1年に一番まとめて本を読める時間、それが正月になって何年になるか。
とはいえ、震災後にまとめて本を手放してからというもの、
それほどまとめて本を買い込み、端から読むような真似はしなくなった。
できなくなった、という方が正確だろうか。
本を読むのには体力がいる。
多分、気力の前に、集中できるだけの体力が。
そのことに気づいたのは恥ずかしながらごく最近のことで、
若い頃は時間と体力はあっても経済力が伴わず、図書館にない本はどうすりゃいいんだ状態で、
働くようになったら、体力はあっても時間はなくなり、
職場から勤続○○周年なんて表彰してもらう今となっては、
多少のお金と時間はできても、体力的な問題が立ちはだかる。
ああ、なぜにこうもうまく行かないのか、
三竦みの問題というのはオチがどうやら同じようで。
2014年は珍しく、クリスマスプレゼントをいろいろと戴けた。
贈ってくださった当人はそういう意識はお持ちではないのかも知れないが、
わたしはちゃっかりしているので、これが世間で言うクリスマスプレゼントか、
と、一つひとつ嬉々として包みを開け、こみ上げるうれしさをかみ殺した。
その中の1冊が、タイトルにあげた「音楽の架け橋」というディスクガイドだ。
著者の渡辺亨という方をわたしは知らない。
敢えて、検索しないで、知らないままに頁をめくってみた。
すると、「青」というテーマでもって、
ジャンル横断的に著者の感じるところの快適盤が簡潔な紹介文とともに並べられている。
その先頭に、見覚えのあるジャケットがあった。
音楽の内容は正直思い出せないその1枚のアルバムは、
なんでもグラスゴーで活動するバンドで、なんと(灯台下暗し)LINNから出ていたもの。
おやまあそれなら聴いてみなくてはとネットで検索してみたら、
これはちょっと向き合って聴いてみたいなあということで、
しばらく止んでいた音源捜しの旅が期せずして始まってしまった。
この本を贈ってくださった方は、
まさか、どんなに仲の良いご夫婦にも訪れる倦怠期のようにして、
わたしが音楽とのつきあい方を、距離を測りかね、悶々としているなどとは、
全く想像だにされていないはず。
それでも、この一冊は、ずっと取れないで苦労していた喉の閊えを
見事に一瞬にして抜いてみせた。
紹介されたすべての盤が全ての方にとってすばらしいはずはなく、
星の数より多いかも知れない盤の中から、
たった1枚でも気付きや心の靄が解けて晴れるようなきっかけとなる音楽があれば、
もうそれで十分なのだ。
柔らかな装丁の横長の本は、ぱらぱらと頁をめくって眺めるには好都合で、
気に入ったジャケットの作品を、
一昔前ならいきなり購入などして、届いてからの悲喜こもごもは避けられないのだったが、
いまどきはネットでさわりを試聴できたりもできるから、
(その意味ではどんな音楽が届くのか、わくわくする気持ちはあまりなかったりするが)
手にしてがっかりというのを避けられるから、
ウン十枚の紹介がなされているディスクガイドを手にして気後れすることもなくなった。
職業的にいい音楽探しをしているわけでもなく、
自分にとっての好評盤とそうでないものはどうしても分かれてしまうから、
そういうちょっとした、そうはいっても当たり前の流れというものが、
思えばどうもここのところ面倒になっていたのだ、多分、きっと。
今は店頭に出向いて気に入ったものを探す、ということ自体ちょっと難しくなってきていて、
以前なら、何年も前の作品が棚に並んでいて選び放題が羨ましいなどと、
海外からやってきた知り合いから言われたりなどしたのだが、
数年経ってみると、その某国と同じような状況になった。
話は逸れるが、ロシアのポピュラー音楽はストリーミングラジオでもって、
それも結構な音質で常時楽しめるようになり、
何が何でも盤を探さなくても良くなってきている。
聴けさえすればいい、そう思えば、盤の入手にこだわる理由はなくなってくる。
しかし何のきっかけもなく、ある1枚が手元にやって来れるのか、と考えた時、
それはやっぱり無理な相談であって、
となれば羅針盤とまではいかなくても、それなりの道標となる一冊が、
それもその人のリスニングスタイルによく間に合う一冊があるのとないのとでは、
音楽生活の快適さも結構変わってくるんじゃないだろうか。
今回この本を贈ってくださった方には、以前にもディスクガイドを戴いており、
前のはそれこそ読む端から「うひゃひゃ」などと絶対他所の人には聞かれたくないような、
萌えの高テンション状態が続くような特殊なものであったけれども、
この「音楽の架け橋」は、ある程度の時間、音楽に親しんで来た方にとってなら、
何かのきっかけをつくってくれるだろうと期待して損は無い。
わたしの場合、自分で探すとここに行かないんだよなあ的な、
なかなか手の届かない部分の1枚というのを何枚か見つけ、
ちょっと、否もうかなりうれしかった。
年初のお年玉、といえばまさにその通りだ。
この歳でお年玉までちゃっかり戴いてしまったような、気恥ずかしさも手伝って、
連休の怠さもどこへやら、これで溜まったディスクの整理もできるというもの。
辞書や事典のような役割でなく、いろんなところに出向くきっかけさえ作ってくれればいい、
そんな方にもうってつけの一冊。