音の快楽的日常

音、音楽と徒然の日々
Shape of Water

すっかり映画小僧な生活を取り戻している。

できればもっと黒が締まるモニターで見たい、そんな贅沢なことを思いながら、

ネットで最近のTVをあれこれ漁っていると、

「没入感」という表現に行き当たった。

 

「没入感」・・・。

 

あまりに画面が美しすぎて、われを忘れるほど映像に集中する様のことだろうか。

もちろん作品が素晴らしいことが大前提なんだろうけれど、

単に映っている絵にそこまで入り込めるとしたらどんなに楽しいだろうか。

そういう想像をしているだけですっかりお腹が一杯になってしまい、

店頭に製品を見に行くようなことも全くなかったりする。

オリンピックや大きなスポーツイベントに合わせて良い製品がでたりするから、

家で三管じゃなくても豪華に楽しめるミニシアターがひょっとして実現するような、

手頃なTVが売られるようになるかもしれない(と期待しよう)。

 

ところで。

最近観た中で、エンドロールが流れる間の幸福感といったらなかった1本を。

Shepe of Water、ギレルモ・デル・トロ監督作品。

 

 

 

 

当初は観る予定にも入れてなかったのが、OSTのジャケットを見て、これは行かねばと。

話の筋もよく知らずに行ったので、このジャケットのシーンがいつ出てくるのかも、

予習なしで行ったから却って良かったのか。

 

舞台は1960年代、冷戦下のアメリカ。

地味に米ソの「探り合い」が下敷きにあったり。

車に詳しい方なら、要所要所に出てくる車種でもって時代がわかるかも。

とある政府の研究機関にて、発話できない一人の女性が職場のメンテナンス業務についている。

その研究所に秘密裏に運ばれてきた、一見半魚人のようなもう一人の主人公。

この物語は、彼女と彼のファンタジー&ラブストーリーだ。

 

ストーリーはせっかくだから伏せておこう。

物語を詳細に追いかけずとも、きめ細かく計算されて造られたセットや、

映像の色合いなど、さきほどの没入感ではないが、

まるで自分がおとぎ話の主人公になったような気分だ。

できれば、もっと大きな画面でたった一人でひっそりと見たかったなあ。

ミュージカルの舞台でたった一人、クライマックスシーンで歌って踊る、みたいな、

物語だけではなくて、自分自身がすっかりファンタジーな空間に躍り出ていた。

 

ところでOST。

アレクサンドル・デスプラ作曲の、不思議感、浮遊感たっぷりの楽曲集。

時代めいた雰囲気を出すためなのか、ラジオデイズな音作り。

劇中、主人公の女性が彼に音楽を聞かせようとこっそり持ち込んだ蓄音機とレコード2枚。

グレンミラーとベニーグッドマン。どちらがいい? みたいなシーンが焼き付いて離れない。

当時、そんな女性がいたのだとしたら、それだけで思わず恋しそうな予感(笑)。

 

 

 

 

OSTにも収められているグレン・ミラー楽団の"I Know Wry (And So Do You)"。

当時のグレン・ミラーサウンドにぴったりな甘いボーカル。

この歌詞があって映画のストーリーができたのかと思うほどの出来すぎ感。

目をそらしたくなるような現実から逃避するためのファンタジーではなく、

本当にほんとうのファンタジー。かくあるべし、ファンタジーの世界。

しつこいようだけど、この作品はぜひ劇場で。ぜひに。

 

 

cinema & Soundtrack | - | - | author : miss key
SEIMEI

毎日のようにメダル獲得のニュースに沸いた平昌オリンピック。

印象に残る競技はたくさんあったけれども、

思わず溜息が出たのは男子フィギュアスケートだった。

優勝、それもオリンピック2連覇を達成した羽生結弦選手。

フリーの演技はプログラム(選曲)としては既出ながら、一層磨きがかかった4分半。

負傷して痛いところのある選手とは思えない、

そういう気配さえ感じさせない凛とした姿に、

最高の結果も付いてきてそれ以上何を望むだろう。

 

 

Unknown.jpg

 

 

梅林茂さん作曲の陰陽師サウンドトラックから編まれたプログラム。

多くのファンが古いCDを買い求めるからなのか、

オリジナルの中古盤はプレミアで高額に。

陰陽師2の盤も同様だが、2015年に2枚合わせて再発盤が出ているので、

これからCDを買い求める方はそちらをぜひ。

 

夢枕獏原作で映画作品の方は主演を野村萬斎さんが2作とも演じられているが、

劇中もさることながらエンドロールに流れる妖艶な舞があまりにも美しい。

日本中世の不思議旅といった物語から、

本当に目の前に出てきたかと思うような生きた安倍晴明だったが、

羽生選手の演じるSEIMEIには、

音楽の持つ力強さも加わってまた萬斎晴明とは違った美しさがある。

 

選手を指導するコーチの言葉に、

羽生選手を他所の星から来たようなといった表現があったが、

冷静に、計ったように技を決め、そこにある空気すべてを支配した彼の演技は、

当代随一の科学者にして魔術師といった陰陽師が

氷に降り立ったらきっとそうなんだろうと、

こじつけてしまいたくなるようなものだった。

 

こうして改めてこのサントラ盤を聴いていると、

癒し系のメロディーが多いのに改めて気付く。

龍笛や琵琶などの古楽器を使った本格的な雅楽を楽しむためには、

また別の盤を探さなくてはならないが。

今夜はいい具合に空気が冷たくていい。

静かな夜、久々にこのまま全曲聴き直してみよう。

 

 

cinema & Soundtrack | - | - | author : miss key