音の快楽的日常

音、音楽と徒然の日々
黄色が綺麗に出るカメラが欲しかった
もう随分前のこと。
自分のカメラを持ち始めた頃、ニッコウキスゲが咲く野原を散策した。
煌めく陽の光、そよぐ風。
記憶にとどめておけばよいものを、
どうしてもその光景を写真に収めたかった。
ニッコウキスゲの花の色合いは独特で、頭の中にはくっきり浮かぶものの、
何枚も撮った(はずの)写真には、随分と記憶のそれとは隔たりのある花が、
ただ群れて写っていた。

それ以来、黄色はむずかしい、そう思うようになった。
フィルムの調子や光の当て具合、レンズの能力。
どれが足りなくてそうなんだろう、長い間そんなことを思ってもいたが、
まずは自分の技量だろうなあと重たい溜息が出た。


数十年経って、デジタルが当たり前になり、
フルサイズのカメラもそこそこの値段で買えるようになった今、
正直、モニターだの何だのと悩みどころは移ったものの、
花の色は、下手をすると記憶の色より数段美しく写っていたりする。
それもまた溜息だが、何というかこんなに手軽でいいんだろうか、
そう思いつつも、狭いベランダに咲いた花を撮っている。


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寒い季節に小さな花を咲かせたクロッカス。
気がついたらうちのベランダは黄色の花だらけ。
でもなぜ黄色なんだろう。

***

ああきれいだとひとりごちながら、手にしたある俳優さんの自伝。
その中にちらりと見えたCDのジャケットが素敵だった。
早速探して聞いてみたら、なかなかカッコいい音楽で気分上々。
Buddy Guyの"Rhythm & Blues"。





ブルースのギタリスト、シンガー、まさに生けるレジェンドとのこと。
調べてみたら、御歳79歳! 
それにこのアルバムは何と77歳でのリリース!
かっちょいー!と思わず口から出てしまうノリノリサウンド!
後ろで鳴ってるブラスもオルガンもノリノリ、グルーヴで自然と身体が動くよ。

このギター好きだよなんて言ってると、ブルースっぽいのがいいんだねとよく言われた。
だからといってブルースをじっくり聴いてみる機会はそれほどなかったけれど、
このアルバムはすごく入りやすいと思ったら、
エアロスミスのメンバーが参加していたり、道理で、なかなか。

クロッカスを眺めるBGMにはちょっと違うけど。
それはまあいいかと思いながら、
本当はクロッカスを小さな鉢ではなく、庭のエントランスあたりに植えて、
毎年芽が出て咲くのを楽しみにしたいよなあと、欲は果てしなく続く。

記憶にとどめておけばよいものを。
それがなかなかできないんだなあとやっぱりひとりごちる夜だ。
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寒波到来の週末
大寒波が訪れるとのニュースに恐る恐るカーテンを開けてみれば、
明るい日差しが拍子抜けするほど暖かく、救いのある日曜の朝になった。
薔薇の剪定をいつやろうとそればかりが気になる週末なれど、
葉っぱをむしる指先が冷たさでぎごちなくなる様子に、
日差しはあるけれど、やっぱり寒い、ということで作業もそこそこに部屋に篭った。

新しいPCが届き、設定やらデータの移行やらと進めているうちに、
あれもこれもやろうという気持ちはどこへやら。
窓をほんの少し開けた明るい部屋のど真ん中に座り込み、
ぼんやりとピアノを聴いていた。
冷え切った空気にも負けない凛としたピアノを。
亡くなる直前のlive録音、深町純の最初にして最後のクラシックコンサートアルバム、
Last Nocturne - Jun Fukamachi Plays Classics。


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どなたにでもお勧めするようなアルバムではないのかも知れない。
心の渇きをたとえ涙であろうととにかく潤したい、
ヒリヒリとした何かを抱えているそんな時にはこのアルバムだろう、と。

録音の条件がよくなかったのがかえって幸いしていることもあるかも知れない。
懐かしい音色のするピアノであったことも。
それでも、彼の弾くショパンの別れの曲、
そして同じくショパンのプレリュードホ短調op28-4をモチーフとした
インプロビゼーション2曲が聴けるのなら、
こうして暖房も入れずただ外の明るい日の差す中でじっと膝を抱えていられる。

泣きたいのならどんだけ泣いてもええよ・・・

10代の頃師事していた講師の風貌が深町純さんそっくりで。
ピアノやオルガンのタッチは全然違うけれど、
何十年も前の澱がこうして洪水のように胸に溢れるようで、
それもまたいいかと思えるのだ。

+++

こうしているうちにどうやらデータの移行も終わった様子。
明日からは新しいPCだ。
長い間こうしてものを書いたり写真を貼ったりとお世話になった。
いろんな区切りを感じつつ過ごせた休日だった。




 
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枕難民
平均年齢の高い職場にいるせいか、健康の話題が多いような気がする。
何か症状を言おうものなら、あちらこちらから「助言」が。
もちろん健康でいたいし、そうであろうとも思う。
長く休めばそれだけ周囲に様々なしわ寄せがいくわけで、
それを思うとものすごくプレッシャーになってしまう。

何かの話題から、花粉症と頚椎の痛み、果ては枕の話になった。
何を隠そう、誰に自慢するわけでもないが、わたしは立派な枕難民だ。
ここしばらくは同じものを使っているが、一時期はあれやこれやと試しては、
朝目が覚めた時の肩の重さや痛みにがっかりした。

とある街に外科の医師で各人にあった枕の提案をしてくれる方がいるらしい。
そういう話を聞きつけた友人が、簡単な枕の作り方を説明してくれた。
玄関マットを三つに折ったのをベースにしたものだが、
少々気後れするような感じがして、ホームセンターに買い物にには行ったが、
結局手をつけていない。
もっと簡単で家の中にあるもので工夫しよう、そう思い、
わたしの一番の悩みである頚椎のヘルニア等々対策をしてみることにした。
うまくいけばこの春のアレルギーの辛さが若干なりとも緩和するのだろうか。
その前に、三日坊主にならず継続することが大事なのだけれども。


明日は雪だというし、気持ちも何やら重たげでどうもいけない。
台所で煮込みものをしながら手が伸びたのはDusko Goykovichのご機嫌なアルバム、
Blues in the gutter。


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83年のサラエボでのセッションを収めたライブ盤で、
もともとはユーゴのディスコトンというレーベルからレコード化されたもの。
発売された枚数が少ないのか、オリジナルのレコードは酷く高価なので、
わたしはもちろんCDで。
手元のCDはリマスター盤とあるからCDもひょっとしたら何通りかあるのかもしれない。
CDもといったのは、LPもUKの別会社が出したものがあるのだけど、
DJで使い込まれてしまった、みたいな疲れた盤しか見つけたことがない。

どこかラテン風味のリズムながら、Duskoの演奏を重ねて録音しているのか、
なんだかビッグバンドみたいでとにかく楽しい。
数が勝負とは言わないけれど、
まるでいい風が吹いてくるようなホーンセクションのグルーヴは何にも代えがたい。

素敵なノリに硬くなった身体もいい具合にほぐれてきた。
健康枕も大事かもしれないが、やっぱり音楽はいい。
一喜一憂もあれど、やっぱりいい音楽をどれだけ聴けるかが勝負だな、
残り時間をちょっとばかり気にする歳になった寒い夜だ。
よもやま | - | - | author : miss key
fantasista
晴天に恵まれた連休の最終日。
軽い筋肉痛に苛まれつつ、久しぶりに古い音源をあれこれ引っ張り出してみる。
画面でさっと検索するのが楽だけど、時にはこうしてキャビネットの中身を眺めると、
検索とは違った発見があったりするのが楽しい。

暖かかった連休も日が暮れるとぐっと冷え込んで、
部屋の中の空気もきりりと締まっていい具合。
こういう時はやっぱりピアノが聞きたくなる。
バリバリのjazzを聴かなくなって久しいが、
透明感溢れるピアノトリオならまだまだ、いける。
European Jazz TrioのFantasista。





美しい馬のジャケットが当時店頭で目を引いて思わず買った1枚。
首のラインが遠い国で初めてみた白いアラブ馬にも似て、
異国の乾いた空気をすうっと思い出したりもする。

カバーアルバムながら、それほど甘ったるくもなく、切なくもなく。
ほどほどの中にも細かな技巧が見え隠れする。
各々の楽器が美しく鳴って、一つの音楽になって。
火花が飛び散るようなtrio演奏も捨て難いけれど、
冬の寒さをかみしめるようにして静かに聴きたいから今夜はFantasista。

ベランダで冷たい風に当たりながら、ずっと遠くの夜景を眺めていると、
ライトアップされた尖塔をこの手で掴めるような気がしてつい手を伸ばす。
もちろん届かないよね、それでいいのだけれど、
空をきった手の内には何が残るだろう。
明日はもっと寒くなる。それでも朝日が恋しい幸せな夜だ。
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С Новым Годом! 2016
新年あけましておめでとうございます。
細々とではありますが今年もこのblogを続けていこうと思います。
まだ見たことも聞いたこともない映画や音楽に出会えるのを楽しみにして、
1年間健康に留意して過ごしていきたいと思います。



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2015年は大きな転機の1年となりました。
10年以上も住み慣れた部屋から転居、音楽を聴く環境も1から作り直しました。
大量の音源に埋もれるようにして暮らした年月は大切な時間だったけれども、
これからはあと何が聴けるのか、何を観るのかを少しずつ意識していかないとと感じました。

CDだけでなく本やレコードもかなりの量を整理しました。
しかしながら、半ば病的に生活をミニマルにするのとは違って、
自分に分かる範囲で音源を持とう、
いつ聞いたかもこれからまた聴くのかも分からないものはさよならでいい、
そういう軸で整理してみたら、
結果的に元あった量の3分の1程度がちょうどいいと分かりました。

やってみればどうということはなかったけれども、
実際手をつける前は、どう進めたらいいのか、だいたい目標も漠としていたから、
正直途方にくれる一歩手前といった感じでした。
でもまあ案ずるより産むが易しとはよく言ったものです。

***

新しい1年は、映画館やコンサートホールにもっと足を運びたいと思います。
そして作られた映像や音の世界だけでなく、例えば、
狭いながらも楽しいわがベランダ花壇で風にそよぐ草花たちの小さな囁きにも耳を傾け、
時の流れやその気配をしっかり感じていたいと思います。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。

С Новым Годом! 

Новый год, более здоровым и замечательная вещь для всех.


※新年聴き始めはこの曲から。Neumann指揮Czech PhilでDvorakの9番を。

 
よもやま | - | - | author : miss key