彼らの音楽にはもとよりあるのかも知れないな、と。

例によって、ちょっとくすぐったくなるようなパフォーマンスが
一緒になった歌は最初から聴こうとしていなくて、
またしても食わず嫌いなところでわたしは損していたかも的な、
ちくりと胸に刺さるものを感じながら、
それでもこうして今も、わたしは気に入ったフレーズをリフレインしている。

***

等身大の彼らの歌やパフォーマンスが一層充実したのを体験する機会に恵まれた。
音源はこの1st以外に何枚か出ているが、
2012年のLIVE演奏の模様を収めたDVD、Blu-rayが出ていて、
ほんの短い時の間に彼らがバージョンアップをし、
伸びやかな声でエモーショナルに歌い上げる様子が堪能できる。
彼らの音楽に触れるチャンスがあったら、ぜひ、それも同じなら、live演奏の模様を。

"J Soul Brothers"、
わたしのライブラリにいままでは無かったアルバム、
贈り手の優しさ、そして想いとともに届けられた、目一杯のビタミンで心を元気にしてくれる1枚。



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Limit
少し前に武田鉄矢さんのアルバムを取り上げたが、
実は歌う彼よりも、演じる彼の方が何倍も好きだ。
「金八先生」のシリーズは残念ながらほとんど見ていないが、
その他の映画やドラマにでているのを見る機会は決して少なくなくて、
就職直後の研修生時代に、同室の同僚が、この番組の最終回だけはどうしても見たい、
というので「101回目のプロポーズ」を見たのを突然不意に思い出した。

いわゆる刑事ものの作品は、
特にここ数年の作品はどっきりするほどセクシーだったりして、
その役所自体が脇役であっても、ついついそのシーンをガン見してしまったりする(笑)。
放送時間の決まった連続ドラマはどうも苦手で、
ひとから教えてもらって慌ててDVDを探す、というような愚を繰り返しつつも、
今回漸く観ることのできたNHKのドラマ、「Limit -刑事の現場2-」。


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悲しい記憶を背負うアウトローな刑事役がハマらない訳が無い。
そう分かっていても、登場シーンからいきなりぐいぐい引き込まれていく。
森山未來演じる理想に燃える若い刑事が、
職場からスポイルされながらも自分を貫くベテランの刑事に、
当初は軽蔑の感情を持ちながらも、とある「真実」の方向に導かれてゆく。

作品のコピーに「刑罰」か「救済」かとあるが、
この4時間強にも渡るドラマは、
ひとを愛することの難しさと、誰もが愛されたいと思っているという、
そのことをシンプルに描き出したものだ。
愛そうと思えば思うほど、そして愛されようと思えば思うほどに、
裏腹に増幅する不安と、時に憎悪と。
誰もが持つであろう心の暗闇にも決して目を伏せずにいるのがいい。

嗚呼やっぱり武田鉄矢はすごい!
と痛感したのが5話仕立ての最終話でのクライマックスシーン。
自分が守ることのできずに失ってしまった大切なひとの名を連呼する、
言ってみれば、予定調和のなかにも期待して当然のシーンでもあったりするのに、
思わず落涙を禁じ得ない。
犯罪の描き方には異論もあろうが、
心の奥底に溜まった澱に整理をつけたいときに、思わず手が伸びてしまうであろう作品だ。
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Themes from the Songbook
どこか心許なさが尽きないときは、
ふと自分の足下を見るのでもなく、空を見上げるのでもなく、
時間がいま何時なのかもおかまい無しに、昔みた懐かしい映画を観たくなる。

悲しい映画は、困る(そういう気分じゃない)。
かといって無理矢理気分が上がるようなのも、やっぱり困る(ほんとうに)。
小難しい歴史ものや政治ものも、やっぱりちょっと違う。
ましてや、サスペンスで緊張が続くのなんて(いまはとても無理だ)。

そうして選んでいくと、手元にはごく限られたDVDしか残らなくて、
​部屋の隅から自分の心を覗きこむようにして、
それでもって「不思議惑星キンザザ」をぼんやり眺めた。

そんな少し前の夜のことが、
それ自体映画のように目の前に広がるような音楽を戴いた。
Giya Kancheliの作品を編んだ"Themes from the Songbook"。


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Dino SaluzziもGidon Kremerも凄く好きな演奏家だ、ということもあるけれど、
キンザザのサントラも作ったグルジアの作曲家、Giyaの作品集ということが、
何とも言えず今の心持ちにぴったりで、
音源が届いたその日にはううああと言葉にならない音が胸から漏れ出した。

そろそろと哀しげに響くAndrei Pushkarevのヴィブラフォン。
SaluzziのアコーディオンとKremerのバイオリンとが、
優しくつたが絡むようにして共にメロディを紡いでいく。

ひととおりアルバムを聴き通したら、
まるでひと泣きして心がすっきり晴れ渡ったかのような見通しのよさが広がった。
そしてもう一度、キンザザのテーマを聴いてみる。
こんなにも切なく美しく、そして情熱的なメロディであったとは、
映画を幾度となく観ていたのに露程も気づいていなかったよ。

きっとこのアルバムを贈ってくださった方は、
聴いてそんな気分にさせるとは思ってもいないだろう。
音楽は、それを聴く者の心の奥底にある、
決して自分には見えないボタンを押したり離したりしながら、
時に優しく、時に厳しく迫ってくる。
つい一週間ほど前の深夜の、あの静かなひとときのことを忘れずにいたいから、
あらためてここに書き留めておこう。


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